40 / 56
第1章 乙女ゲーの世界に転生しました
40 生徒会長
しおりを挟む
知っているイベントを目にできて安心したのも束の間、何とその相談が私に来たのだ。
仲がよろしくないルーク様が除外されるのはこの際仕方ないとして、ディランとクラウスではなくて何で私? と思いながら食事制限をしたほうがいいだの、運動量を増やせばいいだのありきたりな助言をしたが、その流れで毎朝ダイエットの手伝いをすることになった。これも本来は攻略対象とするやつなわけで……。
他にも好感度アップの小イベントが発生したものの、攻略対象ではなく私にフラグが立ち続けている。
おそらくクリスタは誰かと恋愛するよりも友情を育むことを優先しているのだろう。それでいいのか乙女ゲーの主人公。それとあれだけ美形が揃っていてクリスタに意識してもらえないとか顔面を宝の持ち腐れにしている。攻略対象が聞いて呆れる。
(やっぱり余計なことはするべきじゃなかったのかな……)
ゲーム本編のリディアは魔王の魂が宿った影響で悪意が増大していた。平民でありながら聖女として学院に迎えられたクリスタに嫉妬心を抱き、事ある毎にクリスタに嫌がらせを仕掛けていた。それが原因で攻略対象たちから見限られ、果てには悪意を加速させるリディアに恐怖した取り巻きも離れていき、孤独になったリディアは魔王へと覚醒していく。
ゲーム本編のように悪役令嬢ムーブしたほうがストーリーに不都合はなかったかもしれないけど、それじゃ死の運命から逃れられないからあれこれ動いたわけで……。
(そういえばルートによって魔王の姿も強さも違うんだよね)
ルーク様ルートの魔王はリディアの意識が表に出た状態の魔王。
ディランルートの魔王は理性を失った暴走状態の魔王。
クラウスルートの魔王は一族に呪いをかけた魔女と意識が混じり合った魔王。
共通ルートの魔王は意識と力を完全に取り戻した真なる魔王。
トゥルールートの魔王も真なる魔王だが、死闘の果てに殺さず和解する。
今の私は真なる魔王だけど、意識は前世の私そのものだ。時々リディアと魔王の記憶が作用して思っていなかった言葉が飛び出すこともあるが、今のところ問題はそれくらいだ。何とか誤魔化せないこともない。
ともあれ、先んじて裏ボスを倒してしまったり、あとに起きるはずだったイベントを先に消化してしまったり、クリスタと攻略対象たちの距離が縮まる重要イベントを先に解決してしまったり、思いがけずやりたい放題やってしまったせいで物語が大きく変化してしまった。
悪気があったわけではない。すべてはクリスタたちに討たれる死の運命から逃れるためだ。
前世では毎朝早くから出勤し、毎日毎日パソコンと向き合って終電ぎりぎりまで残業していた。やがてそんな鬱屈とした人生を変えることができないまま死んでしまった。
せっかく転生したのだ。狭いビルの一室に押し込められていたあの日々とは違う、大空の下で自由に生きていきたい。
だからと言って、魔王の力にかまけて全部暴力で解決はしたくない。そんなことをしたら私が死ぬほど嫌っていたパワハラ上司と同類になってしまうし、せっかく友人になったクリスタたちと対立することになる。可能な限り波風を立てず、必要に応じたときにだけ力を振るうのが望ましい。
(当面はリディアとしてクリスタたちと過ごせばいいけど、魔王としてはどうするべきなんだろ?)
ゲーム本編の魔王は復活後に魔族と接触し、大軍を率いて王都へと侵攻した、ように見えた。
ゲーム本編はクリスタの一人称で物語が語られていくので、その裏で魔王が具体的にどんな活動をしていたのかわからない。とりあえずおとなしくしていれば魔族は私の復活に気付かないだろうと思い、学生生活を満喫しているが、いずれ魔族側から接触があるかもしれない。シンも学院に魔族が潜入してるって言ってたし。
(もしそうなったら面倒だよね)
間違いなく魔王としての責務を求められるだろう。その展開は可能な限り終盤まで残しておきたい。
私の理想は、トゥルールートでクリスタとルーク様が結ばれるのを見届けたあとで退位し、後続に王冠を譲ることだ。晴れて自由の身になった私は冒険に出るなり、良い相手を見付けて恋をするなりできるわけだ。田舎で動物に囲まれて暮らすのも悪くない。しかもこれらは一例でしかない。今生の私にはたくさんの選択肢があるのだ。
そのためにも二人にはくっついてもらわないと困るのだが、顔を合わせる度に言い争ってばかりだ。
エレオノール様を救った私にルーク様が恩義を感じて友好的に接してくれるのはわかる。
不安でいっぱいだったところを私が親切にしたことで、クリスタが私を慕ってくれるようになったのもわかる。
わからないのは、何故あの二人があれほど険悪になってしまったかだ。よく私を引き合いに出して言い争っているが、それはおそらく口喧嘩をする口実にすぎない。
私が知らないところで二人の間に何かあったのだ。今度二人に会ったらそれとなく何があったか訊いてみるとしよう。
「おや、こんなところで奇遇じゃないか」
聞き覚えのある声に私はげんなりした。
振り返ると、そこには黒髪赤目の優男の姿があった。
この優男はイグナシオ・ヘンストリッジ。この学院の生徒会長だ。
主人公と攻略対象たちが生徒会に入るのは乙女ゲーの定番だが、この世界は違う。ルーク様は公務の一部、ディランは騎士団の訓練、クラウスは次期公爵としてやることがあり、生徒会に入れる状況ではないのだ。ちなみにゲーム本編のリディアは生徒会に在籍していて、その権威を利用してクリスタに何かと嫌がらせをしていた。
仲がよろしくないルーク様が除外されるのはこの際仕方ないとして、ディランとクラウスではなくて何で私? と思いながら食事制限をしたほうがいいだの、運動量を増やせばいいだのありきたりな助言をしたが、その流れで毎朝ダイエットの手伝いをすることになった。これも本来は攻略対象とするやつなわけで……。
他にも好感度アップの小イベントが発生したものの、攻略対象ではなく私にフラグが立ち続けている。
おそらくクリスタは誰かと恋愛するよりも友情を育むことを優先しているのだろう。それでいいのか乙女ゲーの主人公。それとあれだけ美形が揃っていてクリスタに意識してもらえないとか顔面を宝の持ち腐れにしている。攻略対象が聞いて呆れる。
(やっぱり余計なことはするべきじゃなかったのかな……)
ゲーム本編のリディアは魔王の魂が宿った影響で悪意が増大していた。平民でありながら聖女として学院に迎えられたクリスタに嫉妬心を抱き、事ある毎にクリスタに嫌がらせを仕掛けていた。それが原因で攻略対象たちから見限られ、果てには悪意を加速させるリディアに恐怖した取り巻きも離れていき、孤独になったリディアは魔王へと覚醒していく。
ゲーム本編のように悪役令嬢ムーブしたほうがストーリーに不都合はなかったかもしれないけど、それじゃ死の運命から逃れられないからあれこれ動いたわけで……。
(そういえばルートによって魔王の姿も強さも違うんだよね)
ルーク様ルートの魔王はリディアの意識が表に出た状態の魔王。
ディランルートの魔王は理性を失った暴走状態の魔王。
クラウスルートの魔王は一族に呪いをかけた魔女と意識が混じり合った魔王。
共通ルートの魔王は意識と力を完全に取り戻した真なる魔王。
トゥルールートの魔王も真なる魔王だが、死闘の果てに殺さず和解する。
今の私は真なる魔王だけど、意識は前世の私そのものだ。時々リディアと魔王の記憶が作用して思っていなかった言葉が飛び出すこともあるが、今のところ問題はそれくらいだ。何とか誤魔化せないこともない。
ともあれ、先んじて裏ボスを倒してしまったり、あとに起きるはずだったイベントを先に消化してしまったり、クリスタと攻略対象たちの距離が縮まる重要イベントを先に解決してしまったり、思いがけずやりたい放題やってしまったせいで物語が大きく変化してしまった。
悪気があったわけではない。すべてはクリスタたちに討たれる死の運命から逃れるためだ。
前世では毎朝早くから出勤し、毎日毎日パソコンと向き合って終電ぎりぎりまで残業していた。やがてそんな鬱屈とした人生を変えることができないまま死んでしまった。
せっかく転生したのだ。狭いビルの一室に押し込められていたあの日々とは違う、大空の下で自由に生きていきたい。
だからと言って、魔王の力にかまけて全部暴力で解決はしたくない。そんなことをしたら私が死ぬほど嫌っていたパワハラ上司と同類になってしまうし、せっかく友人になったクリスタたちと対立することになる。可能な限り波風を立てず、必要に応じたときにだけ力を振るうのが望ましい。
(当面はリディアとしてクリスタたちと過ごせばいいけど、魔王としてはどうするべきなんだろ?)
ゲーム本編の魔王は復活後に魔族と接触し、大軍を率いて王都へと侵攻した、ように見えた。
ゲーム本編はクリスタの一人称で物語が語られていくので、その裏で魔王が具体的にどんな活動をしていたのかわからない。とりあえずおとなしくしていれば魔族は私の復活に気付かないだろうと思い、学生生活を満喫しているが、いずれ魔族側から接触があるかもしれない。シンも学院に魔族が潜入してるって言ってたし。
(もしそうなったら面倒だよね)
間違いなく魔王としての責務を求められるだろう。その展開は可能な限り終盤まで残しておきたい。
私の理想は、トゥルールートでクリスタとルーク様が結ばれるのを見届けたあとで退位し、後続に王冠を譲ることだ。晴れて自由の身になった私は冒険に出るなり、良い相手を見付けて恋をするなりできるわけだ。田舎で動物に囲まれて暮らすのも悪くない。しかもこれらは一例でしかない。今生の私にはたくさんの選択肢があるのだ。
そのためにも二人にはくっついてもらわないと困るのだが、顔を合わせる度に言い争ってばかりだ。
エレオノール様を救った私にルーク様が恩義を感じて友好的に接してくれるのはわかる。
不安でいっぱいだったところを私が親切にしたことで、クリスタが私を慕ってくれるようになったのもわかる。
わからないのは、何故あの二人があれほど険悪になってしまったかだ。よく私を引き合いに出して言い争っているが、それはおそらく口喧嘩をする口実にすぎない。
私が知らないところで二人の間に何かあったのだ。今度二人に会ったらそれとなく何があったか訊いてみるとしよう。
「おや、こんなところで奇遇じゃないか」
聞き覚えのある声に私はげんなりした。
振り返ると、そこには黒髪赤目の優男の姿があった。
この優男はイグナシオ・ヘンストリッジ。この学院の生徒会長だ。
主人公と攻略対象たちが生徒会に入るのは乙女ゲーの定番だが、この世界は違う。ルーク様は公務の一部、ディランは騎士団の訓練、クラウスは次期公爵としてやることがあり、生徒会に入れる状況ではないのだ。ちなみにゲーム本編のリディアは生徒会に在籍していて、その権威を利用してクリスタに何かと嫌がらせをしていた。
2
あなたにおすすめの小説
追放されたヒロインですが、今はカフェ店長してます〜元婚約者が毎日通ってくるのやめてください〜
タマ マコト
ファンタジー
王国一の聖女リリアは、婚約者である勇者レオンから突然「裏切り者」と断罪され、婚約も職も失う。理由は曖昧、けれど涙は出ない。
静かに城を去ったリリアは、旅の果てに港町へ辿り着き、心機一転カフェを開くことを決意。
古びた店を修理しながら、元盗賊のスイーツ職人エマ、謎多き魔族の青年バルドと出会い、少しずつ新しい居場所を作っていく。
「もう誰かの聖女じゃなくていい。今度は、私が笑える毎日を作るんだ」
──追放された聖女の“第二の人生”が、カフェの湯気とともに静かに始まる。
乙女ゲームの悪役令嬢に転生したけど何もしなかったらヒロインがイジメを自演し始めたのでお望み通りにしてあげました。魔法で(°∀°)
ラララキヲ
ファンタジー
乙女ゲームのラスボスになって死ぬ悪役令嬢に転生したけれど、中身が転生者な時点で既に乙女ゲームは破綻していると思うの。だからわたくしはわたくしのままに生きるわ。
……それなのにヒロインさんがイジメを自演し始めた。ゲームのストーリーを展開したいと言う事はヒロインさんはわたくしが死ぬ事をお望みね?なら、わたくしも戦いますわ。
でも、わたくしも暇じゃないので魔法でね。
ヒロイン「私はホラー映画の主人公か?!」
『見えない何か』に襲われるヒロインは────
※作中『イジメ』という表現が出てきますがこの作品はイジメを肯定するものではありません※
※作中、『イジメ』は、していません。生死をかけた戦いです※
◇テンプレ乙女ゲーム舞台転生。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げてます。
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます
なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。
過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。
魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。
そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。
これはシナリオなのかバグなのか?
その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。
【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】
無能な悪役令嬢は静かに暮らしたいだけなのに、超有能な側近たちの勘違いで救国の聖女になってしまいました
黒崎隼人
ファンタジー
乙女ゲームの悪役令嬢イザベラに転生した私の夢は、破滅フラグを回避して「悠々自適なニート生活」を送ること!そのために王太子との婚約を破棄しようとしただけなのに…「疲れたわ」と呟けば政敵が消え、「甘いものが食べたい」と言えば新商品が国を潤し、「虫が嫌」と漏らせば魔物の巣が消滅!? 私は何もしていないのに、超有能な側近たちの暴走(という名の忠誠心)が止まらない!やめて!私は聖女でも策略家でもない、ただの無能な怠け者なのよ!本人の意思とは裏腹に、勘違いで国を救ってしまう悪役令嬢の、全力で何もしない救国ファンタジー、ここに開幕!
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる