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第8章 王都への道のり
第108話 肯定
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「ただいまーです!」
会談を終え、2人は城から自宅に帰ってきた。
ゼバーシュに着いてそのまま城に直行したので、家に帰るのは久しぶりだ。
手入れを依頼していることもあり、家は出かける前と変わらず保っていた。
「疲れたろ、しばらくゆっくりしようか」
「はい! でもアティアス様に手料理を振る舞うためにも、買い物は行かないといけませんね」
「帰って早々にすまないな。外で食べても良いんだぞ?」
エミリスが疲れているのを心配しての言葉だが、彼女は不敵な笑みを浮かべて答えた。
「ふふ、アティアス様にお召し上がりいただくのが私の楽しみですから、ご心配なく」
言いながら彼の胸に頭をぐりぐりと擦り付ける。
撫でて欲しいアピールだった。
そんな彼女頭をわしゃわしゃと撫でると、更に笑顔を見せる。
これも彼女の楽しみのひとつだった。
「ほんとにエミーは可愛いな。……さ、早く片付けてしまおう」
「りょーかいですっ!」
やらないといけないことを早く片付けてしまって、後でもっと可愛がってもらおうと、彼女は張り切っていた。
◆
「秋は食材が豊富ですし、料理のしがいがあります」
「ああ、うまいよな。毎日ここでエミーの手料理食べてるとすぐ太ってしまいそうだ」
「ふふ、ならしっかり運動しないといけませんねぇ」
「そうだな」
夕食を摂りながら2人で雑談を交わす。
栗と一緒に炊いたご飯のほかに、秋に旬を迎える様々な野菜ときのこを煮込んだもの。デザートにも多くのフルーツが並んでいた。
「つい、いっぱい買いこんでしまったので、しばらくはこういう食事が続いちゃうかもしれません」
「いや、大丈夫だよ。エミーの料理なら毎日同じメニューでも飽きない」
「さすがに同じなのはちょっと……」
それは彼女のプライドが許さないようだ。
きっと同じような食材と使ったとしても、料理の幅は広いのだろう。
「明日も楽しみにしておくよ」
「はい、お任せを」
彼女は笑顔で頷いた。
「……で、なんでまた帰って早々にその恰好なんだ?」
アティアスの前に座って食事を摂るエミリスの姿をじっくり見ながら聞いた。
彼女は久しぶりにメイド服へと着替えていたのだ。
「え、この方が料理しやすいですし。……それに、アティアス様もお喜びになるかなって」
彼女は頬を少し染めて少し俯き、上目遣いでアティアスを見つめる。
わざとやっているんじゃないかと疑ってしまうが、それでもその仕草が似合いすぎていて、生唾を飲み込んでしまう。
「……なんというか……似合いすぎだろ。反則だ」
そんな彼の言葉に、してやったりな表情を浮かべてエミリスが言う。
「ふふふ、アティアス様の好みは大体把握しましたから。……私がなぜお酒我慢してるか、お分かりでしょう?」
「まぁそうだろうなとは思ってたけどな。久しぶりだからな」
それを聞いてエミリスは満面の笑顔で答えた。
「ふふ、私も今日を楽しみにしてましたから。……アティアス様が太らないように、運動にもなりますし、ね」
◆
翌朝……というより、もう昼近くになってから、アティアスはベッドから身体を起こした。
すぐ横ではエミリスが涎を垂らして、すやすやと寝息を立てている。
いつも朝はしっかり起きる彼女だが、これほど起きる気配がないというのは、よほど疲れていたのだろう。
起こさないように、そっとベッドから出ようと身体を動かしたとき――
不意に彼女が目を開け、彼の腕をがしっと掴んだ。
「お、起きてたのか⁉︎」
完全に寝ていると思っていたのだが、狸寝入りだったのだろうか。
「ふふふ、どーです? 騙されました?」
エミリスは手で涎を拭き取りながら、ドヤ顔を見せる。そして彼の腕をぐいと引っ張り、自分の横に彼を引き摺り込んだ。
「あ、ああ。……完全に寝てると思ってたよ」
「ふふーん」
そしてがばっと抱きついて、彼の胸に顔を近づける。
「むふー、私のものですー」
彼の匂いを確かめつつ、自分のものだとぐりぐりと顔を擦り付ける彼女は、やはり犬のようだった。
そんな彼女が可愛くて、その頭を撫でると嬉しそうに微笑んだ。
◆
ひとしきり堪能したあと、彼女はようやくベッドから起き出す。
もう昼食を作らないとならない時間だった。
「ちゃっちゃと作りますから、しばらくお待ちくださいね」
そう言いながら彼女は服を着る。
……今日もメイド服を。
絶対わざとだな……と確信しながら、アティアスは自分も着替えた。
その後、自らが作った昼食を頬張りながら、思い出したようにエミリスが口を開く。
「あ、思い出しました。……その、大変言いにくいことなのですけど……怒らないでくださいね」
申し訳なさそうにする姿を見ると、彼女がメイドの格好ということもあり、いけないことをしている気分にさせられる。
「まぁ、内容によるけど、余程のことがじゃない限り怒ったりはしないよ」
「余程のこと……」
彼女は少しどきどきしているような素振りを見せる。そして意を決して話し始めた。
「あの……アティアス様に買っていただいた剣ですけど……。よく見ると宝石が割れてしまってました……。たぶん、あの雷を受けた時だと思うんです……」
彼女が言っているのは、テンセズで買ったブルー鋼の剣のことだ。柄に赤い宝石が埋め込まれていたのを覚えていた。
それが割れてしまったという。
「……あれ割れるようなものだったんだな」
「みたいです……。ごめんなさい」
彼女は謝る。
500万ルドもする剣だ。剣としてはそれほど影響はなさそうだったが、価値には影響がありそうだ。
「俺がその剣買った時に言ったこと、覚えてるか?」
「……はい。命と天秤にかけるなよと」
その時のことを思い出しながら答えた。
「ならいいさ。あの時その剣を使わなければ、2人とも死んでたかもしれないだろ。エミーは正しい判断したってことだ。……むしろそれを褒めないとな」
彼の言葉が胸に染み渡る。
壊してしまったことは申し訳ないが、彼女も正しい判断だったと自分では思っていた。
それを彼にも肯定してもらえて、心の底から嬉しく思う。
「ありがとうございます。……アティアス様なら、きっとそう言っていただけると信じてました」
うっすら涙を溜めて、彼女は深く頭を下げた。
――ちょうどその時だった。
玄関をノックされる音が響いてきた。
「あ、私出ますねー」
さっさと気持ちを切り替えたエミリスが席を立つ。
パタパタと玄関に向かってしばらくしたあと……。
「アティアス! エミリスちゃんになんて格好させてるの!」
怒声が響いてきて、アティアスはがっくりと頭を落とした。
会談を終え、2人は城から自宅に帰ってきた。
ゼバーシュに着いてそのまま城に直行したので、家に帰るのは久しぶりだ。
手入れを依頼していることもあり、家は出かける前と変わらず保っていた。
「疲れたろ、しばらくゆっくりしようか」
「はい! でもアティアス様に手料理を振る舞うためにも、買い物は行かないといけませんね」
「帰って早々にすまないな。外で食べても良いんだぞ?」
エミリスが疲れているのを心配しての言葉だが、彼女は不敵な笑みを浮かべて答えた。
「ふふ、アティアス様にお召し上がりいただくのが私の楽しみですから、ご心配なく」
言いながら彼の胸に頭をぐりぐりと擦り付ける。
撫でて欲しいアピールだった。
そんな彼女頭をわしゃわしゃと撫でると、更に笑顔を見せる。
これも彼女の楽しみのひとつだった。
「ほんとにエミーは可愛いな。……さ、早く片付けてしまおう」
「りょーかいですっ!」
やらないといけないことを早く片付けてしまって、後でもっと可愛がってもらおうと、彼女は張り切っていた。
◆
「秋は食材が豊富ですし、料理のしがいがあります」
「ああ、うまいよな。毎日ここでエミーの手料理食べてるとすぐ太ってしまいそうだ」
「ふふ、ならしっかり運動しないといけませんねぇ」
「そうだな」
夕食を摂りながら2人で雑談を交わす。
栗と一緒に炊いたご飯のほかに、秋に旬を迎える様々な野菜ときのこを煮込んだもの。デザートにも多くのフルーツが並んでいた。
「つい、いっぱい買いこんでしまったので、しばらくはこういう食事が続いちゃうかもしれません」
「いや、大丈夫だよ。エミーの料理なら毎日同じメニューでも飽きない」
「さすがに同じなのはちょっと……」
それは彼女のプライドが許さないようだ。
きっと同じような食材と使ったとしても、料理の幅は広いのだろう。
「明日も楽しみにしておくよ」
「はい、お任せを」
彼女は笑顔で頷いた。
「……で、なんでまた帰って早々にその恰好なんだ?」
アティアスの前に座って食事を摂るエミリスの姿をじっくり見ながら聞いた。
彼女は久しぶりにメイド服へと着替えていたのだ。
「え、この方が料理しやすいですし。……それに、アティアス様もお喜びになるかなって」
彼女は頬を少し染めて少し俯き、上目遣いでアティアスを見つめる。
わざとやっているんじゃないかと疑ってしまうが、それでもその仕草が似合いすぎていて、生唾を飲み込んでしまう。
「……なんというか……似合いすぎだろ。反則だ」
そんな彼の言葉に、してやったりな表情を浮かべてエミリスが言う。
「ふふふ、アティアス様の好みは大体把握しましたから。……私がなぜお酒我慢してるか、お分かりでしょう?」
「まぁそうだろうなとは思ってたけどな。久しぶりだからな」
それを聞いてエミリスは満面の笑顔で答えた。
「ふふ、私も今日を楽しみにしてましたから。……アティアス様が太らないように、運動にもなりますし、ね」
◆
翌朝……というより、もう昼近くになってから、アティアスはベッドから身体を起こした。
すぐ横ではエミリスが涎を垂らして、すやすやと寝息を立てている。
いつも朝はしっかり起きる彼女だが、これほど起きる気配がないというのは、よほど疲れていたのだろう。
起こさないように、そっとベッドから出ようと身体を動かしたとき――
不意に彼女が目を開け、彼の腕をがしっと掴んだ。
「お、起きてたのか⁉︎」
完全に寝ていると思っていたのだが、狸寝入りだったのだろうか。
「ふふふ、どーです? 騙されました?」
エミリスは手で涎を拭き取りながら、ドヤ顔を見せる。そして彼の腕をぐいと引っ張り、自分の横に彼を引き摺り込んだ。
「あ、ああ。……完全に寝てると思ってたよ」
「ふふーん」
そしてがばっと抱きついて、彼の胸に顔を近づける。
「むふー、私のものですー」
彼の匂いを確かめつつ、自分のものだとぐりぐりと顔を擦り付ける彼女は、やはり犬のようだった。
そんな彼女が可愛くて、その頭を撫でると嬉しそうに微笑んだ。
◆
ひとしきり堪能したあと、彼女はようやくベッドから起き出す。
もう昼食を作らないとならない時間だった。
「ちゃっちゃと作りますから、しばらくお待ちくださいね」
そう言いながら彼女は服を着る。
……今日もメイド服を。
絶対わざとだな……と確信しながら、アティアスは自分も着替えた。
その後、自らが作った昼食を頬張りながら、思い出したようにエミリスが口を開く。
「あ、思い出しました。……その、大変言いにくいことなのですけど……怒らないでくださいね」
申し訳なさそうにする姿を見ると、彼女がメイドの格好ということもあり、いけないことをしている気分にさせられる。
「まぁ、内容によるけど、余程のことがじゃない限り怒ったりはしないよ」
「余程のこと……」
彼女は少しどきどきしているような素振りを見せる。そして意を決して話し始めた。
「あの……アティアス様に買っていただいた剣ですけど……。よく見ると宝石が割れてしまってました……。たぶん、あの雷を受けた時だと思うんです……」
彼女が言っているのは、テンセズで買ったブルー鋼の剣のことだ。柄に赤い宝石が埋め込まれていたのを覚えていた。
それが割れてしまったという。
「……あれ割れるようなものだったんだな」
「みたいです……。ごめんなさい」
彼女は謝る。
500万ルドもする剣だ。剣としてはそれほど影響はなさそうだったが、価値には影響がありそうだ。
「俺がその剣買った時に言ったこと、覚えてるか?」
「……はい。命と天秤にかけるなよと」
その時のことを思い出しながら答えた。
「ならいいさ。あの時その剣を使わなければ、2人とも死んでたかもしれないだろ。エミーは正しい判断したってことだ。……むしろそれを褒めないとな」
彼の言葉が胸に染み渡る。
壊してしまったことは申し訳ないが、彼女も正しい判断だったと自分では思っていた。
それを彼にも肯定してもらえて、心の底から嬉しく思う。
「ありがとうございます。……アティアス様なら、きっとそう言っていただけると信じてました」
うっすら涙を溜めて、彼女は深く頭を下げた。
――ちょうどその時だった。
玄関をノックされる音が響いてきた。
「あ、私出ますねー」
さっさと気持ちを切り替えたエミリスが席を立つ。
パタパタと玄関に向かってしばらくしたあと……。
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