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俺だけのハッピーエンド
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愛する人がいます。
その人は俺の兄。
俺は長い間、自分には父親はいないと思っていた。
母は酒にも金にも男にもだらしない人で、俺が7歳の時に急性アルコール中毒で死んだ。
それから10歳までは施設で過ごしたが、ある日父だと名乗る人が迎えにきた。
事情があり、暫くは親子である事は内密にして使用人の子供という事にされた。
それでも俺は十分ラッキーだと思った。
それまでが酷い生活だったから。
初めて会った兄はベッドに座り本を読んでいた。
父からお前の友だちだと紹介されると嬉しそうに笑った。
青白い顔なのに頬がまるでピンクの薔薇が咲いたようにほころんだ。
兄の名はアキオ。
輝き生きると書いてアキオ。
父と継母は俺には無関心だった。
父はアキオにも無関心だったが、継母は溺愛しているようだった。
そんなアキオが羨ましかった。
裕福な暮らしに優しい母親。
俺はゴミだらけの狭いアパートと泣く母親と暴力的な母の恋人しか知らなかったから。
けれどすぐにアキオがそれほど幸福ではないと知ることになる。
アキオは一日のほとんどをベッドで過ごす。
家のベッドじゃなければ病院のベッドの上だ。
生まれつき心臓に欠陥があって、体が弱くてすぐに熱をだす。
わがままで気にいらない事があると手当たり次第に物を投げつける。
だけどそんな事は俺にしたら些細な事だった。
俺の母親もそうだったし、母親の恋人はもっと酷かったし。そうされるのは俺が悪いから仕方がない事だと思っていたし。
だから俺はアキオにされるがままにされていた。
継母や使用人達はそんなアキオを咎める事はしなかったから、やはりそれは俺の役目なのだと思うようになった。
時がたつと俺はアキオの苛立ちや苦しみを理解出来るようになる。
アキオは長くは生きられない。
青白い肌、抱き上げる度に軽く感じる体。
「シュウ…もう少しだけ我慢しろ。」
「何を?」
「僕はいなくなるから。」
「…。」
「シュウ?」
涙が頬を伝った。
そんな事をアキオの口から言わせるのが辛かった。
俺にはアキオしかいないのに。
家族は無関心な父親と冷ややかな継母。暴力をふるわれないだけましなだけ。
学校の友だちは信用できない。
俺が痣だらけでぼろぼろの服を着ていた時は蔑すまれていた。同じ学校ではないが、名字が変わり、服装が変わっただけなのにその眼差しは羨望に変わる。そんな奴らに気を許す事は出来なかった。
アキオだけが感情に素直だった。
俺に怒り、わがままを言い、そして喜んだ。
そんな素振りは見せないようにしていたが、毎日俺が学校から帰るのを待っていた。
学校での出来事を聞きたがるくせに、聞くと腹を立てて俺を叩いた。
最初は何が逆鱗に触れたのかわからず、当惑したがそれが嫉妬だと気づくのにそう長くはかからなかった。
アキオがいなくなる。
わかってはいた。
だが認めたくなかった。
何を思ってか、アキオが頬を伝う涙を舐めた。
たまらなくなってその唇を奪った。
ああ…俺はアキオが好きだったんだ。
家族でも友だちでもない好きという感情が溢れる。それはけして綺麗なものではなく、どす黒く暴力的だった。
アキオが俺を好きだと言う。
それは俺とは違い、とても綺麗な「好き」に聞こえる。
だから俺は自分の欲望を抑えて、軽く唇を合わせるだけのキスをする。
アキオに「好きだよ。」と言われるごとに、思いは積もる。
その薄い唇をこじ開けて舌をねじ込み、溢れるほど唾液を飲ませたい。
シャツを引き裂き、まさぐり、身体中に舌を這わせたい。
両足を掴み、その穴に俺の熱く滾った欲望をぶちこみたい。
だがそんな事できるはずもない。
最初にキスした時、アキオは熱を出した。
鼓動が早くなる事はしてはいけない。
それでもアキオに触れる事をやめられない俺は、出来るだけ優しく。アキオが驚かないようにそっと唇に触れる。
もっと触れたい。
アキオの中に入れたい。
一つになりたい。
けれどそれは叶わない。そんな事にはアキオの心臓は耐えられない。
そんなある日、継母が父親と言い争っているのを聞いた。
それは俺の適合検査についてだった。
継母が受けさせろと父に詰め寄り、父はそれを拒絶しているようだった。
なにも俺を殺して移植しようという話ではなかったが、それでも父は俺が傷つくと言ってくれた。
跡取りとして必要だっただけかもしれない。
けれど砂粒ほどの愛情だとしても、何も無いより幸せだ。
その後、俺はこっそり継母に適合検査を受けさせて欲しいと願い出た。
継母は涙を流した。
何度もごめんなさいと言って俺を抱きしめた。
実の母にも抱かれた記憶はない。
母とはこんなに優しく暖かいものなのだな。
検査は合格だった。
心が踊った。
遺書を書き、ネットで拳銃を手に入れた。
臓器を傷つけずに頭だけを撃ち抜くのだ。
大きな音で早くに発見してもらえるだろうし。
アキオには少し眠ってもらおう。
目が覚めた時にはすべて終わっている。
夕食に睡眠薬を入れた。
うとうとと眠りにつく少し前。
「愛してる。」
そっと口づけすると、アキオはふっと、微笑んだ。
「愛してる。」
父と継母宛ての遺書には二人への感謝の気持ち。そしてアキオには知らせず、俺は家を出たと伝えて欲しいと。
アキオにはもうこんな生活はうんざりだと別れを告げる嘘の手紙を。
「愛してる。」
ああ…やっとアキオと一つになれる。
アキオは俺を恨むだろうか。
恨んでもいい。
生きていればいつかその心も癒してくれる人が現れるだろう。
どん底にいた俺だったが、父にも継母にも愛されていた。
そして最愛の人と一つになれる。
最高に幸せだ。
拳銃を咥えて引き金を引いた。
これは誰も知らない俺だけのハッピーエンド。
その人は俺の兄。
俺は長い間、自分には父親はいないと思っていた。
母は酒にも金にも男にもだらしない人で、俺が7歳の時に急性アルコール中毒で死んだ。
それから10歳までは施設で過ごしたが、ある日父だと名乗る人が迎えにきた。
事情があり、暫くは親子である事は内密にして使用人の子供という事にされた。
それでも俺は十分ラッキーだと思った。
それまでが酷い生活だったから。
初めて会った兄はベッドに座り本を読んでいた。
父からお前の友だちだと紹介されると嬉しそうに笑った。
青白い顔なのに頬がまるでピンクの薔薇が咲いたようにほころんだ。
兄の名はアキオ。
輝き生きると書いてアキオ。
父と継母は俺には無関心だった。
父はアキオにも無関心だったが、継母は溺愛しているようだった。
そんなアキオが羨ましかった。
裕福な暮らしに優しい母親。
俺はゴミだらけの狭いアパートと泣く母親と暴力的な母の恋人しか知らなかったから。
けれどすぐにアキオがそれほど幸福ではないと知ることになる。
アキオは一日のほとんどをベッドで過ごす。
家のベッドじゃなければ病院のベッドの上だ。
生まれつき心臓に欠陥があって、体が弱くてすぐに熱をだす。
わがままで気にいらない事があると手当たり次第に物を投げつける。
だけどそんな事は俺にしたら些細な事だった。
俺の母親もそうだったし、母親の恋人はもっと酷かったし。そうされるのは俺が悪いから仕方がない事だと思っていたし。
だから俺はアキオにされるがままにされていた。
継母や使用人達はそんなアキオを咎める事はしなかったから、やはりそれは俺の役目なのだと思うようになった。
時がたつと俺はアキオの苛立ちや苦しみを理解出来るようになる。
アキオは長くは生きられない。
青白い肌、抱き上げる度に軽く感じる体。
「シュウ…もう少しだけ我慢しろ。」
「何を?」
「僕はいなくなるから。」
「…。」
「シュウ?」
涙が頬を伝った。
そんな事をアキオの口から言わせるのが辛かった。
俺にはアキオしかいないのに。
家族は無関心な父親と冷ややかな継母。暴力をふるわれないだけましなだけ。
学校の友だちは信用できない。
俺が痣だらけでぼろぼろの服を着ていた時は蔑すまれていた。同じ学校ではないが、名字が変わり、服装が変わっただけなのにその眼差しは羨望に変わる。そんな奴らに気を許す事は出来なかった。
アキオだけが感情に素直だった。
俺に怒り、わがままを言い、そして喜んだ。
そんな素振りは見せないようにしていたが、毎日俺が学校から帰るのを待っていた。
学校での出来事を聞きたがるくせに、聞くと腹を立てて俺を叩いた。
最初は何が逆鱗に触れたのかわからず、当惑したがそれが嫉妬だと気づくのにそう長くはかからなかった。
アキオがいなくなる。
わかってはいた。
だが認めたくなかった。
何を思ってか、アキオが頬を伝う涙を舐めた。
たまらなくなってその唇を奪った。
ああ…俺はアキオが好きだったんだ。
家族でも友だちでもない好きという感情が溢れる。それはけして綺麗なものではなく、どす黒く暴力的だった。
アキオが俺を好きだと言う。
それは俺とは違い、とても綺麗な「好き」に聞こえる。
だから俺は自分の欲望を抑えて、軽く唇を合わせるだけのキスをする。
アキオに「好きだよ。」と言われるごとに、思いは積もる。
その薄い唇をこじ開けて舌をねじ込み、溢れるほど唾液を飲ませたい。
シャツを引き裂き、まさぐり、身体中に舌を這わせたい。
両足を掴み、その穴に俺の熱く滾った欲望をぶちこみたい。
だがそんな事できるはずもない。
最初にキスした時、アキオは熱を出した。
鼓動が早くなる事はしてはいけない。
それでもアキオに触れる事をやめられない俺は、出来るだけ優しく。アキオが驚かないようにそっと唇に触れる。
もっと触れたい。
アキオの中に入れたい。
一つになりたい。
けれどそれは叶わない。そんな事にはアキオの心臓は耐えられない。
そんなある日、継母が父親と言い争っているのを聞いた。
それは俺の適合検査についてだった。
継母が受けさせろと父に詰め寄り、父はそれを拒絶しているようだった。
なにも俺を殺して移植しようという話ではなかったが、それでも父は俺が傷つくと言ってくれた。
跡取りとして必要だっただけかもしれない。
けれど砂粒ほどの愛情だとしても、何も無いより幸せだ。
その後、俺はこっそり継母に適合検査を受けさせて欲しいと願い出た。
継母は涙を流した。
何度もごめんなさいと言って俺を抱きしめた。
実の母にも抱かれた記憶はない。
母とはこんなに優しく暖かいものなのだな。
検査は合格だった。
心が踊った。
遺書を書き、ネットで拳銃を手に入れた。
臓器を傷つけずに頭だけを撃ち抜くのだ。
大きな音で早くに発見してもらえるだろうし。
アキオには少し眠ってもらおう。
目が覚めた時にはすべて終わっている。
夕食に睡眠薬を入れた。
うとうとと眠りにつく少し前。
「愛してる。」
そっと口づけすると、アキオはふっと、微笑んだ。
「愛してる。」
父と継母宛ての遺書には二人への感謝の気持ち。そしてアキオには知らせず、俺は家を出たと伝えて欲しいと。
アキオにはもうこんな生活はうんざりだと別れを告げる嘘の手紙を。
「愛してる。」
ああ…やっとアキオと一つになれる。
アキオは俺を恨むだろうか。
恨んでもいい。
生きていればいつかその心も癒してくれる人が現れるだろう。
どん底にいた俺だったが、父にも継母にも愛されていた。
そして最愛の人と一つになれる。
最高に幸せだ。
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これは誰も知らない俺だけのハッピーエンド。
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