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保健室のドアを開けて中に入ると、保険医に「顔色悪いね」と即座に言われて苦笑する。

「熱はないと思うんですけど……」
「はい、これ。一応測ってみて」

流れるように渡された白いデジタルの体温計を右の脇の下に入れる。

「ベッド借りてもいいですか?」

頭の中がいろんなことでごちゃごちゃしている。
眠ればまた茜に会えるはずだ。
すでにやることは決定しているし、話をしなければならないことなど何もない。
それでも茜に会いたいと思うのは、茜が遥に会うと喜ぶからだ。
3年間見知らぬ場所で元に戻ろうとあがいていたというのだから茜の精神力の強さには驚くべきものがある。ふつうはもう無理かとあきらめてしまいそうなところを粘り強く調べ続けていたんだろうな。

保険医の了承を得た遥は白いベッドの上に上り、掛け布団と敷布団の間に滑り込んだ。
すぐさま遥は睡魔に陥落する。

「遥、また寝たの? 病気? 風邪ひいてんの? そういえばなんか顔色悪いかも」

茜は頻繁に遥が夢を見ていることを心配し始めている。

「いや、別に。どうでもいい授業だからちょっと居眠り」

「そうなの? 今なんの授業中?」

ごりごりの数学だが、遥は今は遅めの自己紹介の時間なんだとかなんとか言ってごまかした。

「自己紹介聞かなくていいの? 大事じゃん」

「別に、仲良くなれるやつとは自然に仲良くなるだろ。それに知ってるやつ多いし」

「ふーん。遥は誰とクラス一緒なの?」

「久我と……朝比奈とかリュージとか?」

「なんだ、あんま代り映えしないね」
茜も知っているその名前は遥が中学の頃に一緒につるんでいたやつらで、運よく同じクラスになったためまた中学と同じく行動を共にしている。

「いやそのほかは知らん奴らばっかりだけど」

「私は?」

「え?」

「私は誰と同じクラスになってるの?」

「あー……俺たちとは別のクラスで……富山とか……?」

「トミーか、いいね、楽しそう」

トミーというのは茜が塾で仲良くやっていた女友達で、中学の頃は別の学校に通っていたが高校からは晴れて同じ学校同じクラスになっている。
茜はうらやましそうに言う。茜のことのはずなのに、手が届かない場所で起きている事をみるような遠さだ。

「茜だったらすぐ友達いっぱいできんだろ」

ニセモノの茜はあまり友達作りがうまくない様子だが、本物の茜ならば早々にクラスの半分ぐらいと友人になっているところだ。
昔の道場仲間もちらほらみかけるし、すぐに打ち解けるだろう。

「今日、茜の部屋見に行く予定だから」

「うん……頼むね」

茜は多分に不安が混じった顔をしている。

「ぱっと行ってぱっと取って、すっと寝るから」

「あんまり昼寝過ぎたら寝れなくなるんじゃないの」

「秘策があるから大丈夫」

「ほんとかなぁ。いざとなったら道場にいって先生に落としてもらいなね」

「気絶じゃねーか? それでいいのか?」

「理論的には」

「……最後の手段ね。覚えとくわ」

「ん」
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