5 / 20
5話
しおりを挟む
「――カナデさん! またお会いできるなんて、僕、信じられません!」
騎士団の裏門で、カナデは一人の少年に抱きつかれていた。
少年の名は、ルキ。
柔らかな金髪を短く跳ねさせ、大きな瞳を潤ませている。その背中には、カナデが魔導師団時代にこっそり治療して逃がした「翼を持つ猫(ウィングキャット)」が、まるで彼を守るようにふわりと浮いていた。
「ルキ君!? どうしてここに……それに、その格好は」
ルキが着ているのは、魔導師団の見習い服だった。
しかし、その袖はボロボロに破れ、まるで逃げ出してきたかのようだ。
「あの人たちが、カナデさんを連れ戻せってうるさくて……。でも、僕はカナデさんを助けたいんです! 恩人をあんな地獄に戻したくない!」
「ルキ君……」
カナデが感動に目を細め、ルキの頭を撫でようとした――その時。
背後の空間が、バリバリと凍り付くような音を立てて裂けた。
「…………カナデ。その小汚いネズミは、誰だ」
現れたのは、もはや隠す気もないほどの殺気を纏ったヴォルフガングだった。
その背後には、団長の怒りを察知したライカ(白銀虎)が、「やれやれ」と言いたげな顔で控えている。
「あ、団長! 彼はルキ君。僕が昔、魔導師団で仲良くしていた後輩で――」
「後輩、だと?」
ヴォルフガングの瞳が、獲物を定める猛禽類のようにルキを射抜いた。
ルキは一瞬ビクッとしたものの、意外にもカナデの前に立ちはだかり、ヴォルフガングを睨み返した。
「あなたが、カナデさんを無理やり連れ去ったっていう騎士団長ですか! カナデさんは、あなたの所有物じゃありません!」
「ほう……。威勢だけはいいな」
ヴォルフガングの口角が、冷たく吊り上がった。
それは、彼が真に不快な時に見せる「処刑人」の笑みだ。
「だが、身の程を知れ。カナデは、この私が正式な契約をもって雇った『私の』補佐官だ。どこの馬の骨とも知れぬ小僧に、馴れ馴れしく触れられる筋合いはない」
「契約なんて関係ない! 僕はカナデさんのことが、ずっと好きだったんです! 魔導師団の連中から彼を守れるのは、僕だけだと思ってたのに!」
「「…………え?」」
カナデとヴォルフガングの声が重なった。
カナデは「え、僕ってそんなにモテたっけ?」と混乱し、ヴォルフガングは一瞬の静寂の後、手元に魔力の剣を具現化させた。
「……面白い。その舌、二度と甘い言葉が吐けぬよう、根元から凍らせてやろう」
「だ、団長! ストップ! 暴力反対! 彼はただの子供ですよ!」
カナデが必死にヴォルフガングの腕にしがみつく。
すると、ヴォルフガングはピタリと動きを止め、カナデをじろりと見下ろした。
「……カナデ。貴様、この男を庇うのか?」
「庇うっていうか、彼は恩返しに来てくれただけで……」
「私への態度はあんなに素っ気ないくせに、この小僧には、そんなに優しく笑いかけるのか」
(……あ、これ、面倒くさいスイッチが入ったやつだ)
カナデは直感した。
この男、最強の騎士団長でありながら、恋愛に関しては驚くほど精神年齢が低い。いや、低すぎる。
「ヴォルフガング様。彼は魔導師団の情報を漏らしに来てくれたんです。これ、今後の対策に役立ちますよ?」
「……フン。情報の価値は私が判断する。……ゼクス!」
影から現れた副団長に、ヴォルフガングは冷酷に命じた。
「この小僧を地下牢……いや、一番日当たりの悪い物置に放り込んでおけ。カナデとの接触は一切禁ずる」
「団長、それはさすがに……」とゼクスが苦笑するが、ヴォルフガングの目は本気だった。
「聞こえなかったか? カナデの視界に入っていいのは、私と、この虎だけだ」
『……我も、正直巻き込まれたくないのだがな』
ライカが溜息をつく中、ルキは無情にも騎士たちに引きずられていった。
「カナデさーーん! 必ず助け出しますからねーー!」という叫び声を残して。
嵐が去った後、ヴォルフガングは無言でカナデを抱き上げると、そのまま肩に担ぎ上げた。
「ちょ、団長! 降ろしてください! 恥ずかしい!」
「黙れ。不純な異性が紛れ込んだ以上、警備を強化せねばならん。今日から、貴様の部屋の鍵は私が管理する。……もちろん、内側からは開かないようにな」
「それ、ただの監禁ですよね!? 職場改善どころか、環境が悪化してるんですけど!」
「愛ゆえの保護だ。感謝しろ」
ヴォルフガングは、もはや隠そうともしない独占欲を全開にして、カナデを自分の私室へと運び去った。
一方、物置に閉じ込められたルキは、不敵に笑っていた。
「……甘いですよ、騎士団長。僕の『翼を持つ猫』が、もうカナデさんの服に『追跡の鱗粉』を振りかけてありますから……」
カナデを巡る、重すぎる愛の四角関係(?)。
王宮を舞台にした「もふもふ争奪戦」は、ここからさらに混沌を極めていく。
そして、闇に堕ちた魔導師団のヴィクトールは、ついに禁断の召喚術を完成させようとしていた。
「ククク……カナデ……待っていろ……。お前を、私の『生ける魔力タンク』にしてやる……」
迫りくる危機。
しかし、カナデの最大の敵は、今夜もベッドで「添い寝の練習だ」と言い張る、目の前の騎士団長なのだった。
騎士団の裏門で、カナデは一人の少年に抱きつかれていた。
少年の名は、ルキ。
柔らかな金髪を短く跳ねさせ、大きな瞳を潤ませている。その背中には、カナデが魔導師団時代にこっそり治療して逃がした「翼を持つ猫(ウィングキャット)」が、まるで彼を守るようにふわりと浮いていた。
「ルキ君!? どうしてここに……それに、その格好は」
ルキが着ているのは、魔導師団の見習い服だった。
しかし、その袖はボロボロに破れ、まるで逃げ出してきたかのようだ。
「あの人たちが、カナデさんを連れ戻せってうるさくて……。でも、僕はカナデさんを助けたいんです! 恩人をあんな地獄に戻したくない!」
「ルキ君……」
カナデが感動に目を細め、ルキの頭を撫でようとした――その時。
背後の空間が、バリバリと凍り付くような音を立てて裂けた。
「…………カナデ。その小汚いネズミは、誰だ」
現れたのは、もはや隠す気もないほどの殺気を纏ったヴォルフガングだった。
その背後には、団長の怒りを察知したライカ(白銀虎)が、「やれやれ」と言いたげな顔で控えている。
「あ、団長! 彼はルキ君。僕が昔、魔導師団で仲良くしていた後輩で――」
「後輩、だと?」
ヴォルフガングの瞳が、獲物を定める猛禽類のようにルキを射抜いた。
ルキは一瞬ビクッとしたものの、意外にもカナデの前に立ちはだかり、ヴォルフガングを睨み返した。
「あなたが、カナデさんを無理やり連れ去ったっていう騎士団長ですか! カナデさんは、あなたの所有物じゃありません!」
「ほう……。威勢だけはいいな」
ヴォルフガングの口角が、冷たく吊り上がった。
それは、彼が真に不快な時に見せる「処刑人」の笑みだ。
「だが、身の程を知れ。カナデは、この私が正式な契約をもって雇った『私の』補佐官だ。どこの馬の骨とも知れぬ小僧に、馴れ馴れしく触れられる筋合いはない」
「契約なんて関係ない! 僕はカナデさんのことが、ずっと好きだったんです! 魔導師団の連中から彼を守れるのは、僕だけだと思ってたのに!」
「「…………え?」」
カナデとヴォルフガングの声が重なった。
カナデは「え、僕ってそんなにモテたっけ?」と混乱し、ヴォルフガングは一瞬の静寂の後、手元に魔力の剣を具現化させた。
「……面白い。その舌、二度と甘い言葉が吐けぬよう、根元から凍らせてやろう」
「だ、団長! ストップ! 暴力反対! 彼はただの子供ですよ!」
カナデが必死にヴォルフガングの腕にしがみつく。
すると、ヴォルフガングはピタリと動きを止め、カナデをじろりと見下ろした。
「……カナデ。貴様、この男を庇うのか?」
「庇うっていうか、彼は恩返しに来てくれただけで……」
「私への態度はあんなに素っ気ないくせに、この小僧には、そんなに優しく笑いかけるのか」
(……あ、これ、面倒くさいスイッチが入ったやつだ)
カナデは直感した。
この男、最強の騎士団長でありながら、恋愛に関しては驚くほど精神年齢が低い。いや、低すぎる。
「ヴォルフガング様。彼は魔導師団の情報を漏らしに来てくれたんです。これ、今後の対策に役立ちますよ?」
「……フン。情報の価値は私が判断する。……ゼクス!」
影から現れた副団長に、ヴォルフガングは冷酷に命じた。
「この小僧を地下牢……いや、一番日当たりの悪い物置に放り込んでおけ。カナデとの接触は一切禁ずる」
「団長、それはさすがに……」とゼクスが苦笑するが、ヴォルフガングの目は本気だった。
「聞こえなかったか? カナデの視界に入っていいのは、私と、この虎だけだ」
『……我も、正直巻き込まれたくないのだがな』
ライカが溜息をつく中、ルキは無情にも騎士たちに引きずられていった。
「カナデさーーん! 必ず助け出しますからねーー!」という叫び声を残して。
嵐が去った後、ヴォルフガングは無言でカナデを抱き上げると、そのまま肩に担ぎ上げた。
「ちょ、団長! 降ろしてください! 恥ずかしい!」
「黙れ。不純な異性が紛れ込んだ以上、警備を強化せねばならん。今日から、貴様の部屋の鍵は私が管理する。……もちろん、内側からは開かないようにな」
「それ、ただの監禁ですよね!? 職場改善どころか、環境が悪化してるんですけど!」
「愛ゆえの保護だ。感謝しろ」
ヴォルフガングは、もはや隠そうともしない独占欲を全開にして、カナデを自分の私室へと運び去った。
一方、物置に閉じ込められたルキは、不敵に笑っていた。
「……甘いですよ、騎士団長。僕の『翼を持つ猫』が、もうカナデさんの服に『追跡の鱗粉』を振りかけてありますから……」
カナデを巡る、重すぎる愛の四角関係(?)。
王宮を舞台にした「もふもふ争奪戦」は、ここからさらに混沌を極めていく。
そして、闇に堕ちた魔導師団のヴィクトールは、ついに禁断の召喚術を完成させようとしていた。
「ククク……カナデ……待っていろ……。お前を、私の『生ける魔力タンク』にしてやる……」
迫りくる危機。
しかし、カナデの最大の敵は、今夜もベッドで「添い寝の練習だ」と言い張る、目の前の騎士団長なのだった。
81
あなたにおすすめの小説
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
禁書庫の管理人は次期宰相様のお気に入り
結衣可
BL
オルフェリス王国の王立図書館で、禁書庫を預かる司書カミル・ローレンは、過去の傷を抱え、静かな孤独の中で生きていた。
そこへ次期宰相と目される若き貴族、セドリック・ヴァレンティスが訪れ、知識を求める名目で彼のもとに通い始める。
冷静で無表情なカミルに興味を惹かれたセドリックは、やがて彼の心の奥にある痛みに気づいていく。
愛されることへの恐れに縛られていたカミルは、彼の真っ直ぐな想いに少しずつ心を開き、初めて“痛みではない愛”を知る。
禁書庫という静寂の中で、カミルの孤独を、過去を癒し、共に歩む未来を誓う。
アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました
あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」
穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン
攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?
攻め:深海霧矢
受け:清水奏
前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。
ハピエンです。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
自己判断で消しますので、悪しからず。
前世が教師だった少年は辺境で愛される
結衣可
BL
雪深い帝国北端の地で、傷つき行き倒れていた少年ミカを拾ったのは、寡黙な辺境伯ダリウスだった。妻を亡くし、幼い息子リアムと静かに暮らしていた彼は、ミカの知識と優しさに驚きつつも、次第にその穏やかな笑顔に心を癒されていく。
ミカは実は異世界からの転生者。前世の記憶を抱え、この世界でどう生きるべきか迷っていたが、リアムの教育係として過ごすうちに、“誰かに必要とされる”温もりを思い出していく。
雪の館で共に過ごす日々は、やがてお互いにとってかけがえのない時間となり、新しい日々へと続いていく――。
自己肯定感低めの不幸な義弟が完璧な義兄と大揉めに揉める話
あと
BL
「こんな僕をお兄ちゃんは嫌ってるだろうな」
トップ俳優な完璧超人の義理の兄×不幸な自己肯定感低めのネガティブ義理の弟です。
お金ない受けが追い詰められて変なアルバイトしようとしたら、攻めと再会して……?みたいな話です。
攻めがヤンデレ気味で、受けがマジで卑屈なので苦手な人はブラウザバックで。
兄弟は親が離婚してるため、苗字が違います。
攻め:水瀬真広
受け:神崎彼方
⚠️作者は芸能界にもお葬式ににもエアプなので、気にしないでください。
途中でモブおじが出てきます。
義理とはいえ兄弟なので、地雷の人はブラウザバックで。
初投稿です。
初投稿がちょっと人を選ぶ作品なので不安です。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
内容も時々サイレント修正するかもです。
定期的にタグ整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
結婚間近だったのに、殿下の皇太子妃に選ばれたのは僕だった
釦
BL
皇太子妃を輩出する家系に産まれた主人公は半ば政略的な結婚を控えていた。
にも関わらず、皇太子が皇妃に選んだのは皇太子妃争いに参加していない見目のよくない五男の主人公だった、というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる