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61『召喚士の手記-完結-』の書
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ふわっふわの三つ編みを揺らしながら軽やかに歩くのは、世界判断士の弥勒。調査院が所有する『社宅』に向かっていた。
手には仕立て上がったばかりの白地のローブが抱えられている。縁取りは銀糸、所々の刺繍には薄橙色、職人の技が光る丁寧で美しい仕上がりだった。
きっとこの美しいローブを身に纏う、黒髪に、金にも銀にも見える瞳を有する美麗で細身の世界召喚士には似合うことだろう。
「うふふっ。加護クンに早く着てもらわなきゃね♡目の保養になるし眼福だよぉ」
ウキウキしながら木の扉をノックすると、半裸の世界調査士が物憂げな顔で出て来た。
「えー!?やだ嘘ッ、千手クン…遂にそこまで事が進んだの?」
「実はねぇ♡て言いたいけどぉ、弥勒ちゃーん聞いて?寝てる筈の加護様のお布団に入ったら、木蓮様に背中噛まれてさぁ…。ほらこれ噛まれた跡!あの人、突然やって来るからマジ怖い!姑より怖いっ!」
背後から「怖いくらいで丁度いいと思うけれどね…」と件の怖い人が顔を出す。
「新しい家の完成も間近だから、出来るだけ早く千手の社宅から加護を出してあげたいよ」
「んもうっ!オレと加護様の同居を邪魔しないで!!」
ギリギリと首を絞められる千手を他所に、弥勒は首を傾げる。
「それで、加護クンはどちら?特注していたローブが仕上がったから届けに来たの♡」
木蓮は白地のローブに目を落として微笑んだ。
「"勇者"のローブだね」
「そそっ。本人は認めてくれないけれど"勇者"が着る色彩のローブなんだよねぇ」
『この世界に"勇者"は現れず"魔王"が有された』
世界機関の各所では噂され、凶兆なのではないか?と謳われているが弥勒はそうは思っていない。
勇者は"世界"を護り救う者とされているが、加護は"世界"ではなく、そうとは知らず"魔王"を護り救っていた。"魔王"が『悪意や毒心』に傾かない様に、支え導いていた。
これも勇者の成せる業じゃない?
弥勒の判断に準ずるならば、加護は"勇者"。でも本人は"召喚士"だからと濁す。
勇者が"世界"を救うことより召喚士が"魔王"を育成することが大規模なのか小規模なのか、それは育成した者だけが知り得ることだけれど。
"魔王"であった前世を覆すやり直しの転生で、彼が何を望んで何を必要としたか。
"勇者"ではそれが足らず"召喚士"に行き着いた事の経緯は?
弥勒は興味津々だった。
転生者を導く"召喚士"だけの特別。望んで手に入れたいもの。それってなーんだ?
「立ち話もなんだ。熱くないカカオ茶でも淹れようか?弥勒様」
背後から魔力飽和の微香がした。"勇者"を濁す"召喚士"の香。
「やほー、加護クン♡朝早くから何処に行ってたの?」
「あぁ…。未来と一緒に、軽い運動も兼ねて『花が枯れる異常現象』の目視をしてきた。昨晩、宮廷から伝書鳩が届いたんだ」
「お花も草も木も、少しずつだけど枯れて来てたよ。このままだと良くないのがわかるね」
加護の背後からちょこんと未来が顔を出す。羽根や角、魔物の容姿ではあるが天使みたいに純真無垢で可愛らしい。
すれ違う人々は"半分だけ魔王"である彼女を二度見するというが、誰からも忌み嫌われるような事態にはならないそうだ。
彼女の魅力もあるだろうが、寄り添う召喚士の保護力も大きいのだろう。
「それかぁ。かなり深刻になってる"花散らし"の話だね~。でも宮廷からの伝書鳩?どうして加護クンに?」
「それは依頼のために。『世界』は異常現象に対応できる"花職人"を求めることにしたそうだ。つまり"転生者"を求めている」
「"世界召喚士"の加護クンは正式に召喚術を頼まれたわけだ」
加護は柔らかに笑む。
「承諾するよ。この世界に愛着を持ってもらえるように尽力するつもりだ」
「そっか~。じゃあ気持ちも新たに、だね。届いたローブもナイスタイミングだったよ」
はいどうぞ♡と加護に手渡した白地のローブは、その場で羽織って見せてくれた。
「わぁ!主人、とっても似合う!苺が似合いそうな"白"だ」
未来の感想は召喚士と転生者のふたりでしかわからない会話。けれど、
「沢山の苺が乗りそうだ。幸せなローブになることだろう」
加護の応えと微笑みと見上げる未来の弾けるような笑顔に、穏やかで温かな繋がりと煌びやかな『感情のプリズム』を視た。
「あー。これが、召喚士だけの特別なのかな♡」
弥勒は顎に手を当てながら、微笑ましく判断した。
* * *
チャポ…ン
チャポー…ン
水溜りに水滴が落ち波紋が広がるように、魔法陣が歪み、広がり、消えていく。
印を解き、ゆっくり瞼を開くと魔法陣の中心に小さな"転生者"が横たわっていた。
「うぎゃああー!」
泣いている声は強い生命力と強い不安がアンバランスに混在したもの。
優しく抱き上げると話し掛けた。この世界に訪れた"転生者"の最初のお喋り相手は、私だ。
「大丈夫だ、君が怖くないと安心するまで傍にいるよ。私は"召喚士"で君の主人。必ず傍にいる」
澄み切った瞳に私だけが映る。小さな指が頬に触れ、確かな温もりを伝えてくれた。
* * *
この『世界』にようこそ。
私の"転生者"になってくれてありがとう。
君にも、深い感謝と愛を…贈る。
羊皮紙に羽根ペンを走らせた。
『転生届』には自筆のサインと君の名を。
~fin~
手には仕立て上がったばかりの白地のローブが抱えられている。縁取りは銀糸、所々の刺繍には薄橙色、職人の技が光る丁寧で美しい仕上がりだった。
きっとこの美しいローブを身に纏う、黒髪に、金にも銀にも見える瞳を有する美麗で細身の世界召喚士には似合うことだろう。
「うふふっ。加護クンに早く着てもらわなきゃね♡目の保養になるし眼福だよぉ」
ウキウキしながら木の扉をノックすると、半裸の世界調査士が物憂げな顔で出て来た。
「えー!?やだ嘘ッ、千手クン…遂にそこまで事が進んだの?」
「実はねぇ♡て言いたいけどぉ、弥勒ちゃーん聞いて?寝てる筈の加護様のお布団に入ったら、木蓮様に背中噛まれてさぁ…。ほらこれ噛まれた跡!あの人、突然やって来るからマジ怖い!姑より怖いっ!」
背後から「怖いくらいで丁度いいと思うけれどね…」と件の怖い人が顔を出す。
「新しい家の完成も間近だから、出来るだけ早く千手の社宅から加護を出してあげたいよ」
「んもうっ!オレと加護様の同居を邪魔しないで!!」
ギリギリと首を絞められる千手を他所に、弥勒は首を傾げる。
「それで、加護クンはどちら?特注していたローブが仕上がったから届けに来たの♡」
木蓮は白地のローブに目を落として微笑んだ。
「"勇者"のローブだね」
「そそっ。本人は認めてくれないけれど"勇者"が着る色彩のローブなんだよねぇ」
『この世界に"勇者"は現れず"魔王"が有された』
世界機関の各所では噂され、凶兆なのではないか?と謳われているが弥勒はそうは思っていない。
勇者は"世界"を護り救う者とされているが、加護は"世界"ではなく、そうとは知らず"魔王"を護り救っていた。"魔王"が『悪意や毒心』に傾かない様に、支え導いていた。
これも勇者の成せる業じゃない?
弥勒の判断に準ずるならば、加護は"勇者"。でも本人は"召喚士"だからと濁す。
勇者が"世界"を救うことより召喚士が"魔王"を育成することが大規模なのか小規模なのか、それは育成した者だけが知り得ることだけれど。
"魔王"であった前世を覆すやり直しの転生で、彼が何を望んで何を必要としたか。
"勇者"ではそれが足らず"召喚士"に行き着いた事の経緯は?
弥勒は興味津々だった。
転生者を導く"召喚士"だけの特別。望んで手に入れたいもの。それってなーんだ?
「立ち話もなんだ。熱くないカカオ茶でも淹れようか?弥勒様」
背後から魔力飽和の微香がした。"勇者"を濁す"召喚士"の香。
「やほー、加護クン♡朝早くから何処に行ってたの?」
「あぁ…。未来と一緒に、軽い運動も兼ねて『花が枯れる異常現象』の目視をしてきた。昨晩、宮廷から伝書鳩が届いたんだ」
「お花も草も木も、少しずつだけど枯れて来てたよ。このままだと良くないのがわかるね」
加護の背後からちょこんと未来が顔を出す。羽根や角、魔物の容姿ではあるが天使みたいに純真無垢で可愛らしい。
すれ違う人々は"半分だけ魔王"である彼女を二度見するというが、誰からも忌み嫌われるような事態にはならないそうだ。
彼女の魅力もあるだろうが、寄り添う召喚士の保護力も大きいのだろう。
「それかぁ。かなり深刻になってる"花散らし"の話だね~。でも宮廷からの伝書鳩?どうして加護クンに?」
「それは依頼のために。『世界』は異常現象に対応できる"花職人"を求めることにしたそうだ。つまり"転生者"を求めている」
「"世界召喚士"の加護クンは正式に召喚術を頼まれたわけだ」
加護は柔らかに笑む。
「承諾するよ。この世界に愛着を持ってもらえるように尽力するつもりだ」
「そっか~。じゃあ気持ちも新たに、だね。届いたローブもナイスタイミングだったよ」
はいどうぞ♡と加護に手渡した白地のローブは、その場で羽織って見せてくれた。
「わぁ!主人、とっても似合う!苺が似合いそうな"白"だ」
未来の感想は召喚士と転生者のふたりでしかわからない会話。けれど、
「沢山の苺が乗りそうだ。幸せなローブになることだろう」
加護の応えと微笑みと見上げる未来の弾けるような笑顔に、穏やかで温かな繋がりと煌びやかな『感情のプリズム』を視た。
「あー。これが、召喚士だけの特別なのかな♡」
弥勒は顎に手を当てながら、微笑ましく判断した。
* * *
チャポ…ン
チャポー…ン
水溜りに水滴が落ち波紋が広がるように、魔法陣が歪み、広がり、消えていく。
印を解き、ゆっくり瞼を開くと魔法陣の中心に小さな"転生者"が横たわっていた。
「うぎゃああー!」
泣いている声は強い生命力と強い不安がアンバランスに混在したもの。
優しく抱き上げると話し掛けた。この世界に訪れた"転生者"の最初のお喋り相手は、私だ。
「大丈夫だ、君が怖くないと安心するまで傍にいるよ。私は"召喚士"で君の主人。必ず傍にいる」
澄み切った瞳に私だけが映る。小さな指が頬に触れ、確かな温もりを伝えてくれた。
* * *
この『世界』にようこそ。
私の"転生者"になってくれてありがとう。
君にも、深い感謝と愛を…贈る。
羊皮紙に羽根ペンを走らせた。
『転生届』には自筆のサインと君の名を。
~fin~
応援ありがとうございます!
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