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「三年間私はこの体で過ごしてきた」

じ、と茜は考えこむ。

「そっちでは……まだ数日しか経ってないって? どういう……? でも夢見は……? ……わからないことだらけだなぁ。調べることが増えちゃった……」

遥の存在を忘れたように軽く俯き、小さな声でぶつくさ言いながら、茜はふと思いついたように遥に聞く。

「じゃぁもしかして、遥からしたら私と夢で会ったほのって……昨日?」

「え、ぁあ……昨日急に夢に出てきたところじゃねーかよ」

「そうか、なるほど? だからか。夢で繋がったはずなのに、なんで半年も音沙汰ないんだろうって心配してたんだ」

茜は遥にもう一度言う。

「なるべく早くお願い。そっちの一日はこっちでの……半年らしいからさ……」

茜は元気そうにしているように見えていたけれど、やっぱり早く戻りたいんだ。それは当たり前だろう、茜からすれば気づいたら別人の身体でまったく知らない土地と人と環境全てがストレスに感じたはずだ。
悪い扱いはされてなさそうなのが幸いではあるが、寂しいに決まっている。

茜は懐かしい懐かしいと机の上に置かれたパンを見ている。そのプラスチックの袋すら懐かしいと、くまのキャラクターを見ている。これは今日彼方が買ってきて机の上に置いたままになっていたのを俺が覚えていたから出てきたんだろう。



目が覚めてすぐ、目が開くか開かないかの状態のまま遥は夢で起きたことを全てノートに書きだした。
そうしないとすぐに忘れてしまうからだ。

昨日は綺麗さっぱり忘れてしまっていたが今日はちゃんと覚えている。

一日経ったら……半年本物の茜を待たせてしまっているということになる。

学校に着いてすぐ俺は、自分の机に突っ伏した。
休めばいいとは思ったが、休んでしまってはニセモノの茜の動向がわかりにくくなってしまう。

ニセモノの茜は振る舞いを覚えたらしく、数日前よりは気楽な様子で茜のフリが板について来ている。
違和感を訴えていた友達も、茜がイメチェンしようとして失敗しただけだったのか、というような雰囲気になっている。

そいつニセモノだぜ、なんていっても誰も信じないに決まっている。

身体を乗っ取っただけでなく、茜の人生も自分のものにしようとしているんだなと思うとぞっとする。

遥は、今日の夕方には茜の部屋のガサ入れを決行しようと考える。ニセモノを遠ざけるのは……彼方にどうにかしてもらおう。駅前で歌う気なんだろうし。
それに茜を連れていかせればいい。

「いつも喜んで行ってた」

とでも言えばニセモノの茜に真偽はわからないだろうし、《いつもの》茜を演じるために彼方と一緒についていくだろう。



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