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45.αfter <龍二>
「とにかく、浅沼が出勤する時に、俺も帰るから」
高城の後輩であるということが身に染み付いている龍二には、高城が最終決断を下したと思ったら基本的に反論が出来なくなる。龍二はそんな自分の性分にも、高城の言葉にも肩を落とした。その様子に高城からも呆れられる。
「それくらいで何なんだよ。男らしくないな」
「一分一秒でも会いたいと思うじゃないですか」
「俺はそこまでじゃなくてもいいけど」
オーバーな奴だなと言わんばかりの眼差しで、高城が龍二を見た。
蓄積された龍二の想いと、つい最近好きになってくれた高城を同等に考えてしまうこと自体が間違いかもしれないが、こういうところに二人の温度差を感じてしまうのだ。
自分は本当に愛されているのだろうか。高城はただ特別な後輩としての龍二を、傍に置いておきたいだけなのではないだろうか。そんな考えが時折浮かび、龍二は切なくなる。
「そもそも、先輩は俺が女といちゃいちゃしてて、嫉妬とかしないんですか?」
訊いても無駄だとは思ったが、つい本音が出てしまう。高城はきょとんとした顔で龍二を見た。
「嫉妬も何も、それが仕事なんだろ」
「仕事だろうと、恋人が女といちゃいちゃベタベタくっついたり迫られたりしてたら、普通は妬いたりしませんか?」
龍二の言葉に、うーんと声を出して高城が考え込む。しかしそれは十秒もかからなかった。
「全然。浅沼と俺の関係って、一般的なそういうのとは違うって感じがするし。相手が女じゃなく男でも、俺そういうのよく分からないかも」
高城以外の男を相手にいちゃつくなんて一切お断りだと、龍二は箸をぐっと握った。そんな龍二に気付かず、高城はへらっと笑う。
「まあ、浅沼は俺のだからな。どこで何をしてようと、心は俺にあるって分かってるから安心してるってことかな」
所有物扱いされたのは嬉しいが、どこか軽々しく思えるのは何故だろうか。高城を見ていると、それは恋人ではなく後輩なのではと、龍二は疑心暗鬼になりそうだ。
あんなに必死になって龍二を求めてくれたのが夢のようだ。ベタベタな甘さを求めているわけではないが、恋人になった途端に大学の頃のような態度に戻るなんて、それが高城らしいといえばそうなのだが正直残念な気持ちにはなった。
高城は焼きそばを口に放り込みながら、ついでのように付け加えた。
「ま、仕事終わったら、一分一秒でも早く俺ん家来たらいいだろ。早起きして待っててやるから」
「……」
「それで、昼飯食べに行こう。あと、久々に買い物」
高城は、飴と鞭の使い方が上手い。龍二を残念な気持ちにさせておいて、ちょっとした言葉で嬉しくさせる。高城にはいつもと変わらなくても、高城のことを好きでたまらない龍二には一喜一憂だ。
以前、龍二がホストをしていることについて高城に訊ねたら、問題ないとさらりと返されたことがある。しかも、給料がいいのだから勿体無いとまで言われてしまった。偏見どころか嫉妬すら、持ち合わせていなかった。
龍二はオーナーに声を掛けられて、今のホストという仕事を始めた。オーナーには特に若い頃、色々と面倒も見てもらった恩もある。
今さら普通のサラリーマンというのも、龍二には似合わないと思う。だが、これだけ生活リズムが合わないと好きな人との逢瀬の時間も限られてしまい、ホストの仕事を続けていくことについて考えさせられる。そんなことを高城に言えば、現状のままでも問題ないなどと言われることは予想できた。
龍二の住む部屋は、高城の部屋よりも広い。欲を言えば、高城が龍二の部屋に引っ越してきて同棲ができたらという願望がある。
だが、長年の片想いの末やっと付き合い始めてまだ一ヶ月で、それを言うにはがっつきすぎていると思われてしまいそうだった。ただでさえ今までの想いを埋めたくて、がっつきたくて仕方がないのを我慢しているくらいだ。
今まで高城は、婚約をしていた姉とすら同棲をしたことがない。もしかしてそういった生活スタイルまでを変えるということが好きではないのかもしれない。
言うにしても、一ヶ月目で焦って欲を出してしまうのもいけないと、龍二は自分の中の葛藤と闘っていた。
「俺、先輩の寝顔見たことないんですよね」
龍二はキャベツを箸で摘みながらぽつりと呟いた。
初めて抱き合った日は高城に背中を向けられていた。それ以降は、アルコールと仕事の疲れのせいで激しい行為の後はぐっすりと寝ている為、龍二が目覚めるとすでに高城はベッドの中にすらいない。せっかく泊まっていくことを勧めても、あっさりと断られてしまった。
「何だよ、いきなり。別に寝顔なんてどうでもいいだろ」
「よくないですよ。朝起きてベッドでおはようのキスとか、男のロマンじゃないですか」
「そんなの全然ロマンじゃねーよ。変な奴」
よほど可笑しかったのか、高城が吹き出した。
密かに憧れていたことを笑われたのは恥ずかしいが、高城が笑ってくれるならそれはそれで嬉しくもある。龍二は高城に関しては、色んな面でマゾっ気があるのかもしれない。
「浅沼とこうなってから分かることが、色々とあるもんだな。ただの先輩後輩のままだったら、こんな意外にロマンチストなことも知らなかったし」
「別にロマンチストというわけじゃないですよ」
「そういえば初めて寝た時も、起きた時キスしてきてたな。あと、写真展の時。もしかして浅沼って、寝込み襲いキス魔?」
にやにやとする高城に、龍二はギクリとした。
「写真展……て」
そういえば初めて高城を抱いた翌朝、寝たふりをしていた高城にキスをしたら妙なことを言っていた。その時は気持ちが舞い上がっていたので、龍二もその意味を深く考えていなかった。
まるで視界に入った龍二の顔を箸の先でつつくように、高城が宙で箸先を動かした。
「大学の写真展だよ。俺が卒業する前の最後の。俺が居眠りしてたら、浅沼キスしてきただろ」
「……!」
龍二は箸で掴んでいた焼きそばを皿の上に落とした。あまりに動揺しすぎて声が出なかった。
高城の後輩であるということが身に染み付いている龍二には、高城が最終決断を下したと思ったら基本的に反論が出来なくなる。龍二はそんな自分の性分にも、高城の言葉にも肩を落とした。その様子に高城からも呆れられる。
「それくらいで何なんだよ。男らしくないな」
「一分一秒でも会いたいと思うじゃないですか」
「俺はそこまでじゃなくてもいいけど」
オーバーな奴だなと言わんばかりの眼差しで、高城が龍二を見た。
蓄積された龍二の想いと、つい最近好きになってくれた高城を同等に考えてしまうこと自体が間違いかもしれないが、こういうところに二人の温度差を感じてしまうのだ。
自分は本当に愛されているのだろうか。高城はただ特別な後輩としての龍二を、傍に置いておきたいだけなのではないだろうか。そんな考えが時折浮かび、龍二は切なくなる。
「そもそも、先輩は俺が女といちゃいちゃしてて、嫉妬とかしないんですか?」
訊いても無駄だとは思ったが、つい本音が出てしまう。高城はきょとんとした顔で龍二を見た。
「嫉妬も何も、それが仕事なんだろ」
「仕事だろうと、恋人が女といちゃいちゃベタベタくっついたり迫られたりしてたら、普通は妬いたりしませんか?」
龍二の言葉に、うーんと声を出して高城が考え込む。しかしそれは十秒もかからなかった。
「全然。浅沼と俺の関係って、一般的なそういうのとは違うって感じがするし。相手が女じゃなく男でも、俺そういうのよく分からないかも」
高城以外の男を相手にいちゃつくなんて一切お断りだと、龍二は箸をぐっと握った。そんな龍二に気付かず、高城はへらっと笑う。
「まあ、浅沼は俺のだからな。どこで何をしてようと、心は俺にあるって分かってるから安心してるってことかな」
所有物扱いされたのは嬉しいが、どこか軽々しく思えるのは何故だろうか。高城を見ていると、それは恋人ではなく後輩なのではと、龍二は疑心暗鬼になりそうだ。
あんなに必死になって龍二を求めてくれたのが夢のようだ。ベタベタな甘さを求めているわけではないが、恋人になった途端に大学の頃のような態度に戻るなんて、それが高城らしいといえばそうなのだが正直残念な気持ちにはなった。
高城は焼きそばを口に放り込みながら、ついでのように付け加えた。
「ま、仕事終わったら、一分一秒でも早く俺ん家来たらいいだろ。早起きして待っててやるから」
「……」
「それで、昼飯食べに行こう。あと、久々に買い物」
高城は、飴と鞭の使い方が上手い。龍二を残念な気持ちにさせておいて、ちょっとした言葉で嬉しくさせる。高城にはいつもと変わらなくても、高城のことを好きでたまらない龍二には一喜一憂だ。
以前、龍二がホストをしていることについて高城に訊ねたら、問題ないとさらりと返されたことがある。しかも、給料がいいのだから勿体無いとまで言われてしまった。偏見どころか嫉妬すら、持ち合わせていなかった。
龍二はオーナーに声を掛けられて、今のホストという仕事を始めた。オーナーには特に若い頃、色々と面倒も見てもらった恩もある。
今さら普通のサラリーマンというのも、龍二には似合わないと思う。だが、これだけ生活リズムが合わないと好きな人との逢瀬の時間も限られてしまい、ホストの仕事を続けていくことについて考えさせられる。そんなことを高城に言えば、現状のままでも問題ないなどと言われることは予想できた。
龍二の住む部屋は、高城の部屋よりも広い。欲を言えば、高城が龍二の部屋に引っ越してきて同棲ができたらという願望がある。
だが、長年の片想いの末やっと付き合い始めてまだ一ヶ月で、それを言うにはがっつきすぎていると思われてしまいそうだった。ただでさえ今までの想いを埋めたくて、がっつきたくて仕方がないのを我慢しているくらいだ。
今まで高城は、婚約をしていた姉とすら同棲をしたことがない。もしかしてそういった生活スタイルまでを変えるということが好きではないのかもしれない。
言うにしても、一ヶ月目で焦って欲を出してしまうのもいけないと、龍二は自分の中の葛藤と闘っていた。
「俺、先輩の寝顔見たことないんですよね」
龍二はキャベツを箸で摘みながらぽつりと呟いた。
初めて抱き合った日は高城に背中を向けられていた。それ以降は、アルコールと仕事の疲れのせいで激しい行為の後はぐっすりと寝ている為、龍二が目覚めるとすでに高城はベッドの中にすらいない。せっかく泊まっていくことを勧めても、あっさりと断られてしまった。
「何だよ、いきなり。別に寝顔なんてどうでもいいだろ」
「よくないですよ。朝起きてベッドでおはようのキスとか、男のロマンじゃないですか」
「そんなの全然ロマンじゃねーよ。変な奴」
よほど可笑しかったのか、高城が吹き出した。
密かに憧れていたことを笑われたのは恥ずかしいが、高城が笑ってくれるならそれはそれで嬉しくもある。龍二は高城に関しては、色んな面でマゾっ気があるのかもしれない。
「浅沼とこうなってから分かることが、色々とあるもんだな。ただの先輩後輩のままだったら、こんな意外にロマンチストなことも知らなかったし」
「別にロマンチストというわけじゃないですよ」
「そういえば初めて寝た時も、起きた時キスしてきてたな。あと、写真展の時。もしかして浅沼って、寝込み襲いキス魔?」
にやにやとする高城に、龍二はギクリとした。
「写真展……て」
そういえば初めて高城を抱いた翌朝、寝たふりをしていた高城にキスをしたら妙なことを言っていた。その時は気持ちが舞い上がっていたので、龍二もその意味を深く考えていなかった。
まるで視界に入った龍二の顔を箸の先でつつくように、高城が宙で箸先を動かした。
「大学の写真展だよ。俺が卒業する前の最後の。俺が居眠りしてたら、浅沼キスしてきただろ」
「……!」
龍二は箸で掴んでいた焼きそばを皿の上に落とした。あまりに動揺しすぎて声が出なかった。
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