身寄りのない少女を引き取ったら有能すぎて困る(困らない)

長根 志遥

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第9章 ドワーフの村

第124話 酒場

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「お前さんか? ドワーフの工房を紹介して欲しいってのは」

 マーガレットが連れてきた男がアティアスに聞く。ぶっきらぼうな感じが見た目と一致していた。

「ああ、そうだけど……」
「で、用はなんなんだ?」
「……この剣を修理できるところがないかと思って」

 アティアスはそう答えて、エミリスから剣を受け取ると、その男に見せた。
 最初は機嫌悪そうに受け取った男だったが、その剣を抜いて眺めているうちに、顔色が変わる。

「……おい。お前、これどこで手に入れたんだ?」

 その問いに素直にアティアスは答える。

「テンセズって町の武器屋で買ったんだが……」
「……テンセズ? 知らない町だな……」
「小さな町だからな。……ゼバーシュ領の端の方だ」
「ふむ、ゼバーシュか。行ったことはないが、かなり遠いな」

 男は剣をじっくり眺めたあと、アティアスに返した。

「……良い剣だ。確かにドワーフじゃないと直せないだろう。……紹介してやる」
「ありがとうございます」

 アティアスは深く頭を下げ、そのあと聞く。

「あなたもドワーフですか?」
「ああ、防具の職人をやってる。今は修理屋みたいなもんだ」

 やはりこの男もドワーフ族だったか。
 確かにギルドなら、壊れた装備の修理を依頼されることも多いだろう。
 特に、武器は折れたら新しいものに変えることが多いが、防具は修理しながら使うのが一般的だ。

「とは言っても、いきなりは無理だ。気難しい奴ばっかりだからな。わしから先に話をしておく。何日かしたらまたここに来てくれ。わしのことはボブと言えば伝わる」
「わかりました。よろしくお願いします」

 そこまで言って、ボブは事務室に戻っていった。
 話を聞いていたマーガレットが代わりに言う。

「良かったですね。ボブさん、すごく気難しいのでヒヤヒヤしましたよ……。それでは、また後日お越しくださいね。私がいたらすぐボブさん呼びますから」
「ああ、よろしく頼む」
「よろしくお願いします」

 2人はマーガレットに礼をしてギルドを後にし……ようとしたが、なんとなく酒場に寄ることにした。

 酒場はまだ午前中というのに、多くの冒険者がいた。
 休憩中の者、朝から酒を飲んで騒いでいる者、様々だ。

「賑やかですね。テンセズのギルドとは規模が違いますねぇ」

 エミリスが酒場を見回しながら感想を呟いた。
 テンセズでは昼間はせいぜい数組の冒険者がいれば良い方だったが、ここでは数えるのも大変なくらいのパーティがいた。

「そりゃな。人口が多いってことは、依頼する人も多いってことだから。ここだと護衛の仕事が多いんじゃないかな。王都から地方に行けば行くほど危険は多いからな」
「なるほど。でも地方はそんなに危険なんですか? 私、あんまり実感ないんですけど……?」

 ゼバーシュのような辺境で過ごしていたこともあって、それが普通だと思っていた。
 アティアスが説明する。

「大きな街の周りは獣もほとんど出ないからな。王都も一緒で、この近くは安全だ。でも、そこから離れるとそうじゃない。普通の旅行者や商人だとワイルドウルフ程度でも危険なんだ」
「確かに……」

 魔法が使えるようになるまでの自分なら、たぶんワイルドウルフ一匹現れただけで、あっという間に食い殺されただろう。
 そう考えると、特に訓練されていない一般人が、街の外に出るということがいかに危険なのかを実感する。
 わざわざそのためだけに訓練して旅に出るなんてことも、普通しないだろう。

「でもある程度戦える冒険者にとっては、護衛の仕事って楽なんだよな。仕事の間は食費も出してもらうのが普通だし、そもそも危険と遭遇しないことだってある」
「それ良いですね。一緒に散歩してるだけみたいな」

 エミリスが笑う。
 自分もアティアスの護衛として旅に同行してると思えば、似たようなものか。

「せっかく来たんだ。どんな依頼があるか見ていくか?」
「はい、そうですね」

 2人はギルドの掲示板に向かう。
 壁一面に貼り出された依頼票には、内容や報酬、期間などが記されている。
 テンセズではごちゃっとしていたが、ここでは内容の種類別に整理されて貼られていた。

「へー、半分くらいが護衛なんですね。でもちょっと報酬は少ないのが多いんですね?」

 彼女が目を通しながら彼に聞く。

「そうだな。でも数人のパーティならそれでも十分な報酬だろ?」
「確かに。……以前タダ働きしてた私とは大違いです」

 エミリスが苦笑いする。
 アティアスと出会うまでは、衣食住は保証されていたとはいえ、ほとんど奴隷同然の生活だったのだ。

「で、こっちは探偵とか探し物とかの依頼か。更に安いけど、ほとんど危険はないから、駆け出しの冒険者には向いてるかな」
「逃げ出した猫を探して……ってのもあるんですね」
「まぁそういうのは、それだけのために受ける仕事じゃなくて、何かのついでに見つけたら礼金がもらえるって程度のものだな」

 大量に貼られた依頼票を流し見する。
 それを見ながら、エミリスは思いつきで彼に提案する。

「どうせ暇なら、何か依頼受けたりします?」
「まぁ受けてもいいけど、どんなのが良いんだ? 時間がかかるのはダメだぞ?」
「洞窟に行くようなのはご遠慮しますけど。……あ、ドワーフの村から荷物を届けて欲しいって依頼がありますよ?」
「本当か? しかも結構高額な報酬だな」

 彼女が指し示す依頼票を見ると、確かに王都から離れた森にあるドワーフの集落に材料を届けて、代わりに武器などを持ってくる、と言う内容だった。
 しかも報酬は200万ルドとあり、一般人ならばこの報酬だけで半年くらいは生活できるほどの金額だった。
 ただ、貼り出された日付はもう半年も前のもので、受けた人がいないか、もしくは受けても達成できなかったということを示していた。

「ただ、日数がかかりそうだな。剣の修理が王都でできなかったら、ドワーフの村に行くことになるだろ? もしそうなったら、そのときついでにこの依頼も受けて良いかもな」
「なるほど。そうなればお金も貰えて一石二鳥ですね」

 いずれにしてもまだ王都に慣れていない今、仕事を受けるのはいったん保留とすることにした。

「まだここの地理もわかってないからな。俺もそれほど長居した訳じゃないし。しばらく街を回ってみよう」
「承知しました。……あの、以前アティアス様が仰っていたクレープの話、忘れてませんよ?」

 アティアスの提案に、ずっと前から楽しみにしていたスイーツをようやく食べられることに期待して、彼女は涎を飲み込んだ。
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