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5話
「――カナデさん! またお会いできるなんて、僕、信じられません!」
騎士団の裏門で、カナデは一人の少年に抱きつかれていた。
少年の名は、ルキ。
柔らかな金髪を短く跳ねさせ、大きな瞳を潤ませている。その背中には、カナデが魔導師団時代にこっそり治療して逃がした「翼を持つ猫(ウィングキャット)」が、まるで彼を守るようにふわりと浮いていた。
「ルキ君!? どうしてここに……それに、その格好は」
ルキが着ているのは、魔導師団の見習い服だった。
しかし、その袖はボロボロに破れ、まるで逃げ出してきたかのようだ。
「あの人たちが、カナデさんを連れ戻せってうるさくて……。でも、僕はカナデさんを助けたいんです! 恩人をあんな地獄に戻したくない!」
「ルキ君……」
カナデが感動に目を細め、ルキの頭を撫でようとした――その時。
背後の空間が、バリバリと凍り付くような音を立てて裂けた。
「…………カナデ。その小汚いネズミは、誰だ」
現れたのは、もはや隠す気もないほどの殺気を纏ったヴォルフガングだった。
その背後には、団長の怒りを察知したライカ(白銀虎)が、「やれやれ」と言いたげな顔で控えている。
「あ、団長! 彼はルキ君。僕が昔、魔導師団で仲良くしていた後輩で――」
「後輩、だと?」
ヴォルフガングの瞳が、獲物を定める猛禽類のようにルキを射抜いた。
ルキは一瞬ビクッとしたものの、意外にもカナデの前に立ちはだかり、ヴォルフガングを睨み返した。
「あなたが、カナデさんを無理やり連れ去ったっていう騎士団長ですか! カナデさんは、あなたの所有物じゃありません!」
「ほう……。威勢だけはいいな」
ヴォルフガングの口角が、冷たく吊り上がった。
それは、彼が真に不快な時に見せる「処刑人」の笑みだ。
「だが、身の程を知れ。カナデは、この私が正式な契約をもって雇った『私の』補佐官だ。どこの馬の骨とも知れぬ小僧に、馴れ馴れしく触れられる筋合いはない」
「契約なんて関係ない! 僕はカナデさんのことが、ずっと好きだったんです! 魔導師団の連中から彼を守れるのは、僕だけだと思ってたのに!」
「「…………え?」」
カナデとヴォルフガングの声が重なった。
カナデは「え、僕ってそんなにモテたっけ?」と混乱し、ヴォルフガングは一瞬の静寂の後、手元に魔力の剣を具現化させた。
「……面白い。その舌、二度と甘い言葉が吐けぬよう、根元から凍らせてやろう」
「だ、団長! ストップ! 暴力反対! 彼はただの子供ですよ!」
カナデが必死にヴォルフガングの腕にしがみつく。
すると、ヴォルフガングはピタリと動きを止め、カナデをじろりと見下ろした。
「……カナデ。貴様、この男を庇うのか?」
「庇うっていうか、彼は恩返しに来てくれただけで……」
「私への態度はあんなに素っ気ないくせに、この小僧には、そんなに優しく笑いかけるのか」
(……あ、これ、面倒くさいスイッチが入ったやつだ)
カナデは直感した。
この男、最強の騎士団長でありながら、恋愛に関しては驚くほど精神年齢が低い。いや、低すぎる。
「ヴォルフガング様。彼は魔導師団の情報を漏らしに来てくれたんです。これ、今後の対策に役立ちますよ?」
「……フン。情報の価値は私が判断する。……ゼクス!」
影から現れた副団長に、ヴォルフガングは冷酷に命じた。
「この小僧を地下牢……いや、一番日当たりの悪い物置に放り込んでおけ。カナデとの接触は一切禁ずる」
「団長、それはさすがに……」とゼクスが苦笑するが、ヴォルフガングの目は本気だった。
「聞こえなかったか? カナデの視界に入っていいのは、私と、この虎だけだ」
『……我も、正直巻き込まれたくないのだがな』
ライカが溜息をつく中、ルキは無情にも騎士たちに引きずられていった。
「カナデさーーん! 必ず助け出しますからねーー!」という叫び声を残して。
嵐が去った後、ヴォルフガングは無言でカナデを抱き上げると、そのまま肩に担ぎ上げた。
「ちょ、団長! 降ろしてください! 恥ずかしい!」
「黙れ。不純な異性が紛れ込んだ以上、警備を強化せねばならん。今日から、貴様の部屋の鍵は私が管理する。……もちろん、内側からは開かないようにな」
「それ、ただの監禁ですよね!? 職場改善どころか、環境が悪化してるんですけど!」
「愛ゆえの保護だ。感謝しろ」
ヴォルフガングは、もはや隠そうともしない独占欲を全開にして、カナデを自分の私室へと運び去った。
一方、物置に閉じ込められたルキは、不敵に笑っていた。
「……甘いですよ、騎士団長。僕の『翼を持つ猫』が、もうカナデさんの服に『追跡の鱗粉』を振りかけてありますから……」
カナデを巡る、重すぎる愛の四角関係(?)。
王宮を舞台にした「もふもふ争奪戦」は、ここからさらに混沌を極めていく。
そして、闇に堕ちた魔導師団のヴィクトールは、ついに禁断の召喚術を完成させようとしていた。
「ククク……カナデ……待っていろ……。お前を、私の『生ける魔力タンク』にしてやる……」
迫りくる危機。
しかし、カナデの最大の敵は、今夜もベッドで「添い寝の練習だ」と言い張る、目の前の騎士団長なのだった。
騎士団の裏門で、カナデは一人の少年に抱きつかれていた。
少年の名は、ルキ。
柔らかな金髪を短く跳ねさせ、大きな瞳を潤ませている。その背中には、カナデが魔導師団時代にこっそり治療して逃がした「翼を持つ猫(ウィングキャット)」が、まるで彼を守るようにふわりと浮いていた。
「ルキ君!? どうしてここに……それに、その格好は」
ルキが着ているのは、魔導師団の見習い服だった。
しかし、その袖はボロボロに破れ、まるで逃げ出してきたかのようだ。
「あの人たちが、カナデさんを連れ戻せってうるさくて……。でも、僕はカナデさんを助けたいんです! 恩人をあんな地獄に戻したくない!」
「ルキ君……」
カナデが感動に目を細め、ルキの頭を撫でようとした――その時。
背後の空間が、バリバリと凍り付くような音を立てて裂けた。
「…………カナデ。その小汚いネズミは、誰だ」
現れたのは、もはや隠す気もないほどの殺気を纏ったヴォルフガングだった。
その背後には、団長の怒りを察知したライカ(白銀虎)が、「やれやれ」と言いたげな顔で控えている。
「あ、団長! 彼はルキ君。僕が昔、魔導師団で仲良くしていた後輩で――」
「後輩、だと?」
ヴォルフガングの瞳が、獲物を定める猛禽類のようにルキを射抜いた。
ルキは一瞬ビクッとしたものの、意外にもカナデの前に立ちはだかり、ヴォルフガングを睨み返した。
「あなたが、カナデさんを無理やり連れ去ったっていう騎士団長ですか! カナデさんは、あなたの所有物じゃありません!」
「ほう……。威勢だけはいいな」
ヴォルフガングの口角が、冷たく吊り上がった。
それは、彼が真に不快な時に見せる「処刑人」の笑みだ。
「だが、身の程を知れ。カナデは、この私が正式な契約をもって雇った『私の』補佐官だ。どこの馬の骨とも知れぬ小僧に、馴れ馴れしく触れられる筋合いはない」
「契約なんて関係ない! 僕はカナデさんのことが、ずっと好きだったんです! 魔導師団の連中から彼を守れるのは、僕だけだと思ってたのに!」
「「…………え?」」
カナデとヴォルフガングの声が重なった。
カナデは「え、僕ってそんなにモテたっけ?」と混乱し、ヴォルフガングは一瞬の静寂の後、手元に魔力の剣を具現化させた。
「……面白い。その舌、二度と甘い言葉が吐けぬよう、根元から凍らせてやろう」
「だ、団長! ストップ! 暴力反対! 彼はただの子供ですよ!」
カナデが必死にヴォルフガングの腕にしがみつく。
すると、ヴォルフガングはピタリと動きを止め、カナデをじろりと見下ろした。
「……カナデ。貴様、この男を庇うのか?」
「庇うっていうか、彼は恩返しに来てくれただけで……」
「私への態度はあんなに素っ気ないくせに、この小僧には、そんなに優しく笑いかけるのか」
(……あ、これ、面倒くさいスイッチが入ったやつだ)
カナデは直感した。
この男、最強の騎士団長でありながら、恋愛に関しては驚くほど精神年齢が低い。いや、低すぎる。
「ヴォルフガング様。彼は魔導師団の情報を漏らしに来てくれたんです。これ、今後の対策に役立ちますよ?」
「……フン。情報の価値は私が判断する。……ゼクス!」
影から現れた副団長に、ヴォルフガングは冷酷に命じた。
「この小僧を地下牢……いや、一番日当たりの悪い物置に放り込んでおけ。カナデとの接触は一切禁ずる」
「団長、それはさすがに……」とゼクスが苦笑するが、ヴォルフガングの目は本気だった。
「聞こえなかったか? カナデの視界に入っていいのは、私と、この虎だけだ」
『……我も、正直巻き込まれたくないのだがな』
ライカが溜息をつく中、ルキは無情にも騎士たちに引きずられていった。
「カナデさーーん! 必ず助け出しますからねーー!」という叫び声を残して。
嵐が去った後、ヴォルフガングは無言でカナデを抱き上げると、そのまま肩に担ぎ上げた。
「ちょ、団長! 降ろしてください! 恥ずかしい!」
「黙れ。不純な異性が紛れ込んだ以上、警備を強化せねばならん。今日から、貴様の部屋の鍵は私が管理する。……もちろん、内側からは開かないようにな」
「それ、ただの監禁ですよね!? 職場改善どころか、環境が悪化してるんですけど!」
「愛ゆえの保護だ。感謝しろ」
ヴォルフガングは、もはや隠そうともしない独占欲を全開にして、カナデを自分の私室へと運び去った。
一方、物置に閉じ込められたルキは、不敵に笑っていた。
「……甘いですよ、騎士団長。僕の『翼を持つ猫』が、もうカナデさんの服に『追跡の鱗粉』を振りかけてありますから……」
カナデを巡る、重すぎる愛の四角関係(?)。
王宮を舞台にした「もふもふ争奪戦」は、ここからさらに混沌を極めていく。
そして、闇に堕ちた魔導師団のヴィクトールは、ついに禁断の召喚術を完成させようとしていた。
「ククク……カナデ……待っていろ……。お前を、私の『生ける魔力タンク』にしてやる……」
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