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第1章 乙女ゲーの世界に転生しました
51 犯人の正体
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(さて、みんなと話をしたことだし)
私は転移魔法で学院の屋上に移動し、詠唱を始めた。
真なる魔王の力があれば無詠唱でも強力な魔法を使うことができるが、詠唱を加えれば効果はさらに上がる。普段は面倒だから省略しているけど、今回は緊急事態だ。出し惜しみはしない。
「魔力の波動よ、波及し、彼の者の姿を捉え、我が脳裏に映し出せ。エリアサーチ」
私は王都全域に及ぶほどの感知魔法を展開した。無尽蔵の魔力を持つ真なる魔王であっても脳に押し寄せてくる膨大な情報を即座に処理することはできず、私は酷い頭痛を覚えた。
この程度の痛み、納期前の修羅場で寝る間も惜しんでエナドリをがぶ飲みして働き続けていた頃に比べればなんてことはない。
「誰か、お願い……誰か」
人混みの声と馬車の車輪が回る音が邪魔をしていたが、確かにクリスタの声だった。
私は声を辿るために感覚を研ぎ澄ませた。雑音が多くて詳しい場所が特定できない。頭痛で気分が悪くなってきた。情報量が多すぎて頭がパンクしてしまいそうだ。気付けば鼻血を流していたが、私は構わず声が聞こえた先に意識を向けた。
車輪の音が止まった。おそらく検問の列に並んで止まったのだろう。そこまでわかればどこにいるのか絞り込むことができる。
(見付けた! 南門の前だ!)
私は感知魔法を解除し、即座に転移魔法で駆け付けようとしたが、情報処理の過負荷で脳が甚大なダメージを負い、魔法を発動することができなかった。
エリクサーを飲もうにも今の状態では収納魔法さえ開くことができない。こうしている間にもクリスタが連れ去られそうになっているのに!
「取り込み中のようだな。我が友よ」
また呼んでないのにシンが現われた。いつもなら煙たがっているところだが、今回ばかりは絶妙な頃合いに来てくれた。
「いいところに来たね。私を南門まで転移してほしいんだけど」
「友の頼みなら吝かではないが、その状態で行って大丈夫なのか?」
「……ごめん。頭に血が上ってた。先ずは私を回復してくれないかな?」
「構わぬよ。アースヒール」
シンは私に治癒魔法をかけた。名前からして光と地の両属性を合わせた魔法だろうか。効き目は抜群で瞬く間に頭痛が引いていくのがわかる。
「ありがとう。あとは私一人でって言いたいところだけど、たまには召喚獣らしいことをしてよね」
「我の手が必要な事態なのか? 回復してやる程度ならともかく、これ以上となると借りは高くつくぞ」
シンはにやりと笑った。
魔王が言っていたことが脳裏をよぎる。貸しを作ると後々面倒なことになるかもしれない。
「……私だけで何とかするよ」
「ふむ。また何かあれば喚ぶとよい、我が友よ」
シンは霞のように姿を消した。私は一息入れたあとで転移魔法を使い、南門まで飛んだ。すでに王都を発ったのか、待機列にそれらしい馬車は見当たらなかった。
私は転移魔法で郊外へ移動し、感知魔法で周囲を探索した。
すると、逃げるように移動している一台の馬車が感知にかかった。頭痛を覚悟して感覚を研ぎ澄ませてみると、馬車の中で縛られているクリスタの姿をぼんやりと捉えることができた。
「逃がしませんわよ」
私は馬車の前方に転移した。突然出現した私に驚いたのか、馬車は手綱を引いて馬を止めた。
「何事だ! 何故馬車を止めた!?」
馬車からフードを目深に被った男が出てきた。クリスタの他にもう一人いるのはわかっていたが、どうせ会うことになると思って顔は確認しなかった。
「そんなに急いでどこへ行くつもりかしら? 夜逃げにしてはまだ日が高くてよ」
「何を言って……お、お前はリディア・クラウディウス!?」
フードの男は声を引っ繰り返らせた。
この聞き覚えのある耳障りな声は――
「ジェイコブ王子?」
アホ王子こと私の元婚約者だ。何か久しぶりに見た気がする。
「話はあとで聞かせてもらいますわ」
私は間髪入れずダークチェインでジェイコブと御者の動きを封じ、馬車の中を覗き込んだ。
そこには目隠しされて縛られているクリスタの姿があった。
「もう大丈夫ですわよ」
クリスタの拘束を解くと、クリスタは半泣きで私に抱き着いてきた。
「リディア様! ごめんなさい! 私、私……!」
「謝るのは私のほうですわ。不安でしたわよね?」
「いいえ。リディア様が助けにきてくれるって信じていました」
クリスタは泣き笑いを浮かべた。ゲーム本編のクリスタはこの笑顔を攻略対象に向けるのだが、相手が私になってしまった。せっかく白馬の王子様をするチャンスだったのにあの三人は棒に振ってしまったわけだ。それはさておき……。
「王位を狙うだけに飽き足らず聖女を誘拐しようなんて。度を越した大馬鹿ですわね」
ゲーム本編ではアホ王子とクリスタにほぼ絡みはない。人伝に失脚、または死んだと聞かされる程度なので間抜けな王子の印象が強かったけど、まさかこんなことまで仕出かすとは思わなかった。
「ふざけるな! お前さえ、お前さえいなければ私はこんなことにはならなかったんだ!」
「逆恨みもいいところですわ」
己の愚行が招いた不幸を人のせいにするとか図々しいにもほどがある。むしろ公衆の面前で婚約破棄を告げられて恥をかかされた被害者は私だ。こんな特大のおバカと結婚する羽目にならなくて本当によかった。
私は転移魔法で学院の屋上に移動し、詠唱を始めた。
真なる魔王の力があれば無詠唱でも強力な魔法を使うことができるが、詠唱を加えれば効果はさらに上がる。普段は面倒だから省略しているけど、今回は緊急事態だ。出し惜しみはしない。
「魔力の波動よ、波及し、彼の者の姿を捉え、我が脳裏に映し出せ。エリアサーチ」
私は王都全域に及ぶほどの感知魔法を展開した。無尽蔵の魔力を持つ真なる魔王であっても脳に押し寄せてくる膨大な情報を即座に処理することはできず、私は酷い頭痛を覚えた。
この程度の痛み、納期前の修羅場で寝る間も惜しんでエナドリをがぶ飲みして働き続けていた頃に比べればなんてことはない。
「誰か、お願い……誰か」
人混みの声と馬車の車輪が回る音が邪魔をしていたが、確かにクリスタの声だった。
私は声を辿るために感覚を研ぎ澄ませた。雑音が多くて詳しい場所が特定できない。頭痛で気分が悪くなってきた。情報量が多すぎて頭がパンクしてしまいそうだ。気付けば鼻血を流していたが、私は構わず声が聞こえた先に意識を向けた。
車輪の音が止まった。おそらく検問の列に並んで止まったのだろう。そこまでわかればどこにいるのか絞り込むことができる。
(見付けた! 南門の前だ!)
私は感知魔法を解除し、即座に転移魔法で駆け付けようとしたが、情報処理の過負荷で脳が甚大なダメージを負い、魔法を発動することができなかった。
エリクサーを飲もうにも今の状態では収納魔法さえ開くことができない。こうしている間にもクリスタが連れ去られそうになっているのに!
「取り込み中のようだな。我が友よ」
また呼んでないのにシンが現われた。いつもなら煙たがっているところだが、今回ばかりは絶妙な頃合いに来てくれた。
「いいところに来たね。私を南門まで転移してほしいんだけど」
「友の頼みなら吝かではないが、その状態で行って大丈夫なのか?」
「……ごめん。頭に血が上ってた。先ずは私を回復してくれないかな?」
「構わぬよ。アースヒール」
シンは私に治癒魔法をかけた。名前からして光と地の両属性を合わせた魔法だろうか。効き目は抜群で瞬く間に頭痛が引いていくのがわかる。
「ありがとう。あとは私一人でって言いたいところだけど、たまには召喚獣らしいことをしてよね」
「我の手が必要な事態なのか? 回復してやる程度ならともかく、これ以上となると借りは高くつくぞ」
シンはにやりと笑った。
魔王が言っていたことが脳裏をよぎる。貸しを作ると後々面倒なことになるかもしれない。
「……私だけで何とかするよ」
「ふむ。また何かあれば喚ぶとよい、我が友よ」
シンは霞のように姿を消した。私は一息入れたあとで転移魔法を使い、南門まで飛んだ。すでに王都を発ったのか、待機列にそれらしい馬車は見当たらなかった。
私は転移魔法で郊外へ移動し、感知魔法で周囲を探索した。
すると、逃げるように移動している一台の馬車が感知にかかった。頭痛を覚悟して感覚を研ぎ澄ませてみると、馬車の中で縛られているクリスタの姿をぼんやりと捉えることができた。
「逃がしませんわよ」
私は馬車の前方に転移した。突然出現した私に驚いたのか、馬車は手綱を引いて馬を止めた。
「何事だ! 何故馬車を止めた!?」
馬車からフードを目深に被った男が出てきた。クリスタの他にもう一人いるのはわかっていたが、どうせ会うことになると思って顔は確認しなかった。
「そんなに急いでどこへ行くつもりかしら? 夜逃げにしてはまだ日が高くてよ」
「何を言って……お、お前はリディア・クラウディウス!?」
フードの男は声を引っ繰り返らせた。
この聞き覚えのある耳障りな声は――
「ジェイコブ王子?」
アホ王子こと私の元婚約者だ。何か久しぶりに見た気がする。
「話はあとで聞かせてもらいますわ」
私は間髪入れずダークチェインでジェイコブと御者の動きを封じ、馬車の中を覗き込んだ。
そこには目隠しされて縛られているクリスタの姿があった。
「もう大丈夫ですわよ」
クリスタの拘束を解くと、クリスタは半泣きで私に抱き着いてきた。
「リディア様! ごめんなさい! 私、私……!」
「謝るのは私のほうですわ。不安でしたわよね?」
「いいえ。リディア様が助けにきてくれるって信じていました」
クリスタは泣き笑いを浮かべた。ゲーム本編のクリスタはこの笑顔を攻略対象に向けるのだが、相手が私になってしまった。せっかく白馬の王子様をするチャンスだったのにあの三人は棒に振ってしまったわけだ。それはさておき……。
「王位を狙うだけに飽き足らず聖女を誘拐しようなんて。度を越した大馬鹿ですわね」
ゲーム本編ではアホ王子とクリスタにほぼ絡みはない。人伝に失脚、または死んだと聞かされる程度なので間抜けな王子の印象が強かったけど、まさかこんなことまで仕出かすとは思わなかった。
「ふざけるな! お前さえ、お前さえいなければ私はこんなことにはならなかったんだ!」
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