セマイセカイ

藤沢ひろみ

文字の大きさ
17 / 53

17.五回目③

しおりを挟む
「会長。いいから、こっち来て下さい」

 大樹の言葉にびくりと身を強張らせ、伊沢が恐る恐る近付いた。
 シャツのボタンを外しかけただけで、ほとんど服を着た状態だった。大樹が脱がせた方が早い。

 傍に来た伊沢の手を掴むと、広くなったソファに仰向けに押し倒した。
「……っ」

 大樹が伊沢のズボンのベルトを外し始めると、怯えきった目で伊沢が見上げる。力が入らないのか、ズボンは簡単に足から引き抜けた。

 下半身だけ剥き出しにし、シャツは着たままにさせた。
 先週フェラチオをした時に、全裸よりもいやらしいと感じたからだ。

 いつもの石鹸の匂いと白いシャツは、伊沢の清潔感を強調していた。
 これからそれを大樹が汚す。大樹はごくりと唾を飲み込んだ。

 大樹はソファに乗り、伊沢の両足を開かせた。力が入っていないせいで簡単に動かせてしまう。

 シャツの裾を少し腹の方に上げると、可哀想なくらいに萎縮した伊沢自身が覗く。フェラチオしたところで、まったく効果はないだろう。

 伊沢は両手を腹の上に乗せ、震えた手でシャツにきゅっと皺を作った。

 初めての時の比じゃないほどに怯えている。
 ようやく人に慣れ始めた犬が、また人に恐怖を感じ始めたかのようだ。

 親しくしていたわけではないが、伊沢の嫌がることをする立場とはいえ、何度か話をして少し距離が近付いているように思っていたのに。

 ソファを軋ませ伊沢の横に左手をつくと、大樹は上から伊沢を見下ろした。互いの目線が近くなる。

 効果はないかもしれないが、せめて気持ちよくしてやりたいと右手を伊沢自身に伸ばす。触れると伊沢は身を竦ませた。

「………こ、こわい…」

 唇を震わせながら、伊沢が小さく呟いた。
 今にも泣きそうな顔で、この状況を耐えようとしている。だが、恐怖は我慢できないようだ。

 いつも気丈に振る舞っていた伊沢が、初めて吐いた弱音だった。

 そっと伊沢の指先が大樹の服を掴む。まるで助けてくれと言わんばかりに。

 伊沢にしてみれば、大樹は自分の嫌がることをする相手だ。嫌われるまでの関係ではなくとも、疎まれてはいるはずだ。

 頼りたくないはずなのに、大樹に助けを乞うようなまなざしを向けてくる。
 伊沢にとって、大樹は自分を犯す男であり、同時に縋りつきたい男なのだ。

 良くも悪くも今の状況で、伊沢の世界には唯一、大樹しかいない。

 そのことに大樹の心は歓喜で震えた。

「会長……。他の男よりは、俺の方がマシですよね?」

 その言葉で、伊沢には分かるはずだ。
 今大樹を受け入れなければ、次に自分がどうなるかということが。
 伊沢は泣きそうな顔で大樹を見上げたまま、小さくこくこくと頷いた。

 大樹は囁くように伊沢に告げる。
「じゃあ、抵抗感があるだろうけど、気持ちいいと思ったら変に拒絶しようとしないでそれに乗っかって。早く終わりたければ、俺の言うこときいて下さい」

 気持ちいいなんてありえないと言いたげな顔だったが、伊沢は小さく頷いた。
 伊沢にも、大樹が無理強いしたくないことは伝わっているはずだと思いたい。

 伊沢が今頼れるのは大樹だけだ。そして、伊沢を守れるのも大樹だけだ。

 犯す者と犯される者という立場にも関わらず、二人の間には妙な連帯感が生まれていた。


 大樹は手に乳液を垂らすと、少し手の平で温めてから伊沢の奥へと手を這わせた。
「ひっ」
 伊沢が怯えた声を出す。

 いきなり後ろを弄るのもどうかと思ったが、今の伊沢には前戯は不要と思えた。
 むしろ、長引かせる方が可哀想とも言える。前立腺を弄れば、どうにかなるはずだ。

 大樹は中指を、まだ伊沢ですら触れたことがない伊沢の中につぷりと挿れた。乳液のおかげで、楽に挿れることができた。

「う、う……っ」
 体を強張らせ、異物感に耐えながら伊沢が呻く。

「会長。力抜いて」
 伊沢は首を振り、無理と唇を動かす。怯えの方が勝ってしまい、自分でもどうにもならないのだろう。

 大樹は、ノンケは元より、経験のない相手とはしたことがない。
 伊沢が傷つかずに済むかどうかは、大樹にかかっている。せめて、気持ちよくしてあげたいのに。

 ちらりと横目でみどりを見ると、みどりは手を動かすことなく冷めたまなざしで伊沢を見ていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

【完結】取り柄は顔が良い事だけです

pino
BL
昔から顔だけは良い夏川伊吹は、高級デートクラブでバイトをするフリーター。25歳で美しい顔だけを頼りに様々な女性と仕事でデートを繰り返して何とか生計を立てている伊吹はたまに同性からもデートを申し込まれていた。お小遣い欲しさにいつも年上だけを相手にしていたけど、たまには若い子と触れ合って、ターゲット層を広げようと20歳の大学生とデートをする事に。 そこで出会った男に気に入られ、高額なプレゼントをされていい気になる伊吹だったが、相手は年下だしまだ学生だしと罪悪感を抱く。 そんな中もう一人の20歳の大学生の男からもデートを申し込まれ、更に同業でただの同僚だと思っていた23歳の男からも言い寄られて? ノンケの伊吹と伊吹を落とそうと奮闘する三人の若者が巻き起こすラブコメディ! BLです。 性的表現有り。 伊吹視点のお話になります。 題名に※が付いてるお話は他の登場人物の視点になります。 表紙は伊吹です。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!

中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。 無表情・無駄のない所作・隙のない資料―― 完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。 けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。 イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。 毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、 凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。 「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」 戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。 けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、 どこか“計算”を感じ始めていて……? 狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ 業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!

処理中です...