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第1章 乙女ゲーの世界に転生しました
33 見知らない少年
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ベヒーモスは凶悪な外見に似合わずおとなしくしている。言うことを聞いてくれそうな雰囲気だけど、それはそれで伝説の魔獣を従えたあいつは何者なんだってことになってしまう。
よし、ここは被害者が出ない範囲でベヒーモスに建物を破壊させて制御できませんの体を装いつつ、そのあとでベヒーモスを追い払って召喚魔法は失敗だったと言い逃れしよう。
「まったく、いつ呼んでくれるのかと待っておったら我を無視してこんな獣を呼びだすとはな」
聞き覚えのない声がしたときだった。私の魔法陣が金色に変わると同時にベヒーモスが煙のように消え、代わりに見知らない銀髪金眼の少年が姿を現わした。
見覚えのない子だし、声も中性的で全然違うけど、この口調は間違いなく星神竜のものだ。
「ん? ここは人間の学び舎か。世界を回ってみて思ったが、我が眠っているあいだに随分と発展したようだな」
少年(多分星神竜)は興味深そうに周囲を見渡した。
「み、ミス・クラウディウス! その子は!? さっきのベヒーモスは!? あなたは一体何をしたの!?」
イザベル先生が矢継早に訊ねてきた。すみません。私もまだよくわかってないんです。
「お、おい! いきなりどうしたってんだ!?」
ディランが騒ぎ出した。何事かと思って目をやると、ディランが召喚したフェニックスが地に伏せ、頭を垂れていた。
フェニックスだけではない。他の生徒が喚び出した召喚獣も一様に頭を下げている。まるで王に跪いているかのようだ。
「おお、皆元気であったか。そう堅苦しくせんでよい。楽にせよ」
少年の鶴の一声で召喚獣たちは緊張を解した。
「し、召喚獣が、頭を下げた……? 気位の高い幻獣と精霊が誰かに傅くなんてあり得ない……契約者とも対等な関係だというのに……一体何が起きてるの……? その少年は、なんな、の……?」
イザベル先生は泡を吹いて卒倒してしまった。血の気が引くのを感じながら振り返ると、生徒全員の視線が私に集まっていた。目が完全に説明しろと訴えている。
「わ、私、間違えて召喚魔法ではなくて違う魔法を使ってしまったようですわ……?」
「何を言っている? お前は間違いなく召喚魔法で我を喚び出したのだぞ。この我、星神――」
「ちょーっとこちらに来ていただきますわよ!」
私は何故か少年に化けている星神竜の腕を引っ掴み、人気のない場所まで連れ込んだ。
「何を慌てておるのだ?」
「慌てるに決まってるでしょ!? あんた星神竜だよね!? その姿は何なの!?」
「む? 何やら口調が違うようだが、よもやこちらがお前の素なのか?」
「そんなことはどうでもいいから! わかりやすく簡潔に説明して!」
「せっかちな奴め。実はあの姿で移動すると目立つようでな。魔族どもが住んでいる辺りを飛んでいたら奴ら躍起になって我を攻撃してきおった。仕置に半数を蹴散らしたあとで飛び去ったのだが、争いごとは面倒と思い人の姿に化けたのだ。様になっているとは思わんか?」
「……色々と聞き捨てならないことを言ってた気がするけど、何でその姿になったのよ?」
星神竜は小学生くらいの少年に化けている。中身お爺ちゃんとかそんなレベルじゃないくらい年取ってるでしょこいつ。
「初めからこうだったわけではないぞ? 色んな年齢を試してみたが、この姿だと親切にしてくれる人間の女子が多くてな。よく飯を馳走になっている。そうだ思い出した! 我はあれが気に入ったぞ! 何と言ったか……そう、すいーつだ! あれほど口に幸せが広がる味は初めてだ。人間も中々やるではないか!」
「あんたがやりたい放題やる奴だってことはよくわかったわ……それはそれとして長生きしてるあんたの知恵を貸してもらいたいんだけど」
私は今置かれている状況を説明した。
「なるほど。召喚魔法の授業でベヒーモスを喚び出したあとで我が出てきて皆混乱していると」
「それだけじゃない。何で召喚獣がみんなあんたに頭を下げたの?」
「何を訳のわからないことを。幻獣や精霊らは星の龍脈から生まれた存在なのだぞ? 星の始まりと共に誕生した我は奴らにとって長兄。然るべき礼儀ではないか」
「……そんな設定があったのはさすがに知らなかったわ」
設定資料集とか読まないからなー私……。
「あんたの正体がバレたら大騒ぎじゃ済まなくなるからどうにか誤魔化してほしいんだけど」
女神ティアナが降臨する前からこの星に先住していた幻の竜。ティアナ教に実在を隠蔽され、僅かな伝承でしか知られていない伝説の存在が人間の姿になって突然現れた。どうなるか想像しただけで頭が痛くなる。
「そこまで言うなら仕方あるまい。ここは我が一肌脱ぐとしよう」
「頼んだわよ、本当に!」
私は星神竜(少年)を連れてみんなのところに戻った。
「り、リディア様? 大丈夫ですか?」
クリスタが心配そうな顔で訊ねてきた。大丈夫には私が思っている以上に多くの意味が詰まっていそうだ。
「リディア、何が起きたのか説明してくれないか?」
ルーク様は顔色に不信感を滲ませている。下手な嘘は通じそうにない。あいつどう乗り切るつもりなんだろ。
「皆の者、驚かせてすまなかったな。我は土の精霊ノームの古代種だ。ティアナと面識があるほど永い時を生きてきたのだぞ」
「女神ティアナ様と面識が!?」
ルーク様は目の色を変えた。女神様を気安く呼んでるから知り合いではあるんだろうけど、この状況でその発言は焼け石に水じゃないかな!?
よし、ここは被害者が出ない範囲でベヒーモスに建物を破壊させて制御できませんの体を装いつつ、そのあとでベヒーモスを追い払って召喚魔法は失敗だったと言い逃れしよう。
「まったく、いつ呼んでくれるのかと待っておったら我を無視してこんな獣を呼びだすとはな」
聞き覚えのない声がしたときだった。私の魔法陣が金色に変わると同時にベヒーモスが煙のように消え、代わりに見知らない銀髪金眼の少年が姿を現わした。
見覚えのない子だし、声も中性的で全然違うけど、この口調は間違いなく星神竜のものだ。
「ん? ここは人間の学び舎か。世界を回ってみて思ったが、我が眠っているあいだに随分と発展したようだな」
少年(多分星神竜)は興味深そうに周囲を見渡した。
「み、ミス・クラウディウス! その子は!? さっきのベヒーモスは!? あなたは一体何をしたの!?」
イザベル先生が矢継早に訊ねてきた。すみません。私もまだよくわかってないんです。
「お、おい! いきなりどうしたってんだ!?」
ディランが騒ぎ出した。何事かと思って目をやると、ディランが召喚したフェニックスが地に伏せ、頭を垂れていた。
フェニックスだけではない。他の生徒が喚び出した召喚獣も一様に頭を下げている。まるで王に跪いているかのようだ。
「おお、皆元気であったか。そう堅苦しくせんでよい。楽にせよ」
少年の鶴の一声で召喚獣たちは緊張を解した。
「し、召喚獣が、頭を下げた……? 気位の高い幻獣と精霊が誰かに傅くなんてあり得ない……契約者とも対等な関係だというのに……一体何が起きてるの……? その少年は、なんな、の……?」
イザベル先生は泡を吹いて卒倒してしまった。血の気が引くのを感じながら振り返ると、生徒全員の視線が私に集まっていた。目が完全に説明しろと訴えている。
「わ、私、間違えて召喚魔法ではなくて違う魔法を使ってしまったようですわ……?」
「何を言っている? お前は間違いなく召喚魔法で我を喚び出したのだぞ。この我、星神――」
「ちょーっとこちらに来ていただきますわよ!」
私は何故か少年に化けている星神竜の腕を引っ掴み、人気のない場所まで連れ込んだ。
「何を慌てておるのだ?」
「慌てるに決まってるでしょ!? あんた星神竜だよね!? その姿は何なの!?」
「む? 何やら口調が違うようだが、よもやこちらがお前の素なのか?」
「そんなことはどうでもいいから! わかりやすく簡潔に説明して!」
「せっかちな奴め。実はあの姿で移動すると目立つようでな。魔族どもが住んでいる辺りを飛んでいたら奴ら躍起になって我を攻撃してきおった。仕置に半数を蹴散らしたあとで飛び去ったのだが、争いごとは面倒と思い人の姿に化けたのだ。様になっているとは思わんか?」
「……色々と聞き捨てならないことを言ってた気がするけど、何でその姿になったのよ?」
星神竜は小学生くらいの少年に化けている。中身お爺ちゃんとかそんなレベルじゃないくらい年取ってるでしょこいつ。
「初めからこうだったわけではないぞ? 色んな年齢を試してみたが、この姿だと親切にしてくれる人間の女子が多くてな。よく飯を馳走になっている。そうだ思い出した! 我はあれが気に入ったぞ! 何と言ったか……そう、すいーつだ! あれほど口に幸せが広がる味は初めてだ。人間も中々やるではないか!」
「あんたがやりたい放題やる奴だってことはよくわかったわ……それはそれとして長生きしてるあんたの知恵を貸してもらいたいんだけど」
私は今置かれている状況を説明した。
「なるほど。召喚魔法の授業でベヒーモスを喚び出したあとで我が出てきて皆混乱していると」
「それだけじゃない。何で召喚獣がみんなあんたに頭を下げたの?」
「何を訳のわからないことを。幻獣や精霊らは星の龍脈から生まれた存在なのだぞ? 星の始まりと共に誕生した我は奴らにとって長兄。然るべき礼儀ではないか」
「……そんな設定があったのはさすがに知らなかったわ」
設定資料集とか読まないからなー私……。
「あんたの正体がバレたら大騒ぎじゃ済まなくなるからどうにか誤魔化してほしいんだけど」
女神ティアナが降臨する前からこの星に先住していた幻の竜。ティアナ教に実在を隠蔽され、僅かな伝承でしか知られていない伝説の存在が人間の姿になって突然現れた。どうなるか想像しただけで頭が痛くなる。
「そこまで言うなら仕方あるまい。ここは我が一肌脱ぐとしよう」
「頼んだわよ、本当に!」
私は星神竜(少年)を連れてみんなのところに戻った。
「り、リディア様? 大丈夫ですか?」
クリスタが心配そうな顔で訊ねてきた。大丈夫には私が思っている以上に多くの意味が詰まっていそうだ。
「リディア、何が起きたのか説明してくれないか?」
ルーク様は顔色に不信感を滲ませている。下手な嘘は通じそうにない。あいつどう乗り切るつもりなんだろ。
「皆の者、驚かせてすまなかったな。我は土の精霊ノームの古代種だ。ティアナと面識があるほど永い時を生きてきたのだぞ」
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