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第一章
第23話
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辺りを見渡すと《マテリアルドラゴン》を倒した辺りに30cmほどの大きな金色に輝く魔石が落ちていた。
その魔石を拾うと、空に向かって光の柱がまっすぐ立ち始めた。
これはダンジョンの広間にあった光の柱と同じものだ。
つまりこれに触れれば帰ることが出来るかも知れない。
金色に輝く魔石をアイテムボックスにしまい、俺は光の柱に触れる。
視界が光に包まれ転移が始まったようだ。
――視界の光が消えると次第に景色を取り戻す。
ここは1番最初に来た転移石を使った広間と同じ作りだが、戻れたのだろうか。
辺りを見渡すと、見知った顔を見つけた。
「おぉクレイ、戻ってきたか!」
ヴァンは笑顔で和気あいあいと話しかけてくる。
俺はそんなヴァンをとりあえず殴ることにした。
「いって――いきなりなにするんだよ!」
「戻ってきたか!じゃない。お前のミスで危うく死にかけただろう」
実を言うと自主的にボス部屋に入ったので、棚に上げることにした。
「死にかけたって、ボスと戦ったのか?」
「あぁ」
「実は俺も違う場所に転移しちまってよー」
「なに?」
俺は顔をしかめた。とりあえずヴァンの説明を聞くことにした。
「なんか40層に飛ばされてたみたいで、気付かずにボス部屋に入っちまったんだよ。まぁ余裕で倒せたんだけどな!」
ヴァンは誇らしげな顔をして報告してくる。
もう一発殴ろうかな
「1人で《アースドラゴン》を倒そうとしたわけか」
「いや……クレイを待つつもりだったんだけどな?」
何故か疑問形になっているヴァンの目は泳いでいる。
別に倒していたとしても俺は気にしないんだがな。
ヴァンも好戦的で戦うのが好きなことはわかった。
「40層のボスを倒した後に、ここへ戻ってきたわけか」
「い、いや……そのまま30層の《アースドラゴン》も倒して戻ってきたんだ。抜けがけしてごめん!」
ヴァンは全力で頭を下げてくる。
別に自己責任なわけだし、1人で倒す分には問題ない。
俺のことを戦闘狂とでも思っているのだろうか。
「許すも何も元々ヴァンの任務で、個人行動だとしてもは自己責任だろ。謝る必要すらない」
俺も勝手にボス倒したからおあいこだしな。
「そうだけどよー。クレイも戦いたいのかと思ってよー。もちろん報酬は半々でいいぞ!」
本当に律儀なやつだと思う。
「報酬は大丈夫だ。俺も楽しめたからな」
「元はと言えば俺が転移石でのミスが原因だ。責任も取りたいし、お金のためにやったわけでもないんだから受け取ってくれよ」
ヴァンは少し落ち込み気味で言った。
本当に反省しているようだ。
「そもそも、なぜ転移石がちゃんと機能しなかったんだ?」
「俺にはわからねぇ」
「転移石はどこで入手したんだ?」
今までの経緯からダンジョンが誤動作するとは考えられない。
転移石自体が別のものだったと考えるのが自然だ。
「露店だぜ。安かったんだ」
露店って怪しすぎるだろう。
というか普通は依頼主が用意するものだろうと思ったが、元々ダンジョンへは転移石が必須という訳では無いため、ヴァンのやつが横着しようとした結果なのだろうと解釈した。
そういうことなら報酬は半々で貰うか。
「どう見てもその露店のせいだろ」
「だよなー俺もそう思ってたんだよ」
「お前が横着した結果だろう」
「だってよー……屋敷の近くにちょうどあったんだぜ?買うだろう」
なんだよその怪しさ満点のタイミングは。
王都で尾行していた奴らの狙いってもしかしてヴァンだったのだろうか。
いずれにしても警戒は促しておくことにする。
「ヴァン、お前なら大丈夫だとは思うが一応警戒しとけ」
「どういうことだ?」
「尾行の件だ。もしかしたらお前が狙われていた可能性があるからな」
「心配してくれんのか?」
あれ、俺心配してるのか?
「いや、知人に死なれると嫌な気分になるだろう」
「なんだよそれ!」
前世では妹以外に興味が湧かなかったんだがな。
「とりあえず、最初に決めた通り報酬は半々だ」
「もちろんだ」
「依頼が達成されたことだし、腹減ったから帰るぞ」
「そうだな!」
ヴァンは元気よく返事をすると意気揚々に歩き出す。
こいつ全然疲れてないのかよ。
「なぁクレイ、死にかけたって言ってたけど、どんなボスと戦ったんだ?ダンジョンは50層まで攻略されているけど、そんなに強敵がいるフロアなんてあったか?」
「お前は俺を買い被りすぎた」
ヴァンはことある事に俺の実力を過大評価してくる。
手合わせをしたこともないし、戦った姿すら見せたことないのに。
「俺にはわかるんだって!一応そういうスキルを持ってるからな」
「スキル?それは加護みたいなものか?」
「加護とは別だな。スキルっていうのは先天的に生まれ持つ才能みたいなもんらしい。目に見えるものじゃないからスキルを見れるスキルか加護、特殊な魔道具なんかでしか確認できないんだ」
「ほぉ」
スキルは才能か。
だったら自分のスキルを1度見てみたいものだな。
「どこで見れるんだ?」
「この国だと1人しかいない。教会の最高司祭様がスキルを見れるスキル【才能の目】を持っている」
「そいつは簡単に会えるのか?」
「そいつって……まぁ普通には会えないな。一応地位は高い人だし」
「そうか」
まぁいつか機会があれば見てもらおう。
「それで、どんな魔物が現れたんだ?」
ヴァンは先程の話題に戻した。
「《マテリアルドラゴン》だ」
「はっ?マテリアルドラゴン!?」
声を張り上げたヴァンは目が飛び出るぐらい見開いて驚いている。
「あぁ。額に4色の魔石がある黒竜だ」
「まてクレイ、マテリアルドラゴンはS級の魔物で『国落とし』なんて言われてるドラゴンだぞ?」
「そうだな。初めて死にかけた」
「まじかよ……まさか倒したのか!?」
ヴァンの驚きは尋常じゃない。
倒したって言ったら大騒ぎされそうだな。
「なんとかギリギリな。かなり運が良かった」
「運だけじゃなんとか出来る相手じゃねーけどな……」
そうだろうか。ヴァンも神剣さえ使えば普通に勝てそうなレベルではあったと思うが。
まぁここはあまり騒ぎ立てたくないので運が良かったで押し通そう。
「運が良かったんだ、それにヴァンもその剣使えば勝てるレベルだとは思ったがな」
「そう、か……?いつか俺も対峙してみてー!」
こいつは単純だなと思いつつ、無邪気に言ったヴァンを横目に俺たちは王都への道を歩くのだった。
◇
「失敗しました……」
「おい、今なんて言った?」
深夜。王都にある暗がりの小屋である男が部下から報告を受けていた。
「ですから――」
「失敗の原因はなんだ?」
男は単純に叱咤するわけではなく、即座に原因を追求する。
「それが、ターゲットが報告よりも強かったということしか」
「あぁ?」
部下に報告を受けている男の名前はザック。
元Aランク冒険者であり、現裏ギルドのメンバー。
冒険者のときとは違い、今はボサボサの髪にバンダナをつけ、鋭い目付き、机の横には大型の魔物でも倒せそうな愛斧がかかっている。
そしてザックは鋭い目付きで部下を睨み、状況を把握しようと質問をする。
「ガキ1人に5人もやられたってことか?」
「は、はい。その通りです」
部下はザックの目付きにたじろぎ、顔を下に向けた。
ザックが怖いのだろう。
「今回の任務に関わった5人の行方は?」
「騎士団の詰所に捕まっているとのことです」
「おいおい、バレる心配はないけどよぉ、始末しとかなきゃならんだろ」
「それが、クロード家が関わっているみたいで、始末にはもう少し時間がかかるかと」
「なぜクロード家が出てくる」
クロード家は貴族の中でも公爵に位置する。
今回の件に関わってくる要素がまるでない。
「それが現場に子息が居合わせたようで」
「なんだとぉ?何番目だ」
「三男のヴァン・アウストラ・クロードです」
「"剣帝"かよ!それなら話は変わってくるじゃねぇか」
ザックはいくらオークジェネラルを討伐したと言っても所詮は戦闘経験のないガキだと思っていた。
だからそれ相応に訓練を受けた5人を送ったのだが返り討ちとは耳を疑う。
だけどその場に"剣帝のヴァン"が居合わせたなら失敗してもしょうがないとザックは思った。
「おやおやぁ、来るタイミングを間違えましたかねぇ?」
1人の男が2人の会話に割り込んでくる。
気配を消して扉から入って2人の会話を聞いていたのだ。
「おめぇかよサナス。今は取り込み中だ」
「すみませんねぇ、うちの依頼主から私も協力するよう言われたんですよぉ」
そう言ってサナスは空いている椅子に座るとニヤケながらザックを見る。
サナスは依頼主がケイン侯爵であることをザックには明かしていなかったのだ。
「おめぇが参加しても報酬額にはかわりないんだろうな?」
ザックも馬鹿ではない。明かされていなくても独自の情報網で大方検討は付いていた。
それなりの報酬額となると依頼主が本当に支払いが出来るかを調べるのはプロとして当たり前だ。
「報酬金はもちろん入りますし、今回はボーナスも出ますよぉ」
「ほぉ?」
「奴隷売買の許可が出ましたぁ。王女と護衛に限っちゃいますがぁ、その利益についてはこちらで引き取っていいって言ってましたよぉ」
「なるほど、それはデカイな」
今回のザックに依頼された内容は銀髪のガキであるクレイ、そして第3王女リンシアとお付の護衛メイド、メルを始末することだった。
そこで王女と護衛メイドに関しては誘拐して裏ギルドの奴隷売買にかけてもいいという許可が出たのだ。
第3王女は12歳とまだ未熟ではあるが大人をも魅力するぐらいの整った容姿をしている。
今でもあの容姿なのだから、将来は絶世の美女になることは間違いない。
かなりの高額がつくだろうとザックは思っていた。
(むしろ俺が貰ってもいいがな……ククク)
「ですがボーナスの方は山分けですよぉ」
「あぁわかったよ」
「ちゃんと協力はしますからぁ、売買の方の用意もしといてくださいねぇ」
「そっちの方も用意しておく。ただ王女の誘拐となると準備がいる」
「任せてくださいよぉ、準備してますからぁ」
サナスは不気味な笑みを浮かべる。
「あとは銀髪のガキだが……」
「何か問題でもあったんですかぁ?」
「……"剣帝"に邪魔されて始末し損ねた」
ザックは失敗したとは言いたくなかったので責任転嫁することにした。
実際に邪魔されたのだからしょうがないと思っていた。
「それは災難でしたねぇ。しかし剣帝の小僧と面識があったとは思いませんでしたねぇ」
「一応報告だ。邪魔されたら厄介だから手は打っといてくれ」
「もちろんですよぉ」
そのへんもサナスに任せておけば間違いないとザックは思った。
「とりあえずターゲットは合わせて始末出来るように準備を進めますよぉ。もし戦闘になれば私も出ますしぃ」
「あんたに言われると頼もしいね。だが最悪俺が直々に始末するよ。お膳立てだけ頼むわ」
「くれぐれも油断しないでくださいねぇ」
そう言ってサナスは小屋を後にした。
ドアの外にあったはずのサナスの気配はフッと消える。
「サナス殿も加わってくれるのであれば心強いですね」
今まで黙っていた部下が喋り出した。極力2人の会話を邪魔しないよう空気に徹していたのだ。
サナスはその気になればオークジェネラルを何体も相手にしようと無傷で倒す実力を持っていて、本当の実力を知っているものは少ない。
騎士団に所属はしているものの目立たぬように心がけていることをザックも部下も知っていた。
「こっちも色々も準備するぞ」
「了解です」
そう言って2人も小屋を出るのだった。
その魔石を拾うと、空に向かって光の柱がまっすぐ立ち始めた。
これはダンジョンの広間にあった光の柱と同じものだ。
つまりこれに触れれば帰ることが出来るかも知れない。
金色に輝く魔石をアイテムボックスにしまい、俺は光の柱に触れる。
視界が光に包まれ転移が始まったようだ。
――視界の光が消えると次第に景色を取り戻す。
ここは1番最初に来た転移石を使った広間と同じ作りだが、戻れたのだろうか。
辺りを見渡すと、見知った顔を見つけた。
「おぉクレイ、戻ってきたか!」
ヴァンは笑顔で和気あいあいと話しかけてくる。
俺はそんなヴァンをとりあえず殴ることにした。
「いって――いきなりなにするんだよ!」
「戻ってきたか!じゃない。お前のミスで危うく死にかけただろう」
実を言うと自主的にボス部屋に入ったので、棚に上げることにした。
「死にかけたって、ボスと戦ったのか?」
「あぁ」
「実は俺も違う場所に転移しちまってよー」
「なに?」
俺は顔をしかめた。とりあえずヴァンの説明を聞くことにした。
「なんか40層に飛ばされてたみたいで、気付かずにボス部屋に入っちまったんだよ。まぁ余裕で倒せたんだけどな!」
ヴァンは誇らしげな顔をして報告してくる。
もう一発殴ろうかな
「1人で《アースドラゴン》を倒そうとしたわけか」
「いや……クレイを待つつもりだったんだけどな?」
何故か疑問形になっているヴァンの目は泳いでいる。
別に倒していたとしても俺は気にしないんだがな。
ヴァンも好戦的で戦うのが好きなことはわかった。
「40層のボスを倒した後に、ここへ戻ってきたわけか」
「い、いや……そのまま30層の《アースドラゴン》も倒して戻ってきたんだ。抜けがけしてごめん!」
ヴァンは全力で頭を下げてくる。
別に自己責任なわけだし、1人で倒す分には問題ない。
俺のことを戦闘狂とでも思っているのだろうか。
「許すも何も元々ヴァンの任務で、個人行動だとしてもは自己責任だろ。謝る必要すらない」
俺も勝手にボス倒したからおあいこだしな。
「そうだけどよー。クレイも戦いたいのかと思ってよー。もちろん報酬は半々でいいぞ!」
本当に律儀なやつだと思う。
「報酬は大丈夫だ。俺も楽しめたからな」
「元はと言えば俺が転移石でのミスが原因だ。責任も取りたいし、お金のためにやったわけでもないんだから受け取ってくれよ」
ヴァンは少し落ち込み気味で言った。
本当に反省しているようだ。
「そもそも、なぜ転移石がちゃんと機能しなかったんだ?」
「俺にはわからねぇ」
「転移石はどこで入手したんだ?」
今までの経緯からダンジョンが誤動作するとは考えられない。
転移石自体が別のものだったと考えるのが自然だ。
「露店だぜ。安かったんだ」
露店って怪しすぎるだろう。
というか普通は依頼主が用意するものだろうと思ったが、元々ダンジョンへは転移石が必須という訳では無いため、ヴァンのやつが横着しようとした結果なのだろうと解釈した。
そういうことなら報酬は半々で貰うか。
「どう見てもその露店のせいだろ」
「だよなー俺もそう思ってたんだよ」
「お前が横着した結果だろう」
「だってよー……屋敷の近くにちょうどあったんだぜ?買うだろう」
なんだよその怪しさ満点のタイミングは。
王都で尾行していた奴らの狙いってもしかしてヴァンだったのだろうか。
いずれにしても警戒は促しておくことにする。
「ヴァン、お前なら大丈夫だとは思うが一応警戒しとけ」
「どういうことだ?」
「尾行の件だ。もしかしたらお前が狙われていた可能性があるからな」
「心配してくれんのか?」
あれ、俺心配してるのか?
「いや、知人に死なれると嫌な気分になるだろう」
「なんだよそれ!」
前世では妹以外に興味が湧かなかったんだがな。
「とりあえず、最初に決めた通り報酬は半々だ」
「もちろんだ」
「依頼が達成されたことだし、腹減ったから帰るぞ」
「そうだな!」
ヴァンは元気よく返事をすると意気揚々に歩き出す。
こいつ全然疲れてないのかよ。
「なぁクレイ、死にかけたって言ってたけど、どんなボスと戦ったんだ?ダンジョンは50層まで攻略されているけど、そんなに強敵がいるフロアなんてあったか?」
「お前は俺を買い被りすぎた」
ヴァンはことある事に俺の実力を過大評価してくる。
手合わせをしたこともないし、戦った姿すら見せたことないのに。
「俺にはわかるんだって!一応そういうスキルを持ってるからな」
「スキル?それは加護みたいなものか?」
「加護とは別だな。スキルっていうのは先天的に生まれ持つ才能みたいなもんらしい。目に見えるものじゃないからスキルを見れるスキルか加護、特殊な魔道具なんかでしか確認できないんだ」
「ほぉ」
スキルは才能か。
だったら自分のスキルを1度見てみたいものだな。
「どこで見れるんだ?」
「この国だと1人しかいない。教会の最高司祭様がスキルを見れるスキル【才能の目】を持っている」
「そいつは簡単に会えるのか?」
「そいつって……まぁ普通には会えないな。一応地位は高い人だし」
「そうか」
まぁいつか機会があれば見てもらおう。
「それで、どんな魔物が現れたんだ?」
ヴァンは先程の話題に戻した。
「《マテリアルドラゴン》だ」
「はっ?マテリアルドラゴン!?」
声を張り上げたヴァンは目が飛び出るぐらい見開いて驚いている。
「あぁ。額に4色の魔石がある黒竜だ」
「まてクレイ、マテリアルドラゴンはS級の魔物で『国落とし』なんて言われてるドラゴンだぞ?」
「そうだな。初めて死にかけた」
「まじかよ……まさか倒したのか!?」
ヴァンの驚きは尋常じゃない。
倒したって言ったら大騒ぎされそうだな。
「なんとかギリギリな。かなり運が良かった」
「運だけじゃなんとか出来る相手じゃねーけどな……」
そうだろうか。ヴァンも神剣さえ使えば普通に勝てそうなレベルではあったと思うが。
まぁここはあまり騒ぎ立てたくないので運が良かったで押し通そう。
「運が良かったんだ、それにヴァンもその剣使えば勝てるレベルだとは思ったがな」
「そう、か……?いつか俺も対峙してみてー!」
こいつは単純だなと思いつつ、無邪気に言ったヴァンを横目に俺たちは王都への道を歩くのだった。
◇
「失敗しました……」
「おい、今なんて言った?」
深夜。王都にある暗がりの小屋である男が部下から報告を受けていた。
「ですから――」
「失敗の原因はなんだ?」
男は単純に叱咤するわけではなく、即座に原因を追求する。
「それが、ターゲットが報告よりも強かったということしか」
「あぁ?」
部下に報告を受けている男の名前はザック。
元Aランク冒険者であり、現裏ギルドのメンバー。
冒険者のときとは違い、今はボサボサの髪にバンダナをつけ、鋭い目付き、机の横には大型の魔物でも倒せそうな愛斧がかかっている。
そしてザックは鋭い目付きで部下を睨み、状況を把握しようと質問をする。
「ガキ1人に5人もやられたってことか?」
「は、はい。その通りです」
部下はザックの目付きにたじろぎ、顔を下に向けた。
ザックが怖いのだろう。
「今回の任務に関わった5人の行方は?」
「騎士団の詰所に捕まっているとのことです」
「おいおい、バレる心配はないけどよぉ、始末しとかなきゃならんだろ」
「それが、クロード家が関わっているみたいで、始末にはもう少し時間がかかるかと」
「なぜクロード家が出てくる」
クロード家は貴族の中でも公爵に位置する。
今回の件に関わってくる要素がまるでない。
「それが現場に子息が居合わせたようで」
「なんだとぉ?何番目だ」
「三男のヴァン・アウストラ・クロードです」
「"剣帝"かよ!それなら話は変わってくるじゃねぇか」
ザックはいくらオークジェネラルを討伐したと言っても所詮は戦闘経験のないガキだと思っていた。
だからそれ相応に訓練を受けた5人を送ったのだが返り討ちとは耳を疑う。
だけどその場に"剣帝のヴァン"が居合わせたなら失敗してもしょうがないとザックは思った。
「おやおやぁ、来るタイミングを間違えましたかねぇ?」
1人の男が2人の会話に割り込んでくる。
気配を消して扉から入って2人の会話を聞いていたのだ。
「おめぇかよサナス。今は取り込み中だ」
「すみませんねぇ、うちの依頼主から私も協力するよう言われたんですよぉ」
そう言ってサナスは空いている椅子に座るとニヤケながらザックを見る。
サナスは依頼主がケイン侯爵であることをザックには明かしていなかったのだ。
「おめぇが参加しても報酬額にはかわりないんだろうな?」
ザックも馬鹿ではない。明かされていなくても独自の情報網で大方検討は付いていた。
それなりの報酬額となると依頼主が本当に支払いが出来るかを調べるのはプロとして当たり前だ。
「報酬金はもちろん入りますし、今回はボーナスも出ますよぉ」
「ほぉ?」
「奴隷売買の許可が出ましたぁ。王女と護衛に限っちゃいますがぁ、その利益についてはこちらで引き取っていいって言ってましたよぉ」
「なるほど、それはデカイな」
今回のザックに依頼された内容は銀髪のガキであるクレイ、そして第3王女リンシアとお付の護衛メイド、メルを始末することだった。
そこで王女と護衛メイドに関しては誘拐して裏ギルドの奴隷売買にかけてもいいという許可が出たのだ。
第3王女は12歳とまだ未熟ではあるが大人をも魅力するぐらいの整った容姿をしている。
今でもあの容姿なのだから、将来は絶世の美女になることは間違いない。
かなりの高額がつくだろうとザックは思っていた。
(むしろ俺が貰ってもいいがな……ククク)
「ですがボーナスの方は山分けですよぉ」
「あぁわかったよ」
「ちゃんと協力はしますからぁ、売買の方の用意もしといてくださいねぇ」
「そっちの方も用意しておく。ただ王女の誘拐となると準備がいる」
「任せてくださいよぉ、準備してますからぁ」
サナスは不気味な笑みを浮かべる。
「あとは銀髪のガキだが……」
「何か問題でもあったんですかぁ?」
「……"剣帝"に邪魔されて始末し損ねた」
ザックは失敗したとは言いたくなかったので責任転嫁することにした。
実際に邪魔されたのだからしょうがないと思っていた。
「それは災難でしたねぇ。しかし剣帝の小僧と面識があったとは思いませんでしたねぇ」
「一応報告だ。邪魔されたら厄介だから手は打っといてくれ」
「もちろんですよぉ」
そのへんもサナスに任せておけば間違いないとザックは思った。
「とりあえずターゲットは合わせて始末出来るように準備を進めますよぉ。もし戦闘になれば私も出ますしぃ」
「あんたに言われると頼もしいね。だが最悪俺が直々に始末するよ。お膳立てだけ頼むわ」
「くれぐれも油断しないでくださいねぇ」
そう言ってサナスは小屋を後にした。
ドアの外にあったはずのサナスの気配はフッと消える。
「サナス殿も加わってくれるのであれば心強いですね」
今まで黙っていた部下が喋り出した。極力2人の会話を邪魔しないよう空気に徹していたのだ。
サナスはその気になればオークジェネラルを何体も相手にしようと無傷で倒す実力を持っていて、本当の実力を知っているものは少ない。
騎士団に所属はしているものの目立たぬように心がけていることをザックも部下も知っていた。
「こっちも色々も準備するぞ」
「了解です」
そう言って2人も小屋を出るのだった。
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