カスログ〜カスタマーログ〜

rio

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1話 ホテル業界田村優の場合

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2025年7月

カスタマーログ=カスログの導入が決まり、マイナンバーカードに新たな機能が加わった。

田村 優

2025年5月

「原田様、恐れ入りますが部屋の交換等はできかねます」

「なんで私が3階でしかも中部屋なんだ!空いているんだから上の階にするか隣の角部屋に移せよ」

50代半ばの男が、部屋の交換を申し出ていた。会社のカードで泊まるというのに横柄な態度である。

「恐れ入りますが、部屋の交換はできかねます。そのお部屋とお客様のお部屋では料金の方が違いまして」

何度も説明しているが聞き入れて貰えない。料金を加算するか?ときいても今日客が入らないのであれば一日くらい良いではないないか!と声を張り上げる。

50代半ば以降のクレーマーが1番面倒くさい。それでいてお客様であるから下手に出ないといけない。

「お客様、他のお客様のご迷惑にもなりますのでこれ以上のご案内はできかねます」

毅然とした態度で接するも「お前そんな態度でいいのか!?名前は田中だな!ネットに晒してやるからな!」
その後さらに大きな声を出し「別のものを出せ!」と怒鳴る。

その言葉を待ってましたかというように頭を下げる。

ほんとにこういう困った人はいるものだ。支配人を呼んで状況を説明する。困った顔をするものの、支配人はすぐに対応してくれた。

当ビジネスホテルの特色で、角部屋は少し大きく、海が見える為景色も良い。なので角部屋を好んで指定して泊まる人は多いのだ。階数が上がれば値段も上がるようになっており、角部屋も少しだけ値を付けている。

本日は平日で確かに空いているが、人がいないから通すというような対応はしておらず、マニュアルにも記載がない。

支配人は別室で原田様と話をしていた。しばらくすると、

いそいそと支配人だけ出てきて、「お部屋の移動の準備を」と言ってきた。

私はこういったこと(クレーム)は慣れている。支配人でないと許可が降りないので多少のモヤモヤはあれど値段据え置きで部屋の移動の手配と、パソコンで部屋を書き換えた。

その後、原田様が戻ってきて「田村くん」と言う。

「はい」と返事をしてみやると少しニヤつきながら肩を少し触ってきた。ぞわぁと鳥肌が立つのを我慢する。

「君も少しは勉強しないといけないよ」

そういってニヤついて彼は部屋を移動した。
「おそれいります」
私はニコッと笑うしかなかった。

2025年7月

ホテル業界としても大手になってた当ホテルは、早い段階でカスログを利用した。



というのも、政府の意向でカスログを浸透させるにあたりカスログを使ったサービスを展開させた企業には補助金のような物が出る仕組みになっていた。

カスログはまず、マイナンバーカードと連携させたお客様へ電子決済のポイントが付与される仕組みになっている。まずその手続きをする委託業者のスタッフがホテルに配属された。

客を5段階評価にするというものに、ほとんどの老人たちが意を唱えたが、サービス精神に格好つけて過剰サービスをさせる文化に嫌気がさしている若者たちの支持が集まり、2025年度の選挙投票率で若者たちが多く投票した。

選挙結果がどうあれ(それでもやはりお年寄りの投票率が勝り)、そのことがSNSやデモなどで大きく広まったことにより政府も無視できなくなった。

ホテルに着くとまず、マイナンバーカードを提示をお願いする。

「カスログはされてますか?」
導入後すぐなので、一言お伺いを立てる。

「はい、しております」

専用の機械に通すと星5という評価が出てきた。まだ始まったばかりで、普及率が高く無いため、星5のお客様がほとんどである。

「全てのサービスが受けれること確認できました。お部屋割とドリンクをサービスさせていただきますね。ドリンクはどちらがよろしいでしょうか?アルコール類でも可能です」

そういうと快くお客様はドリンクを選び、お部屋にお持ちする。

マイナンバーに連携してないお客様に対しては「マイナンバーカードと連携してカスログご利用いただきましたらこういったサービスが受けられます」と説明をした。

そうすると横にいたスタッフがQRコードを持ってきて連携する。稀に連携ができないお客様やマイナンバーカードを意地でも持たないお客様がいるが、その方には通常の料金とサービスを提供するまで。

そういったマニュアルがキチンと表記されたものが配られた。



ーそして原田様が久しぶりにやってきた。



常連というほどではないが、数ヶ月に一度泊まりにくるお客様で、揉めると時間を取り面倒だし逆に損害に繋がるからという理由で当日角部屋が空いていたら通すように支配人から言われていた。

なので通常料金で角部屋に通していた。

今日も角部屋が空いていたためお通しする手配をしており、原田様はニヤニヤとしながらマイナンバーカードを持ってきた。

「この間作ったんだからサービスしてよね」

カードを通す。すると、星2.5であった。初めて見た。マイナンバーカードと連携したら最初は皆星5が付与される仕組みだった。なのでその時入った店で0評価を受けたら平均の2.5になる。

「原田様、恐れ入りますがサービスの条件を満たしてないようです。お部屋割のサービス条件が星4以上となっております」

すると原田様は顔を真っ赤にして「そんなわけあるか!」と怒鳴った。

「この間は星が5だったんだ!まだ一回しか使ってないのに2.5ってそれは前のやつが0評価つけたってことになるぞ!」



恐らくそういうことかと思う。という言葉を唾と一緒に飲み込んだ。



「1回しか使ってないのであればそうですね」
そんなに飲み込んだ言葉と変わらない言葉が出てきた。

「機械がおかしいんじゃないのか!それかマイナンバーカードがおかしい」

しかたなく予備のカードリーダーに通す。

「別のカードリーダーでも2.5になっておりますので、カードリーダーはおかしくないですね」

毅然とした態度で話す。

「カードがおかしいのであるから、同等のサービスを受けられるはず」と、原田様の主張が始まる。

そもそもこういった方を排除するかのように作られたサービスなので、わがままを通さない。それでもわがままを通すようであれば警察や弁護士を通してもいい。というのが政府が企業に回したマニュアルだった。そこで出た損害はペナルティにもつながる。

「少しでもごねるようであれば」と、マイナンバーの登録案内をしているスタッフが声をかけた。



「お客様、周囲の迷惑にもなります。今回のお客様のような過剰サービスを無くすのが趣旨の法案になりますので、これ以上声を張り上げるようであれば警察等で対応させていただきますが」



警察も大変だなぁと思いながら、さらに顔を赤くするお客様



「今日は泊まるがもう泊まらないぞ!いいのかそれで!潰れるぞ!」

「お客様の判断なので」
1人や2人が来なくなったところでビジネスホテルなのでそこまで損害はない。ましてや客単価が低く、安い金額で角部屋に泊まり過剰サービスを要求するお客様は損失でしかないのだ。

支配人を呼べ!と声を出していたが、支配人を呼ぶ前に警察が到着し、こういった場合のマニュアルもできているのか、会社に連絡を取ると警察の方が言ったところで原田様は落ち着いた。

マイナンバーを通した際に企業控えがでてくる。政府に補助金申請のために必要なものになっていて、その控えにQRコードが出てくる。専用端末で読み取り原田様の評価を1とつけた。

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田村 優はふぅと息を吐く。

自分のマイナンバーカードを専用アプリに連携させる。

自分の評価は3.8

大分回復したなと胸を撫で下ろす。

カスログを使ってる店舗に行きわざわざ愛想よく振る舞った甲斐がある。



長年ホテルで働いてクレーマーを対応して気づいたのは、"わがままはある程度通るだった"

そんな世界でなくなったことが、息苦しくも感じるし、クレーマーを警察に突き出すことができることが快感でもある。

気づかないうちに態度を悪くしていた部分もあったとカスログをして気づいた。どの店舗でも星3以上あればある程度のサービスがつく。お店に行っても気が休まらないなと身体を伸ばした。



田村優様 評価3.8
星0...1
星4...1
星5...3

⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

「期限切れのクーポンを持ってきて期限が切れてる旨案内すると暴言を吐いてきます。今回はカスログ導入時すぐのため、サービス連携をしてクーポンと同等サービスを提供しましたが、2度と来なくて結構です」

⭐︎★★★★

「カスログのサービスで2.5評価だったためか、愛想もよくお礼も言っていただきました。いつもお金を投げて渡してくるため星4にしています。次回もご利用いただければと思います」
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