全てを疑う婚約者は運命の番も疑う

夏見颯一

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【番外編・彼女の兄の運命?】

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 私には兄が一人おります。
 兄にはちょっと面倒な放浪癖がありますので、妹である私もなかなか会う事もありません。
 父や母は時々何処かで見かけるようですが……。

「商談に行った先で息子を見かけてね」

 隣国から帰ってきた父が母にそんな事を話しているのが聞こえてきました。
 私もお土産の箱から手を放し、

「お兄様は隣国におられましたの?」

 前回会ったのはいつだったでしょう?
 残念な事に多忙らしい兄は手紙一つ送ってくれませんので、家族を含めた親類縁者の目撃情報で生存確認をしております。
 それは公爵家の嫡男としてどうなのかと思う事も多々ありますが、現状については両親が認めている事もありますし、私は特に意見を挟む事もありません。

「ああ。私が見たのは走り去る姿だったけど、元気そうだったな」
「相変わらず落ち着かないようね」

 うーん……。
 父や母は度々見かけているようですが、私はまだ外出先で兄を見かけた事がありません。
 タイミングの問題なのか、はたまた兄の行動範囲の問題なのでしょうか。

「走り去る姿だけなら兄とは限らないのではありませんか?」
「通りを埋め尽くすほどの女性に追いかけられて最後は隣国の騎士団に保護されるなんて、絶対にあの子に間違いないよ」

 通りいっぱいの女性? 騎士団?
 父の発言には何やらおかしな単語がいくつも混じっていた気がしました。
 どこからどう聞けば良いのか私も迷います。

「お父様は、それをご覧になって……?」

 多分、娘としてはそこが重要な気がしたので、私は父に問いました。
 兄が騎士団に捕獲? 保護? された割に、物凄く父は上機嫌でした。

「いや、息子ながら面白いなと眺めていたんだ」
「私も見たかったわ。竜人が人間ばかりの隣国の騎士団に保護されるなんて笑ってしまうわね」
「そうだろう! 屈強な男達の困惑と、狂乱の女性達の組み合わせと、その間で生まれたての何かのように震える息子。実に良い組み合わせだった」

「どこが?」

 私の言葉は楽しそうにしている父と母には届きません。
 そもそも息子がそんな状態になっているのですから、その時点で父が保護するべきだった気がするのです。
 暢気というか、何というか。
 一応兄も竜人ですので身体能力は人間とは比較にもなりませんし、ほぼ普通の人間が大半を占める隣国で何かあるとは考えにくいのですが……。

 それにしても、『狂乱の女性』。
 その単語が妙に私の心に引っかかりました。
 何でしょう?


「君は兄君の話を聞いた事がなかったのか?」

 隣国から騎士団の警護付きで帰って来る兄の迎えを任された私に付いてきた婚約者が驚いた顔をしました。
 私と兄は少し年が離れている事からあまり接点がなく、私の友人知人の話題に上る事もありません。

「兄は何かありましたの?」
「割と有名な話だと思っていたが……女性に聞かせるタイプの話ではないと思われたのかも知れない」
「は?」
「迂闊に見に行ってはいけない人物だからな」

 見に行く……。
 あまり会った覚えのない兄はどうやら珍獣だったようです。

「でも、兄にも婚約者がいるわ」
「婚約者がいるから普通だと思ってはいけないな。寧ろ、常に後ろに闇が控えている高位貴族の婚約事情なんて全て疑ってかかるべきだ」

 私も否定はしません。
 婚約にも色々闇が含まれるのは、貴族全般共通の事でしょう。
 ただ、色々詰め込みすぎて結果的に何もなくなったケースもあるので、一概に決めつけは出来ないと思うのですよ。

「そもそも私達も高位貴族同士の婚約だとお忘れなの?」
「政略ではないから除外だろう」
「貴方の親友も王族と高位貴族の婚約ではなくて?」
「あれは純然たる不可解な婚約だ。徹頭徹尾疑う部分しかないだろう」

 発言的に婚約者は自分に甘くて他人に厳しい気がいたします。
 つくづく心が狭いというか何というか。

「で、君の兄君か……そう言えば義理の姉になる予定のは今回は?」
「国も関わってしまった内密の事ですし、今回は連絡をしておりませんね」
「ふむ。道理で静かか。いや、逆にその行動が疑わしいか……」

 何でも疑わずにはいられない性格に、私はほとほと呆れます。
 世の中そんなに陰謀は犇めいていませんよ、多分。

「疑ってばかりで楽しそうね」
「ん? そんな事はないぞ」
「疑う疑うばかり言っていると、そう見えるわ」
「君の兄君の現状なら、私とてそれほど疑ってはいない。 ……竜人としては最強クラスであるにも関わらずこの現状という時点で、私も流石に疑う事を放棄した」
「つまり『おかし過ぎる』って事ね」
「大体、何故騎士団がついてくるのだ? 竜人なのだから1人で国境に放り出せば良かろう」
「それは外交的に不味いのではないかしら?」
「もめ事を起こしたのは君の兄なのだから、文句を言う立場にはないだろう。疑わしいところばかりだ」

 両親は兄の状況に終始笑っていたけれど、ここまで婚約者は色々疑い過ぎた結果真顔。
 あまりよく知らない兄には、私にはフォローの言葉も出てきません。


「お久しぶりですね」

 城で通された部屋には、何故か既に兄の婚約者が待っておりました。
 今回の兄の一件は非公式扱いで、王城関係者でもほとんど知らない筈の事でしたので、私も大変驚きました。

「ご連絡はいたしませんでしたが?」
「ふふっ。伝手で婚約者が捕獲されたと伺ったのです」

 やはり兄の婚約者にとっても兄は珍獣のようです。
 そう言えば兄達は交流している姿を見かけたことがないのは、兄が『見てはいけない何か』である事と関係があるのかしら?
 記憶に残る兄も目の前の兄の婚約者も別段普通ですし、疑わしい部分なんて見あたりませんが……。

「兄は捕獲ではなく、一応保護されたのですわ」
「ふふっ。面白い冗談ね。保護される竜人なんていないわよ」
「そうなんですけど……」
「保護なんて連絡、建前的なお話に決まってますわ。いつまでもどこぞをフラフラ飛び回っていて全然戻ってこない方ですもの。いっそ捕まえて欲しいと伝手にお願いしてみたのよ」

 あらあら、こんな所に事件の黒幕がおられました。
 まあ、兄も長年放置している自分の婚約者に捕まったのなら仕方ないでしょう。

「とうとう兄に婚約破棄を突きつけると言う事ですね」
「破棄はあの方には愛人もおられませんので難しいですわね。あれで私にはまめに手紙やプレゼントを送ってきますので、ギリギリ役目を果たしてもおりますし」
「愛人はおりませんでしたの!?」

 兄が長らく帰って来ないと言う事はそう言う事だと思っていただけに、私は衝撃を隠せませんでした。
 本当に仕事だった……?
 今まで兄を最底辺の存在だと思っていたのを改めないといけないようです。

「愛人がいても消すだけですけど。婚約者様は手間がないのは良い事です」

 身辺整理を兄の婚約者が買って出て下さる程度には兄は愛されているようで、妹としてもほっといたしました。
 行く行くは公爵夫人となられる兄の婚約者様の毅然たる態度と姿勢には、憧れます。

「消す程度で終わるのか? 疑わしいな」

 余計な事をいちいち言わなくては気が済まない私の婚約者の態度は、つくづくどうかと思います。
 その言葉にいっそ挑発的に兄の婚約者は笑い、

「あらあら。想像力が貧困です事。これだからトカゲは……」
「私がトカゲならお前は蛇だ」

 両者、無言でにらみ合いました。
 どちらも竜人なので攻撃的な魔力の高まりから周囲がバチバチ音を立てる中、私はここには意図的に騎士の1人も配置されていないと気が付きました。
 2人のとばっちりで騎士が怪我した場合も職務中なら王家持ちになるので、ケチ臭く節約されたのでしょうね。
 かくいう私も身を守るのに精一杯なので、騎士団に文句は言いません。

 私の婚約者と兄の婚約者はとても仲が悪いのです。
 一応、婚約者にとっては兄の婚約者は私以外の幼なじみに当たる筈ですが、2人は属性的な問題があるらしく根本的に相容れない様子で、会うたびに何かと喧嘩になります。
 子供の頃よりも、大人になってからの方が悪化してますね。
 たまに暗殺者をも仕向け合っているとか殺意の本気の度合いが常軌を逸しているので、周囲は巻き込まれないよう距離を取るしかありません。

「婚約者を捕獲しようなどと試みる女など、恐ろしくて堪らん」
「あらあら。試みたのではなく捕獲したのですわ。事実を誤認するなんてやはりトカゲだからよね?」
「はっ、蛇が。今回成功しただけで、何回これまで試行したんだ? 後、結婚前なんだから拉致監禁まではするなよ」
「そこまではしないわよ。結婚前ですもの」

 結婚前と後で何が変わるのかしら?
 拉致監禁は結婚しても違法な気がするけれど、最近私の発想が極少数派になる事が多いので、声高に主張する勇気が出てきません。

「申し訳ありません。確認をお願いを……」
 恐る恐る部屋に入ってきた文官に書類の確認をお願いされたので、私は盛り上がっている2人を残して一度退室した。
 王城内だから危険があれば王族が止めるでしょう。

 両親の代理としてしばらく書類と文官方々とのやり取りをし、部屋に戻ってくると、

「私のために争わないでくれ!」

 謎な男性の叫びに、私は思わず扉を閉めました。
 そして、案内の侍女に部屋が合っているのか確認をして、もう一度扉を開けました。

 それは丁度、兄の婚約者が兄らしき男性の顎を殴った瞬間でした。

 何と言う事でしょう。
 無表情のまま私はもう一度扉を閉めようとして、私の婚約者の手に防がれました。

「私も退室したい」
「珍しい、弱気ね」
「これは私には無理だ」

 婚約者が弱気なのは本当に珍しい事で、好奇心から私は部屋の奥を覗き込みました。

 部屋の中には兄の婚約者と、強烈なアッパーを食らって床に沈んでいる恐らく兄と思われる男性の姿と……たくさんの見知らぬ女性。
 私は文官の方を振り返りました。

「運命と名乗られる方々です」

 貴族平民入り交じった謎の女性集団は隣国の関係者に付き添われているので、どうやら隣国から兄についてきた方々のようです。
 隣とは言え国を超える事は女性には命がけだと聞き及んでおりますが、その割に結構大人数がいる気がします。

 ちょっと怯えた様子の婚約者は、捕食者の気配を隠さない女性達の圧に負けたのでしょうか。
 まあ、面倒な性格が知られているので、婚約者には普段から女性は群がりませんものね。

「貴方の親友の自称運命の人数よりは少ないかしら」
「ここにいるのはたった15人だからな。あいつの自称運命は最近20人を超えた」

 まだ続いていたという新事実が発覚しました。
 王族を婚約者に持っている相手に手を出そうなんて勇者、そんなにいるものなのね。
 押し切れそうな雰囲気を出している婚約者の親友が根本の原因なので、王女様にはこれ以上犠牲者を出さない為にも締め上げて欲しいものです。

「私の運命に何をするんですか!」
「酷いです!」
「私が運命だからって!」

 倒れた兄の周囲に集まる自称運命達は、非常に五月蠅いですね。
 平民が多いからでしょうか。

 私の婚約者は一対一では強気に出られるけれど、多数を相手する場合は大変苦手で、姦しい女性達から隠れるように私の後ろに回り込んできます。
 婚約者も竜人として兄同様最強の一角とされているのに、なかなかどちらも情けない事です。

「お兄様。それで、どなたが本物ですの?」

 混沌とした室内に一歩踏み込んで私が尋ねると、ヨロヨロと兄らしき男性が顔を上げました。
 成人辺りから成長が緩やかになる竜人ですので、兄は私の記憶とはほとんど変わっておりませんでした。
 ただ、兄は最後に私と会ったのは、私がまだ幼児の頃でした。

 兄は目に涙をためて、

「私には本当に妹がいるんだ。そう言った自称は止めて欲しい……」
「妹の顔もとうとう忘れましたか。実は別人でしたと放り出しても宜しいかしら?」

 はっきり言って兄と私の顔は滅茶苦茶似ているので、一目で分かりそうなものなのに、相当な節穴です。
 わざわざ迎えに来た家族の顔も分からないなんて、やはり今後も付き合いたくはないと思っても仕方ありませんよね。

 空気が冷え切る私とは対照的に、兄の婚約者は烈火の如く怒り出しました。

「ご自分の妹の顔を忘れるなんて本末転倒でしょう! だから、何度も早く帰って来いって言ったわよね!」
「え、本気の妹!?」

 兄の婚約者の言葉で私がようやく本物だと分かったらしく、兄は何度も私と自分の婚約者の顔を見ました。
 やはり兄は最底辺に属する存在だったようです。

 私の視線が私の想定以上に冷たくなったので、床に転がったままの兄が本気で泣きそうな顔になりました。
 だから帰ってくれば良かっただけで、自業自得なのですよ。

 私が兄の妹だと名乗った事で、運命の集団は俄にざわめきだしました。
 煮え切らない兄から私に標的を変えたのは、何となく私にも分かりました。

「あの! 私はこの方の運命……」
「私が運命なのよ!」
「違うわよ、私が本物よ!」

 身内である私にアピールを始めたと同時に15人が一斉に喧嘩を始め出したので五月蠅い事、五月蠅い事。
 それにしても、何で自称運命がこんなにいるのでしょう?

「君の兄君の運命をたくさん引き寄せる体質は健在だな」
「は?」
「多くの者に運命を感じさせる、珍しい体質の持ち主だと私は聞いている」

 何言ってんの?
 私は今までの人生で一番訝しんだ目を婚約者に向けました。
 運命なんて1人程度しかいない存在なのは常識です。

「これが残念ながら本当なのよ。運命を感じる機能を誤認させる力を出しているって話を私も聞いているわ」

 兄の婚約者も深々とため息をついた。

 どうやら……本当のようです。
 私は珍獣を見る目で兄を見下ろしました。本気泣きを始めましたが、同情心の欠片も湧いてはきませんでした。

 この女性達は自称ではなく、運命を感じた方々なのね……。

 女性達がちょっとだけ羨ましいような、そうじゃない感覚もしました。
 でも、運命が現れたのなら兄の婚約者は?

 冷静を超えて凍てついた表情をした兄の婚約者は1度足を踏みならした。

 互いに相手の髪などを掴んだりと、まさしく獣のような喧嘩に発展してきた運命達と隣国の関係者達に、兄の婚約者は容赦なく重力魔法をかけました。
 強力な魔法を避ける事も防ぐ事も叶わなかった彼女達は床に倒れ、兄の婚約者は彼女達を汚物を見る目を向けました。

「それにしても、貴女達人間でしょう? 竜人である私の婚約者が言い出したならともかく、番を感じられない人間が運命を口にするなんて不愉快よ」

 まさかの人間でした。
 私はあまり強い力を持っているわけではないので、いつも言われるまで分かりません。

 それにしても、またもや自称運命だったのね。
 私はとても呆れました。

 番があり得ない人間の国に行っていたのに、兄はとんだ災難だったようです。
 ただ、番を感じられないと有名な人間相手なら振り切るか、きっぱり拒絶しろよ、と正直思いましたよ。
 婚約者の親友より余程面倒な兄ね。と言うか、まずいつまでも床に転がっていないで起きて欲しいです。

「貴方もどうして隣国に置いてこなかったの?」
「私は彼女達には違うって言ったんだ!」
「なるほどね。じゃ、何で途中で消してこなかったの?」
「一応隣国の高位貴族の縁者が混じっていたんだよ!」
「あらあら……旅の途中の不慮の事故なんて良くある事でしょう? まして、お嬢様育ちなら常識も分かっていないのに」
「消せないって! 隣国の騎士団がついていたんだって!」
「全部を灰にすれば全部無かった事になるじゃない」
「無理だって! 隣国に記録が残っているって!」
「……ちょっと隣国を消滅させるわ」
「そんな事したら、君の好きな酒が入ってこなくなるだろ!」

 兄の言い訳の羅列かと思っていたら、ちょっと兄の婚約者が病んでいる事に気が付きました。
 義姉になる予定の方は、こんな人だったのね……。
 とは言え、兄の事を知ると、これくらいじゃないと耐えられないかも知れないとも思いました。

「拉致監禁だな」
「ええ、拉致監禁が正解ね」

 思いっきりただの面倒を引き連れてきただけと判明したので私の婚約者も兄には同情もなく、珍しく兄の婚約者も素直に同意しました。
 兄の将来は公爵ではなく拉致監禁ですか。
 兄の身から出た錆なので、妹も賛成ですよ。

「待ってくれ! 私は妹に私の体質が影響しないかと恐れて外国に逃げていただけだよ!?」

 あら、不在の理由はそんな事だったのね。
 ますます兄に向ける私の視線が冷たくなりました。
 兄の婚約者のヒートアップも止まりません。

「だから! 余程近しい身内は運命になり得ないと言ったでしょう!」
「分からないじゃないか! どれ程私が外国で次々現れる運命を千切っては投げ、千切っては投げをしたと思っているんだ!?」
「どれだけ切って捨てても単に全部他人でしょう! 貴方の妹も、貴方のお母様も番として絶対に反応しません」

 この世界の運命の番とは、種の保存にも関わっているものです。
 子孫に異常が出やすい近親が運命に選ばれにくい事は、相当昔に各地の研究で判明している事です。
 特に長命種の場合は近親は運命になり得ないなんて常識ですね。

「じゃ、私の年月は何だったんだ!?」
「無駄」

 遠慮のない兄の婚約者の一言で、兄は撃沈した。
 一言で片付けられるって結構ダメージ大きいのよね。


 なお、これで終わりではありませんでした。

 人間の確実に運命を偽る者達に重傷を負わせて物理的に退けても、部屋には別の女性が駆け込むのが続きました。
 婚約者が兄を『見てはいけない存在』と言った意味が、この時点で私にもようやく分かりました。

「私が運命です!」

 仕事中の侍女やメイド、通りすがりの貴族夫人、出入りの商人、王族を狙う暗殺者、果ては王城見学の初等科の学生……年齢も関係なく女性達は何かに取り憑かれたように兄の運命だと名乗りを上げます。
 かなりの恐怖を感じました。
 兄の顔形は確かに確かに整っているとは言え、普通に惑わせる程の美青年ではありません。
 なのに、女性達は次々に群がるのです。
 その内に厳格で知られる侍女長まで現れては、どうにもなりません。

「私が婚約者だ! 私を倒してからものを言いなさい!」

 その間、自称運命を千切っては投げ、千切って投げをしたのは兄の婚約者でした。
 私は竜人としては非力な方なので、兄の婚約者は頼もしい以外の何者でもありません。

「素敵……」
「!? 私の婚約者を惑わさないでくれ!」

 私の呟きに何故だか婚約者が猛然と兄の婚約者に抗議すると、

「五月蠅い!」

 理屈は腕力に弱いという悲しい現実がありますね。
 容赦なくぶん殴られた婚約者は最強の力を持ちがら、口先先行型ですので力を発揮する事無く気絶しました。
 カオスを止めたかったなら婚約者が立っているので閉められなかった扉を閉めれば良いだけで、私はため息しか出てこなかった。




 それにしても、隣国騎士団も偽の運命を大量に一緒に連れてきて、何がしたかったのかしら?

 一通り騒ぎが落ち着いた頃、遅まきながら騒ぎを聞きつけた王女が収拾を始めました。
 カオスの中気絶した兄と私の婚約者は牢で一晩反省させるそうで、兄の婚約者は取り敢えず落ち着かせる為に家に戻されました。
 だからと言って兄の婚約者が無罪放免ではないですよ?
 手を出したのは兄の婚約者ですし、意識のある竜人を止められるのは家族だけなので、現状の判断としては順当です。

 逃げ遅れた私は王女に立ち会っております。
 まあ、私の立場的にはいるだけですよ。

「彼女達は運命を偽るという重罪を犯した。今回、彼女達は要人として入国したわけではないのでな。そのまま我が国の法律で裁く事になる」

 王女殿下の発言に、隣国の関係者は真っ青になりました。
 運命の話とそれに纏わる法律は我が国の常識です。隣国の長らく外交を担当する者が知らないなど通じません。

 運命を騙った彼女達は、どのような経緯があったとしても隣国に生きて帰る事はないでしょう。
 私からすれば、いくら兄が変わった体質とは言え、普通は1人しかいない運命が複数人だった時点で諦めるべき事だった気がするのですよ。

「騎士団が一緒に連れてこなければ助かったのに」

 伝え聞いたところによると、兄は必死に無謀に運命を名乗る彼女達を拒否したそうです。
 それを隣国側が押し切ったとか。
 確かに彼女達のいずれかが公爵家の番として迎えられれば我が国と強い繋がりが出来、隣国としては旨い話だったのでしょう。
 ただ、それは運命が分からない人間側の大きな勘違いです。
 人間側が運命と一方的に押しかけてどうにかなるものではありません。

 番ではないと分かった時点で彼女達がどうなるか、隣国は誰も考えなかったのでしょうね。

「人間だからな。運命が分からないからこそ連れてきたらしい」

 今回の件を任された王女も苦虫を噛みつぶした顔をしておりました。
 彼女達を連れてきた騎士団と外交官も、彼女達が罪人として死ぬ事になったと分かれば隣国で何らかの処分を受けるでしょう。

 とても残念な事です。






「妹は本当に私に反応しなかったね……」

 私は怖かった。
 たくさんの女性が私を見た瞬間から、おかしくなる場面を見ていた。

 小さな妹は可愛かった。
 だから、妹までおかしくなったらと思うと怖くて堪らなかった。

「ふふっ。帰りましょう」

 私の婚約者は私にとっては運命ではない。
 婚約者も私には運命を感じなかったと言った。

 運命にならない彼女が一番安心する。

「でも、運命だけが貴方を底抜けに愛すと思っていました?」


 彼女は運命ではない婚約者を愛していた。
 その愛は、運命よりも深く、何よりも重い。

 それもまた『運命』と言わざるを得ない。

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感想 1

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みんなの感想(1件)

kokekokko
2026.02.05 kokekokko

なんだか全話めちゃくちゃ楽しいし、着眼点が新しくて、そうだよね、番なら何でもハッピーじゃないよね、と思いながら読みました。他作品もまたお邪魔します。

2026.02.06 夏見颯一

感想ありがとうございます!

他の作品も宜しくお願いします!

解除

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