身寄りのない少女を引き取ったら有能すぎて困る(困らない)

長根 志遥

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第16章 終焉

第250話 ――ええぇっ?

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「さ、どこからでもかかってきな」

 改めて剣を構えなおしたナハトは、盗賊たちに向かって挑発するような口調で笑った。
 その言葉に腹を立てたのか、ディセンドは眉間に皺を寄せる。

「身包み剥ぐくらいで勘弁してやろうと思ってたが、馬鹿にしやがって! ――お前ら、切り刻んでやろうぜ」

「「おうっ!」」

 ディセンドの音頭に、仲間たちも声を合わせ、各々の武器を構えた。
 そして、ナハトを取り囲むように、じりじりと距離を詰める。

(さて……口調のわりに、案外冷静だな。どうすっかな……?)

 ナハトは集中しながら敵の隙を探る。
 一気に飛びかかってくれればやりやすかったのだが、こうして距離を詰められると人数の差が効いてくる。
 一瞬の判断ミスが命取りになりかねない。

 と――
 最初に、左端の男が動いた。
 みすぼらしい槍をナハトに向かって勢いよく突き出す。

「――おっと」

 ナハトは槍の軌跡から更に左側に回り込むように体を捻り、突き出された槍に剣を当てた。

 ――ガキン!

 その音が本格的な戦いの合図となった――

 ◆

「相変わらずナハトさん、良い腕してますねぇ……」

 一対多の戦い――普通ならばあっと言う間に勝負が決まりそうなのだが――を観戦しながら、のんびりとした口調でエミリスが頷く。
 その片方――ひとりで立ちまわっている剣士は、かつてエミリスも剣を教わった冒険者だということに、すぐに気づいていた。
 加勢に入ってもよかった。
 しかし、見ていてもその必要がないと思えるほどで、負けるようにはとても思えなかった。

「そうだな。ミリーも強いけど、ナハトはそれ以上だな」

「ですねぇ……。剣だととても敵う気がしませんし。……って、もう終わりそうですよ?」

 眺めているうちに、どんどん相手の数は減り、残りはひとりとなった。
 確か、ディセンドと呼ばれていた、リーダー各の男だ。

 顔には焦りからか、玉のような汗がにじんでいるが、それでも剣を巧みに操って、ナハトの剣を必死で躱している。
 そのこと自体が、それなりに腕の立つ証でもあった。
 とはいえ、こうも防戦一方では、もはや勝負がつくのも時間の問題だ。

「ちっ……!」

 ナハトの上段からの一太刀を何とか受け止めたディセンドは、舌打ちしながら後ろに飛んで距離を取る。
 追撃できる距離ではあったものの、ナハトは深追いせずにその場で構えなおした。

「……そろそろお縄になる覚悟はできたか?」

「ほざけ。俺には切り札があるって言っただろ?」

「ならさっさと使うんだな。じゃないと、このまま終わっちまうぜ?」

 挑発するような口ぶりでナハトが笑う。
 ここまで使わなかったことを考えると、そんな切り札など、ブラフはったりに過ぎないと予想していた。

「後悔するなよ……?」

 しかし、ディセンドはナハトを睨みつけながら、片手を懐に入れる。

 そして――
 その瞬間、視界が真っ白に弾けた――

 ◆

「――なんだっ!?」

 アティアスは突然のことに、顔を手で覆いながら目を背ける。
 ただ、それだけだった。

「このくらいなら大丈夫です」

 聞きなれた声に目を開けると、自分を守るようにエミリスが立っていた。
 しかしまだ目が眩んでいて、はっきりとは見えない。

「なにがあった……?」

「よくわかりませんけど、たぶん魔法石かと。大した魔法は入ってなかったみたいですが……」

 恐らく雷系の魔法だったのだろうか。
 一瞬の閃光とともに、ナハトがいたあたりは焼けたように黒い煙が燻っていた。

「ナハトは……?」

 戦っていたナハトの姿は見えない。
 アティアスの問いに、エミリスは視線で指し示しながら答えた。

「あっちです。……あの魔導士の人が壁を張ったみたいです。あの一瞬で……なかなかやりますね」

 見ればレシャーゼとか言ったか、若い魔導士と共に、苦笑いするナハトが立っていた。
 彼は剣を構えなおし、ディセンドに向き直る。

「ちょっとビビったぜ、さっきのはよ」

 ディセンドは防がれたことが予想外だったのか、舌打ちしながら苦々しい声を上げる。

「ちっ! 運がいいヤツめ。だが、タマはまだまだあるんだ。どこまで躱せるかな……?」

 懐に手を入れたまま、ナハトたちを睨みつける。
 しかし、それに答えたのはナハトではなく、レシャーゼだった。

「痛い目に遭いたくないなら~、やめたほうが良いと思うけどね~」

 相変わらずのんびりとした口調だ。
 しかし、その目はディセンドをまっすぐに捉えていて、いつでも動けるような体勢を取っている。

「今さら止められるか! ――死ねッ!」

 ディセンドがもう一度叫ぶ。
 同時に、レシャーゼも声を上げた。

「――鏡よっ!」

 それはエミリスも見たことがない魔法だった。

 レシャーゼの声に呼応して、輝く壁のような光――ガラス張りのような――がレシャーゼとナハトを包む。
 その魔法は、一般的に良く使われている、魔法を防ぐ壁のようでいて、しかしそれとは異質なものに思えた。

 それが展開されるとほぼ同時に、ディセンドがもう一度放った雷の魔法が、その壁に当たった。

 そして――
 「キィン!」という甲高い音と共に魔法は弾かれ、そして術者であるディセンドを貫いた――

「――ええぇっ?」

 様子を見ていたエミリスが、珍しく驚いたような声を発したことがアティアスの耳に残る。
 その視線の先では、意識を失ったディセンドがゆっくりと倒れていくのが見えた。
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