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お兄ちゃんは縁を繋ぐ
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今日も今日とて死体検分。
虚な目をした青年は、手慣れた手つきで二つ折り重なるようにして発見されたと言う男女のご遺体を調べる。
今日は無理心中か……
疲れた目を擦ろうとして手につけた白い手袋に気付きそれを堪える。
あたりにはテープが張り巡らされて、関係者以外は立ち入らないようになっている。
その中心で肩膝をついた青年の髪は黒い。
周りの警察関係者の髪はだいたい赤銅色もしくは金色に似た黄土色である。
真っ黒な瞳に思えるそれはよく見れば焦茶ではあるが、ぱっと見は真っ黒に見えるため青年のまとう黒い服に相まって全身が黒い。
"歩く殺人事件ホイホイ"という名誉ある不名誉な二つ名で呼ばれる青年は、今日もまた深々とため息をついた。
――――――――――――――――――――――――――
「あら、今日は私の好きなものばかりだわ」
嬉しそうに顔を綻ばせたのは妹のジュリエット。
ごく最近突然婚約解消の憂き目にあった妹ではあるがごく普通に元気である。
食卓に並んだ料理が全て妹の好物であることもその慰めの一環だ。
たおやかな外見とは裏腹な芯の強さは兄である自分を遥かに凌いでいるのではないかと思えるほどだ。
貴族らしく広いテーブルではあるが、妹と兄である自分は正面に位置した場所に座しているためさしたる距離はない。
白く汚れひとつない清潔な布の上には栄養を考えた料理が並んでいる。
ふんわりと湯気を上げるスープにスプーンを差し込んで、掬いあげるとそっと口に含む。
婚約解消に関しては完全に向こうの過失の上、兄としてあの男と妹が結婚することに関してはあまりいい感情を持っていなかったため、解消の報を聞いたときには、ほっと胸をなでおろしたのである。
妹は見目も麗しければ礼儀作法等の教育は完全に行き届いており、頭の回転も早い。
金色の髪は艶々と光を反射して輝いて背中に落ちている。
自分のこともお兄様と慕ってくれているし、めちゃくちゃ自慢の妹である。
しかしクソ王子との婚約か解消されたとなれば妹には山のような釣書が送られてくることだろう。
……果たしてその中の何割が妹の年齢に釣り合いの取れた相手だろうか。
年若く美しい妻が欲しいと言う中年、もしくは老人貴族は思ったよりもこの世の中に存在している。
婚約解消された、という話はすでに広く知られている。こちらに非は一切ないが、事実足元を見てくる輩も多いことだろう。
同年代で結婚していない人間はほとんどの場合事故ってるやつが多い。
妹は幸せになる権利がある。……こんなにも可愛いのだから、やにさがったおっさんや好色じじいに嫁がせる訳がない。
小汚いおっさんに妹をくれてやらなければいけないほど我が家は落ちぶれていない。
我が家は腐っても貴族頭なのだ。
妹を一生養うくらい朝飯前であるし、急ぐことはない。
「お兄様、エバンス男爵をご存知ですか?」
エバンス男爵といえば社交会に出れば噂を聞かない日はない有名人ではあるが、今まで妹のジュリエットからその名を聞いたことはなかった。
最愛の妹に微笑みかけながら、ウィリアムは頭のなかを整理していく。
目に入れても痛くない妹の質問に出てきた名前にウィリアムは緑青の瞳を丸くした。
同じ色の妹の瞳の中に薄い金色の髪をしたウィリアムが映っている。金髪といってもピンキリであり、ウィリアムの髪は蜂蜜色にはほど遠い。
目の色はほとんど同じ色だが、髪の色に関して言えばウィリアムは母親ゆずりだ。
「まぁ……噂にはことかかない御仁だな。えらく急な質問に思えるが……エバンス男爵がどうかしたのか?」
「実は先日殺人事件の現場を通りかかりまして………警察機構で働いている黒髪の方といえばエバンス男爵ではないかと思いまして……」
「殺人事件」
よもや妹がなんらかの事件に巻き込まれたのかとウィリアムは声を張る。
「いえ、ほんとに通りかかっただけなのですよ。心配はご無用です。なんなら立ち入り禁止のテープにすらふれていないので、ご安心ください」
うふふと、笑った妹は食事を終えたのか、音を立てずに静かにフォークを置いた。
「エバンス男爵とお兄様同じ歳なのではありませんか? もしやルーベルタ学院でお知り合いになっているのではないかと思ったのですが……」
「……いや、ルーベルタはかなり大きいからな」
「そうですよね、不躾な質問失礼しました。少し興味が湧きまして……一度お会いしてみたかったのですが……」
わかりやすくジュリエットは肩を落とした。
二人の母校であるルーベルタ学院といえば、かなりの大きさの学院でこの国のほとんどの人間の母校でもある。
大きすぎるゆえに、同じ歳とはいえ同じクラスにならないかぎりは縁は繋がらない。
「……ジュリエット、エバンス男爵の噂話は知っているんだな?」
「ええ、《外を歩けば殺人事件に遭遇する》らしいですね。それゆえ解決した時間は数知れず。その功績をたたえて男爵の位を賜ったとか……結婚を何度か考えて婚約者を作って見たものの頻繁に事件に巻き込まれすぎて婚約解消となってしまっている。とかでしょうか? まぁ、噂話程度ではありますが……」
「そうか。それでもエバンス男爵に会ってみたいか?」
ジュリエットは首を縦に動かす。
噂はあてにならないことは百も承知だ。しかし、エバンス男爵の噂はジュリエットのような男女関係のうわさ話ではない。
それが本当であれば彼の周りには殺人事件がうようよ沸いている。
彼自身にも興味はあるが、ジュリエットが惹かれたのは事件のほうでもある。
現実と虚構を同じように考えるのは愚物のすることだが、ジュリエットはかなりの推理ミステリー好きだ。一度ぐらいは密室殺人事件やトリックを用いた殺人事件に出会ってみたい。
まぁ大前提として自身が犯人と疑われない、容疑者にならない、という状況でという但し書きはついてしまうが。
「……エバンス男爵とは実は知り合いなんだ」
「まぁ、同じ学級でした?」
ジュリエットはほれみたことかと兄を見つめる。
「……いや、同じクラブに所属していたんだ」
「お兄様のクラブ、といえば……ボードゲーム部ですか」
以前話したことをきちんと覚えていてくれていることがうれしくて顔がほころんでしまう。
「ぁあ、地味なクラブだったし表立って部員を集めていたわけではないからごく小さいクラブだったよ。
同じ歳のクラブ生はエバンス男爵……ブラッドとあと三人だけだった」
ブラッドはいいやつだし、性格もいいし妹を任せるに値する男ではあるが、それ以外の……ブラッドのかかえる《問題》が重要だ。
「あいつは……学院でも有名人だったよ。毎日毎日飽きもせずあいつの周りでは事件が起こる。学院の頃は殺人事件なんていう重たいもんじゃなかったけどね。殺人未遂ぐらいかな」
「髪も目も黒いもんだから死神なんて言われてたけど、本人はめちゃくちゃ良いやつだった」
「とはいえ、あいつの場合は引き寄せ体質が良くない方向に働いてるから……」
「引き寄せ体質、ですか?」
初めて耳にする単語なのか、ジュリエットは言葉の意味を探るようにほんの少しだけ目を彷徨わせ、小首を傾げた。
「魅了体質というのは聞いたことがあるかい?」
「ええ。誰彼問わず魅了してしまい虜にしてしまう、という面倒な体質の事ですね」
「そう。魅了された人間は手段を選ばす魅了体質の人間を求め、周りと諍いを起こしたり最悪の場合は……」
「大体の子供は一歳ごろに洗礼を受けるだろう? その時に魅了体質であるか否か判明するわけだ。大体魅了は十歳前後から顕在化するながら一般的だから…魅了封じをしてもらえば大概は問題ない」
「引き寄せ体質と、魅力はなにか関係があるんですか?」
「当然ブラッドも魅力封じをされている。魅了体質だったらしいからね」
「しかし魅了の力というのは全てに均一というわけではない。能力に強弱がある。ブラッドの場合は魅了
封じをしてなお、一部の現象を魅了するんだ。魅了体質の残滓とも言えるんだが……」
「それが引き寄せ体質、と呼ばれているんですね」
王族の婚約者としてそれなりの授業をうけたが、そんな話は聞いたことがない。
あまり公にされていない話か、信用情報が少ない話なのかもしれない。それとも彼にしかあてはまらないことなのか。
「あぁ。で、だ。ブラッドの場合なにを引き寄せるのかと言うと《事件》なんだ」
「……そんなことがあり得ますか?」
「現にあり得てる」
現実にあるんだからそうなんだろう、と兄は言う。
「そうですが……」
にわかに信じがたい話だ。
犬や、猫を引き寄せるとかならともかく……【事件】を?
「ブラッドから直接聞いた話だからな。これ以上の情報はないだろう」
「ということな噂は本当なんですか?」
「あれは不憫としか言いようがない。結局就職も警察機構にするしかなかったみたいだ」
「警察ではいけないんですか?」
「いけなくはない。でも本人は警察になんかなりたいと思ってなかっただろうしね。もっと地味な……書記官とかそういうのなのなりたかったらしいから、不憫に思うんだよ」
「で、だジュリエット、お前は……死体は大丈夫か?」
「え?」
「……いや、ブラッドに会いに行くとそれだけで殺人事件に遭遇するかもしれないんだ。俺は仕事柄平気なんだが……」
お父様の結婚と、出産がかなりはやい時期であったことからまだお父様は五十歳にもなっていない。
そのことからウィリアムお兄様はお医者様をしているのだ。
お父様がご健勝の間は医者のお仕事をし、土日にはお父様のお仕事をゆるりとお手伝いして後々お兄様の後を継ぐためのノウハウを教えているようだ。
「私も大丈夫ですよ。……お父様が幼いころに色々慰問に連れて行ってくださったからか……言い方は悪いですが見慣れてはいます」
「ぁあ、そうか。そうだったな」
考えるように腕を組んだウィリアムはうーん、と声に出して悩む。
お父様に話を通してしまうと大事になる。
その前にジュリエッタにブラッドをそれとなく紹介してみてからでもいいだろう。
「遠目に見ただけ」と先程は言っていたことでもあるし、間近で見てみればその気持ちの真偽もとりやすい。
「それじゃぁ一度顔合わせを兼ねて一緒にボードゲームをするっていうのはどうかな」
お茶会でもするのかと思っていたジュリエットは予想外の言葉が出てきたこで少しばかり困惑する。
「はぁボードゲームですか。……私チェスぐらいしか知らないのですが、大丈夫でしょうか?」
仲良くなるのに相手の趣味に合わせるのは当たり前ではあるが、ジュリエットが一緒にボードゲームをして果たして彼が楽しいのかどうかはなはだ疑問だ。
「始める前にインスト……ゲームのルールを説明するから大丈夫」
兄も妹と一緒にゲーム出来るのが嬉しいのか、にこにこと快活に笑っている。
「人数が増えると出来るボードゲームが増えるからブラッドも喜ぶよ、きっと」
早々に話をまとめたウィリアムは、じゃぁ後は俺から話をつけておくからな! と胸を張る。
ジュリエットはくれぐれもよろしくお願いしますね、と軽い念押しに留める。おしゃべりしている間に少し冷めてしまった料理に申し訳なく思いつつ、好物ばかりで手が止まらない。
その日はお腹が痛くて薬を飲みました。
虚な目をした青年は、手慣れた手つきで二つ折り重なるようにして発見されたと言う男女のご遺体を調べる。
今日は無理心中か……
疲れた目を擦ろうとして手につけた白い手袋に気付きそれを堪える。
あたりにはテープが張り巡らされて、関係者以外は立ち入らないようになっている。
その中心で肩膝をついた青年の髪は黒い。
周りの警察関係者の髪はだいたい赤銅色もしくは金色に似た黄土色である。
真っ黒な瞳に思えるそれはよく見れば焦茶ではあるが、ぱっと見は真っ黒に見えるため青年のまとう黒い服に相まって全身が黒い。
"歩く殺人事件ホイホイ"という名誉ある不名誉な二つ名で呼ばれる青年は、今日もまた深々とため息をついた。
――――――――――――――――――――――――――
「あら、今日は私の好きなものばかりだわ」
嬉しそうに顔を綻ばせたのは妹のジュリエット。
ごく最近突然婚約解消の憂き目にあった妹ではあるがごく普通に元気である。
食卓に並んだ料理が全て妹の好物であることもその慰めの一環だ。
たおやかな外見とは裏腹な芯の強さは兄である自分を遥かに凌いでいるのではないかと思えるほどだ。
貴族らしく広いテーブルではあるが、妹と兄である自分は正面に位置した場所に座しているためさしたる距離はない。
白く汚れひとつない清潔な布の上には栄養を考えた料理が並んでいる。
ふんわりと湯気を上げるスープにスプーンを差し込んで、掬いあげるとそっと口に含む。
婚約解消に関しては完全に向こうの過失の上、兄としてあの男と妹が結婚することに関してはあまりいい感情を持っていなかったため、解消の報を聞いたときには、ほっと胸をなでおろしたのである。
妹は見目も麗しければ礼儀作法等の教育は完全に行き届いており、頭の回転も早い。
金色の髪は艶々と光を反射して輝いて背中に落ちている。
自分のこともお兄様と慕ってくれているし、めちゃくちゃ自慢の妹である。
しかしクソ王子との婚約か解消されたとなれば妹には山のような釣書が送られてくることだろう。
……果たしてその中の何割が妹の年齢に釣り合いの取れた相手だろうか。
年若く美しい妻が欲しいと言う中年、もしくは老人貴族は思ったよりもこの世の中に存在している。
婚約解消された、という話はすでに広く知られている。こちらに非は一切ないが、事実足元を見てくる輩も多いことだろう。
同年代で結婚していない人間はほとんどの場合事故ってるやつが多い。
妹は幸せになる権利がある。……こんなにも可愛いのだから、やにさがったおっさんや好色じじいに嫁がせる訳がない。
小汚いおっさんに妹をくれてやらなければいけないほど我が家は落ちぶれていない。
我が家は腐っても貴族頭なのだ。
妹を一生養うくらい朝飯前であるし、急ぐことはない。
「お兄様、エバンス男爵をご存知ですか?」
エバンス男爵といえば社交会に出れば噂を聞かない日はない有名人ではあるが、今まで妹のジュリエットからその名を聞いたことはなかった。
最愛の妹に微笑みかけながら、ウィリアムは頭のなかを整理していく。
目に入れても痛くない妹の質問に出てきた名前にウィリアムは緑青の瞳を丸くした。
同じ色の妹の瞳の中に薄い金色の髪をしたウィリアムが映っている。金髪といってもピンキリであり、ウィリアムの髪は蜂蜜色にはほど遠い。
目の色はほとんど同じ色だが、髪の色に関して言えばウィリアムは母親ゆずりだ。
「まぁ……噂にはことかかない御仁だな。えらく急な質問に思えるが……エバンス男爵がどうかしたのか?」
「実は先日殺人事件の現場を通りかかりまして………警察機構で働いている黒髪の方といえばエバンス男爵ではないかと思いまして……」
「殺人事件」
よもや妹がなんらかの事件に巻き込まれたのかとウィリアムは声を張る。
「いえ、ほんとに通りかかっただけなのですよ。心配はご無用です。なんなら立ち入り禁止のテープにすらふれていないので、ご安心ください」
うふふと、笑った妹は食事を終えたのか、音を立てずに静かにフォークを置いた。
「エバンス男爵とお兄様同じ歳なのではありませんか? もしやルーベルタ学院でお知り合いになっているのではないかと思ったのですが……」
「……いや、ルーベルタはかなり大きいからな」
「そうですよね、不躾な質問失礼しました。少し興味が湧きまして……一度お会いしてみたかったのですが……」
わかりやすくジュリエットは肩を落とした。
二人の母校であるルーベルタ学院といえば、かなりの大きさの学院でこの国のほとんどの人間の母校でもある。
大きすぎるゆえに、同じ歳とはいえ同じクラスにならないかぎりは縁は繋がらない。
「……ジュリエット、エバンス男爵の噂話は知っているんだな?」
「ええ、《外を歩けば殺人事件に遭遇する》らしいですね。それゆえ解決した時間は数知れず。その功績をたたえて男爵の位を賜ったとか……結婚を何度か考えて婚約者を作って見たものの頻繁に事件に巻き込まれすぎて婚約解消となってしまっている。とかでしょうか? まぁ、噂話程度ではありますが……」
「そうか。それでもエバンス男爵に会ってみたいか?」
ジュリエットは首を縦に動かす。
噂はあてにならないことは百も承知だ。しかし、エバンス男爵の噂はジュリエットのような男女関係のうわさ話ではない。
それが本当であれば彼の周りには殺人事件がうようよ沸いている。
彼自身にも興味はあるが、ジュリエットが惹かれたのは事件のほうでもある。
現実と虚構を同じように考えるのは愚物のすることだが、ジュリエットはかなりの推理ミステリー好きだ。一度ぐらいは密室殺人事件やトリックを用いた殺人事件に出会ってみたい。
まぁ大前提として自身が犯人と疑われない、容疑者にならない、という状況でという但し書きはついてしまうが。
「……エバンス男爵とは実は知り合いなんだ」
「まぁ、同じ学級でした?」
ジュリエットはほれみたことかと兄を見つめる。
「……いや、同じクラブに所属していたんだ」
「お兄様のクラブ、といえば……ボードゲーム部ですか」
以前話したことをきちんと覚えていてくれていることがうれしくて顔がほころんでしまう。
「ぁあ、地味なクラブだったし表立って部員を集めていたわけではないからごく小さいクラブだったよ。
同じ歳のクラブ生はエバンス男爵……ブラッドとあと三人だけだった」
ブラッドはいいやつだし、性格もいいし妹を任せるに値する男ではあるが、それ以外の……ブラッドのかかえる《問題》が重要だ。
「あいつは……学院でも有名人だったよ。毎日毎日飽きもせずあいつの周りでは事件が起こる。学院の頃は殺人事件なんていう重たいもんじゃなかったけどね。殺人未遂ぐらいかな」
「髪も目も黒いもんだから死神なんて言われてたけど、本人はめちゃくちゃ良いやつだった」
「とはいえ、あいつの場合は引き寄せ体質が良くない方向に働いてるから……」
「引き寄せ体質、ですか?」
初めて耳にする単語なのか、ジュリエットは言葉の意味を探るようにほんの少しだけ目を彷徨わせ、小首を傾げた。
「魅了体質というのは聞いたことがあるかい?」
「ええ。誰彼問わず魅了してしまい虜にしてしまう、という面倒な体質の事ですね」
「そう。魅了された人間は手段を選ばす魅了体質の人間を求め、周りと諍いを起こしたり最悪の場合は……」
「大体の子供は一歳ごろに洗礼を受けるだろう? その時に魅了体質であるか否か判明するわけだ。大体魅了は十歳前後から顕在化するながら一般的だから…魅了封じをしてもらえば大概は問題ない」
「引き寄せ体質と、魅力はなにか関係があるんですか?」
「当然ブラッドも魅力封じをされている。魅了体質だったらしいからね」
「しかし魅了の力というのは全てに均一というわけではない。能力に強弱がある。ブラッドの場合は魅了
封じをしてなお、一部の現象を魅了するんだ。魅了体質の残滓とも言えるんだが……」
「それが引き寄せ体質、と呼ばれているんですね」
王族の婚約者としてそれなりの授業をうけたが、そんな話は聞いたことがない。
あまり公にされていない話か、信用情報が少ない話なのかもしれない。それとも彼にしかあてはまらないことなのか。
「あぁ。で、だ。ブラッドの場合なにを引き寄せるのかと言うと《事件》なんだ」
「……そんなことがあり得ますか?」
「現にあり得てる」
現実にあるんだからそうなんだろう、と兄は言う。
「そうですが……」
にわかに信じがたい話だ。
犬や、猫を引き寄せるとかならともかく……【事件】を?
「ブラッドから直接聞いた話だからな。これ以上の情報はないだろう」
「ということな噂は本当なんですか?」
「あれは不憫としか言いようがない。結局就職も警察機構にするしかなかったみたいだ」
「警察ではいけないんですか?」
「いけなくはない。でも本人は警察になんかなりたいと思ってなかっただろうしね。もっと地味な……書記官とかそういうのなのなりたかったらしいから、不憫に思うんだよ」
「で、だジュリエット、お前は……死体は大丈夫か?」
「え?」
「……いや、ブラッドに会いに行くとそれだけで殺人事件に遭遇するかもしれないんだ。俺は仕事柄平気なんだが……」
お父様の結婚と、出産がかなりはやい時期であったことからまだお父様は五十歳にもなっていない。
そのことからウィリアムお兄様はお医者様をしているのだ。
お父様がご健勝の間は医者のお仕事をし、土日にはお父様のお仕事をゆるりとお手伝いして後々お兄様の後を継ぐためのノウハウを教えているようだ。
「私も大丈夫ですよ。……お父様が幼いころに色々慰問に連れて行ってくださったからか……言い方は悪いですが見慣れてはいます」
「ぁあ、そうか。そうだったな」
考えるように腕を組んだウィリアムはうーん、と声に出して悩む。
お父様に話を通してしまうと大事になる。
その前にジュリエッタにブラッドをそれとなく紹介してみてからでもいいだろう。
「遠目に見ただけ」と先程は言っていたことでもあるし、間近で見てみればその気持ちの真偽もとりやすい。
「それじゃぁ一度顔合わせを兼ねて一緒にボードゲームをするっていうのはどうかな」
お茶会でもするのかと思っていたジュリエットは予想外の言葉が出てきたこで少しばかり困惑する。
「はぁボードゲームですか。……私チェスぐらいしか知らないのですが、大丈夫でしょうか?」
仲良くなるのに相手の趣味に合わせるのは当たり前ではあるが、ジュリエットが一緒にボードゲームをして果たして彼が楽しいのかどうかはなはだ疑問だ。
「始める前にインスト……ゲームのルールを説明するから大丈夫」
兄も妹と一緒にゲーム出来るのが嬉しいのか、にこにこと快活に笑っている。
「人数が増えると出来るボードゲームが増えるからブラッドも喜ぶよ、きっと」
早々に話をまとめたウィリアムは、じゃぁ後は俺から話をつけておくからな! と胸を張る。
ジュリエットはくれぐれもよろしくお願いしますね、と軽い念押しに留める。おしゃべりしている間に少し冷めてしまった料理に申し訳なく思いつつ、好物ばかりで手が止まらない。
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