身寄りのない少女を引き取ったら有能すぎて困る(困らない)

長根 志遥

文字の大きさ
203 / 258
第13章 暗躍

第197話 大食い大会

しおりを挟む
「どんな調子だ?」

 ちょうどアティアスたちが町を巡回しているとき、ばったり会ったノードに話しかけた。

「今のところ異常はないよ。……俺は初めてだけど、すげーな。ここにこれだけ人が来るのか」
「そうだな。俺も去年初めて来たけど、驚いたよ」

 ノードが感嘆するのもわかる。
 テンセズよりは大きいとはいえ、ゼバーシュなどと比べると、人口の多い町ではない。
 町の広さ自体は、畑が多いからかなりあるのだが。

「アティアスの方は?」

 ノードと一緒にいたナターシャが返す。
 気になるのか、彼女の視線は同行しているエレナ女王に向いていた。

「はは。エミーがいるからな。爆弾が降ってきても大丈夫だよ。……なあ?」
「ええ、ご心配なく。ナターシャさんはお祭りを楽しんでもらえればと」
「ありがとう、そうするわ。前から収穫祭には来てみたいって思ってたから。……ところで、アティアスは女王陛下とは顔合わせたことがあったのよね?」

 ノードとナターシャにはエレナ女王のことは詳しく話していなかったが、もちろん王都での叙爵の際に、顔を合わせていることくらいは知っていた。

「ああ。去年王都に行ったときにな。……エレナ女王、こちらが私の姉のナターシャです」
「ナターシャでございます」

 アティアスがエレナ女王に向かって、ナターシャを紹介すると、ナターシャも挨拶をしながら深く頭を下げた。
 その様子を見ていたエレナ女王は、笑顔で応える。

「はじめまして、エレナよ。よろしくね」
「は、はい! よろしくお願いします」
「また今度ゆっくりお話ししましょうね。アティアスさんの子供の頃の話とか、聞かせてほしいわ」
「ええ。……とはいえ、アティアスはあまり城に居ませんでしたから、私から話できることはあまり……。ですが、夫のノードが詳しいので、代わりにこちらから……」

 そう言ってナターシャはノードに振った。

「それは楽しみね。それじゃ、また」
「ありがとうございます」

 ノード達と別れたアティアス達は、一通り町の様子を見て回ったあと、広場に戻ってきた。
 祭りのイベントは概ねこの広場で行われる。
 ちょうど今はクイズ大会が行われているようだった。

「……ん?」

 ふいにエミリスが何かに気づいたようで、首を傾げて小さな声を出した。

「どうした?」
「あ、いえ。トーレスさんの魔力を感じたので、戻ってこられてるんだなって」
「そうか。ありがとう」

 トーレスたちに引き続き調査を依頼していたのだが、それがひと段落したのか、それとも祭りのために一時的に戻ってきているのか。
 それはわからなかったが、昨日のダリアン侯爵の話からすると、マッキンゼ領の調査は無駄かもしれないと思っていたから、戻ってきているのであれば好都合だ。
 恐らくあとで状況の報告があるだろう。

「エレナ女王、このあとどうされますか?」

 アティアスが聞くと、エレナ女王は少し首を傾げて考えてから、答えた。

「そうねぇ……。とりあえず、この辺りで座って、葡萄でも食べながら見学しようかと思うわ。大食い大会はまだ後なんでしょう?」
「ええ、大食い大会は午後ですから。それでは……」

 アティアスが近くの兵士に指示すると、すぐに簡易的なテントと椅子が準備される。
 そこに座って、広場でのイベントを見学することにした。

 それを知った町の人たちから、葡萄そのものだけではなく、葡萄で作られた食べ物やワイン、ジュースなどが机いっぱいに届けられる。
 それを皆で食べながら、収穫祭の進行を眺めていた。

 ◆

「えっと、勝っちゃっても良いんですよね?」

 もう少しで大食い大会が始まるとのアナウンスがあり、エミリスは念のためアティアスに確認する。

「別に構わないぞ。優勝者は確かワイン赤白1箱ずつだったよな」
「ですね。楽しみですー」

 1箱に12本入りだから、全部で24本ということになる。
 もちろん、2位以下にもちゃんと景品は準備されていた。

「というか、今日もうだいぶ食べてるだろ? いけるのか?」

 エミリスは見学の間にかなりの葡萄を食べていたし、昼食も先程食べたばかりだ。
 それからあまり時間が経っていないのだから、普通ならすでに満腹のはずだ。

「ふふ、とーぜん大丈夫ですよ。ハンディです」

 しかしエミリスは余裕の笑みを浮かべた。

 ◆

 そして始まった大食い大会だったが、前評判通りに独走するエミリスが異常すぎて、一同は言葉を失った。

「……人間じゃないな」

 彼女のことを知ってか知らずか、ポツリと見学者のひとりが声を漏らす。
 今回の食材は葡萄を使ったケーキだったのだが、周りの参加者達が甘さでペースが落ちるなか、それをものともせずに食べ進めていた。
 しかも、それを美味しそうに。

「さー、やはりエミリス選手が怒涛の快進撃だー。早くも4ホール目に突入しています!」

 司会者もほぼ彼女につきっきりで、その勇姿を紹介していた。
 余裕なのか、ふいにエミリスは手を止めて笑顔を見せる。

「このケーキ美味しいですねぇ。町の大通りのレイトさんの店のですよね? 是非買って帰ってくださいねー」

 地元の店の紹介をするのも忘れない。
 その後も観客に手を振りながら、制限時間までペースが落ちることはなかった。

 ◆

「……すごいわねぇ」

 見学していたエレナ女王も流石に驚いたのか、景品のワイン2箱を軽々と持って戻ってきたエミリスに声をかけた。
 1箱だけでも相当な重さがあるものだが、魔力で軽くできる彼女にとっては些細なことだった。

「ふふ。私が負ける訳ないじゃないですか。ケーキもお腹いっぱい食べたし、満足ですー」

 自信満々に言いながらワイン箱を下ろすと、テーブルに置かれた葡萄に手が伸びる。
 それを口いっぱいに頬張りながら、笑顔で笑った。

 ◆◆◆

【第13章 あとがき】

「……相変わらず、エミーのお腹はどうなってるんだ?」

 アティアスは怪訝そうな顔で彼女のお腹を覗き込む。
 どう見ても、食べた量に対して、お腹の容積が合わない気がしたのだが。

「さぁ……。自分でもよく分からないですけど……。ま、ワインも入手しましたし、しばらく飲み放題ですね♪」
「とはいえ、普段は1日1本までだぞ。まだ何があるかわからないから」
「それは仕方ないですね……」

 アティアスが釘を刺すと、エミリスは残念そうな顔を見せる。
 ふたりで1本までなら、彼女が前後不覚になるほどではないことはわかっていた。
 まだ襲撃事件の全貌がわかっていない今、警備を疎かにするわけにもいかない。

「それはそうと、最近更新の頻度が低下してません? 作者のやる気がないんでしょうかね?」
「それは俺も思うけどな。ウィルセアはなにか聞いてるか?」

 アティアスが尋ねると、横で聞いていたウィルセアが言いにくそうに答えた。

「……別の作品の準備をしてるからって噂がありますわ。ちょうどカクヨムコンの時期ですし」
「ほほー。それはちょっと聞き捨てならないですね。こっちより新作を優先させるとか……」

 エミリスは腕を組んで眉を顰めた。
 それを見たアティアスは、苦笑いして言った。

「まぁ……ある程度は仕方ないところもあるだろ」
「むー。読者さんが待ってくれているのに、ダメダメな作者ですねぇ……」
「かといって、無理して倒れたりすると、そこでエターナルだぞ?」

 その話に、ウィルセアは困った顔をする。

「ええっ! それは困りますわね。そうなると私のハッピーエンドが見られないってことですよね?」
「……そもそもハッピーエンドが準備されてるかは分からんが」
「…………(がーん)!」
「まぁ……元気出せって」

 うなだれるウィルセアをなだめつつ、アティアスは続ける。

「さぁ、次章はまだ明らかになっていない謎が解ける章になる……んじゃないかな?」
「……曖昧ですねぇ」
「はは、まだ書かれてないから仕方ないって。毎日更新とはいかないかもしれないけど、作者には頑張ってもらわないとな」
「――ですわね。そして私にもハッピーなラストを!」

 早くも立ち直ったのか、ウィルセアがぐっと拳を握りしめる。

「だめですー。アティアス様はあげられませんからー」

 その前でエミリスが腕でバツを作って見せると、呆れた顔でアティアスが笑う。

「俺は物じゃないって。まぁ、そのへんはどうなるかわからないけど、続けて読み進めてもらうしかないな。それじゃ、また」
「ごきげんよう~」
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

インターネットで異世界無双!?

kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。  その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。  これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さくら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...