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10話
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「――どうして、こうなったんでしょうか……」
カナデは、凍える手をお互いに擦り合わせながら、深い溜息をついた。
視線の先には、猛吹雪で入り口が完全に塞がれた、狭い岩穴の洞窟。
本来なら、北の最果てに現れた魔物をヴォルフガングがサクッと討伐し、今頃は麓の宿で温かいスープを飲んでいるはずだったのだ。
「すまん、カナデ。魔物の断末魔が予想以上の雪崩を引き起こした。……私の計算ミスだ」
隣で焚き火を熾そうとしているヴォルフガングが、珍しく神妙な顔で謝罪する。
だが、その瞳の奥には、どこか「計画通り」と言わんばかりの、どろりとした期待の色が混じっているのを、カナデは見逃さなかった。
「……団長。まさかとは思いますけど、これ、二人きりになるためにわざと雪崩を……」
「心外だ。私は、貴様の命を危険にさらすような真似はしない。……だが、この状況を最大限に活用しないほど、私は愚かではないぞ」
ヴォルフガングは、魔法で熾した青い火を眺めながら、重厚な騎士マントを脱ぎ捨てた。
そして、ガタガタと震えるカナデに向かって、獲物を誘う猛獣のような笑みを浮かべる。
「カナデ。雪山の夜は、体温が奪われれば死に直結する。魔法の火だけでは足りん。……こちらへ来い」
「いや、僕はここで丸まってれば大丈夫です……うわっ!?」
拒否権など最初からなかった。
ヴォルフガングの長い腕がカナデの腰を引き寄せ、そのまま自分の膝の上――いわゆる「団長専用特等席」へと拘束した。
背中から伝わってくるのは、鋼のような筋肉の鼓動と、狂おしいほどの熱量だ。
「……っ、団長! 近すぎ、というか、マントの中に僕を入れないでください!」
「黙れ。これは『生存戦略』だ。貴様が凍えて死んだら、私はこの国を滅ぼして後を追わねばならなくなる。私の手間を増やすな」
「愛が重すぎて心中前提なのが怖いんですよ!!」
ヴォルフガングは、大きなマントでカナデの全身を包み込み、耳元で熱い吐息を漏らした。
吹雪の音が遠のき、洞窟の中には二人の鼓動の音だけが響く。
「……カナデ。貴様は、私がいなければ、今頃あの魔導師団の地下で泥水を啜っていたのだぞ。それを忘れるな」
「忘れてませんよ。……でも、団長。あなたも、僕がいなかったら、今頃嫉妬で誰かを氷漬けにして、孤独に過ごしてたんじゃないですか?」
カナデが振り返ってヴォルフガングの顔を覗き込むと、無敵の騎士団長が、不意を突かれたように目を見開いた。
琥珀色の瞳が揺れる。
「……ああ、その通りだ。私は、貴様という毒を知るまで、自分がどれほど飢えていたかさえ気づかなかった」
ヴォルフガングの手が、カナデの頬を愛おしそうになぞる。
その指先は驚くほど優しく、そして震えていた。
「もう、離さん。雪が止もうと、春が来ようと、貴様は私の腕の中で枯れてもらう」
「枯れさせないでくださいよ、せっかく助かったんだから……んっ……」
唇が重なる。
冷えた指先とは対照的な、焼けるような熱。
雪山の閉ざされた空間で、カナデは逃げ場のない溺愛を全身で受け止めるしかなかった。
その時。
『……おい。貴様ら、我を忘れていないか?』
洞窟の隅、雪崩に巻き込まれて雪だるま状態になっていたライカ(白銀虎)が、ブルブルと体を震わせて雪を弾き飛ばした。
その顔には、最高級に冷めた侮蔑の表情が浮かんでいる。
「ライカ! 無事だったんだね!」
『無事ではない。この人間(団長)の魔力が、嫉妬と欲情で渦巻いていて、我の毛並みが逆立って不快だ。……カナデよ、早くその欲求不満な大型犬を黙らせろ』
「黙らせるって、どうやって……」
「案ずるな、カナデ。方法は私が知っている」
ヴォルフガングはライカを冷たく一瞥すると、カナデを押し倒すようにして、洞窟の奥へと横たわらせた。
「待っ、ライカが見てる前で何をする気ですか!?」
「見せつければいい。……貴様が、誰に愛されているのかをな」
「だから、その独占欲を野生動物に向けないでくださいーーー!!」
翌朝、吹雪が止み、救助に来たゼクスたちが見たのは――。
雪山だというのに、周囲の雪がすべて蒸発して不自然に乾燥した洞窟と、腰を抜かして呆然としているカナデ、そして満足げに鼻歌を歌う団長の姿だったという。
カナデの「平穏なスローライフ」への帰還は、また一歩、絶望的に遠のいたのであった。
カナデは、凍える手をお互いに擦り合わせながら、深い溜息をついた。
視線の先には、猛吹雪で入り口が完全に塞がれた、狭い岩穴の洞窟。
本来なら、北の最果てに現れた魔物をヴォルフガングがサクッと討伐し、今頃は麓の宿で温かいスープを飲んでいるはずだったのだ。
「すまん、カナデ。魔物の断末魔が予想以上の雪崩を引き起こした。……私の計算ミスだ」
隣で焚き火を熾そうとしているヴォルフガングが、珍しく神妙な顔で謝罪する。
だが、その瞳の奥には、どこか「計画通り」と言わんばかりの、どろりとした期待の色が混じっているのを、カナデは見逃さなかった。
「……団長。まさかとは思いますけど、これ、二人きりになるためにわざと雪崩を……」
「心外だ。私は、貴様の命を危険にさらすような真似はしない。……だが、この状況を最大限に活用しないほど、私は愚かではないぞ」
ヴォルフガングは、魔法で熾した青い火を眺めながら、重厚な騎士マントを脱ぎ捨てた。
そして、ガタガタと震えるカナデに向かって、獲物を誘う猛獣のような笑みを浮かべる。
「カナデ。雪山の夜は、体温が奪われれば死に直結する。魔法の火だけでは足りん。……こちらへ来い」
「いや、僕はここで丸まってれば大丈夫です……うわっ!?」
拒否権など最初からなかった。
ヴォルフガングの長い腕がカナデの腰を引き寄せ、そのまま自分の膝の上――いわゆる「団長専用特等席」へと拘束した。
背中から伝わってくるのは、鋼のような筋肉の鼓動と、狂おしいほどの熱量だ。
「……っ、団長! 近すぎ、というか、マントの中に僕を入れないでください!」
「黙れ。これは『生存戦略』だ。貴様が凍えて死んだら、私はこの国を滅ぼして後を追わねばならなくなる。私の手間を増やすな」
「愛が重すぎて心中前提なのが怖いんですよ!!」
ヴォルフガングは、大きなマントでカナデの全身を包み込み、耳元で熱い吐息を漏らした。
吹雪の音が遠のき、洞窟の中には二人の鼓動の音だけが響く。
「……カナデ。貴様は、私がいなければ、今頃あの魔導師団の地下で泥水を啜っていたのだぞ。それを忘れるな」
「忘れてませんよ。……でも、団長。あなたも、僕がいなかったら、今頃嫉妬で誰かを氷漬けにして、孤独に過ごしてたんじゃないですか?」
カナデが振り返ってヴォルフガングの顔を覗き込むと、無敵の騎士団長が、不意を突かれたように目を見開いた。
琥珀色の瞳が揺れる。
「……ああ、その通りだ。私は、貴様という毒を知るまで、自分がどれほど飢えていたかさえ気づかなかった」
ヴォルフガングの手が、カナデの頬を愛おしそうになぞる。
その指先は驚くほど優しく、そして震えていた。
「もう、離さん。雪が止もうと、春が来ようと、貴様は私の腕の中で枯れてもらう」
「枯れさせないでくださいよ、せっかく助かったんだから……んっ……」
唇が重なる。
冷えた指先とは対照的な、焼けるような熱。
雪山の閉ざされた空間で、カナデは逃げ場のない溺愛を全身で受け止めるしかなかった。
その時。
『……おい。貴様ら、我を忘れていないか?』
洞窟の隅、雪崩に巻き込まれて雪だるま状態になっていたライカ(白銀虎)が、ブルブルと体を震わせて雪を弾き飛ばした。
その顔には、最高級に冷めた侮蔑の表情が浮かんでいる。
「ライカ! 無事だったんだね!」
『無事ではない。この人間(団長)の魔力が、嫉妬と欲情で渦巻いていて、我の毛並みが逆立って不快だ。……カナデよ、早くその欲求不満な大型犬を黙らせろ』
「黙らせるって、どうやって……」
「案ずるな、カナデ。方法は私が知っている」
ヴォルフガングはライカを冷たく一瞥すると、カナデを押し倒すようにして、洞窟の奥へと横たわらせた。
「待っ、ライカが見てる前で何をする気ですか!?」
「見せつければいい。……貴様が、誰に愛されているのかをな」
「だから、その独占欲を野生動物に向けないでくださいーーー!!」
翌朝、吹雪が止み、救助に来たゼクスたちが見たのは――。
雪山だというのに、周囲の雪がすべて蒸発して不自然に乾燥した洞窟と、腰を抜かして呆然としているカナデ、そして満足げに鼻歌を歌う団長の姿だったという。
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