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第1章 乙女ゲーの世界に転生しました
12 第三王子
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「その物言い……いや、そんなはずは……」
ルーク様は顎に手を添えて考え込んでいる。このままだと私の正体に辿り着いてしまいそうだ。リディアの記憶様、この場はどうかお鎮まり下さい。
「で、では私はこれで失礼致しますわ」
私はリディアの記憶の暴走を抑え込み、そそくさと部屋を辞そうとしたが、ルーク様が腕を掴んできた。
「淑女の腕を無断で掴むなんて紳士にあるまじき――」
言い淀み、私はうっと息を飲んだ。
ルーク様が至近距離でまじまじと私を観察してきたからだ。
近い近い近い! 乙女ゲーでは百戦錬磨でもリアルでは恋愛免疫ゼロの元三十路前社畜OLには刺激が強すぎる。
十代中頃のルーク様にどぎまぎさせられるなんて大人として情けない。だけど仕方ないじゃん! 青春時代にプレイした乙女ゲーのキャラとか死ぬまで推しみたいなものなんだからさ!
「信じられない……君は、リディア、なのか……?」
ルーク様は目を丸くした。はいバレました。リディアの記憶のバカ。今度実家にあるお気に入りのブラシをへし折ってやる。
「いい加減手を離してくださいませんか?」
「ご、ごめん……!」
ルーク様はさっと身を引いた。ルーク様の顔面に驚愕が張り付いたままなのがリディアとしては面白い。私としては頭を抱えたい気持ちでいっぱいだ。
「驚いたよ。先日会ったときとはまるで別人だ。変わり果てた……いや、見違えたよ」
私が婚約破棄されたパーティにルーク様も参加していた。あのときも私に無関心の様子だったが、今回はエレオノール様を救い出したことで瞳にありありと興味が宿っている。
「ようやくお気付きですか。そんな有様で次期国王としてやっていけるか不安ですわ」
もう止めてリディアの記憶様。そうやってヘイトを稼いできたから色んな人に嫌われてきたんだよ?
「君の言う通りだね。人を見る目には自信があったつもりだけど、僕の目は曇っていたようだ。まさか君ほどの逸材を見逃していたなんて」
ルーク様の目が完全に品定めモードになっている。リディアなら嬉しかっただろうけど、私としては大迷惑だ。
とはいえ、これはチャンスだと考えるべきだ。ここでルーク様と良好な関係を築いておけばこの先主人公との関係を進展させるために動きやすくなる。
「本当に驚いたよ。あの悪名高いハワード盗賊団を一人で倒せる力を君が持っていたなんてね。実力を隠すなんて人が悪い」
ルーク様は私の力を有用と判断したようだ。交流を深める取っ掛かりにはいいけど、都合よく力を利用される可能性も出てきた。立ち回りには注意が必要だ。
「あの程度の輩に手を焼くようでは王国の先行きが不安ですわ」
「あの程度、か。奴らは他国にも知られているほどの悪名高い盗賊団だ。今まで足取りを掴むことさえ難しくて、遭遇しても手練れ揃いで捕まえることができなかったのに、それを君は一人で制圧した。その口振りだと余力もあったようだね」
えっ? あの盗賊団そんなに有名だったの? リディアの記憶に情報がなかったから気に留めていなかった。というかリディア悪党に興味なさすぎ。おかげでまたリディアの記憶に引っ張られて偉そうなことを言ってしまった。
強くなり過ぎて自分より弱い相手の強弱がわからなくなっているのは問題だ。これからは言動に注意する必要がありそうだ。
「改めて、母上を助けてくれてありがとう。それと君への数々の無礼を謝罪するよ。これからは仲良くしてくれると嬉しいな」
ルーク様は人懐っこい笑みを浮かべた。リディア的には高得点。しかし私的には胡散臭い。何かあればこちらを利用しようと虎視眈々だ。美形な見た目に騙されてはいけない。ルーク様の本質は合理主義の腹黒なのだから。
「お話は終わったかしら?」
エレオノール様が訊ねてきた。
「失礼しました、母上。しかし本当に驚きました。母上を救ったのがリディアだったなんて。どうして言ってくれなかったのですか?」
「正体を隠してほしいってお願いがあったの。だから言えなかったのだけど、あなたは自力で彼女がリディアだと気付いた。私が約束を破ったことにはならないわよね?」
やられた。こうなるのを見越して私を部屋に連れ込んだと見える。ルーク様の腹黒はエレオノール様譲りのようだ。
「それにしても嬉しいわ。あなたを王家の人間として迎えられるのだもの。王国の未来は安泰ね」
エレオノール様は嬉しそうに微笑んだが、対照的にルーク様は表情を暗くした。
「母上、実はそのことでお話が……」
「ご無事ですかな! 母上!」
ルーク様の口上を遮るようにアホ王子が部屋にやってきた。出たなこの世界のおバカ代表。
「見ての通り平気よ。さっきまで発作でちょっと苦しかったけどね」
「そうでしたか。母上が盗賊に襲われたと聞いたときは生きた心地がしませんでしたが、ご無事で安心致しました……どうやら客人もいるようなので私はこれで」
アホ王子はこれ見よがしにマントを翻した。実の母が殺されそうになったのにそれだけ? どこまで私の株を落とせば気が済むんだこいつ。
それだけじゃない。リディアの記憶が強く反応している。
リディアがきつい性格になったのはアホ王子にも一因がある。
アホ王子はリディアという婚約者がいるのに地位を利用して女遊びばかりしていた。内心では侮蔑していても、相手は第三王子で婚約者。自分が不甲斐ないせいで振り向いてもらえないのだと自信を失くし、それを取り戻すために公爵家令嬢らしくあろうと自分にも他人にも厳しくなっていったのだ。
そうしてリディアは無茶なスケジュールを組んで勉強と習い事に励んでいたが、疲労が原因で乗馬中に意識を失って落下、頭を強打して死亡してしまう。そこに魔王の魂が宿り、意識が混ざり合ったことで人格に変化が生じてしまったのだ。
ルーク様は顎に手を添えて考え込んでいる。このままだと私の正体に辿り着いてしまいそうだ。リディアの記憶様、この場はどうかお鎮まり下さい。
「で、では私はこれで失礼致しますわ」
私はリディアの記憶の暴走を抑え込み、そそくさと部屋を辞そうとしたが、ルーク様が腕を掴んできた。
「淑女の腕を無断で掴むなんて紳士にあるまじき――」
言い淀み、私はうっと息を飲んだ。
ルーク様が至近距離でまじまじと私を観察してきたからだ。
近い近い近い! 乙女ゲーでは百戦錬磨でもリアルでは恋愛免疫ゼロの元三十路前社畜OLには刺激が強すぎる。
十代中頃のルーク様にどぎまぎさせられるなんて大人として情けない。だけど仕方ないじゃん! 青春時代にプレイした乙女ゲーのキャラとか死ぬまで推しみたいなものなんだからさ!
「信じられない……君は、リディア、なのか……?」
ルーク様は目を丸くした。はいバレました。リディアの記憶のバカ。今度実家にあるお気に入りのブラシをへし折ってやる。
「いい加減手を離してくださいませんか?」
「ご、ごめん……!」
ルーク様はさっと身を引いた。ルーク様の顔面に驚愕が張り付いたままなのがリディアとしては面白い。私としては頭を抱えたい気持ちでいっぱいだ。
「驚いたよ。先日会ったときとはまるで別人だ。変わり果てた……いや、見違えたよ」
私が婚約破棄されたパーティにルーク様も参加していた。あのときも私に無関心の様子だったが、今回はエレオノール様を救い出したことで瞳にありありと興味が宿っている。
「ようやくお気付きですか。そんな有様で次期国王としてやっていけるか不安ですわ」
もう止めてリディアの記憶様。そうやってヘイトを稼いできたから色んな人に嫌われてきたんだよ?
「君の言う通りだね。人を見る目には自信があったつもりだけど、僕の目は曇っていたようだ。まさか君ほどの逸材を見逃していたなんて」
ルーク様の目が完全に品定めモードになっている。リディアなら嬉しかっただろうけど、私としては大迷惑だ。
とはいえ、これはチャンスだと考えるべきだ。ここでルーク様と良好な関係を築いておけばこの先主人公との関係を進展させるために動きやすくなる。
「本当に驚いたよ。あの悪名高いハワード盗賊団を一人で倒せる力を君が持っていたなんてね。実力を隠すなんて人が悪い」
ルーク様は私の力を有用と判断したようだ。交流を深める取っ掛かりにはいいけど、都合よく力を利用される可能性も出てきた。立ち回りには注意が必要だ。
「あの程度の輩に手を焼くようでは王国の先行きが不安ですわ」
「あの程度、か。奴らは他国にも知られているほどの悪名高い盗賊団だ。今まで足取りを掴むことさえ難しくて、遭遇しても手練れ揃いで捕まえることができなかったのに、それを君は一人で制圧した。その口振りだと余力もあったようだね」
えっ? あの盗賊団そんなに有名だったの? リディアの記憶に情報がなかったから気に留めていなかった。というかリディア悪党に興味なさすぎ。おかげでまたリディアの記憶に引っ張られて偉そうなことを言ってしまった。
強くなり過ぎて自分より弱い相手の強弱がわからなくなっているのは問題だ。これからは言動に注意する必要がありそうだ。
「改めて、母上を助けてくれてありがとう。それと君への数々の無礼を謝罪するよ。これからは仲良くしてくれると嬉しいな」
ルーク様は人懐っこい笑みを浮かべた。リディア的には高得点。しかし私的には胡散臭い。何かあればこちらを利用しようと虎視眈々だ。美形な見た目に騙されてはいけない。ルーク様の本質は合理主義の腹黒なのだから。
「お話は終わったかしら?」
エレオノール様が訊ねてきた。
「失礼しました、母上。しかし本当に驚きました。母上を救ったのがリディアだったなんて。どうして言ってくれなかったのですか?」
「正体を隠してほしいってお願いがあったの。だから言えなかったのだけど、あなたは自力で彼女がリディアだと気付いた。私が約束を破ったことにはならないわよね?」
やられた。こうなるのを見越して私を部屋に連れ込んだと見える。ルーク様の腹黒はエレオノール様譲りのようだ。
「それにしても嬉しいわ。あなたを王家の人間として迎えられるのだもの。王国の未来は安泰ね」
エレオノール様は嬉しそうに微笑んだが、対照的にルーク様は表情を暗くした。
「母上、実はそのことでお話が……」
「ご無事ですかな! 母上!」
ルーク様の口上を遮るようにアホ王子が部屋にやってきた。出たなこの世界のおバカ代表。
「見ての通り平気よ。さっきまで発作でちょっと苦しかったけどね」
「そうでしたか。母上が盗賊に襲われたと聞いたときは生きた心地がしませんでしたが、ご無事で安心致しました……どうやら客人もいるようなので私はこれで」
アホ王子はこれ見よがしにマントを翻した。実の母が殺されそうになったのにそれだけ? どこまで私の株を落とせば気が済むんだこいつ。
それだけじゃない。リディアの記憶が強く反応している。
リディアがきつい性格になったのはアホ王子にも一因がある。
アホ王子はリディアという婚約者がいるのに地位を利用して女遊びばかりしていた。内心では侮蔑していても、相手は第三王子で婚約者。自分が不甲斐ないせいで振り向いてもらえないのだと自信を失くし、それを取り戻すために公爵家令嬢らしくあろうと自分にも他人にも厳しくなっていったのだ。
そうしてリディアは無茶なスケジュールを組んで勉強と習い事に励んでいたが、疲労が原因で乗馬中に意識を失って落下、頭を強打して死亡してしまう。そこに魔王の魂が宿り、意識が混ざり合ったことで人格に変化が生じてしまったのだ。
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・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
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