パーティを定年退職させられましたがまだまだ冒険者やってます

さくら書院(葛城真実・妻良木美笠・他)

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女魔王イブリータの奸計

魔槍 対 聖槍

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 白馬に乗ったララノアの姿がやっとガストンの視界の隅に入ってきた。こいつがいれば、もう大丈夫だ。ガストンは頼もしく思う。
「しばらく魔王を足止めしといてくれ。オレはオレの仕事をさせてもらう」
 ガストンの目の前にいるハーヴィは生きている頃『魔槍』の遣い手と呼ばれていた。魔槍とは魔法と槍を組み合わせ、この男が独自に生み出したものである。槍の先端に魔法で作った超高温の炎をともし、一刺しで大鎧蜥蜴アーマード・リザードたおしたこともあった。そして、女魔王のゾンビとして甦った今は黒死毒にまみれた一撃必殺の槍を使う。
 対するガストンの得物は『聖槍』の別名を持つオリハルコンの短槍。骸骨戦士スケルトンの身体を貫通し、薙ぎ払うだけで身体を分解できるほどの抗魔能力を持つ。これまた魔族に対しては一撃必殺であった。一撃で斃せる槍同士が戦うとなれば、勝負は瞬時に決する。
 ハーヴィのゾンビに生前の記憶はないが、反射神経に刻まれた槍の技はいまでも健在である。
「師匠、お手合わせ願います」
 ガストンは言う。王国軍の封印魔法に巻き込まれて多くの冒険者が命を落とした。歳月は容赦なく流れ、ガストンは師匠の年齢を超えている。ゾンビ化したハーヴィの槍の技の冴えがいささかも衰えていないことは、さっき殺されかけたときわかった。予備動作なしで突かれる。生きてる頃とまったく同じだ。
 まず、魔槍が動いた。相変わらず不意の突きであったが、初手と違い用心していたガストンは聖槍で払いのけることができた。しかし、次の瞬間にはもう魔槍は逆方向からガストンの腕に斬りかかっていた。ガストンが払い除けた力を利用して魔槍を回したのだ。身体を引いてかろうじてガストンは避けることができた。
 ハーヴィの矢継ぎ早の攻撃を避けているばかりでガストンは攻撃ができない。後退あとずさりし、間合いをとって、やっとガストンは最初の突きを放つことができた。り足で前に出てこようとしていたハーヴィは、ぎりぎりの距離で身体をのけぞらせて避けた。それからは互いに突きと払いの応酬。スピア・ダンスが始まった。
 槍の技を互いに繰り出すうち、生前のハーヴィと同じだと感じられた槍の速さが、しだいに遅く感じられはじめていた。そして、ガストンは気づく。ハーヴィの腕から黒い液体が滲み出ていることに。
 その液体の正体は瘴気を生む黒死毒。『死』が液体になったものであった。
 動きの鈍ったハーヴィの胸をオリハルコンの槍が貫く。傷口から金色の光が発せられ黒い汁が飛び散った。傷は滲むように広がり、すぐに向こうに臥せているイブリータの姿を見通すことができるようになった。
 ハーヴィは相変わらずにやけた笑顔のまま、いまだに槍をふるおうとしていた。しかし、腕の筋肉は爆ぜ、黒死毒を撒き散らしながら自壊していくこととなった。維持も再生もしない死体ゆえの悲しみ。そもそも槍の達人の体技は魔力で得られる仮初めの生などで支えきれるものではなかったのだ。
「師匠!」
 倒れゆくハーヴィの姿がガストンにはスローモーションに見えた。倒れた先でも崩壊は続く。人の姿をとることもできず黒い水たまりに変わっていく。動こうとして泡だっていた液体も、静かになり。あとには地面の染みが残るばかりとなった。
 ガストンは思う。こんなふうに相まみえたくなかった。もっときちんと戦って、落とし前をつけたかった、と。怒りがふつふつとこみ上げてきた。
「お前、殺したな。オレの師匠を二度も!!」
 ガストンは女魔王イブリータに向かって叫ぶ。
 珍しく冷静さを失い、ガストンはイブリータに向かって突進していく。オリハルコンの聖槍がギラリと光った。
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