転生辺境伯次男はチートが過ぎる

如月 満月

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子供時代

他視点 アウクシリアの聖女⑤

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その知らせは自分が滞在しているこの国の王であるガイナスが、番と共に帰国した次の日に届いた。


「相変わらずしつこいな、あの自称勇者。……ってか、たぶん本物だけど」
「『聖女』のお前が言うなら間違いないだろうな」

いつものように自分の部屋ではなく旦那であるガラハットの執務室でお茶を飲んでいた私と書類仕事をしていた彼の元に、騎士の一人が慌ただしく知らせを持ってきた。
いつもと同じ内容かと思ったら今回は少し違ったらしい。

「それにしても、予想してたとは言え『聖女』を二人も連れてるなんてね」
「ではやはり、あの勇者は聖女を」
「うん、はあるだろうね。………ん?てか、よく考えたら勇者が連れてるってより勇者が連れられてるって可能性もあるのか」
「どういう事だ?」

私の言葉にガラハットは私の淹れたお茶の入ったカップを置き、こちらを向いた。
見下ろしてくるその目は凪いでいるようだが、よく見ればその時その時で感情が篭っているのが分かる。

それにしても、相変わらずこの男は仏頂面なくせに私の横に座りたがる……狭いんだが。

「過去の聖女が残していた書物の中で、【一部の王族などに“魅了”が使われていた痕跡があった】って記述があったの覚えてる?」
「ああ。詳細が書かれていなかったから恐らく『勇者』が使っていたのだろう、と。何か分かったのか?」
「いや、それってただの憶測だろ?聖女が書いたから“魅了”を使っていたのは他の人間でなおかつその力を持ってそうな『勇者』って思ってたけど、よくよく考えれば“魅了”が使えるなら3人目の勇者は皇子を魅了すればあんな事にならなかったんだ。でもそれをしなかったと言うことは」
「“魅了”持ちは『聖女』という事か?しかし“魅了”を使えたとして何に………」
「分かんねぇ。もしかしたら全然別の存在がって可能性もあるし。そもそも私は今のところ“魅了”は使えないからな。けど可能性がある以上、『勇者』もだけど連れの『聖女』も警戒する必要があるかもな」





アウクシリア王国の王立図書館の立ち入り禁止区域、その地下にある禁書庫にそのはあった。
その禁書庫にある本の閲覧が出来るのは王とその配偶者、そしてその国の聖女のみ。

アウクシリア王国の聖女シカールカは元々スラム街出身の平民で、教育はおろか文字の読み書きさえ出来なかった。
物心つく前に道端に捨てられ、血の繋がった両親がどこで何をしているのかすら知らず、彼にとっての家族とは自分を受け入れてくれて共にスラムで育った子供や大人たちだった。

しかし17歳の夏の終わり、その状況は一変する。
世界各国から『聖女』が覚醒し始めたのだ。
そしてそれはシカールカの身にも起きた。

『聖女』は神から力を与えられ、神からの声を聞ける人物であるというのは世界で知られているが、その聖女が転生前ーー前世の記憶も覚醒時に引き継ぐ事はあまり知られていない。
そしてシカールカも例に漏れず、聖女覚醒時に前世の記憶を引き継いでいた。
日本という異世界の国で生まれて20歳の頃に交通事故で死んだ、女子大生だった記憶を。

そしてその学生だった頃の記憶を思い出してか、せめてこの国の言葉や文字はちゃんと理解出来るようになろうと思った。
スラムの皆と離れるのは寂しかったが、どのみち『聖女』として覚醒したら遅かれ早かれ国の魔術師たちが探し出し見つかる事になる。
も仮に逃げたとして逃げ切れるものでは無いと仰っていたし。

そうして案の定すぐに探しに来た魔術師に見つかり、アウクシリア王国の王城に連れられてきたシカールカはそこで自分を番と定めた宰相ガラハットと出会う。
ガラハットはその立場上多忙ではあったが、番であるシカールカを出来るだけ自分の近くに置き、空いた時間で彼にこの国の知識や言葉、そして世界情勢などについても教えた。
聖女として覚醒する前のシカールカであれば言われた内容など全く頭に入ってこなかっただろう。
だが前世でそこそこ良い大学に通っていた学生の記憶を持つ今のシカールカには知らない知識さえとても良い刺激になり、娯楽の無いこの世界では勉強も存外楽しかった。

そうしてその後名実共に伴侶となったガラハットから知識を吸収したシカールカは王に禁書庫の本の閲覧を許されたのである。
そしてそこで見つけたのが過去の『聖女』によって勇者や自分たちの事など、その頃何があり何をしたか書かれていた日記のような書物である。





「そうなると益々厄介だな」
「そもそも自称勇者アイツの目的は聖女である私だと思ってたけど……」
「この国に居るとは言え、他国の聖女であるルカとの面会を設けるなら竜王陛下も必ず同席するだろう」
「んだねぇ。んぁ~~めんどいな!」
「向こうの『聖女』がどう出るか分からない以上、警戒は怠らない方がいい。そもそも今までは実態がよく分からない『勇者』だけを警戒していたが、今回はそこに『聖女』も増えたからな。……出来れば薬学の知識が深いミーシャ様も居てもらった方が何かあった時に対処出来るのだが」
「まぁ、新婚ならしゃーないっしょ。それよりファルやガイナスにも伝えとかないと!」

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