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15.五回目①
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「俺、彼女ができましたっ」
昼休み、いつものように大樹が男友達四人で弁当を食べていると、青木が右手でVサインを作りながら宣言した。
朝からやたらそわそわと、何か話したそうにしていると思ったらそういうことだったようだ。
昼食を食べながら、他の二人は悔しがったり羨ましがったり、青木を質問責めにし始めた。
相手は他校の生徒で、中学の頃の友達とカラオケ合コンに行ったのがきっかけらしい。
「てことで、今日からお前らとはあんまり遊べないんで。そこんとこよろしく」
「うわ。彼女できたとたんにコレかよ」
佐藤がぼやく。
「じゃあ、お祝いに後で学食で何か奢ってやる。臨時収入があったから何でもいいよ」
大樹は弁当のおかずを箸で摘まみながら、青木に笑う。
「やりぃ」
「彼女も羨ましいが、臨時収入も羨ましい」
臨時収入は、もちろんみどりから受け取った報酬だ。ほぼ毎週のように通っていたから、思いがけず財布が潤ってしまった。
そのうち服と、イケメン目当てで漫画を買いに行こうかと思っている。
最近は伊沢の顔をよく見るせいで目が肥えてしまい、大樹の眼鏡に叶うイケメンキャラがいるかが心配なところだ。
「彼女かぁ」
青木の話を聞いて、それが普通だと改めて思う。
彼女なら堂々とデートすることができる。結婚にしてもそうだ。男なら、普通は女を選ぶ。
大樹だって女と付き合えるのだから、何の問題もない。
ただ今は、行動を縛るような存在が面倒に思えるので、彼女は要らないと思っている。
もちろん男の恋人なんて非現実的なものも要らない。
今は友達と過ごす方が楽しい。モテるわけでもない大樹がそんなことを言えば、彼女ができない言い訳をしていると思われそうで言わないけれど。
「いいよなぁ、彼女」
佐藤の呟きの後、アナウンスを告げるメロディが教室のステレオから流れる。
心地よいテノールの声が聞こえた。伊沢の声だとすぐ反応する。
『本日は体育祭会議を行います。委員の方は放課後に会議室まで集合して下さい。繰り返します…』
「来月は体育祭だなー。俺何に出よう」
伊沢の声を遮るように青木が話し出す。
少し邪魔をされた気分になってしまったが、開会式で壇上に立つ伊沢のカッコいい姿を見れるのだと思うと、気持ちはそちらに流れた。
四人の話題は、七月始めに行われる体育祭へと切り替わる。
「だがお前ら、楽しいイベントの後は、テストが待ってるぜ」
途中で佐藤が水を差し、それに対してブーイングを交えながら、皆で楽しい昼休みを過ごしたのだった。
週末の土曜日、いつもの時間に伊沢の家を訪問した。
部屋に入るといつもと違って、少し甘い匂いが漂っていた。
「先週のお礼に、ケーキ焼いてみたの。食べてくれる?」
「えっ。すげー嬉しい。女子からの手作りケーキなんて初めてです」
「まぁ」
大樹が素直に喜ぶと、ふふっとみどりが笑う。
紅茶と一緒に食べたりんごの入ったケーキは、とても美味しかった。
伊沢と同じく、きっとみどりも何でもできる女性なのだと思えた。料理も得意そうだ。
しかし車椅子では、何かと大変だっただろう。
「あおが手伝ってくれたから大丈夫よ」
大樹の前に座り一緒にケーキを食べながら、みどりが伊沢を見た。
伊沢がお菓子作りをすることに驚いて、大樹ははす向かいに座る伊沢を見る。
「別に、ちょっと準備したり運んだりしただけだ」
「へぇ」
伊沢が一緒に作っていたと聞いて、思わず嬉しくなる。
ほとんどはみどりが作っただろうが、あの伊沢の作ったケーキを食べれるなんて、なかなか他にはいない。人に教えられるものなら自慢しているところだ。
みどりはとんでもない部分もあるけど、何だかんだでこの姉弟は仲が良いのだなと、大樹は改めて思った。
ケーキを食べながらいつものように雑談をし、ソファへと移動する。
本当に、これさえなければ、ごく普通の楽しい空間だ。
「今日は、イツキくんにお願いがあるの」
スケッチブックを膝に乗せながら、みどりが大樹を見つめた。
大樹は、ソファの前で服を脱ごうとしている伊沢の傍にいた。
「何ですか?」
「あおと、エッチしてくれないかしら」
「え……」
大樹は思わずみどりを凝視する。
次に伊沢を見ると、シャツのボタンを外しかけたまま、硬直していた。斜め前に立っているので顔は見えない。
「………。ね……えさん?」
伊沢が震えた声でみどりを呼ぶ。シャツを持つ手が震えている。
そんな伊沢を無視するように、みどりは大樹を見ながらもう一度言った。
「あおのこと、抱いてくれないかしら」
昼休み、いつものように大樹が男友達四人で弁当を食べていると、青木が右手でVサインを作りながら宣言した。
朝からやたらそわそわと、何か話したそうにしていると思ったらそういうことだったようだ。
昼食を食べながら、他の二人は悔しがったり羨ましがったり、青木を質問責めにし始めた。
相手は他校の生徒で、中学の頃の友達とカラオケ合コンに行ったのがきっかけらしい。
「てことで、今日からお前らとはあんまり遊べないんで。そこんとこよろしく」
「うわ。彼女できたとたんにコレかよ」
佐藤がぼやく。
「じゃあ、お祝いに後で学食で何か奢ってやる。臨時収入があったから何でもいいよ」
大樹は弁当のおかずを箸で摘まみながら、青木に笑う。
「やりぃ」
「彼女も羨ましいが、臨時収入も羨ましい」
臨時収入は、もちろんみどりから受け取った報酬だ。ほぼ毎週のように通っていたから、思いがけず財布が潤ってしまった。
そのうち服と、イケメン目当てで漫画を買いに行こうかと思っている。
最近は伊沢の顔をよく見るせいで目が肥えてしまい、大樹の眼鏡に叶うイケメンキャラがいるかが心配なところだ。
「彼女かぁ」
青木の話を聞いて、それが普通だと改めて思う。
彼女なら堂々とデートすることができる。結婚にしてもそうだ。男なら、普通は女を選ぶ。
大樹だって女と付き合えるのだから、何の問題もない。
ただ今は、行動を縛るような存在が面倒に思えるので、彼女は要らないと思っている。
もちろん男の恋人なんて非現実的なものも要らない。
今は友達と過ごす方が楽しい。モテるわけでもない大樹がそんなことを言えば、彼女ができない言い訳をしていると思われそうで言わないけれど。
「いいよなぁ、彼女」
佐藤の呟きの後、アナウンスを告げるメロディが教室のステレオから流れる。
心地よいテノールの声が聞こえた。伊沢の声だとすぐ反応する。
『本日は体育祭会議を行います。委員の方は放課後に会議室まで集合して下さい。繰り返します…』
「来月は体育祭だなー。俺何に出よう」
伊沢の声を遮るように青木が話し出す。
少し邪魔をされた気分になってしまったが、開会式で壇上に立つ伊沢のカッコいい姿を見れるのだと思うと、気持ちはそちらに流れた。
四人の話題は、七月始めに行われる体育祭へと切り替わる。
「だがお前ら、楽しいイベントの後は、テストが待ってるぜ」
途中で佐藤が水を差し、それに対してブーイングを交えながら、皆で楽しい昼休みを過ごしたのだった。
週末の土曜日、いつもの時間に伊沢の家を訪問した。
部屋に入るといつもと違って、少し甘い匂いが漂っていた。
「先週のお礼に、ケーキ焼いてみたの。食べてくれる?」
「えっ。すげー嬉しい。女子からの手作りケーキなんて初めてです」
「まぁ」
大樹が素直に喜ぶと、ふふっとみどりが笑う。
紅茶と一緒に食べたりんごの入ったケーキは、とても美味しかった。
伊沢と同じく、きっとみどりも何でもできる女性なのだと思えた。料理も得意そうだ。
しかし車椅子では、何かと大変だっただろう。
「あおが手伝ってくれたから大丈夫よ」
大樹の前に座り一緒にケーキを食べながら、みどりが伊沢を見た。
伊沢がお菓子作りをすることに驚いて、大樹ははす向かいに座る伊沢を見る。
「別に、ちょっと準備したり運んだりしただけだ」
「へぇ」
伊沢が一緒に作っていたと聞いて、思わず嬉しくなる。
ほとんどはみどりが作っただろうが、あの伊沢の作ったケーキを食べれるなんて、なかなか他にはいない。人に教えられるものなら自慢しているところだ。
みどりはとんでもない部分もあるけど、何だかんだでこの姉弟は仲が良いのだなと、大樹は改めて思った。
ケーキを食べながらいつものように雑談をし、ソファへと移動する。
本当に、これさえなければ、ごく普通の楽しい空間だ。
「今日は、イツキくんにお願いがあるの」
スケッチブックを膝に乗せながら、みどりが大樹を見つめた。
大樹は、ソファの前で服を脱ごうとしている伊沢の傍にいた。
「何ですか?」
「あおと、エッチしてくれないかしら」
「え……」
大樹は思わずみどりを凝視する。
次に伊沢を見ると、シャツのボタンを外しかけたまま、硬直していた。斜め前に立っているので顔は見えない。
「………。ね……えさん?」
伊沢が震えた声でみどりを呼ぶ。シャツを持つ手が震えている。
そんな伊沢を無視するように、みどりは大樹を見ながらもう一度言った。
「あおのこと、抱いてくれないかしら」
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