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8話
数日後。
なんとか「物理的な消滅」を免れた僕は(腰が砕けるほど酷使されたけれど)、ディルク殿下の静養という名目で、王室所有の避暑地へと連れ出されていた。
エメラルドグリーンに輝く広大な湖のほとり。
ディルク殿下は公務の処理のために一時的に本館へ戻っており、僕の護衛には近衛騎士のユストスがついていた。
「レアン様、あまり水辺に近づきすぎては危のうございます。……もし何かあれば、私がこの身を挺してお守りいたしますので」
「あはは、大丈夫ですよ、ユストス様。……ただ、少し風に当たりたくて」
僕は苦笑いしながらユストスを見た。
彼の鉄仮面のような無表情な顔の下では、今日も『本音』がフル稼働している。
(……ああ、太陽の光を浴びるレアン様。そのプラチナブロンドが透き通って、まるで湖の精霊のようだ。……殿下がいない今、いっそこのまま攫ってしまえたら。……あの薄いシャツの下に隠された、殿下の淫らな『印』を、私の口づけで全て塗り替えてしまいたい……。……いかん、私は騎士だ、騎士だ騎士だ騎士だ……!)
(……ユストス様、心の中で自分に言い聞かせすぎです。全然、騎士の心構えじゃないですよ)
その時、僕の足元が濡れた岩場で滑った。
「あ……っ!」
「レアン様!」
ユストスが咄嗟に僕を抱き止めたが、勢い余って二人で湖の浅瀬に倒れ込んでしまった。
バシャリ、という大きな音とともに、僕たちは全身ずぶ濡れになる。
「……っ、申し訳ございません! 私の不徳の致すところです!」
「いえ、僕が不注意だったから……。……っ、冷たい」
濡れた白いシャツが、吸い付くように僕の肌に張り付く。
琥珀色の瞳を濡らし、僕は邪魔な前髪をかき上げた。
その瞬間、ユストスの喉が、低く大きく鳴るのが聞こえた。
『………………っ!!!! ……なんだ、この光景は。濡れたシャツから透ける、レアン様の柔らかな肌。寒さに震える、無防備な赤い唇。……殿下の印さえなければ、私は今ここで理性を捨てていただろう。……いや、もう限界だ。……少しだけ、指先だけでいい。君の熱を、私に……』
ユストスの手が、震えながら僕の頬に伸びる。
彼の瞳は、もはや騎士のそれではなく、一人の「男」の、飢えた執着に染まっていた。
「レアン……様。……少しだけ、失礼しても……?」
「ユ、ユストス……様……?」
不穏な空気が流れたその時。
背後から、大気を凍らせるような殺気が立ち込めた。
「――ユストス。私のレアンに、その汚らわしい手で触れようとしたのかい?」
そこには、公務を早々に切り上げて戻ってきたディルク殿下が立っていた。
黄金の瞳は完全に濁り、湖の水さえ凍りつくのではないかと思うほどの重圧が放たれている。
(……キ、キタアアアアア! ディルク殿下のガチ切れモード! これよ、これが見たかったのよ!)
茂みの陰で、いつの間にかついてきていたベアトリスが脳内でスタンディングオベーションをしていた。
なんとか「物理的な消滅」を免れた僕は(腰が砕けるほど酷使されたけれど)、ディルク殿下の静養という名目で、王室所有の避暑地へと連れ出されていた。
エメラルドグリーンに輝く広大な湖のほとり。
ディルク殿下は公務の処理のために一時的に本館へ戻っており、僕の護衛には近衛騎士のユストスがついていた。
「レアン様、あまり水辺に近づきすぎては危のうございます。……もし何かあれば、私がこの身を挺してお守りいたしますので」
「あはは、大丈夫ですよ、ユストス様。……ただ、少し風に当たりたくて」
僕は苦笑いしながらユストスを見た。
彼の鉄仮面のような無表情な顔の下では、今日も『本音』がフル稼働している。
(……ああ、太陽の光を浴びるレアン様。そのプラチナブロンドが透き通って、まるで湖の精霊のようだ。……殿下がいない今、いっそこのまま攫ってしまえたら。……あの薄いシャツの下に隠された、殿下の淫らな『印』を、私の口づけで全て塗り替えてしまいたい……。……いかん、私は騎士だ、騎士だ騎士だ騎士だ……!)
(……ユストス様、心の中で自分に言い聞かせすぎです。全然、騎士の心構えじゃないですよ)
その時、僕の足元が濡れた岩場で滑った。
「あ……っ!」
「レアン様!」
ユストスが咄嗟に僕を抱き止めたが、勢い余って二人で湖の浅瀬に倒れ込んでしまった。
バシャリ、という大きな音とともに、僕たちは全身ずぶ濡れになる。
「……っ、申し訳ございません! 私の不徳の致すところです!」
「いえ、僕が不注意だったから……。……っ、冷たい」
濡れた白いシャツが、吸い付くように僕の肌に張り付く。
琥珀色の瞳を濡らし、僕は邪魔な前髪をかき上げた。
その瞬間、ユストスの喉が、低く大きく鳴るのが聞こえた。
『………………っ!!!! ……なんだ、この光景は。濡れたシャツから透ける、レアン様の柔らかな肌。寒さに震える、無防備な赤い唇。……殿下の印さえなければ、私は今ここで理性を捨てていただろう。……いや、もう限界だ。……少しだけ、指先だけでいい。君の熱を、私に……』
ユストスの手が、震えながら僕の頬に伸びる。
彼の瞳は、もはや騎士のそれではなく、一人の「男」の、飢えた執着に染まっていた。
「レアン……様。……少しだけ、失礼しても……?」
「ユ、ユストス……様……?」
不穏な空気が流れたその時。
背後から、大気を凍らせるような殺気が立ち込めた。
「――ユストス。私のレアンに、その汚らわしい手で触れようとしたのかい?」
そこには、公務を早々に切り上げて戻ってきたディルク殿下が立っていた。
黄金の瞳は完全に濁り、湖の水さえ凍りつくのではないかと思うほどの重圧が放たれている。
(……キ、キタアアアアア! ディルク殿下のガチ切れモード! これよ、これが見たかったのよ!)
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