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第一章

第18話

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 俺たちは雑貨屋に立ち寄っていた。
 ヴァンがポーションを揃えたいと言いだしたからだ。
 腕前には自信があるようだが慎重派なのはいいことだと俺は思う。


「そういえば手持ちないんだっけか」


 ヴァンが俺に気遣い、声をかけてくる。


「いや、大丈夫だ。回復魔法は使える」

「クレイは回復魔法も使えたのか! 前衛職じゃないのか?」

「基本1人で戦うスタイルだからな、両方出来る」


 スラム街では最低限の回復が使えないことは死を意味するのと同じようなものだったからだ。


「そうだったのか……じゃあサポートは任せるぜ! あとこれを使ってくれよ」


 そう言ってヴァンが緑色のポーションを渡してくる。


「マナポーションか」

「そうCランクマナポーションだ。魔力が無くなりそうだったら使ってくれ」


 依頼の内容を聞く限りだと、使う必要が来るとは思えないが行為にあまえておこう。


「あぁ、助かる」

「一通り揃ったし、行くか」


 俺たちは雑貨屋を出て王都の出口へ向かう。

 すると、どこからから数人の視線を感じた。
 放っておこうと思ったが、その視線の主たちは、俺たちの跡を付けているようだ。
 その気配の消し方から、手慣れている感じが伝わってくる。


「ヴァン」


 歩みを止めず、顔も向けずに声をかける。


「どうした?」

「どうやら付けられているらしい」


 俺は小声で言うと、ヴァンも勘付かれないように配慮して対応し始めた。


「まじかよ……どうしてわかったんだ?」

「視線と気配だな。それよりも――やつらの狙いに心当たりはあるか?」


 尾行している者の狙いがなんなのか突き止めたい。


「視線と気配って……んーわからねーな。もしかしたら、これを狙ってんのかな」


 ヴァンが腰に掛けた剣をに視線を向けて俺に言った。
 豪華な剣だ。確かに価値はありそうだが……。


「狙われるほどのものなのか?」

「世界に12個しかない神器と言われているものだ」


 世界に12本しかないのなら確かに価値はあるだろう。
 神器と呼ばれるぐらいだから凄いのだろうが、ヴァンの腰に掛かっている剣からは魔力を全く感じなかった。
 それになぜそんなものをヴァンが持っているのかも気になるところである。


「なるほど、剣については後で聞かせてもらおう」


 剣についての詮索は後ですることにしよう。
 今は尾行しているやつらの目的を突き止めたい。
 奴らの狙いは俺である可能性もあったからだ。
 国王の治療をやっているというのが一番の理由だが、それをよく思わない貴族達も多いだろう。
 もしそうだとしたら手を回すのが早いところ見ると、身分の高い貴族の手のものだろう。


「人数は5人……いや、7人だな」

「7人??よくわかるな……これから王都の外に出るんだ。だったらここで片付けといた方が良くないか?」


 撒くのではなく片付けるか。好戦的なやつだな。だけど悪くない。
 向こうの考えが分からない以上、接触して尋問したいと思っている。


「ならおびき出すぞ。二手に別れる。俺が囮だ」

「……わかった」


 自分が囮になりたかったと言いたげな表情をするヴァン。
 だがここは先に接触して情報を聞き出させてもらう。

 それから二手に別れて行動し、俺はわざわざ人通りのない路地裏に移動する。
 しばらく路地裏を歩いていると、死角からナイフが飛んできた。
 俺はそれを軽く躱し、ナイフが飛んできた方向を睨む。


「……」


 人影暗闇からフード付き黒マントを羽織った3人が現れた。
 そして後からも2人。

 黒マントの男たちは一斉に武器を構える。暗殺などに使われる短いナイフだ。


「手厚い歓迎だな」


 俺は唇を緩ませながら、黒マント男達に声をかけた。
 その瞬間、1人がナイフを投げてくる。そしてそれを合図に5人が一斉に動き出した。


「おらっ!!」


 ナイフを躱し、背後の1人を肘で殴り、その遠心力を利用した蹴りでもう1人を吹き飛ばす。
 前方を見ると敵の1人がナイフで斬りつけてくるところだったので危なげなく躱し、【掌底】を喰らわせる。

 敵は吹き飛び、後ろで控えていたもう1人を巻き込んで壁に激突する。

 死角からナイフで刺そうとしていた最後の1人の腕を掴み、投げ飛ばし地面に叩きつける。
 そのまま腕を掴みながら、逆側に曲げて骨を折る。
 <メキッ>っという生々しい音が響く。


「ぐわぁ!」


 腕を折られた黒マントの男は悲痛な叫び声を上げた。


「誰に雇われた?」


 俺は殺気を出して男に問いかけた。


「ひっ……!」


 黒マントは殺気に反応してか身体を震わせ始めた。


「おい、大丈夫か!」


 表通りの方からヴァンが現れた。


「って大丈夫だったらしいな」


 焦っていたヴァンが倒れている黒マントの男達を見て少し呆れ気味な表情を浮かべた。


「誰の依頼だ?」


 俺はヴァンの方を向かずに殺気を込めて男に言うと、男は何かを喋ろうとした。


「い……」


 その直後白目を向いて気絶していた。
 男達には口止めをするための魔法がかかっているらしい。
 どんな魔法かはわからなかったが、情報を聞き出すのは無理そうだった。


「ちっ」


 俺は舌打ちをして男の手を離し、首の骨をポキポキならす。


「派手にやったなぁ……やっぱり俺の目は正しかったな」


 ヴァンの表情は明るい。俺の方を見てからり自慢げだ。


「こいつらには口止めか何かの魔法がかけられていて、情報は取れない」


 そして尾行していたはずの残り二人の気配もなくなっていた。


「まじで?それは厄介だな――とりあえず詰所に報告して牢屋にぶち込んで貰おうぜ」

「あぁ」


―――
――



「すんなり終わったな」


 あの後ヴァンが詰所に報告して、騎士達が現れた。
 そして手際よく黒マントの男達を運んで行く。
 軽い事情聴取をされたが、そこまで時間を取られなかったのだ。
 もう少し時間がかかるものだと思っていたが。


「まぁ一応俺貴族だからな」


 そういえばこいつ公爵家の子息だったな。
 そしてヴァン自身は騎士達と訓練もしていると言っていた。
 騎士たちとも親しい感じが伺えたし、人徳はあるようだ。


「貴族らしくはないがな」

「うるせー!」


 俺の言葉にもツッコミを入れてくる。全く貴族らしくない。
 だがそういう関係も悪くないなと俺は思い始めていた。


「それよりも5人を瞬殺――やっぱりクレイ強いだろ。今度手合わせしようぜ!」


 大浴場での話を思い出す。こいつはライバルが欲しいとか言ってたな。


「機会があったらな」


 俺は手合わせするつもりはないので適当に答えておく。
 フラグ立ててないよな?


「少し時間を取られたが、ダンジョンに向かおう」

「そうだな」
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