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第一章
第25話
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教会は王城から15分ほど歩いた場所にあった。
王都には教会と呼ばれる場所はいくつかあるが、ここが王城から1番近いらしい。
協会に到着すると大勢の子供たちが親と同伴で入口に並んでいる。
ここに混ざるのがすごく恥ずかしいんだけど。
俺は嫌そうな顔でリンシアの方を見ると、ニコニコしながら俺を見ていた。
面白がっているだろうこいつ。
王女が同伴すると大騒ぎになるとのことだったので、教会から少し離れた場所で儀式の流れを説明することになった。馬車を使わなかったのはそのためだったのかと納得。
「信徒の儀の流れを教えてくれ」
「信徒の儀の流れは簡単だぞ。教会に入ったら空いている席に座り、司祭が祭壇の前で文言を唱える。それを目をつぶり両手を合わせて祈るだけだ」
俺の質問にメルが淡々と答えていく。
内容がめちゃくちゃ単純じゃないか。
「それだけか?」
「それだけだぞ。司祭が文言を唱えると教会全体が光に満ちて、それが止むと加護を授かっているという流れだな。儀式全体で30分もかからない」
「神に会えるのか?」
「何を言っている、神様に会えるわけがないだろう」
メルは呆れた顔で俺を見ながら説明を続ける。
「1部の例外で神様に会えたものはいないわけではないらしい。だけど普通は会えるものではない」
あの天使の話だと神に会えそうな言い方だったが、違うのだろうか。
「そろそろ時間だ、入口から中に入ってくれ。私とリンシア様はここで待っているから、儀式が終わったらこの場所で落ち合おう」
「わかった」
メル達と別れ、入口から教会の中に入り、席に座る。
教会の中は500人は入れそうな広い作りをしている。
何列も横長の席が用意されていて、壁際にはシスターが何人か配置されていた。
真ん中の祭壇には12種類の像が飾られている――おそらく神を表した像だろう。
しばらく待っていると、祭壇横の扉から司祭が出てきて挨拶を始めた。
「お待たせした。これより信徒の儀を始める――」
それから司祭は信徒の儀についての説明をしていった。
神々の~だの、魂は~だの、儀式を受ける前の心構えのようなものを長々と語っていく。
校長先生の話を思い出すよ。
「これより、神の言葉を紡ぐ。皆手を合わせ、祈りを捧げてください。――――」
司祭の言葉で周りの子供や親達、シスター皆が手を合わせて祈りを捧げる。
祈るなどやりたくなかったが、ここは空気を読んで目をつぶり同じポーズをした。
司祭の呪文のような言葉が始まり、しばらく聞いていると目をつぶっているにも関わらず瞳の奥から光が溢れてくる――
――俺は光の眩しさに目を開けると、そこは教会ではなかった。
「ここはどこだ」
俺のいた場所は一面真っ白な世界だった。
その真っ白な地面はどこまでも続いていそうなぐらい広い。
「ようやく来たようじゃなクレイよ」
どこからかともなく声が聞こえてくた。
すると目の前にいきなり白髪で長いヒゲを生やしているじいさんが現れた。
じいさんにも関わらずその肉体は筋肉の鎧を来ているような屈強な体をしていた。
「あんたが神か?」
状況予測で神だと判断した俺は即座に質問した。
「いかにも、ワシは12神のうちの1神、ゼウスじゃ」
自己紹介をしたじいさんは自身を神だと名乗った。
神を信じたことのなかった俺は神がいることに若干ショックを受ける。
しかも神ってこんな筋肉ムキムキ、ガチムチじいさんだったとは――
「失礼なやつじゃな。ワシは自らこの姿をえらんでおるんじゃ」
どうやら心の声は聞こえているらしい。
本当に神かどうかを証明してもらいたい気持ちはあるが、ひとまず神だと信じて話を進めることにした。
「なぜここに俺を呼んだんだ?」
「お主の魂を前の世界から連れてきたのはワシじゃ」
「なに?」
俺は眉をひそめた。
「お主の魂は優秀な素質で、強固の魂なんじゃ。この世界で必要だと判断したからあちらの世界から貰い受けた」
どうやらゼウスが俺をこの世界に転生させたということらしい。
それだと色々疑問が残る。
「なぜこの世界に必要だと思ったんだ?」
「もっともな疑問じゃな。クレイよ、お主の今いる世界はワシを含めた12神が作った世界。そして『魔力』があることで様々な種族が存在して共存している。だが他種族という理由だけで争いが生まれ、特に知性を持つ人族と魔族の2種族は大きな争いを生んだ」
俺は黙ってゼウスの話を聞き入る。
この世界には魔族もいるのか。機会があったら会ってみたいものだ。
「最初に魔族が勢力を増し、近郊が崩れた。このままでは他種族が全滅すると判断した12神の内の1神が、自分の使徒として人族の1人に加護を与えた」
「その結果どうなったんだ?」
おそらくだが、人族が強くなりすぎたのではないだろうか。
「お主の考えた通りじゃ。人族は力を増し、次は魔族が滅びそうになった。だから魔族にもまた別の神が加護を与え使徒した」
なるほど、話が読めてきたぞ。
12神はこの世界のバランスを保つために使徒を送りあっていったのか。
「そうじゃ。神が使徒として加護を送れるのは1人だけ。だから12神は皆自分の使徒を選んでいった。そうすることで世界のバランスが保たれたのじゃ」
「なるほどな、つまりゼウスの使徒が俺ってことか?」
「頭の回転が早くて助かるわい。その通りじゃ、お主はワシに選ばれた使徒なのじゃ。その事実を本来は5歳で受ける信徒の儀で伝える予定ではあったんじゃがのう……」
それは俺のせいじゃない。むしろ生まれる場所ぐらいコントロールしろよ神様だろ。
「わざわざ使徒として送らなくても神自身で何とか出来なかったのか?」
「ワシらは直接世界に干渉することは出来ん決まりじゃ。それはどの世界でも同じこと」
思った通りの回答だな。
神が直々に手を下せるならわざわざ使徒を送らないよな。
「俺に何をしろと?」
「何をしろということはない。今はバランスが取れている状態なので何もせんでもいいぞ、ワシは平和主義でな」
「何もしなくてもいいなら俺呼ぶ必要ないだろ」
まぁ世界を救ってくれみたいな大それたことを言われるよりかはかなりマシだが。
「もっともな意見じゃが不測の事態はどうしても起こる。不測の事態が起きたときはバランスを保つためにワシの使徒として働いて欲しい」
不測の事態とは随分アバウトだな。
「それは他の使徒絡みでってことか?」
「そうじゃ、12神が使徒に選ぶぐらいじゃからかなり優秀なスキルを持っている。使徒を止められるのは使徒になるのじゃ」
話は読めてきた。バランスを保つという具体性がないんだか、平和を作ってくれという解釈をしておこう。
「ほっほっほ、お主のような優秀な人族を使徒に出来て嬉しいのぉ。お主が世界を滅ぼそうとするなら話は変わってくるが、そういう面も見極めて魂を選んでおる」
確かに今のところ世界を滅ぼすとかは興味ないな。
「理解してくれたならお主に加護を授けようと思うのじゃが、守ってもらいたいことがある」
「守ってもらいたいこと?」
「そうじゃ。簡単な事じゃが、『使徒だということは他の使徒以外に明かすことは出来ない』これだけじゃ」
「明かすとどうなる?」
「加護が消える」
「それだけかよ」
「使徒として加護がないのは他の使徒との大きな差が生まれてしまうのじゃ」
「結果バランスが崩れるということか」
「その通りじゃ。だから気をつけてくれ」
「わかった、あと質問なんだが、使徒になることを断ることは出来るのか?」
「えっ断るのか?」
先程まで凛々しくしゃべっていたゼウスが素っ頓狂な声をあげた。
キャラ崩壊してんぞじじい。
「ゴホン……ダメじゃ、断ることは出来ん。この数千年生きてきて断ったやつを始めて見たわい……」
「強制か。なら対価をよこせ」
「お主が喋ってる相手が一応『神』だということを理解しておるかのぉ……」
「神側の主張はわかった。世界の均衡とやらもなるべく気にしよう。だから対価をよこせと言っている」
物事を頼むなら対価を渡す。人同士なら当然の権利だと思うが。
「なるほどのぉ……お主の願い、具体的に言葉にして言ってみるがよい」
心を読まれぬようなるべく無心でいたが、読まれているように感じた。
わざわざ言葉に出して言えということか。
「今世で俺がゼウスの言う均衡を保つことを全うしたなら、前世で妹だった一ノ瀬沙奈と同じ世界に俺を転生させて欲しい。そして出来れば今回と同じように記憶を引き継ぎたい」
俺は生きてきて初めて、神頼みをした。
王都には教会と呼ばれる場所はいくつかあるが、ここが王城から1番近いらしい。
協会に到着すると大勢の子供たちが親と同伴で入口に並んでいる。
ここに混ざるのがすごく恥ずかしいんだけど。
俺は嫌そうな顔でリンシアの方を見ると、ニコニコしながら俺を見ていた。
面白がっているだろうこいつ。
王女が同伴すると大騒ぎになるとのことだったので、教会から少し離れた場所で儀式の流れを説明することになった。馬車を使わなかったのはそのためだったのかと納得。
「信徒の儀の流れを教えてくれ」
「信徒の儀の流れは簡単だぞ。教会に入ったら空いている席に座り、司祭が祭壇の前で文言を唱える。それを目をつぶり両手を合わせて祈るだけだ」
俺の質問にメルが淡々と答えていく。
内容がめちゃくちゃ単純じゃないか。
「それだけか?」
「それだけだぞ。司祭が文言を唱えると教会全体が光に満ちて、それが止むと加護を授かっているという流れだな。儀式全体で30分もかからない」
「神に会えるのか?」
「何を言っている、神様に会えるわけがないだろう」
メルは呆れた顔で俺を見ながら説明を続ける。
「1部の例外で神様に会えたものはいないわけではないらしい。だけど普通は会えるものではない」
あの天使の話だと神に会えそうな言い方だったが、違うのだろうか。
「そろそろ時間だ、入口から中に入ってくれ。私とリンシア様はここで待っているから、儀式が終わったらこの場所で落ち合おう」
「わかった」
メル達と別れ、入口から教会の中に入り、席に座る。
教会の中は500人は入れそうな広い作りをしている。
何列も横長の席が用意されていて、壁際にはシスターが何人か配置されていた。
真ん中の祭壇には12種類の像が飾られている――おそらく神を表した像だろう。
しばらく待っていると、祭壇横の扉から司祭が出てきて挨拶を始めた。
「お待たせした。これより信徒の儀を始める――」
それから司祭は信徒の儀についての説明をしていった。
神々の~だの、魂は~だの、儀式を受ける前の心構えのようなものを長々と語っていく。
校長先生の話を思い出すよ。
「これより、神の言葉を紡ぐ。皆手を合わせ、祈りを捧げてください。――――」
司祭の言葉で周りの子供や親達、シスター皆が手を合わせて祈りを捧げる。
祈るなどやりたくなかったが、ここは空気を読んで目をつぶり同じポーズをした。
司祭の呪文のような言葉が始まり、しばらく聞いていると目をつぶっているにも関わらず瞳の奥から光が溢れてくる――
――俺は光の眩しさに目を開けると、そこは教会ではなかった。
「ここはどこだ」
俺のいた場所は一面真っ白な世界だった。
その真っ白な地面はどこまでも続いていそうなぐらい広い。
「ようやく来たようじゃなクレイよ」
どこからかともなく声が聞こえてくた。
すると目の前にいきなり白髪で長いヒゲを生やしているじいさんが現れた。
じいさんにも関わらずその肉体は筋肉の鎧を来ているような屈強な体をしていた。
「あんたが神か?」
状況予測で神だと判断した俺は即座に質問した。
「いかにも、ワシは12神のうちの1神、ゼウスじゃ」
自己紹介をしたじいさんは自身を神だと名乗った。
神を信じたことのなかった俺は神がいることに若干ショックを受ける。
しかも神ってこんな筋肉ムキムキ、ガチムチじいさんだったとは――
「失礼なやつじゃな。ワシは自らこの姿をえらんでおるんじゃ」
どうやら心の声は聞こえているらしい。
本当に神かどうかを証明してもらいたい気持ちはあるが、ひとまず神だと信じて話を進めることにした。
「なぜここに俺を呼んだんだ?」
「お主の魂を前の世界から連れてきたのはワシじゃ」
「なに?」
俺は眉をひそめた。
「お主の魂は優秀な素質で、強固の魂なんじゃ。この世界で必要だと判断したからあちらの世界から貰い受けた」
どうやらゼウスが俺をこの世界に転生させたということらしい。
それだと色々疑問が残る。
「なぜこの世界に必要だと思ったんだ?」
「もっともな疑問じゃな。クレイよ、お主の今いる世界はワシを含めた12神が作った世界。そして『魔力』があることで様々な種族が存在して共存している。だが他種族という理由だけで争いが生まれ、特に知性を持つ人族と魔族の2種族は大きな争いを生んだ」
俺は黙ってゼウスの話を聞き入る。
この世界には魔族もいるのか。機会があったら会ってみたいものだ。
「最初に魔族が勢力を増し、近郊が崩れた。このままでは他種族が全滅すると判断した12神の内の1神が、自分の使徒として人族の1人に加護を与えた」
「その結果どうなったんだ?」
おそらくだが、人族が強くなりすぎたのではないだろうか。
「お主の考えた通りじゃ。人族は力を増し、次は魔族が滅びそうになった。だから魔族にもまた別の神が加護を与え使徒した」
なるほど、話が読めてきたぞ。
12神はこの世界のバランスを保つために使徒を送りあっていったのか。
「そうじゃ。神が使徒として加護を送れるのは1人だけ。だから12神は皆自分の使徒を選んでいった。そうすることで世界のバランスが保たれたのじゃ」
「なるほどな、つまりゼウスの使徒が俺ってことか?」
「頭の回転が早くて助かるわい。その通りじゃ、お主はワシに選ばれた使徒なのじゃ。その事実を本来は5歳で受ける信徒の儀で伝える予定ではあったんじゃがのう……」
それは俺のせいじゃない。むしろ生まれる場所ぐらいコントロールしろよ神様だろ。
「わざわざ使徒として送らなくても神自身で何とか出来なかったのか?」
「ワシらは直接世界に干渉することは出来ん決まりじゃ。それはどの世界でも同じこと」
思った通りの回答だな。
神が直々に手を下せるならわざわざ使徒を送らないよな。
「俺に何をしろと?」
「何をしろということはない。今はバランスが取れている状態なので何もせんでもいいぞ、ワシは平和主義でな」
「何もしなくてもいいなら俺呼ぶ必要ないだろ」
まぁ世界を救ってくれみたいな大それたことを言われるよりかはかなりマシだが。
「もっともな意見じゃが不測の事態はどうしても起こる。不測の事態が起きたときはバランスを保つためにワシの使徒として働いて欲しい」
不測の事態とは随分アバウトだな。
「それは他の使徒絡みでってことか?」
「そうじゃ、12神が使徒に選ぶぐらいじゃからかなり優秀なスキルを持っている。使徒を止められるのは使徒になるのじゃ」
話は読めてきた。バランスを保つという具体性がないんだか、平和を作ってくれという解釈をしておこう。
「ほっほっほ、お主のような優秀な人族を使徒に出来て嬉しいのぉ。お主が世界を滅ぼそうとするなら話は変わってくるが、そういう面も見極めて魂を選んでおる」
確かに今のところ世界を滅ぼすとかは興味ないな。
「理解してくれたならお主に加護を授けようと思うのじゃが、守ってもらいたいことがある」
「守ってもらいたいこと?」
「そうじゃ。簡単な事じゃが、『使徒だということは他の使徒以外に明かすことは出来ない』これだけじゃ」
「明かすとどうなる?」
「加護が消える」
「それだけかよ」
「使徒として加護がないのは他の使徒との大きな差が生まれてしまうのじゃ」
「結果バランスが崩れるということか」
「その通りじゃ。だから気をつけてくれ」
「わかった、あと質問なんだが、使徒になることを断ることは出来るのか?」
「えっ断るのか?」
先程まで凛々しくしゃべっていたゼウスが素っ頓狂な声をあげた。
キャラ崩壊してんぞじじい。
「ゴホン……ダメじゃ、断ることは出来ん。この数千年生きてきて断ったやつを始めて見たわい……」
「強制か。なら対価をよこせ」
「お主が喋ってる相手が一応『神』だということを理解しておるかのぉ……」
「神側の主張はわかった。世界の均衡とやらもなるべく気にしよう。だから対価をよこせと言っている」
物事を頼むなら対価を渡す。人同士なら当然の権利だと思うが。
「なるほどのぉ……お主の願い、具体的に言葉にして言ってみるがよい」
心を読まれぬようなるべく無心でいたが、読まれているように感じた。
わざわざ言葉に出して言えということか。
「今世で俺がゼウスの言う均衡を保つことを全うしたなら、前世で妹だった一ノ瀬沙奈と同じ世界に俺を転生させて欲しい。そして出来れば今回と同じように記憶を引き継ぎたい」
俺は生きてきて初めて、神頼みをした。
応援ありがとうございます!
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