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Seed

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夏は好き。
何もかもがキラキラして見える。
暑いし、汗もかくけれど、それでも夏がいい。
海も太陽もセミの鳴き声も、みんな好き。
何より、向日葵が好き。あの大きくてキラキラしたひまわりの黄色を見ると笑顔になれるから。そんな女の子になれるようにと、「ひまわり」という名前を私につけてくれたお母さんにはとても感謝している。
一年中夏だったら良いのに、なんて思いながら、帰り道を1人でタラタラと歩いていた。
私の頭の中で、今日のアイスの味を決めるルーレットがスタートしようとしていた時だ。遠くから声が聞こえた気がした。
「…ひまわり!ひまわり!アンタまたボーッとして!大丈夫?!」
振り返って驚いた。全然遠くからなんかじゃなかった。真後ろに立っていたのは、中学からの友達で、今年の春高校に入学してからも仲良くしていただいている美琴だ。
「わぁ、みこと。どしたの?」
「どしたのじゃないよ。ひまわり、あんた歩きながら携帯いじってる人よりよっぽどふわふわ歩いてるよ…。もう、一緒に帰ろう?あ、この子初めて見たよね?同じ部活の、あんずだよ。」
言われて、美琴の隣を見て、今初めて気づいた。背の高い女の子が立ってる。
「はじめましてひまわりちゃん、牧田あんずです」
ニコッと、その子が笑った。
同時に、ふわぁ…っといい香りが漂った。
すごい…笑顔がキラキラしてる…。なんか…綺麗。
「ちょっ!と!ひまわり!まーーたボーッとして!挨拶くらいしなさい!」
美琴の声でまた我に帰る。
「あ、ごめんなさい。すごい綺麗な子だなって思ったらついボーッとしちゃった。天野ひまわりです。」
ぺこっと頭を下げて顔を上げる。
見ると、呆れ顔の美琴とちょっと照れくさそうにはにかむあんずが何も言わずにこっちを見ていた。
「…なに?」
「噂に聞くとおりだね、ひまわりちゃんて」
と、笑いながらあんずが言う。
「でしょ?ホントに、ポケーっとしてるくせに恥ずかしげもなくペロッと人のこと褒めたりするから勘違い野郎が増えること増えること。」
美琴が私の頭をくしゃくしゃっとなでる。
「そんな噂があるの?」
「うん、ひまわりちゃんうちのクラスでも有名だよ。7組に、可愛くて、笑顔がキラキラしてる子がいるって」
「へー…」
私よりも、この子の方がよっぽどキラキラしてるのになぁ。って言っていいかな、また美琴に怒られるかな。

「そういえば美琴、今日部活は?」
「今日はOFFなの。毎日きつくてきつくて、たまの休みくらいゴロゴロしたい、ね」
「そーだね。部活入ってから毎日バスケだからね」
「あ、そっか。あんずちゃんもバスケ部か」
「そうだよー、中学から!ひまわりちゃんもだよね?高校ではやらないの?」
「ホントに!あんたすごい上手かったのに。」
「んー…バスケは好きだけど。怪我するし、眠いし、疲れるし、ちょっと今はいいや。帰宅部ラクだよ。」
「またそんなこと言って…」

そんな話をしてる間に、私の家に着いた。
「あ、着いた。じゃあね~」
「ばいばーい」
二人の声が重なる。
誰もいない扉を開けて、シャワーを浴びる。
気持ちいい、ホントに夏って好き。
ソファーにごろんと横になる。
「あんずちゃん…か。」
誰に言うでもなく呟いた。
そんな自分に、驚いた。
これが始まりだとは、まだ気づいてなかった。
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