黒衣の女

月詠嗣苑

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懐かしい匂い

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 バタンッ···

 タクシーから降りた私は、家の門の前で唖然とする。

(たった1年。あっ、まだ1年立ってなかった?)

「汚くなったな···」

 チャイムを押しても、ウンともスンとも言わず、仕方なく持っていた鍵で中に入ったものの···

「くっさ。なにこれ···」

 魚の腐ったような匂いが、キッチンから漂ってくる。慌ててキッチンに向かった早紀は、小さく悲鳴をあげた。

「お義父さん···。いた、んだ」

 義父の淳一が、キッチンにいて掃除をしていた。

「お前か。早かったな」
「うん。隣の市だから···」

 ガサガサとゴミ袋に無造作に詰め込んでいく淳一。

「お母さん、は?」
「病院。ほら、駅前の···」

 母が、倒れたと連絡を受けたのは1週間前だった。けど、仕事が忙しくてなかなか帰らない私に、父はとうとう会社に電話して···

「もう電話してこないで。迷惑だから···」

(私が任されたある会議の司会。奪われた)

「すまんな。あいつが煩く言うから···」
「嘘。あの人がそんなこと言う筈ないし。部屋に居るから···」

 いたくなかった。キッチンにも、1階にも。荷物を持ちながら、2階の自分の部屋へと逃げるように駆け込む。


「あっ···。連絡しておかないと」

 慌てて携帯を取り出し、同僚の和倉さんへ電話をする。

「うん。さっき着いた。病院?今夜か明日にでも行くよ。それよりも···うん。わかった。ありがとう」

 電話を終え、暫くベッドの上に座る。

「変わってない、な。あの時のまんまだ」

 自分の部屋に入るのは、

「もう10ヶ月か。」

 カレンダーが、2016,3月のままだ。ここだけは、時間が止まったまま···

 壁に貼られた嵐のポスターも亡くなったパパの写真も置いてあった場所にそのままの形で置かれてある。

 カラカラッと窓を開けると、1月にしては珍しく暖かな空気が部屋に溢れてくる。

 コンコンッ···

「早紀···」

 ドアが叩かれ、義父が私を呼ぶ。

「入るぞ」

 此方が返答する前にドアを開け、部屋に入ってくる。

「なに?」
「早紀···金あるか?」
「お酒?」

 キッチンを見た時、かなりお酒の空瓶や缶が散乱していた。母もお酒を飲むが···

「お義父さん?仕事は?」
「なぁ、金···」

 聞かれたくはないらしいが、母と再婚してからは仕事に就いては辞めるの繰り返しで、喧嘩が耐えなかった。

「買い物行くから···」
「うん。着替えてくる」

 一体どんな生活をしていたのだろうか?聞きたくもなるが、聞いてもまともに答えてはくれないだろう。

 着替えを終えた淳一は、キチンと髭もあたりシワシワなシャツからトレーナー姿に変わっていた。

 父の運転する車で近くのスーパーへと買い物に行く。

「良かったよ。お前が来てくれて」
「······。」

 チラチラと自分を見ているのが、わかるが敢えて私は窓を見、応えない。

「お母さん、死ぬの?」

 重い沈黙のあと、義父は、小さく

「あぁ···」

 と言い車をスーパーの立体駐車場へと滑り込ませる。

「そう···」

 正直、幼い頃から親らしい事をされた覚えはない。学校の行事ですら、来たこともなく随分と先生に頭を下げた。

 店内に入り、ショッピングカートを押しながら、義父ひとりでも大丈夫なように次々とカップ麺や冷凍食品を詰め込んでいく。

 チラッと義父を見ると、心なしか笑っているように見えるのは気のせいだろうか?

「ねぇ、こんなもんで足りる?」

 自分が、汗水流して作ったお金をこの二人に使うのは嫌だったが、

「あぁ。あと···」

 何を言いたいのかもわかる。

「入れていいから···」

 イライラしつつも許してしまうのは、やはり高校を卒業するまで育ててもらった恩があるからだろう。そうでなかったら、きつと···

 考えたくもない事を頭で想像してしまう。

「早紀。まだか?」

 会計を済まし、フードコートで簡単に済まし、家に急いで帰る···

「良かった。留守電なんも入ってねー」

 母の事が気になるのか、始終淳一は、自分の携帯を開いたりしていた。

 買った物をしまい、時計を見ると既に夕方近くになっていて、急いで溜まった衣類を洗濯したり、風呂の掃除や部屋の掃除をし、終わったのは7時を過ぎていた。

「なぁ、飯は?」
「あ、作るから···。」

 独り暮らしをするようになってから、節約の為自炊するようになったが、やはり簡単な物になってしまう。

「これで足りる?」

 キッチンの片隅に積まれてるゴミ袋を見ても、マトモな食事をしていないのがわかる。

「充分だ!お前、料理出来るようになったんだな」
「うん。まぁ···」

 母の居ない食事もかなりあったから慣れているものでも、交わす言葉はなく、ふたりして無言で箸を進める。

「早紀···お前···」
「······から」
「あっ?なんだ?」

 少し温くなったお茶を飲み干し、

「ここに戻るつもりはないから。絶対に···」

 そう言い、汚れた食器を流しに漬け込む。

「そうか。そうだよな···」

 過去は過去として、割り切れればいいと人は言うが。割り切れて済む事でないのは、自分自身がよく知っている。

(あんな親、死ねばいい)

 何度そう思ったか測りきれない。

「風呂は?」
「もう入れるから···」
「そうか。すまんな。早紀、お前···」
「なに?」

 気怠そうに義父を見返すが、

「いやっ···。さ、風呂にでも入るか!」

 少しせり出た腹を軽く叩きながら、キッチンを後にした。

「片付けるか···」

 和倉さんからのメールは、無かったがまだ仕事で忙しいのであろう。あえて気にするのはよそう。

 流しにつけた食器を洗いながら、和倉さんとの事を考えた。付き合って半年になるが、まだ体の関係はない。まだ怖いのだ。

 ポンッ···

「ひゃっ!」

 驚いて振り向くと、淳一が後ろにいた。ニヤニヤとした笑みを浮かべて。

「なんだ?そんな驚いて。酒飲みたいんだが···」
「ん?うん···」

 慌てて冷蔵庫に入れた缶ビールやツマミをリビングのテーブルへと並べていく。

「はい。お風呂、入ってくるから···」

 そう言いバスルームへと逃げ込み、呼吸を調える。

 服を脱ぎ、洗面台に取り付けられた鏡の前に立つと不思議な感じになる。

(まだ男に抱かれていないこの身体。処女であって、処女ではない···)

 クシュンッ···

「入らないと、風邪ひいちゃう!」

(大丈夫。何も怖いことなんてない)

 そう自分に言い聞かすも、いざ和倉さんとキスをしたりするだけでも、怖がる自分がいる。

 同期の田蔵さんは、

「そんなの相手に任せちゃえばいいのよ!ウブねぇ」

 相談をする度に、笑いながら励ましてくれる。

(自分の初めての相手は、和倉さんがいい)

 風呂から出ると、淳一はまだ酒を飲みテレビを見ていたが、普段テレビなど見ない早紀にとっては、何が面白いのかわからず、

「おやすみ。お義父さん、明日は···」
「うん。一時に行くから」
「うん。」

 小さく言い自室へと戻り、布団に入る。

 これまで早紀は、人の死を幾度となく経験してきたが、やはり他人や親戚よりも、身内それも親となると···

 なかなか眠れないと思ったが、やはり布団に包まると眠ってしまうのは若さ故···

 の早紀だったが···


 キィッ···

 静かに部屋のドアが開き、廊下の明かりが1本部屋に入る。

「早紀···」

 ゆっくりと近づきながら、ベッドの丸みへと向かう淳一。

 ゴソッ···

「い、いやっ···」

 あの時の悪夢が蘇る···

「早紀···」
「やめて···お願い···出て···」

 淳一が、布団の中に入り、早紀の両手を掴む。

「いやっ!離してっ!」
「大きくなったな···」

 パジャマのボタンを外しながら、酒臭い息を吐く淳一に、恐怖を覚える。

「お願い···もぉ···いやっ!」
「そうか?わかるか?ほら···」

 ビクンッ···

「いやっ···いやっ···」

 乳房や乳首に感じる淳一の唇や舌···

 チュパッ···ヂュゥッ···

 いやぁ···ぁ···

「乳首も勃起してるぜ?じゃ、こっちは?」

 必死に足を頑なに閉じるも、強引に開かれ、

 ビクビクッ···

「や···めて···」

 ゴクッ···

「ビチョビチョじゃねーか!早紀」

 足をバタつかせ、抵抗したが、男の力には叶わず、パジャマも下着も剥ぎ取られ···

「離して···痛い···」

 ズボンで両手を縛られてしまう。

「ほんと、デカくなったな」
「······。」

 淳一は、ニヤニヤ笑いながら、早紀の両乳房を大胆に揉んでいく。

「はな······っして···ねぇ···」
「あの時は、お前まだツルツルだったよな?ここ···」

 ビクンッ!!

「いやっ!辞めてっ!お願い!」

 早紀の柔らかな茂みに淳一の冷たい指が当たる。

「濡れてるな···。もう男がいるのか?早紀」

 淳一は、茂みを開き一番敏感な部分を指で摘む。

「いや······ぁ···。お、お願い···許して!やめて···」

 淳一は、応えずクリと膣を往復しては、溢れ出た愛液でクリを擦る。

「あぁっ!!やめ······はっ···んっ···いやっ」
「辞めてほしい?ここまでグチョグチョで?」

 淳一が、早紀の上に伸し掛かる。

「なぁ、早紀。俺、寂しいんだよ。お前が居なくなってから···」
「知ら···ないっ。うっ···痛い···」

 早紀が暴れれば暴れる程、縛られた箇所がきつくなる。

「わかるだろ?ほら、こんなに···」

 自分でもその部分が濡れているのは気付いてた。だが···

「辞めて···お願い···お義父さ···」

 ブチュッとしたキスをされ、アノ部分に熱く固くなったものが当たる。

「もぉ、待たせんなよ。ほら、こんなになってきた」

 淳一は、ペニスを早紀の入り口へと充てがい、先端を愛液で濡らしていく。

「お前だって、もぉ経験してんだろ?男···」
「······。」

 クチュクチュとした音を立て、当たっては少し離れていく。

「お願い···もぉ、辞めて。なんでもきくから···」
「じゃ、そうだな···。まずは···」

 ズッ···

「いやっ···いやっ···」
「大人しくしてろって···」

 ズブッ···

「離して······やめっ···」
「おお、男とヤッてる割には、まだきつい」

 ズンッ···

「いっやぁぁぁぁぁっ!!!」

 早紀は、痛みで自分の身体真っ二つに避けるかと思った。

「おぉ、おぉ、いいねぇ。この感覚···アァッ」

 淳一は、早紀の腰を掴んで、ゆっくりと突いていく。

「アァッ···最高。しごかれる。なぁ、早紀。気持ちいいだろ?」

 痛みとショックで気を失いつつある早紀だが、自分が今義父に何をされてるのかはわかる。

(SEX。私の初めて···和倉さん···)

「早紀···ふんっ!」

 名を呼び、奥まで強く突く···

「やめっ······ぁ···」

(私の初めて···)

「アァッ···たまんねぇ。やっとお前とヤレた」
「いやぁぁぁぁぁぁっ!!」

(和倉······さん)

 パァーンッ···

「静かにしろって···いいとこなんだから」

 ギシッ······ギシッ···

 暗闇の部屋に、ベッドが軋む音、肌と肌がぶつかる音が聞こえる。

「静かにしてりゃ、なんもしねーよ」

 淳一は、早紀の両足を肩に乗せ、ゆっくりとピストン運動をする。

「いいね、いいよ。早紀···。」

 早紀は、もはや抵抗する気力もなく、ひたすらその行為が終わるのを待っていた。

「最高だ。もっと早くお前とヤリたかったがな···アァッ」
 
 淳一のが挿って動く感覚も、肌がぶつかる音も消し去りたい。

「早紀、戻ってこいよ。戻って···出そうだ。出すからな。いいな···」

(出す?何を?)

 虚ろな表情で、義父の声を聞いていた。

「早紀、戻ってこい。俺の女になれ···。早紀っ!!」

 淳一の動きが止まり、体重が早紀の身体に伸し掛かる。

「断るなよ?早紀···。俺のガキ産んでくれよ···なぁ、早紀···」

 一戦交えた後も、淳一は何度も早紀を抱き、中に出していった。


 早紀が、目を覚ましたのは、翌日の昼···

 両手は、解かれていたが、赤紫になっていたし、昨夜何をされたのか?!の証がベッドのシーツについていて、グジャグジャに丸め、ゴミ袋に入れた。

「遅いぞ、早紀···。早くしろ」
「······。」

(そっか、私、昨日この男に···)

「お前、黒スーツあるか?あるなら···」
「うん。いつ?」

 わかってはいた。この日がくるのを···

 リビングに入って、先に目についたのが、カーテンレールにかかってる黒スーツだったから。昨日は、無かった。
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