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第4章 マドン山脈へ
第57話 魔獣
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「おいおい、似たようなことが前にもあったな。エミーがそう言うと本当に起こるだろ……」
呆れつつ、いったん足を止めて周りの様子を伺う。特に何かの気配は感じられない。
「むー、予知能力が高いと言ってくださいっ!」
口を尖らせて彼女が抗議する。
「……で、何が起こりそうなんだ?」
「うーん……よくわかりませんけど、その……なんかさっきまでより獣っぽい匂いが濃いなって気がしたので……」
周りに集中するが、全くなんの匂いも感じられない。
「俺には全くわからないぞ?」
「うーん、町の外から……でしょうかねぇ」
アティアスは、ふぅ、と一息ついて緊張を解く。
「ここから町の外なんて、かなり離れてるぞ? どんな嗅覚してるんだ?」
「普通の嗅覚ですよっ!」
「絶対に普通じゃない。エミーは犬か? ……まぁ外なら衛兵が居るから町には入ってこれないだろ」
「……だと良いんですけど」
エミリスは不安そうな顔を見せる。
どおーーん‼︎
そのとき、遠くから花火のような爆発音が響いた。
「なんだ⁉︎」
戸惑うアティアスだが、すぐにその音の方に駆け出す。慌ててエミリスもそのあとを追う。
「アティアス様、待ってくださいよぅー」
明らかに走る速さは違うのだが、彼はエミリスにペースを合わせる。さりげない優しさに彼女は頬を綻ばせた。
爆発のあった場所は、町へ入る北にある門の所だった。
アティアス達が到着すると、門は破壊され、その周りには何人かの兵士と、ワイルドウルフの群れ――30頭くらいはいるだろうか――が向かい合っていた。
門の周りにも何人か兵士が倒れているが、全く動かない。
門を破壊したのは魔法のようにも見えるが、もしかすると爆薬か何かかもしれない。魔法ならば、別に魔導士がどこかにいるのだろうか。
「大丈夫か⁉︎」
周りに注意しつつ、兵士達に声をかける。明らかに狼狽している兵士だったが、アティアスを知っているようで、思わぬ援軍に少し気を取り直したようだ。
「ア、アティアス様! 何名かやられました。それと……ボスと思われる個体が……魔法を……!」
「なんだと⁉」
兵士の言葉に驚く。ワイルドウルフが魔法を使うとは考えられないが……。
「見間違えじゃないか⁉ ……とりあえず数を減らしていこう。エミーも頼む。……手加減はしなくていいぞ?」
「はい! アティアス様」
エミリスは剣を抜いて手に持つが、基本は魔法での攻撃だ。彼女は眼鏡を外して服にしまう。夜ということもあり、色のついた眼鏡では見にくいのだろう。
手加減をしないということは、周りに気を使ってわざわざ詠唱して魔法を使わなくても良いということを意味する。
久しぶりに見せる彼女の真剣な目が狼たちを見ている。
数が多いこともあり、まずは早く減らさないと危険だった。
「……荒れ狂う炎よ、爆炎となりて焼きつくせ。……爆ぜろ!」
アティアスがすかさず先制の魔法を、ワイルドウルフの群れの中心付近に向けて放つ。
――ドンッ! ――パキィン‼
「グギャーッ‼」
魔法が弾ける音と同時に、叫び声と金属音のような音が響き渡る。
「なんだとっ⁉」
アティアスが放った魔法は、彼が使える最も威力があるものだが、前方中央に居たワイルドウルフの数頭を吹き飛ばしただけに留まった。
驚くべきは、その魔法が防御されたことだった。
奥の方にいたワイルドウルフが魔法で壁を作り防御したのだろうか。にわかには信じられないが、今は事実のみを捉えなければ、足元を掬われる。
――ドンッ! ドンッ! ドンッ!
エミリスが後方から得意の魔法を放ち、左端の狼から一頭ずつ正確に頭を狙い、最小限の力で数を減らしていく。
この調子だと、すぐにワイルドウルフは半減するだろう。
それを見たアティアスは、剣を持ち反対の右端に突っ込む。
魔法で一網打尽にできないのであれば、まず数を減らさなければ後が苦しくなる。
兵士は経験も不足しているのか、動けずに戸惑っているだけだ。
――ザシュッ!
まず一頭の首を正確に切り落とす。少なくとも現状では今までのワイルドウルフとさほど変わる感じはしない。
すぐに次の獲物に切りかかろうとする。
しかし、ワイルドウルフ達は固まって並び始めた。
アティアスは下手に飛び込めば危険だと咄嗟に感じ、間合いを取る。
今までの狼たちの動きとは異なる様子に、トーレスの話していたことが頭によぎる。
賢くなった獣というのはこういうことか……。
確かに連携されると、剣で単身攻めるのは慎重にならざるを得ない。ただ、慎重になりすぎて、向こうから同時に飛びかかって来られるのも危険だった。
どうする……?
アティアスは一瞬躊躇する。
――ドゴン!
その瞬間、アティアスの前の狼の一頭がはじけ飛ぶ。
隊列が崩れたのを見た瞬間、そのチャンスを逃さずにすぐ横の一頭を切り捨てる。
ちらっと見ると、エミリスが援護をしてくれたようだ。しかもそれまで彼女が攻撃していた狼たちへと違い、少し威力を上げて魔法を放つことで、隊列を崩す意図もあったようだ。
結果、ワイルドウルフ達が隊列を整え直す前に三頭を倒すことできた。
エミリスは早くも10頭ほどを倒したようで、この短時間で約半数のワイルドウルフ達が地に倒れていた。
あと半分――
なんとかなりそうだな、と思った時だった。
――キィン!
またしても金属音が響き渡った。
エミリスの放つ魔法が弾かれたようだった。
残った狼たちは中央に固まっており、全体が魔法の壁で守られているようで、彼女は何回か魔法を放つが悉く弾かれ、狼に届かなくなってしまった。
「うーん、どうしましょうか……」
エミリスは表情を崩さないが、明らかに困惑したような声を出す。
魔法が効かないワイルドウルフなど見たことがない。
もし他の魔導士がいて手を貸しているとしても、少なくとも狼たちはそれを理解しているということだ。
飛び出すとエミリスの魔法に撃ち抜かれるのを分かっているのか、狼たちも迂闊には攻撃してこない。
「こうも並ばれると剣ではやりにくいな……」
彼女の横に立ったアティアスが呟く。ふたりの後ろには兵士たちもいる。
膠着状態に陥ったとみるべきか。
そのとき――
「あっ、アティアス様危ないっ!」
エミリスが突然叫んだことで、アティアスは咄嗟に彼女の方に後退しようとした。
その瞬間――
激しい閃光と音が響き渡り、視界が真っ白に染まる。
しかし、彼が感じたのはそれだけだった。
エミリスは雷撃の魔法が来るのを感じ取り、自分たちへ届く前に魔法で防御したのだ。
以前、ゼバーシュにて彼女はオスラムから雷撃の魔法を受けたこともあり、その魔法を危険視していた。
「すまん、助かった!」
「いえ、この魔法は一度見ていますから。……私が受けたのはもっと強力でしたけど」
オスラムの魔法は彼自身が強力な魔導士だったこともあり、今回のものよりも更に強かったと記憶していた。それに比べるとまだ御しやすい。
とはいえ、このままでは自分たちもこの場から離れられないことには変わりなく、相手も攻撃する手段がない。
持久戦になることも想定した。
彼女が小声でアティアスに耳打ちする。
「……私は今、ほかの魔法を使うことができません。防御が維持できなくなるので……」
つまり、彼女が雷撃を防御している間は、飛び出した狼を魔法で迎撃することができない。それに相手が気付くと危険だということか。
「その場合は俺が行く」
「……お願いします」
できれば自分で何とかしたいとエミリスは考えるが、今できることは何もなかった。
呆れつつ、いったん足を止めて周りの様子を伺う。特に何かの気配は感じられない。
「むー、予知能力が高いと言ってくださいっ!」
口を尖らせて彼女が抗議する。
「……で、何が起こりそうなんだ?」
「うーん……よくわかりませんけど、その……なんかさっきまでより獣っぽい匂いが濃いなって気がしたので……」
周りに集中するが、全くなんの匂いも感じられない。
「俺には全くわからないぞ?」
「うーん、町の外から……でしょうかねぇ」
アティアスは、ふぅ、と一息ついて緊張を解く。
「ここから町の外なんて、かなり離れてるぞ? どんな嗅覚してるんだ?」
「普通の嗅覚ですよっ!」
「絶対に普通じゃない。エミーは犬か? ……まぁ外なら衛兵が居るから町には入ってこれないだろ」
「……だと良いんですけど」
エミリスは不安そうな顔を見せる。
どおーーん‼︎
そのとき、遠くから花火のような爆発音が響いた。
「なんだ⁉︎」
戸惑うアティアスだが、すぐにその音の方に駆け出す。慌ててエミリスもそのあとを追う。
「アティアス様、待ってくださいよぅー」
明らかに走る速さは違うのだが、彼はエミリスにペースを合わせる。さりげない優しさに彼女は頬を綻ばせた。
爆発のあった場所は、町へ入る北にある門の所だった。
アティアス達が到着すると、門は破壊され、その周りには何人かの兵士と、ワイルドウルフの群れ――30頭くらいはいるだろうか――が向かい合っていた。
門の周りにも何人か兵士が倒れているが、全く動かない。
門を破壊したのは魔法のようにも見えるが、もしかすると爆薬か何かかもしれない。魔法ならば、別に魔導士がどこかにいるのだろうか。
「大丈夫か⁉︎」
周りに注意しつつ、兵士達に声をかける。明らかに狼狽している兵士だったが、アティアスを知っているようで、思わぬ援軍に少し気を取り直したようだ。
「ア、アティアス様! 何名かやられました。それと……ボスと思われる個体が……魔法を……!」
「なんだと⁉」
兵士の言葉に驚く。ワイルドウルフが魔法を使うとは考えられないが……。
「見間違えじゃないか⁉ ……とりあえず数を減らしていこう。エミーも頼む。……手加減はしなくていいぞ?」
「はい! アティアス様」
エミリスは剣を抜いて手に持つが、基本は魔法での攻撃だ。彼女は眼鏡を外して服にしまう。夜ということもあり、色のついた眼鏡では見にくいのだろう。
手加減をしないということは、周りに気を使ってわざわざ詠唱して魔法を使わなくても良いということを意味する。
久しぶりに見せる彼女の真剣な目が狼たちを見ている。
数が多いこともあり、まずは早く減らさないと危険だった。
「……荒れ狂う炎よ、爆炎となりて焼きつくせ。……爆ぜろ!」
アティアスがすかさず先制の魔法を、ワイルドウルフの群れの中心付近に向けて放つ。
――ドンッ! ――パキィン‼
「グギャーッ‼」
魔法が弾ける音と同時に、叫び声と金属音のような音が響き渡る。
「なんだとっ⁉」
アティアスが放った魔法は、彼が使える最も威力があるものだが、前方中央に居たワイルドウルフの数頭を吹き飛ばしただけに留まった。
驚くべきは、その魔法が防御されたことだった。
奥の方にいたワイルドウルフが魔法で壁を作り防御したのだろうか。にわかには信じられないが、今は事実のみを捉えなければ、足元を掬われる。
――ドンッ! ドンッ! ドンッ!
エミリスが後方から得意の魔法を放ち、左端の狼から一頭ずつ正確に頭を狙い、最小限の力で数を減らしていく。
この調子だと、すぐにワイルドウルフは半減するだろう。
それを見たアティアスは、剣を持ち反対の右端に突っ込む。
魔法で一網打尽にできないのであれば、まず数を減らさなければ後が苦しくなる。
兵士は経験も不足しているのか、動けずに戸惑っているだけだ。
――ザシュッ!
まず一頭の首を正確に切り落とす。少なくとも現状では今までのワイルドウルフとさほど変わる感じはしない。
すぐに次の獲物に切りかかろうとする。
しかし、ワイルドウルフ達は固まって並び始めた。
アティアスは下手に飛び込めば危険だと咄嗟に感じ、間合いを取る。
今までの狼たちの動きとは異なる様子に、トーレスの話していたことが頭によぎる。
賢くなった獣というのはこういうことか……。
確かに連携されると、剣で単身攻めるのは慎重にならざるを得ない。ただ、慎重になりすぎて、向こうから同時に飛びかかって来られるのも危険だった。
どうする……?
アティアスは一瞬躊躇する。
――ドゴン!
その瞬間、アティアスの前の狼の一頭がはじけ飛ぶ。
隊列が崩れたのを見た瞬間、そのチャンスを逃さずにすぐ横の一頭を切り捨てる。
ちらっと見ると、エミリスが援護をしてくれたようだ。しかもそれまで彼女が攻撃していた狼たちへと違い、少し威力を上げて魔法を放つことで、隊列を崩す意図もあったようだ。
結果、ワイルドウルフ達が隊列を整え直す前に三頭を倒すことできた。
エミリスは早くも10頭ほどを倒したようで、この短時間で約半数のワイルドウルフ達が地に倒れていた。
あと半分――
なんとかなりそうだな、と思った時だった。
――キィン!
またしても金属音が響き渡った。
エミリスの放つ魔法が弾かれたようだった。
残った狼たちは中央に固まっており、全体が魔法の壁で守られているようで、彼女は何回か魔法を放つが悉く弾かれ、狼に届かなくなってしまった。
「うーん、どうしましょうか……」
エミリスは表情を崩さないが、明らかに困惑したような声を出す。
魔法が効かないワイルドウルフなど見たことがない。
もし他の魔導士がいて手を貸しているとしても、少なくとも狼たちはそれを理解しているということだ。
飛び出すとエミリスの魔法に撃ち抜かれるのを分かっているのか、狼たちも迂闊には攻撃してこない。
「こうも並ばれると剣ではやりにくいな……」
彼女の横に立ったアティアスが呟く。ふたりの後ろには兵士たちもいる。
膠着状態に陥ったとみるべきか。
そのとき――
「あっ、アティアス様危ないっ!」
エミリスが突然叫んだことで、アティアスは咄嗟に彼女の方に後退しようとした。
その瞬間――
激しい閃光と音が響き渡り、視界が真っ白に染まる。
しかし、彼が感じたのはそれだけだった。
エミリスは雷撃の魔法が来るのを感じ取り、自分たちへ届く前に魔法で防御したのだ。
以前、ゼバーシュにて彼女はオスラムから雷撃の魔法を受けたこともあり、その魔法を危険視していた。
「すまん、助かった!」
「いえ、この魔法は一度見ていますから。……私が受けたのはもっと強力でしたけど」
オスラムの魔法は彼自身が強力な魔導士だったこともあり、今回のものよりも更に強かったと記憶していた。それに比べるとまだ御しやすい。
とはいえ、このままでは自分たちもこの場から離れられないことには変わりなく、相手も攻撃する手段がない。
持久戦になることも想定した。
彼女が小声でアティアスに耳打ちする。
「……私は今、ほかの魔法を使うことができません。防御が維持できなくなるので……」
つまり、彼女が雷撃を防御している間は、飛び出した狼を魔法で迎撃することができない。それに相手が気付くと危険だということか。
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