ワスレナグサ

アイネ

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ヤナギバヒマワリ

唯一の居場所の話

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ガラガラガラ…



扉を開けると、見覚えのある後ろ姿があって、なんだか安心した



「みさちゃん先生ー!!おはよー!!」



扉を開けた僕達に気づいた先生がこっちを振り返る



「あら、ゆうくん?」


「ど、どうも…お久しぶりです…」



先生は片手に持ったマグカップを机に置いて、ニコッと微笑んだ



「グットタイミングねっ」


「え?」


「今ね、ちょうどお茶しようと思っていたのよ」


「ほらほら、こっち来て一緒にお茶しましょっ」



先生は僕の手を掴むとなんの躊躇いもなく保健室に招き入れてくれた


めぐもなんの躊躇いもなく保健室のベットにダイブしていた



……やれやれだ



あ、そうそう、察しの通り、みさちゃん先生こと、みさき先生は保健室の先生だ


みんなに平等に接してくれる優しい先生


不登校がちな僕にも変な気を使ったりしない


他の子と同じように笑顔を向けてくれる



だから僕は先生がいる保健室がとても居心地がよくて好きなんだ



「ゆうくんはお茶でいいかな?」


「あ、はい」



僕と先生は奥のソファに腰かける


正面のテーブルにはお茶とコーヒーと、そして、大量のお菓子が置いてあった



「…え、なんですか、この大量のお菓子」


「なんかねぇ、気づいたら買ってたのよ…」


「こんなに食べ切れるんですか…?」


「…無理、でも、買っちゃったから食べるしかないわよね~」


「なんか、そういうとこ、先生らしいです」


「笑ってられるのも今のうちよ~?これの消費、手伝ってもらうんだから~」


「ぬぐっ」


先生が僕の口にクッキーをくっこんできたので思わずむせた


僕はこういう時間、嫌いではない




僕らはしばらく二人でのんびりとした時間を過ごした


お茶を飲み、お菓子を食べ、他愛もない話をした



そういえばめぐはベットで横にでもなっているのだろうか


珍しく静かだ



そんなことを考えていると、先生がふと、お菓子を食べる手を止めた



「あ、そういえば…」


「?」


「今日は偉かったね」


「え、な、なんですか…急に…」


「ん~?学校来れたの偉いじゃん、よく頑張んばったよ」



そう言って先生は優しく僕の頭を撫でてくれる



「学校行くのなんて…他の人からしたら当たり前のことですよ…」


「そうかな?先生はそうは思わないなぁ」



先生は優しい、僕のことを否定しない


でも、僕は全然偉くなんかないのだ


今日だってめぐがいなきゃ何も出来なかった



めぐがいないと、僕は何も出来ない…



「あれ?また追い詰めた顔してる…」


「おかしいなぁ、こうやって頭を撫でられると、落ち着くはずなんだけどなぁ」


「落ち着いてますよ、とても」


「そう?まぁでも、少しでも気が楽になったのならよかったわ」



人に優しくされるのは慣れてない


でも、先生の優しい手と声が、さっきまで息苦しかった僕の胸を包む混んでくれるみたいで心地よかった



「私はね、こうされるとすごく心が楽になったんだ」



先生は僕のことを懐かしむように見つめている



「その人がいつも傍にいて包み込んでくれたから今の私がいるの」


「ゆうくんも、そういう人、いる?」




僕は少し考えた




「………はい」


「先生と……そして」




チラッとベットの方へ視線を向ける





「…やっぱりなんでもない」




「あらあら?ゆうくん、好きな人がいるの?誰?教えなさいよ~」








「…………ひみつです」







大丈夫、大丈夫







僕にはめぐがいる






めぐがいるんだ







めぐ、だけなんだ







僕には………





めぐしかいないんだ
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