夢跋仄塞 -むばつそくさい-

keke

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第一幕

夢遊世界編

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1

眠れない夜が続く。時計の針は動かない。静かな夜の音が鳴る窓の外も真っ暗闇。
何がしたいわけでもない。仕事も何もしていない。会社の同僚と揉めて退職、ここ2ヶ月間生きた心地もしない。
3日前から悪夢が続いてろくに眠れた気もしない。
何をしようかさえも全く見当がつかない。
当たり障りのないテレビを眺めてまた消しての繰り返し。
四畳半の闇から咄嗟に逃げ出すように目が驚くような光で明かりが灯った。
ノートパソコンを開いて、いつもの場面へと。パスワードを打ち込みその刹那に散らかったゴミをまとめる。
検索画面になった途端『悪夢を見る 原因』とキーボードを鳴らし、一番上に出てきたページを開いて夜が明けるのを待った。




朝の光が窓を差し込み、瞼を擦る。
いつの間にか閉じた目は自然と涙を流していた。何が何なのか分かることもない謎の夢はすぐさま解決するべきだ。
調べておいたサイトの住所をメモして家の戸を閉めた。音の軋んだ階段を降り、足を進めること数十分。
最寄駅から目的地まではそう遠くはない。
電車を降車し、数分歩くと調べたものと同じ文字が大きく書かれた場所にたどり着いた。
『あなたの夢 ご相談ください。スリープトリップ』
そう書かれた雑居ビルの1階部分は何故か胸が弾み、変な感覚に陥った。
薄暗い階段を上がると、緊張感が高まる。
静かに扉を開くと、受付嬢のような女性が。
こちらへと案内された場所で、辺りを眺めていると、奥の方から取締役と書かれた値札をつけた中年男性が出てきた。
「君、いい目持ってるね。」
唐突の発言に戸惑い、あたふたしていると、自分のよくみる夢について口を動かしていた。しかし、思い付いても記憶が曖昧で話すのを止めた。
いくつかの質問に答えているうちに、職業は何かと問われ、口を動かせずにいると、
「うちでやってみないかい?」
と告げられた。
「あ!肝心の仕事内容ね‼︎すまんな!つい…君のような青年が、、人材不足なんでね、いい人を探していたんだよ。」
言われたこともない発言に動揺を隠せずにいるうちに、何故だか親近感が湧き始めた。
「ここは、スリープトリップという職業の会社なんだよ。簡単に言うと夢で悩んでいる人のために我々が夢の中に潜入して悪夢を解決するんだ。」
「あ、あの、、、助かるんですけど。ほんとに、僕なんかが、、」
勝手に口が動いてしまっていた。
「助かるのはこっちの方だよ。こっちが求めているくらいなんだからさ。」
「危険とか、、そこらへんはどうなんですかね?」
「大まかに身体は現実世界に、脳内の中で働いてもらうということ。悪夢を見るということは原因があって、その原因を消すことができなければ悪夢は続く。どうやるかってのはね、奥の扉の向こうにあるから、あとでやってみっかい?」
自然と弾んできた心はいつしか少年心のような無邪気な心になっていた。
「んじゃまずは、自分の夢から解決させないとね。」

2

奥の部屋へと手招きされて、薄暗い部屋に向かうとベッドに眠る女性と、椅子に腰をかけた同い年くらいの青年がいた。
「このベッドで寝ている女性はお客さんね。こちらの夢見椅子に座ってる男がうちの社員の横溝だよ。同じ年頃くらいだろう?
おっと、夢見椅子について話してなかったようだね。夢見椅子は全世界に14個しかない。日本では東京 大阪 北海道 沖縄 京都 愛知 福岡の7つと。アメリカや中国を始め、国境を超えた世界中に7つある。日本はその技術の創始国だから多いのさ。七福神って聞いたことあるだろう?ここの業界では七福刃といってここのスリープトリップを始め全国にいるオーナートップ。いわゆる社長身分の人たちのことを指すのさ。私は取締役だけども未だに誰にも会ったことがない。雲の上の存在なのさ。そういや、自己紹介してなかったな。私は諸星 米介(もろほし よねすけ)。」
壮大な話を交えたあとに自分の名前を口に出した。
「渕成 達也(ふちなり たつや)です。」
「達也くんかい。わかった。少しは興味を持てたかい?」
「はい。お願いしてもよろしいですか。」
自然と口にした言葉は自分らしくもなく、新しい何かを見据えて出した答えだった。
「っしゃ‼︎同意書にサインしてな‼︎」



思ったよりも量の少ない同意書を書き終え話を聞く。
「夢見椅子に座るとあのいくつかのコードを頭に巻きつける。」
そう言って諸星はコードを指差した。
「したらば簡単。あとは意識を真っ白にするだけ。あとは君の持つしりょくで悪夢と戦うが良い。」
「し、しりょく⁉︎」
戸惑いながら問うとすぐさまに
「志の力と書いて志力さ。目の方の視力ではないぞ。志力は意志の在る者に宿る力。それに我々の裏の名前 『夢跋仄塞(むばつそくさい)』総本部から全国、いや世界各所に術技が記された戒界紋書(かいかいもんじょ)が配られ、その紋書から技を教わり悪を滅ぼすのだよ。」
今までの生活では全く無いような単語が並んでおり、変な宗教ではないかと不振に思い出した。
「一体、悪って、、さっきからおっしゃってらっしゃいましたけど、一体何と戦うんですか?」
一番気になっていたことを問いただした。
「少し話が長くなってしまうようだけど平気か?」
そう告げる諸星に、興味津々な達也は生唾を飲んだ。
薄暗い部屋に置かれた椅子に腰をかけ耳を傾ける。

「我々とは真逆の存在。あわや人間の敵。地獄界の使者たちなんだ。我々は日々、人間を夢の中から狂わせようとしている地獄界の連中と戦っているんだ。
地獄界といっても君が幼い頃から教わっているような地獄ではなく、簡単に言うと宇宙人のような、未確認生物というような立ち位置であると思えばいい。奴らは最終的に、人間の概念を超えるような血に飢えた世界をこの地球で行おうとしている。一番最初に地獄界と我々が戦ったのは記録に残る中では平安時代の京都、見せてやるからちょっと待てな。」
そういうと、諸星は地下へ向かい資料室のような場所からファイルを持ってきた。
「あっ、これか?そうだこれだ。」
そういって指を指していたのは古臭い巻物がコピーされた用紙。
「夢跋仄塞は平安時代末期から現代にまで受け継がれてきた一族から世界にまで発展した悪魔払いの一派だ。始めは妖怪退治を主流としていた我々だったが地獄界が突如生まれ、およそ今から800年前か、地獄界に王者の座と言われる階級制度が出来る。王者になったものは地獄界を支配し、命令や規律、それら全部を自分のものにすることが出来るのだ。初代王者は堊纚斄爲(おしりす)、そして今の王者は鬼の神と書いて鬼神だ。王者の座を選ぶのは60年に一度、凰座(おうざ)の審判と呼ばれる地獄界の翁、糞爺(くそじい)がオーディション形式で決めているらしい。糞爺は未だに現存しているらしいから地獄界との時差とも合わせればそりゃあもうとてつもない年齢だ。」
すると、自然と自分が見ていた悪夢が鮮明になり、諸星に伝えることにした。

3

悪夢の記憶はどこかの路地裏。ゴミが散らばり、野良猫や野良犬がたむろする真夜中。髑髏のネックレスを首にぶら下げる薄汚い男が気味の悪い笑顔でこっちへ向かってふらふらと窶れて向かってくる。奇声を上げて、のらりくらり足を運んで耳元でこう囁いた。
『お前を殺したのは俺だ。』
突然思い出した悪夢の正体に驚きざまでいると諸星がそいつを懲らしめに行くぞと言い出した。
「これは修行だぜ。どんな志力を持っているかの。」
不思議と力が湧き出して3つあるうちの一番奥側の夢見椅子に腰をかけた。
「視界が見えたらしっかり返事をしろよな。声出さない奴とかは生存確認が取れないんだよ。どんなものかを知って、しっかりね。明日からぐっすり眠れるように。しっかりサポートするから。上手くやってきてくれ。んじゃっ。」
頭にコードを巻き付けられながら諸星は様々なスイッチを押していた。
「ちょっ、、ちょまっ。」
いつの間にか通信が切れていた。
途端に頭が真っ白になった。



目が覚めると自分の夢で見たあの景色が見える。薄暗い路地裏に野良猫がポツリと。
冷めた風に靡かれ野良猫の方に注意深く足を進めると、どこかしらからか声が消えてくる。
『達也くん、達也くん。どうだ?成功したか?』
どうやら諸星の声のようだ。成功したと伝えると咄嗟に
『ならよかった。ふうぅ。落着と。この声は頭の中で響いているんだ。脳内のみ。だから君にしか聞こえない。そっちの様子は見ることが出来ないから声でやり取りする形だよ。オーケー?今何が見えるかい?』
「夢の中で見たあの路地裏に野良猫がいます。」
冷静にそう告げると、
『その野良猫は何匹いる?どう?見渡してみて』
その通りに辺りを見渡すがどうやら一匹のようだ。
「一匹のみです。黒猫です。鈴をつけています。」
『よーし、そしたらば注意深くゆっくり猫から足を背けるんだ。』
「ど、どうしてですか?」
『その鈴をよーーく見てみろよ。』
諸星の言ったように目を見開いて鈴を見る。





どうやら鈴だと思っていたものはあの悪夢で見た男の首に巻かれた髑髏だったようだ。

「気ぃづかれたぁよぉうだにぃ」
静寂の闇から聞こえるその甲高い声は夢で見た男の声だった。
『達也!気をつけろ‼︎冷静に俺の指示に従え!もうそろそろすれば仲間が到着するから。』
冷や汗をかきながら達也は足を背ける。
「あっしぃ!油使いぃー氣滅羅(きめら)おめぇえさぁあんのぉ夢うぉお燃やしにきたってぇえなぁ。ヨロシクヲ。」
そう告げると氣滅羅は量の腕に巻いた黒い筒から油を垂らし子供のように廻り始めてこちらへ向かってくる。
『達也!ここで死んだら身体そのもののお前も死ぬことになるかも知れん!ぐらびそうむ。ぐらびそうむ‼︎と唱えてみろ‼︎』
達也は後ろ腰になりつつも「ぐ、ぐらびそうむ?」と唱えたが何も起こらない。
「あっっしの番さぁあ‼︎燃えて無くなれえぃい‼︎破落戸燃塵(ごろつきねんじん)‼︎」
すると、自身の撒いた油に向けて口から炎を出し辺りが炎にまみれた。
『達也‼︎もっと力強く!志力を込めて』
そう言われつつも感覚が掴めないまま、
「スキありぃいぇへぇっへぇっへ‼︎」
と隙を突かれ氣滅羅の右腕に付属された鉄の筒が鳩尾に痛感した。
当たった衝撃で血を吹き出し、志力を高めようと氣滅羅を睨み通した。
「惧邏薇想武(ぐらびそうむ)‼︎」
力強く念じると辺り一面から風が巻き起こり、大きな槍のようになって氣滅羅へと向かい出した。
命中したように見えたが、どうやら当たりどころが良かったらしく高笑いし始めた。
「生きて帰れぇえるぅとわぁ思うなよぅおタコ‼︎くらえぇぃい‼︎」

焼・却(バーン・アウト)

氣滅羅がそう念じると大きな火の玉となった炎が達也を襲う。足がふらつくほどに重傷。身体は火傷。逃げる足もなく、その場で倒れ込んだ。
「四馬六双破‼︎(しまろくそうは)‼︎」
どこかから声が聞こえて、すぐさま仲間だと察知した。縦4つ横6つの風の刃が氣滅羅を斬りつけた。
「なぁあにものだあい?あぁんたぁ」
よく顔を見てみると、先程の夢見椅子に座っていた横溝だった。
「射琉(いる)だよ。そういうあんたは何者だい?」
「あ、あっしぃはぁな‼︎油使いーっ、、」
「いや、マジ興味ないっすね。」
いくつかの銃が構える音がして氣滅羅に数本スコープを当てる。
「はっ、はなしぃいを聞けえぇぇぇ、、
「死標乱射(テレスコープ・ガトリング)」
そう言うと射琉はいくつもの銃をぶっ放し、氣滅羅は踠きながら高笑いをした。
「キャッキャッキャッキャッ巻き込んでやるぜぇえい。爆破(ボム)‼︎」
すると、強大な爆破音が聞こえ当たり一面に瓦礫が飛び散った。近くの建物は粉々になり、氣滅羅は姿を消した。

「おっと、目が覚めたようだね。」
煙埃が漂う中、射琉に背負われていたことに気づく。
「ここなら安全だね。」
射琉がそう言うと、階段の段差で座れるような広くもない空間にたどり着いた。
そっと、肩にもたれた達也は壁に寄っ掛かる前に感謝を告げる。
「君みたいな若い子が居なくてだいぶ退屈だったよ。よろしくね。名前、分かるっしょ?」
「射琉さん?ですよね??よろしくお願いします。」
「あれ?名前なんて言うの?」
「渕成 達也です。」
そう言うと、射琉は軽く鼻笑いをし
「偽名(コードネーム)ないの?恥ずかしいぜこれから。」
見下されたような感覚に陥り、苛立ちを隠しながらも、一体、それは何なのかと問うことにした。
「RPGゲームだったり、そう言う系って本名なんか使わないっしょ?んな風にコードネームが使えるんだ。なんか好きな漢字使いなよ。」
そうだと言われてもなかなか見当がつかないので当惑する。
「由多(ゆた)はどう?那由多の由多‼︎前にペア組んでいた奴が那由(なゆ)ってコードネームだったんだ。まあ、ペアみたいなもんだろ?これから。」
笑いながらそう言う射琉にそれでいいと答え、達也の名前は由多となった。

「あ、そういえば、どうしてお客さんの夢の中から自分の夢に来れたんですか?」
そう問うと
「んあぁ敬語やめてよ。しんどいし。それは、んーっ。簡単に言うと、人の夢は全部繋がっているって事なんだよ。だからどんな人の夢も自由自在に行き来出来るってわけ。」
納得しづらいが十分理解は出来たので軽く受け流した。
「んじゃ現実に戻るとする?」
そう問われると首を縦に振り射琉の言う通りに現界離脱(げんかいりだつ)と唱え、知らぬ間に現実へと戻ることができた。

4

「おぉ、成功したな。途中から意識が朦朧としていて接続が悪かったから手に汗握ったったわ。」
諸星が言うと達也より先に現実に戻ってきていた横溝がコーヒーを片手にこちらへ歩いてくる。
「そうしたらばな、まだ伝えていないことがあったんだわ。」
そう諸星が言うとすぐ近くのソファに横溝も腰を掛ける。
「俺たちは分かっていたんだ。達也くんがこの場所へ出向いてくれることを。」
クエスチョンマークが脳内を過ぎる中で他人事のようにコーヒーを啜る横溝の姿。
「それは、つまりは??」
不思議に思い首を傾けると、
「達也くん。君の両親は今どうしてる?」
突如訪れた頑なな言葉に
「幼い頃に、両親は無くしています。」
と返す。
「うむ。やっぱりそうか。実は、私は君の両親と面識があるのさ。」
驚きが身体を揺らし、息が詰まりそうになる。
「達也くん。産まれは一体どこだい?」
「そんなに聞かされていないんで分からないんですけど、んーっ。どことも聞かされてないです。継母に育てられたので祖母や祖父との接点ももうあまりないです。」
重苦しい空気が漂う中。諸星がこう告げた。
「悪夢を見させ続けたのも、こうしてこの場所へと誘い込んだのも全て、両親からの願いだったんだ。」
謎が謎を呼び、こんがらがる脳内。
「ど、どうして?」
そう言うと、諸星は話を止めた。
「そんじゃ、今日はここまでにしとこうかな。」
普通より明るめの声で話を変えた。



とあるニュースが報道された。
○○地区工業地帯爆破。辺り損傷で負傷者 128人、軽傷 71人 死亡者 202人 計401人が犠牲に。

達也らがこのニュースを知ったのは少しあとのこと。

「そしたら自分もう帰って大丈夫ですかね諸星さん。」
そう横溝が告げると時計の針は18時を過ぎていた。
「んじゃお先に」の一言で扉を開けて姿を消した。
「達也くんも。ほら、今日は帰ってゆっくり寝なよ。」
「さっきの話が気になって逆に眠れませんよ。」
そう答えると諸星は笑顔を見せた。


場面が一気に変わる。
ここは、地獄界 凰座の凱門(おうざのがいもん)入口。
荒々しく尖った樹々と漆黒の闇を染める灰色の雲。針のような山々に、佇む不気味な城。
自分の手で爆破を起こし姿を消した油使い氣滅羅は、慌てた様子で凱門の周りをうろうろとしていた。
 
大きく其の姿を保つ厳重に立ちはだかるその門の姿に憧れを持ちつつ、気味の悪い声で笑った。

『何者だ。一体。』
門の中から声が聞こえる。
「あ、亜貘(あばく)様 亜貘様。氣滅羅で御座いまーーすよぉう。氣滅羅。あっしが働いたお陰でぇい人間の野郎二匹を粉々にしてやっ、、」
門の外からでも見えるその漂う怒気は調子の上がり下がりのない氣滅羅でさえも足を後ろめた。
『誰だ貴様。其の者の名を聞いたこともないが。今すぐここで散るか?その言葉遣いも気に食わぬ。我の至福のひとときをそのような者に邪魔されてタダで済むとは思っとらんな?弱者が。』
手の震えが止まらずとも氣滅羅は亜貘を尊敬しており下げた足をまた門の方へ進める。
「亜貘様ーっ。調子でも悪いぃいんですぅうか?早寝早起きがぁあ一番でぇえございめもやつこたあならせねやれ「「らわめー、ん」
そのまま狂ったように氣滅羅は泡を吹いてうしろむきに倒れた。心臓の位置の場所がぽっくり空いたままで。
『弱者は気色悪いのぉ。消せど消せども産まれ行く生命。我は果物さえあれば十分だ。』
亜貘の姿が見えぬまま氣滅羅は地面に溶けだした。
この亜貘という人物がこの物語を左右させるような存在になることを知らずに。



現実世界に場を戻す。
翌朝になって起床する。悪夢の見ない心地よい眠りだった。
青い炎でお湯を沸かして薄味の紅茶を飲む。
夢跋仄塞(スリープトリップ)に勤めて2日目、昨日あった話をしよう。
東京支店はどうやら働いてるのが7名。
取締役の諸星さん。受付嬢のキョウコさん。キョウコさんは、優しい反面厳しい所がある。おそらく、常人には考えられないほど当たりが強い。昨日の帰り際、電気を消すのを忘れて肘でどつかれた。ほぼ初対面で。
人には裏があるって、あの人は本当に裏よりもっと裏がありそう。まあでも、優しい所があるから別に良いとは思う。
あとは小瀧さん。一回しか話していないからどんな人なのかは分からないけど地下の真っ暗なブースにある。隠し扉の奥でコンピューターに侵されているみたいな人。外見はオタクで、地下アイドルが好きそう。話を聞く所、とあるハッカー集団の一員らしい。いまだに話したのは「こんにちは。」の限りだけれども。
あとは横溝、横溝隼人(しゅんと)。コードネームは射琉。一歳違いで兄貴分。
顔はイケてるし、仕事もできそう。諸星さんにペアになれと言われたのでペアになったが、足を引っ張りそうで怖い。
あと2人は昨日はいなかった人たちで狩時(かりとき)さんと吉見ちなちゃん。
ちゃんは本人からつけて欲しいんだと言われているらしいが、真実は知らない。
あと一人は野次侶(やじろ)さん。
日本の七福刃の一人でもあり、支店に来るのは数十年に一度とでも言われている。一番最近で八年前らしい。
本当か嘘かは定かではないが、普段は夢遊世界の雲の上で七福刃として、有意義な生活をしているらしい。現実世界ではどこかしらで眠っている。
いまだに健全で、亡くなっているわけではない。
翼が生えた人間とでも言えば良いのか、神の擬人化という者もいる。
どうやら、この世界には四つ区分分けがされていて、今こうして普通通りに生活しているのは祭難(さいなん)浄土。夢見椅子に座って入ることができるのは、夢遊浄土。天国とされているのは極楽浄土。地獄界浄土と区分分けがされている。

こうして昨日のことを思い出すと、現実離れしていると窺われる。

いつも通りに戸締りをして、早めに家を出る。また夢の中へ、仕事をしに出向く。



朝早くから入口は空いていて、どうやら諸星は家に帰っていないようだ。
椅子の背もたれに寄りかかり、鼾を掻いている諸星もすぐに気がついた。
「おっ、おはよう。達也くん。ぐっすり眠れたかい?」
言い終えた後に大きな欠伸をして、ふとため息をつく。
「はい。今日は心地の良い睡眠でした。」
「なら良かったね。早くねぇかい?まだ8時じゃんかよ。」
そういうと、また眠りについた。

やることを探そうとあたりを探していると、扉が開いて
「こんにちは!」
と明るい女性の声が聞こえた。
すると、女性はすぐにこちらへ向かって
「あーーっ‼︎た、達也くんだっけ⁇合ってる?合ってるよね?あたし、ちな‼︎吉見ちなっていうの‼︎よろしくね!」
朝から活気の良い声が社内に響いてカーテンから光が射した。
すると、同時刻に横溝も扉を開けて出社した。
「っっしぃ‼︎気合い入れるぞ‼︎ちなちゃん達也くんとは話した?どう?気合いそう?」
さっきまで鼾を掻いていた諸星が仕切り直しに手を叩きながら言った。
「はい‼︎話しました‼︎」
「ちなちゃん今日も可愛いね」
下心丸出しの諸星が言う。キモっと呟きちょうど諸星には見えない場所からブーイングした。
「そうしたらね、今日の任務について説明するから聞いてくれ。」
社内が一気に静まり返る。
「別にそんなに緊張することはないぞ。さあ。肩を回して。うん。あ、ううんとね。今回は総本部から指示が届いた。
今日いないキョウコと狩時には後日伝えるが、非常に大切なことだ。」
場の雰囲気で達也は固唾を飲んだ。
「地獄界浄土へ潜入して欲しいとのことだ。」



ほぼ同時刻の地獄界では60年に一度行われる凰座の審判の準備が着々と進められていた。凰座の凱門は開かれ赤いカーペットが敷かれている。
紫や緑色の花が辺り一面に咲いて式を彩っている。
門の奥の方から人が群がっているのが見える。
亜貘が家来を引き連れて門の外へ向かっている。
今回の候補者は四人。
焔光の一族の末裔「倭樂(わらく)」。下民から貴族に成り上がった「餘真(よしん)」。生まれながらにして強い力を持つ貴族「猽華(めいか)」。そして、初代王者、堊纚斄爲(おしりす)の末裔でならず者の貴族、「亜貘」。
選挙期間2ヶ月は凰座の地区と呼ばれる一定の地区で候補者は住むことになる。

四日後に行われる凰座の審判。その前に行われる恒例儀式、『楷沙穣渡(かいさじょうと)の儀』が、間も無く開催される。

楷沙穣渡の儀は簡単に言うと、食事会みたいなもので、地獄界の翁 糞爺を始め、現王者 鬼神。候補者、右大臣、左大臣を含む形式で各年行われる。各候補者の家来はもちろん、一般民には公開されないため、内容は国家機密である。
場所は凰座の凱門を出たあとすぐにみえる、薄紅色に澄んだ「紅香(こうこう)の泉」の上に浮かんでいる黄金を張り巡らされた屋形船の上ですることになる。

仄暗い夕焼けが見える頃、港に停留する屋形船にそれぞれが乗り込む。
金箔を纏った船内は、歴代王者や、地獄界8ヶ条をはじめ、その歴史を切り刻んだような額縁が添えてある。

それぞれの座席へ着き、8名が出揃った。一段上の目立つ台の豪華な座席に座るは翁、糞爺。それを取り囲むように残りの7人が分かれ並列している。

これからの地獄界を動かす会談が船の出港と同時に動き出した。






「そ、その、、潜入?とは、、」
二日目にして急な申告に動揺を隠せずにいた達也は思わず口に出す。
「まあ。簡単に言うとね、京都支部の方からで、悪夢の相談が多数入っているみたいなんだ。」
そう答える諸星は資料を机に出した。
指を指して全員の顔を見渡す。
「先週の金曜日から今日まで、同じ内容の悪夢で百人以上のお客さんが悩まされているらしい。」
「同じ、、夢?」
首を傾けながら呟く横溝の隣で爪を弄るちな。
「しかもその夢が厄介で、一度消し去ってもまたその夢が夢に出てくる場合が多いらしい。ゲテモノ街。そう書いてある街が夢に出てくるんだと。」
「ゲテモノ街、、か。」
達也は不安そうに呟く。
「その夢の内容なんだがな、始まりは人によって違うようで、終わりは同じなんだと。巨大な鎖を振り回す大男に襲われて殺されそうになる寸前に眼を覚ますんだと。そう、この写真見てみ。」
そう指差すと、目を疑う写真が貼り付けられていた。
「お客さんが言うには起きたら背中に違和感があって、鏡で確認したところこんな彫り傷が付けられてあったんだと。しかも、全員が。」
「全員⁉︎」
達也とちなが驚き様にそう言うと、
「そう、全員が。この彫り傷は今も残ったままで、ろくに寝れぬ日々が続いているんだそうだ。」
思わぬ出来事に戸惑いを隠せずにいる達也たちだったが横溝はあることに気がついた。
「この傷の形、どこかで見たことがある。」
そう言うと、諸星も反応し
「よく気づいたな。そう、これは逆さ文字の夢虎の文字に×印。京都の夢跋仄塞 創始者の一族、八雲家のシンボルマークなんだ。」
画質が悪いため目を細めてみてやっと実感したが、確かにそう彫られていた。

「八雲家とは、先ほど話した通り、夢跋仄塞が始まった京都の同胞のことだ。
20年前、創始者の家系図は15代を以って止まってしまったが、意思は夢跋仄塞全土に受け継がれている。」
「でも、そのマークが何故?」
ちなが呟く。
「それを今から確かめに行くのさ。」
ニヤついた諸星は夢見椅子の方へ向かい、
「今回は俺も一緒に行っていいか?」
そう言うと横溝と達也は乗る気になり、
「え、私行けないの⁉︎」
と駄々をこね出すちな。
「今回は少し危険だからお預けだ。京都からデータは送られてる。いつでもいける準備はできとるぞ。」
そう言って、それぞれが夢見椅子に腰をかけた。



ここは地獄界。公表はまだされていないが、たった今新しい王が決定した。
地獄界と人間界には時差があり、地獄界でいう数日は人間界でいう数分であるということになる。
凰座の審判で選ばれたのは堊纚斄爲の末裔、亜貘。この四日間で行われたことはいずれか知ることにはなるが、今はまだしないことにする。

新たな一歩を踏み出した地獄界。
これから巻き起こる事件のことは、地獄界民も人間界も、まだ誰も知ることはなかろう。
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突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

英雄一家は国を去る【一話完結】

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婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。 - - - - - - - - - - - - - ただいま後日談の加筆を計画中です。 2025/06/22

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伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。 弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると… というお話です。

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