黒い聖女

あさいゆめ

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 きっとこれが私に出来る最後の儀式。
 聖女が術式を思い描き両手を挙げる。
 私が魔力を放つ。
 美しい光が満ち溢れ淀んだ瘴気が晴れていく。
 私が出しきれる最後の魔力。
 一瞬、意識が途切れた。
「クリスティア!」
 ダニエル?
 ダニエルの腕の中だ。
 ああ…もう終わるのね。
「待って!クリスをどこに連れていくの?」
 早く連れて行って。
 イディのいない所に。
「離せ、もうお前のクリスティアではない!」
「僕のクリスだ!」
 ふふっ、可笑しいわ。
 あなた達、こんなミイラを取り合っているの?
「駄目だ、時間がなくなる!離せっ。」
 ああっ、ダニエル駄目よ、皇太子を蹴り倒すなんて。
 時間って何の?
「ティア…クリスティア、やっと手に入れた私のライラック。」
 ライラック…髪色?それとも花言葉?
 だとしたらずいぶん遅い初恋だったのね。
 ごめんなさい、こんな私を好きになってくれてありがとう。
「ティア、あなたはうっかりしていたね、
私も王族なのだよ。」
 何を言っているの?
「残りの時間を私にくれると言ったね?」
 駄目!馬鹿な事はやめて!
「私が失敗すると言いたいのだろう?」
 そうよ、あなたの魔力では足りないわ!
「いいのだ、例え一年でも、半年…いや、1日だって構わない。私の側にいて私を見てくれ。
 私のクリスティア。
 私の命をあなたに分け与える。」
 お願い、やめて!
 ダニエルが顔を寄せて口づけをする。
 術式が発動し始める。
「クリス…僕のクリス…愛していたよ、僕の魔力を全部あげる。」
 イディ?
 魔力をダニエルに提供しているの?
 なんて馬鹿なの!
「私も…。」
 セゼル神官まで。いや、他の神官も。
「私の罪をお許し下さい。」
 駄目よ、あなた達がいなくなれば、誰が浄化を助けるの?
 女神イレーネ!いるなら彼らをやめさせて!
 出来ないなら、私に聖女の力を与えて!
 天から光が落ちてきた。
 ただの光ではない。何か大きくて強いエネルギーの塊。
 これが禁術?成功したの?
 皆は?
 呆然としているけど、生きているようね?
「ダニエル?私、どうなっているの?」
「…美しいです。」
 彼に聞いたのは間違いだったわ。
 いつだって美しいしか言わないんだもの。
「クリス!」
 イディが抱きつく。
「クリス、きれいだよ!なんかキラキラしてる!」
 神官達がひざまづき口々に呟く、
「…聖女様。」
 聖女?
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