終焉の召喚術師〜悪魔の蔓延る世界に立ち向かう少年たち〜

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第六章 〜故郷への帰還〜②

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翌朝、空が澄み渡るなかでエルクたちは教会の馬車に揺られていた。
リーンズ村を目指す馬車の窓から、ロイドが外を眺めている。
その様子は―――どこか懐かしそうだ。

しばらくすると、馬車は『立ち入り禁止区域』とされた村の入口にたどり着き、一行は馬車から降りる。
朽ちかけた柵に古ぼけた警告札が目に入り、エルクたちは息を呑んだ。

「ここから先は徒歩だ。足元に気をつけろ」

ロイドの一言で、一行は歩みを進める。
荒れ果てた小道には瓦礫が転がり、風化した家々の残骸がかつての暮らしの名残を語っていた。
足元には折れた柱、崩れた屋根の破片が散乱していることから、五人はそれらを避けながら列を成して進んでいく。

やがて、村の中心部へと差し掛かったとき、フィールが立ち止まる。

「―――っ」

その瞳から、静かに涙がこぼれ落ちた。
フィールの目の前に広がっていたのは、瓦礫となった彼の生家だったのだ。

「……大丈夫か?」

隣にいたライナスがそう声をかけると、フィールは涙を拭い、かすかに笑った。

「うん…大丈夫。ちゃんと前に進むって決めたから」

その背中を押すように、エルクが静かに先を歩き出す。

「行こう。祠は……向こうだ」

そして五人は村の裏手にある、かつて『祠』が存在していた場所へと足を運ぶ。
しかし、その祠の入口は―――見る影もなかった。

巨大な岩で厳重に塞がれていたその祠の入口は、いまや跡形もなく砕けた岩の残骸とむき出しの鎚が露わになっていたのだ。
中央には不自然にぽっかりと穿たれた大穴。
まるで地の底へと通じているかのような不気味な空洞が、口を開けていた。

一同が中に足を踏み入れると、地面に…一本の赤褐色の獣の毛が落ちていたのだ。
ロイドがそれを拾い、目を細める。

「……予想は的中したな」

その毛はまさしく、今のライナスの身体を覆う体毛と同じ色、同じ質感だったのだ。

「ここで……俺の身体は奪われたんだ」

ライナスが小さく呟く。
その声には怒りも悲しみもなく、ただ事実だけを受け入れるような静けささえあった。

「入れ替わりが起きた場所……なら、何か残ってるはずだ」

エルクがそう言いながら、祠の奥へと目を凝らす。
するとそのとき、フィールがふと立ち止まり足元を見つめた。

「これ………」

瓦礫の隙間に混じっていたのは、数枚の羽根と小さな虫の死骸だ。
それは腐敗したように変色しており、不気味なほど地面に散らばっていた。

「この羽根……ラムダルで見たのと同じだ」

フィールが顔をあげる。

「ペストマスクの男が飛ばしてきたやつに、間違いない」
「ということは、あいつらもここに来てたってことか」

エルクが顔をしかめると、一同のあいだに重苦しい沈黙が流れた。
封印が破られた村、姿を変えたライナス、そして各地に広がっている大罪の気配。

「崇拝教の計画は、私たちの想像以上に進んでいるのかもしれん」

ロイドの呟きに、誰も言葉を返せなかった。
ただ、崩れた祠の奥から漂う冷たい風が、五人の背筋をそっと撫でる。

そのときだった。

森の奥で何かが動いた気配を、五人が感じ取る。
それは、風のない静かな時間のなかに、突如として訪れた異変だった。

「今、何か―――」

ルーインが剣の柄に手をかけた刹那―――森の奥で何かが這うような気配が音がしたのだ。

「来るぞ―――!」

ロイドの鋭い声が響く。
その直後、森の奥から闇のような影が伸び、まるで陽光そのものを飲み込むかのように、一体を漆黒に包み込んだ。

「何だ、これ……!?昼なのに―――!」

視界が奪われるなか、五人は即座に武器を構える。

「これ、影だ……!」

フィールが叫んだと同時に、闇の中心にひとつの人影が浮かび上がる。
そしてその人影は―――クロスだった。
無表情のままの彼からスッと影が伸び、その影は次々に『クロスと同じ姿』を四体生み出していく。

「影の分身……ッ!?」

その瞬間、戦闘が始まった。
誰が本体かわからないまま、五人はそれぞれ交戦を開始する。
そして、剣と鉤爪の音が深い森の沈黙を切り裂いていく。

「くっ……!」

互いが交戦の邪魔をしないよう距離を取るものの、『誰が』本体と対峙しているのかわからない。
そこでエルクは、真正面からの鍔迫り合いのなかで、不敵に口元を歪めた。

「なぁ…教えてやろうか?―――『ガブリエル』…リン=ユナの居場所を」
「―――っ」

その言葉を聞いた瞬間、エルクの目の前のクロスの眉がぴくりと動いた。
そして、刃に込められた力が、明らかに増したのだ。

「こいつが本体か―――!」

そう確信したエルクは重力を刃に込め、一気に斬りかかる。
エルクとクロス、本体同士の激突は剣が火花を散らし、地面が唸りを上げて木々が騒めいた。

「―――ッらぁ!」

一瞬の隙を突いて、エルクがクロスの脇腹に膝蹴りを入れる。
するとクロスは小さく呻き、片膝を地に落とした。
だが、すぐに顔を上げて低く呟く。

「……どこだ」

クロスの声には、静かな焦りと苛立ちが混じっていた。
しかし、次の瞬間には立ち上がり、再び影の剣を振るいにかかってくる。

(やっぱこいつ…枢機卿たちに引けをとらない―――!)

重く鋭い一撃の応酬は、サマナー最高位クラスである教皇にも匹敵する。
周りに視線をやると、クロスの分身たちと戦っているフィールたちが押され始めていたのだ。
それは、ロイドやルーインも同じだ。

「……俺たちは、お前たちにこの故郷を奪われた。親もいなくなった。帰る場所も…全部なくなったんだ」

剣を交えるその瞬間に吐いたエルクの言葉は、剣と剣がぶつかる音に紛れてしまう。
だがそれは、クロスの耳には届いていた。
彼の動きが、ほんのわずかに鈍る。

「……っ!」

エルクはその機を逃さなかった。
重力を纏った剣が斜め下から跳ね上がり、クロスの影剣を強引に弾き飛ばす。

「だから……絶対に復讐してやる―――!」

その言葉に、クロスの動きがわずかに鈍る。

(おかしい……)

エルクは剣を振り上げながら直感した。
目の前のクロスは、圧倒的な実力を持ちながらもどこかためらうような動きをしている。
力を出し切っていないような剣撃に、エルクは思わず問う。

「……何を迷ってやがる」

だが、クロスは答えなかった。
ただ無言で、影を纏った剣を握りなおす。
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