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3日目

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有木「なあ、別に俺らに気ぃつかうなや?」
俺「何が?」
有木「飯くらい一緒に食お。お前の事除け者にしとるみたいで、イクタの機嫌悪いんや。」
俺「イクタ、まだ寝てるの?」
 もう、朝の9時だ。
 いつものイクタなら7時には起きている。
俺「よくわかんないけど、あんまり無理させるなよ?」
有木「お、おう。」
俺「赤くなるなよ。気色悪い。」
有木「うっせ。
 今日の夜はいるんだろ?」
俺「出かけるよ。
 卒業式までは毎日予定入ってるから、俺の事は気にするな。」
有木「なんや?誰と?」
俺「佐々野君と。」
有木「なんで?」
俺「なんで?遊んだり飯食ったりするけど。」
有木「お前さぁ…。」
俺「何?」
有木「佐々野はさぁ…。」
俺「何だよ?」
有木「お前は知らん思うけど、あいつお前のケツ狙ってんで?」
俺「お前、言い方。」
有木「わかんねんて、俺ら同類は何となくわかんねんて。」
俺「知ってる。
 やられる方だとは知らなかったけど、告られた。」
 そっかー…俺、ほられる方だったんだ。
有木「なんで?お前、ノンケやん。」
俺「イクタもそうだっただろ?」
有木「せやけど、イクタはチョロいから落とせる自信はあった。
 お前は無理やろ?」
俺「…ケツは無理かな。」
有木「ゲイやから言うても必ずケツ使うとは限らんけどな。」
俺「そうか、それならいけるかも。」
有木「いけるんや。
 せやけど、面白半分やったらやめとけや。佐々野やって傷つく。」
俺「そんなつもりじゃ無かったけど、結局は傷つけてしまうかもしれない。」
有木「…悪い、人の恋愛に俺がどうこう言う事も無いよな。」
俺「なんかさ、あんな風に真剣に告白された事無かったからかな。鼻の奥がツンってなって、胸がキュってなってさ。
 あのまま二度と会わないとか、それでいいのかなんて、咄嗟の思いつきで卒業まで一緒にいようって、言ってしまったんだ。
 今思うと無責任かな?」
有木「俺のせいかもな。
 俺、イクタにはなんも言えへんのに、お前にはバレてるからて気持ちベラベラ喋ってたやんか。それで引っ張られたんかもな。」
俺「そうかもな。
 なんか、羨ましかったのかもしれない。
 卒業前でちょっと感傷的になってるかもだし。
 俺、さみしいのかな?」
有木「慰めよか?」
俺「いらん。」
有木「なんで髪、黒したん?」
俺「社会に出るにあたって当たり前に真面目な感じにしてみたんだけど。」
有木「エロいで?」
俺「なんでかそう言われるんだよな。」
有木「違和感や。
 普段と違う面を見るとドキッてなるやん?
 そういうやつや。」
俺「お前、俺をエロい目で見てんの?」
有木「見れる。」
俺「やめぇや。」
有木「冗談や。」
俺「当たり前だ。
 あ、ライン佐々野からだ。」
有木「なんて?」
俺「(おはよう)とクマのスタンプ。」
有木「あいつスタンプなんか使うんや。」
俺「けっこう使ってるよ。」
有木「あいつと何して遊ぶん?」
俺「普通。映画見たり、カラオケ行ったり。
 だいたいはボーッとしてたりするけど。」
有木「想像つかん。」
俺「あ、家来るって。」
有木「いつ?」
俺「今。」
有木「俺、居てやろか?」
俺「なんで?」
有木「怖ない?」
俺「なんで?」
 ピンポーン。
俺「あ、来た。」
有木「早ない?」
 ドアを開ける。
佐々野「おじゃま…します。」
 ユウキに気がついた。
有木「よ。」
俺「ユウキいるけど、いいよな?」
佐々野「うん、一緒に住んでるって聞いてたから大丈夫だよ。」
有木「一緒には住んでへんわ。」
俺「あ、俺の言い方悪かった?同じアパートだけど、部屋は別だよ。」
佐々野「そっか。
 ベッド、セミダブル一つしかないから焦った。(笑)」
俺「イクタとは寝てたけど。」
有木「なんやて?」
佐々野「…そうなんだ。」
有木「聞いてへんぞ?」
俺「言うほどの事?
 寮でもたまにゲームしながら一緒に寝てしまったりしてたけど。
 ダメなの?」
有木「俺的にはアウトや。」
佐々野「いいな、林君。」
俺「お前らとは寝ないよ?」
有木「なんでイクタはええねん?」
俺「なんでだろ?俺にとって有害ではないから?」
有害「俺ら有害物質。(笑)」
俺「人体になんらかの悪影響を及ぼす恐れありそうだろ?(笑)」
 ピンポーン。
 誰か来た。
 ドアを開けるとイクタがいた。
林「もう洗濯しちゃった?」
俺「まだ。」
林「じゃ、これもよろしく。」
俺「ちょ、待てよ。これ、ユウキの分も入ってるんじゃないか?」
有木「よろしくー。」
林「だって、ユウキんとこまだ洗濯機無いんだもん。」
俺「パンツは洗わないって言ったろ?
 ちょ、ユウキのパンツもある!」
林「お願い!」
有木「お願い!」
俺「仕方ないな。」
林「昼は居る?」
俺「わかんない。」
 チラッと佐々野君を見る。
林「あっ、佐々野君おはよー!お昼一緒に食べよ?」
佐々野「いいよ。」
俺「じゃ、カレー作ろうか?」
林「やった!」
俺「じゃ、また昼にな。」
林「おー、よろしく。」
有木「よろしくぅ。」
俺「クソが!」
 洗濯機を回す。
 後ろで、
佐々野「面倒見がいいんだね。」
俺「いや、イクタが甘え上手なんだろ。ユウキから頼まれたらやらないよ。」
佐々野「ははっ。
 カレー手伝おうか?」
俺「うん。」
 二人で材料を刻む。
佐々野「カレーって煮込むのに時間かかるイメージだけど?」
俺「煮込まないカレー作るんだ。
 全部みじん切りして。」
佐々野「キーマカレー?」
俺「うん。」
 しばし無言でひたすら刻む。
俺「なんでかな?俺、佐々野君と一緒だと会話が無くても苦痛じゃない。」
佐々野「沈黙が苦痛なの?」
俺「うん、相手が何考えてるか不安になるんだ。」
佐々野「嫌われるのが怖いとか?」
俺「そういう事かな。」
佐々野「そうなんだ。
 でもそういう所、すごいと思ってたよ。
 相手を傷つける事は言わないし、場の雰囲気が悪くなりそうな時も真部君がいると和ませてくれたから。」
俺「チャラく見えるだろう?
 なあなあにしてごまかしちゃってるだけなんだ。」
佐々野「優しいからだと思うよ。」
俺「佐々野君はいつも俺に肯定的だよね。だから一緒にいて安心するのかな。」
佐々野「真部君に好かれたかったから。」
俺「…。」
佐々野「…ごめん。」
俺「謝るのナシって決めただろ?」
佐々野「うん。」
俺「俺も対応に困る事あるけど、謝らないからな。」
佐々野「うん。」
 狭い部屋に小さなテーブルを出して四人分のカレーを並べる。
 こんな事もあるだろうと百均で皿を買っておいて良かった。カレー用の皿しかないからカレーを作ったわけだけど。
林「ご飯が黄色い!」
俺「ターメリックライスをご用意いたしました。(笑)」
有木「このコリコリした食感は何?」
俺「タケノコ。」
佐々野「おいしい。」
俺「ありがと。」
有木「凝ってんのな。料理好きやから食品メーカーにしたん?」
 俺は大手食品メーカーに就職が決まっている。
俺「いや、むしろ嫌いだ。」
有木「なんやそれ。」
俺「外食できない時期あっただろ?寮で仕方なく自炊はじめたらすっごい面倒で、そん時改めてインスタントとかレトルトとか冷凍とか何かの素ってスゲーって思ったんだよね。」
林「あー…寮の奴らなんだかんだいいながら皆してマナベに作って貰ってたもんね。俺のマナベなのに。」
俺「俺、イクタの何?(笑)
 ウチ、母親も料理嫌いでさ。
 毎日嫌々文句言いながら作ってたんだけど、それでも毎日作るんだよ。凄くない?嫌な事毎日してくれるんだよ。
 しかも俺ん家、男ばっかり四人兄弟で食う量ハンパないの。
 それでも毎日腹一杯食べれてた。
 そんな世の中のお母さんを助けてくれてるのも食品メーカーさんじゃないかって思ったんだよね。
 面接でそのまんま言ったら受かった。(笑)」
有木「ええ話や。」
林「ごめんねー俺、マナベ料理好きだって思ってた。(泣)」
佐々野「料理嫌いなのにカレーはスパイスから作るんだね。(笑)」
俺「カレーは特別!(笑)」
林「俺、今日からご飯はノゾムに作ってもらうことにする。」
俺「自分じゃないんだ。(笑)
 あっ…。」
林「何?」
俺「何でもない。」
有木「自分で作れや。」
林「ノゾムの部屋、鍋一個しかないじゃないか。」
佐々野「あっ…。」
林「何?」
佐々野「なんでも…。」
林「何なの?ノゾムは…あ。」
有木「なんや?」
俺「なんでもー。(笑)」
佐々野「なんでもー。(笑)」
林「何でもないっ!」
俺「あははっ、午後から何する?」
林「俺、タカノ達とアキバ行く約束あるから。」
有木「じゃ、俺はフライパンとか買ってくるか。(笑)」
俺「皿とかも用意しろよ?どうせお前、鍋から直接ラーメン食うつもりだろ?」
有木「何が悪い。俺一人やったらラーメンくらいしか作らんもん。」
俺「そんなんだからイクタが住み着かないんだよ。(笑)」
 二人が部屋から出て行き、佐々野君と二人になった。
佐々野「あの二人、付き合ってたんだ。」
俺「うん。偶然だけど、ユウキもあの飲み会の後告白したんだ。」
佐々野「あのさ…俺も名前で呼んで欲しい。」
俺「あ…(確か)尊臣(タカオミ)?」
佐々野「ありがとう。
 それでさ…申し訳ないんだけど真部君の名前知らないんだけど…。」
俺「ああ、知られたくなくてあんまり人に教えてないから…。」
佐々野「嫌なら無理には…。」
俺「いいよ、アレン(愛蓮)って言うんだ。
 漢字で書くとすごいよ。(笑)」
 スマホで見せる。
佐々野「綺麗な名前だよ。」
俺「んー…ホストっぽくない?(笑)
 親がさ、まあ…ちょっとやんちゃな感じで兄ちゃん達はもっとすごいよ。
 上から皇帝って書いてカイザー、頂天でマックス、三番目からはちょっとキレイになって紫音シオンで、俺。」
佐々野「悪くはないと思うよ。」
俺「けど結構いじられたんだよな、外人ぶってるとかってさ。
 髪も、顔がまんま日本人なのに茶髪だから染めてんだろ?とかね。」
佐々野「前から思ってたけどハーフなの?」
俺「クォーターだよ。父親は濃い顔してる。(笑)」
佐々野「人種は関係無く、真部君は綺麗だよ。」
俺「うーん、それもどうなの?男だから綺麗ってのもな。せめてカッコいいでお願い。」
佐々野「了解。
 名前、嫌だったら今まで通りでいいよ。」
俺「いいよ、俺もそろそろ克服しなきゃって思ってたし。社会人になったら教えない訳にもいかないだろうし。
 改名もできるらしいけど、それやっちゃうと親を否定しちゃうみたいだろ?俺、両親の事は好きだからさ。」
佐々野「アレン…。」
俺「尊臣…なんか照れるね。」
佐々野「思った以上に。(笑)」
 それからは乾燥の終わった洗濯物をたたみながらDVDをみたりゲームをしたり、何気ない話の中でぎこちなくお互いの名前をよびあった。
 夕食も作って二人で食べた。
俺「なんか今では家ご飯が当たり前になっちゃったな。」
佐々野「…。」
俺「どした?」
佐々野「こういうのがアレンの日常なんだなと。」
俺「なんだよ。以外とつまんないって?」
佐々野「もっと一緒にいれば良かった。」
俺「いや、ちょっと前まではバイト三昧だったろ?寮だったし。」
佐々野「これからのこの日常に俺はいないんだなと思うと。」
俺「…。」
佐々野「…。」
俺「あのさ、卒業式までは付き合ってみるけどさ、その後も会えなくなる訳じゃないだろ?
 連絡だってしていいし。
 それとも一度付き合ったらもう友達にはなれないの?」
佐々野「そう…だな。」
俺「俺、なんか間違ってる?
 ちゃんと付き合った事ないからわからないよ。」
佐々野「誰かを好きになった事も?」
俺「ない…な。
 俺さ、中学の頃いろいろあって不登校な時期があったんだ。その頃ちょっと人間不振でさ。
 中学の二年半ばから母親の実家のあるすっごい山奥で高校までそこで暮らしてたんだ。
 田舎はわりといい奴ばっかりだったんだけど、女の子の事はやっぱり苦手で、かといってはっきり断って逆恨みされるのも怖くて、友達みたいに付き合ってたらそのうち相手から離れていくんだ。
 これがチャラい俺の正体。(笑)
 尊臣の事も教えてよ。
 俺達意外とお互いの事知らないから。」
佐々野「何から話そ。
 俺は好きになるのは男ばかりだったから中学の頃にはもう自分は同性愛者だと自覚はあった。
 だからって受け入れてもらえない事もわかっていたから誰にも言えなかったし、告白もした事はなかった。
 東京に来ればそういった人達の集まる所もたくさんあるからすぐに恋人も見つかるだろうって思っていたよ。
 けど、入学してすぐに君を見つけてしまったんだ。
 想いが届かない事はわかっていたから何度も諦めようと、正直はってん場にも足を運んだ事もある。
 だけど学校で君を見かける度にドキドキして、親しくしてもらえるようになるとさらに君のいい所ばかり見えて、というかいい所しか見つからない。いつも笑顔で面倒な事は自分から引き受けて、そんな君だからいつも誰かが側にいるんだけど、授業の時だけは俺の隣にいてくれて、だから俺はどうしたらもっと俺といてくれるだろうかと親切なふりをして取り入ろうとして、俺はこんなに腹黒いのに変わらず俺に笑いかけてくれて、そんな君を諦めて手軽な恋人なんて作れるわけもなく、君への想いは募るばかりで…あっ、ごめん。俺の事じゃなくてアレンの事ばっかり言ってる。」
俺「うん、ちょっと引いた。(笑)」
佐々野「明日も会える?」
俺「うん。」
佐々野「良かった。」
俺「デートする?」
佐々野「する!」
俺「どこ行く?尊臣の行きたい所でいいよ。」
佐々野「考えとく。」
 尊臣が立ち上がる。
俺「帰る?コンビニ行くから途中まで送るよ。」
 これまでは二人で歩いていても何も意識していなかったのに、二人の距離の取り方がわからない。どちら側を歩けばいいんだ?
 尊臣は尊臣でなんかそわそわしている。
 チラリと俺の手を見る。
 まさか手つなぎたいのか?
 いや、それは駄目だろ?夜もまだ早いこの時間は人通りも多い。
佐々野「あの…。」
 何か言いかけた時、
林「あれ?マナベ達どっか行くの?」
 大きな袋を両手に持ったイクタが前から歩いて来た。
俺「コンビニ。」
林「飯は?」
俺「佐々野君と二人で食べたよ。」
林「えー、じゃあ俺もコンビニ行ってなんか買うわ。」
俺「荷物すごいね。一つ持とうか?」
林「助かるー。」
 そう言っているうちにコンビニに着いた。
佐々野「じゃあまた明日。」
俺「うん。待ち合わせする?」
佐々野「ううん、迎えにくるよ。」
俺「わかったまた明日ね。」
林「どこか行くん?俺も…。」
佐々野「ごめん、アレンと二人で行きたいんだ。」
林「アレンって誰?」
俺「俺。」
林「!」
俺「じゃあな。」
佐々野「ああ。」
 軽く手を振りながら背中をみせた。
林「何?二人、そうなん?」
俺「ユウキから聞いてない?」
林「知らない。」
俺「言うほどの事じゃないしね。」
林「アレンっての?本名?マジ似合う!なんで今まで隠してたの?」
俺「色々あるんだよ。」
林「俺もアレンってよんでいい?」
俺「俺はいいけどユウキはどうだろ?(笑)」
林「あー…もう知ってると思うけど、俺達も付き合う事になったから。」
俺「うん。」
林「なんかさ、アレンそういうの嫌いかなと思って言いにくくてさ。
 それなのに佐々野君と付き合ってるなんて。
 なんか裏切られた気分だ。」
俺「なんだよそれ?(笑)
 早く弁当買って帰ろ?」
林「アレン何買いに来たの?」
俺「特に。アイスでも買ってこうかな。」
林「佐々野君送ってきただけかよ。」
俺「そんな感じ。」
林「なんか裏切られた気分っ!」
俺「何にだよ?(笑)」
林「アレンは俺のなのにっ!」
俺「あはは。」

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