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オールクリア
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年月はまたたく間に流れていき、私は40近くの齢を重ねていた。あと何年かすれば50にも手が届く。
魔族は外見に歳が反映されないのか、私の外見は未だ20代中ごろといった若若しさを保っていた。
近頃では弟よりもはるかに若く見えてしまうので、困つた挙句に前髪をうんと長く伸ばして顔が見えないようにしているぐらいだ。
今のところは若く見える、羨ましいぐらいに若々しいと好意的に見てくれているがそれがいつ「おかしい」「人間ではないのではないか」と言われ始めるのかと戦々恐々としていた。
しかし弟が結婚して子を成したところで、私の心の重荷はどこか軽くなった。弟がこの先父母、この家門をひきいてくれるとおもえば、もう私がこの家にいる意味はない。
いや、元よりなぜこの家にいたのかもわからぬ存在だったのだ、私は。
私は最期の別れと、少しくたびれた勇者と会う約束をすると、馬に乗って近くの湖まで足を伸ばした。
私と勇者は友人ではない。
友人に限りなく近いが、知人どまりだった。
しかし私が挨拶すべきは勇者マックスだ。
「私はここを去ることにする」
「そうか、残念だ」
「理由を聞かないんだな」
「おれは勇者だからな。……勇者には魔王がわかるんだ」
「そうなのか、知らなかったな」
まだ魔王になったつもりはないが、そうなのか。
青い血など見せずとも知られてしまっていたのか。
いつから知っていたんだろうか、私が私を魔王だと認識するのとどちらが早かったのだろう。
「私はお前のことが好きだったのだよ。いや、愛といえべきかな」
最期と思えば告げるのにも躊躇がない。
今後私とマックスが会話することはないだろう。
「そうだな」
「それも、お見通しか」
驚かせてやろうという気持ちはなかったが、驚くかもしれないなといういたずら心ははんのすこしはあったのだが……
予想の範囲内だったのか、マックスはまったくうろたえることなくじ、とこちらを見つめ返してきた。
「私もだ、私もお前を好いていた。人として、いや、魔王だったか」
「そうか」
返された言葉が嬉しくて私は柄にもなく、言葉を喉に詰まらせて、同じ言葉を二度言う。
「……そうか」
私は父にも母にも、ましてや弟にも、何も告げずに家を出た。薄情だといえばそうだが、彼らになんらかの気持ちを残すことで今後の生活の邪魔になりたくないという思いからだ。
私は勇者が生きている間ぐらいは、魔王にはならずにのらくらとしていることにした。
マックスのこめてくれた勇者の力に翳りが見えてきたころ、魔族がまた枕元に立つようになった。
今はもう家族もなければ、使用人もいない。
つまりは、枕もとに立つだけの小物魔族などどうでも良い。
後生大事に使っていた水晶玉の力が一気に抜けた。
それがなにを意味するのか、私の想像はおそらく合っているだろう。
透き通った美しい鉱石には、昔と何ら姿の変わらない自分の姿が映っている。
魔族は懲りもせず毎夜枕もとに侍っては「次の魔王様はあなたです」と言う。
「そうだな」
私の愛した勇者もそう言っていた。
魔族は外見に歳が反映されないのか、私の外見は未だ20代中ごろといった若若しさを保っていた。
近頃では弟よりもはるかに若く見えてしまうので、困つた挙句に前髪をうんと長く伸ばして顔が見えないようにしているぐらいだ。
今のところは若く見える、羨ましいぐらいに若々しいと好意的に見てくれているがそれがいつ「おかしい」「人間ではないのではないか」と言われ始めるのかと戦々恐々としていた。
しかし弟が結婚して子を成したところで、私の心の重荷はどこか軽くなった。弟がこの先父母、この家門をひきいてくれるとおもえば、もう私がこの家にいる意味はない。
いや、元よりなぜこの家にいたのかもわからぬ存在だったのだ、私は。
私は最期の別れと、少しくたびれた勇者と会う約束をすると、馬に乗って近くの湖まで足を伸ばした。
私と勇者は友人ではない。
友人に限りなく近いが、知人どまりだった。
しかし私が挨拶すべきは勇者マックスだ。
「私はここを去ることにする」
「そうか、残念だ」
「理由を聞かないんだな」
「おれは勇者だからな。……勇者には魔王がわかるんだ」
「そうなのか、知らなかったな」
まだ魔王になったつもりはないが、そうなのか。
青い血など見せずとも知られてしまっていたのか。
いつから知っていたんだろうか、私が私を魔王だと認識するのとどちらが早かったのだろう。
「私はお前のことが好きだったのだよ。いや、愛といえべきかな」
最期と思えば告げるのにも躊躇がない。
今後私とマックスが会話することはないだろう。
「そうだな」
「それも、お見通しか」
驚かせてやろうという気持ちはなかったが、驚くかもしれないなといういたずら心ははんのすこしはあったのだが……
予想の範囲内だったのか、マックスはまったくうろたえることなくじ、とこちらを見つめ返してきた。
「私もだ、私もお前を好いていた。人として、いや、魔王だったか」
「そうか」
返された言葉が嬉しくて私は柄にもなく、言葉を喉に詰まらせて、同じ言葉を二度言う。
「……そうか」
私は父にも母にも、ましてや弟にも、何も告げずに家を出た。薄情だといえばそうだが、彼らになんらかの気持ちを残すことで今後の生活の邪魔になりたくないという思いからだ。
私は勇者が生きている間ぐらいは、魔王にはならずにのらくらとしていることにした。
マックスのこめてくれた勇者の力に翳りが見えてきたころ、魔族がまた枕元に立つようになった。
今はもう家族もなければ、使用人もいない。
つまりは、枕もとに立つだけの小物魔族などどうでも良い。
後生大事に使っていた水晶玉の力が一気に抜けた。
それがなにを意味するのか、私の想像はおそらく合っているだろう。
透き通った美しい鉱石には、昔と何ら姿の変わらない自分の姿が映っている。
魔族は懲りもせず毎夜枕もとに侍っては「次の魔王様はあなたです」と言う。
「そうだな」
私の愛した勇者もそう言っていた。
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