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14話
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セシルが去った翌朝。騎士団本部の至る所に、異変が起きていた。
「……なんだ、この白い塊は」
ヴォルフガングが不機嫌そうに指差した先には、廊下の隅で丸まっている、綿飴のようにふわふわな謎の生物がいた。
それはセシルが隣国から放った『夢見羊(ドリーム・シープ)』。
その愛くるしい瞳で見つめられると、どんな屈強な騎士も戦意を喪失し、眠りに誘われてしまうという「精神干渉系」の魔導生物だ。
「わあ、可愛い……! 団長、見てください、この毛並み。まるでお餅みたいですよ!」
案の定、カナデの「飼育員魂」に火がついてしまった。カナデはヴォルフガングの腕をすり抜け、膝をついてその羊を抱きしめる。
「メェ~……」
羊がカナデの胸に顔を埋め、幸せそうに喉を鳴らす。
それを見たヴォルフガングの額に、ドロリとした青筋が浮かんだ。
「……カナデ。そいつから離れろ。それは隣国の刺客だ」
「刺客って言ったって、こんなに大人しいですよ? ほら、団長も触ってみて――」
「断る。私は、私以外のものに鼻の下を伸ばす貴様を見ているだけで、その羊をジンギスカンにしてやりたくて仕方がなくなる」
ヴォルフガングは腰の剣を引き抜き、あろうことか体長三十センチほどの小動物に向けて切っ先を突きつけた。
「おい、家畜。今すぐその男から離れろ。さもなくば、貴様の毛を一本残らず毟り取り、騎士団の冬用靴下にしてやる」
「メェッ!?」
羊は恐怖に震え、カナデの首筋にさらに深く潜り込んだ。
「団長! 動物相手に本気で脅さないでください! ほら、ライカさんも呆れてますよ」
『……呆れるのを通り越して、同族として恥ずかしいわ』
離れた場所で丸まっていた白銀虎のライカが、前足で顔を覆う。
だが、事態はこれだけでは終わらなかった。
セシルの狙いは、カナデを油断させてその『器』の力を一時的に封印すること。
羊が放つ微弱な催眠魔力がカナデの体内に蓄積され、カナデの意識がふわりと遠のき始める。
「あれ……なんだか、すごく、眠い……」
「カナデ!? ……貴様、やはり何か仕掛けたな!」
ヴォルフガングが慌ててカナデを抱き止める。
その瞬間、カナデの体内にある「無限の器」が、催眠魔力を排出しようと過剰に反応した。
浄化された魔力が光の粒子となって溢れ出し、周囲にいた騎士たちが次々と深い眠りに落ちていく中、ヴォルフガングだけは、その光を真正面から浴びていた。
「……くっ、この魔力は……」
カナデの器から溢れるのは、ヴォルフガングがいつも流し込んでいる「執着の魔力」が浄化され、純粋な「愛」へと変換されたもの。
それを浴びたヴォルフガングは、怒りで爆発するどころか、かつてないほどの多幸感と独占欲に包まれてしまった。
「カナデ……。貴様、夢の中でも私を求めているというのか……」
「すぅ……ヴォルフ、さま……重い、です……」
寝言でまで「重い」と言われているのに、ヴォルフガングはそれを「心地よい重圧」と脳内変換し、カナデを抱き抱えたまま自分の寝室へと駆け込んだ。
「ゼクス! あとの羊どもはすべて捕獲して隣国へ送り返せ! 熨斗紙に『次は国ごと凍らせる』と書いておけ!」
「団長、僕らもう眠くて動けませ……ん……」
崩れ落ちるゼクスたちを尻目に、ヴォルフガングは扉に強力な封印を施した。
「さあ、カナデ。夢の続きは、私の腕の中でじっくりと見せてやろう。……他国の羊など、二度と思い出せぬようにな」
眠っているカナデの耳元で、ヴォルフガングの甘く重い囁きが続く。
翌朝、目が覚めたカナデは、自分の全身がヴォルフガングの魔力によって「物理的に」発光していることに気づき、絶叫することになる。
一方、隣国で「羊作戦」の失敗を知ったセシルは、扇子を噛み締めていた。
「……まさか、私の可愛い羊たちを靴下にしようとするなんて。あの男、やはり普通ではありませんね。……こうなれば、次は『王族の特権』を直接行使するしかありません」
カナデの平穏(スローライフ)を巡る戦いは、ついに「もふもふ」を武器にした国際紛争へと発展しようとしていた。
「……なんだ、この白い塊は」
ヴォルフガングが不機嫌そうに指差した先には、廊下の隅で丸まっている、綿飴のようにふわふわな謎の生物がいた。
それはセシルが隣国から放った『夢見羊(ドリーム・シープ)』。
その愛くるしい瞳で見つめられると、どんな屈強な騎士も戦意を喪失し、眠りに誘われてしまうという「精神干渉系」の魔導生物だ。
「わあ、可愛い……! 団長、見てください、この毛並み。まるでお餅みたいですよ!」
案の定、カナデの「飼育員魂」に火がついてしまった。カナデはヴォルフガングの腕をすり抜け、膝をついてその羊を抱きしめる。
「メェ~……」
羊がカナデの胸に顔を埋め、幸せそうに喉を鳴らす。
それを見たヴォルフガングの額に、ドロリとした青筋が浮かんだ。
「……カナデ。そいつから離れろ。それは隣国の刺客だ」
「刺客って言ったって、こんなに大人しいですよ? ほら、団長も触ってみて――」
「断る。私は、私以外のものに鼻の下を伸ばす貴様を見ているだけで、その羊をジンギスカンにしてやりたくて仕方がなくなる」
ヴォルフガングは腰の剣を引き抜き、あろうことか体長三十センチほどの小動物に向けて切っ先を突きつけた。
「おい、家畜。今すぐその男から離れろ。さもなくば、貴様の毛を一本残らず毟り取り、騎士団の冬用靴下にしてやる」
「メェッ!?」
羊は恐怖に震え、カナデの首筋にさらに深く潜り込んだ。
「団長! 動物相手に本気で脅さないでください! ほら、ライカさんも呆れてますよ」
『……呆れるのを通り越して、同族として恥ずかしいわ』
離れた場所で丸まっていた白銀虎のライカが、前足で顔を覆う。
だが、事態はこれだけでは終わらなかった。
セシルの狙いは、カナデを油断させてその『器』の力を一時的に封印すること。
羊が放つ微弱な催眠魔力がカナデの体内に蓄積され、カナデの意識がふわりと遠のき始める。
「あれ……なんだか、すごく、眠い……」
「カナデ!? ……貴様、やはり何か仕掛けたな!」
ヴォルフガングが慌ててカナデを抱き止める。
その瞬間、カナデの体内にある「無限の器」が、催眠魔力を排出しようと過剰に反応した。
浄化された魔力が光の粒子となって溢れ出し、周囲にいた騎士たちが次々と深い眠りに落ちていく中、ヴォルフガングだけは、その光を真正面から浴びていた。
「……くっ、この魔力は……」
カナデの器から溢れるのは、ヴォルフガングがいつも流し込んでいる「執着の魔力」が浄化され、純粋な「愛」へと変換されたもの。
それを浴びたヴォルフガングは、怒りで爆発するどころか、かつてないほどの多幸感と独占欲に包まれてしまった。
「カナデ……。貴様、夢の中でも私を求めているというのか……」
「すぅ……ヴォルフ、さま……重い、です……」
寝言でまで「重い」と言われているのに、ヴォルフガングはそれを「心地よい重圧」と脳内変換し、カナデを抱き抱えたまま自分の寝室へと駆け込んだ。
「ゼクス! あとの羊どもはすべて捕獲して隣国へ送り返せ! 熨斗紙に『次は国ごと凍らせる』と書いておけ!」
「団長、僕らもう眠くて動けませ……ん……」
崩れ落ちるゼクスたちを尻目に、ヴォルフガングは扉に強力な封印を施した。
「さあ、カナデ。夢の続きは、私の腕の中でじっくりと見せてやろう。……他国の羊など、二度と思い出せぬようにな」
眠っているカナデの耳元で、ヴォルフガングの甘く重い囁きが続く。
翌朝、目が覚めたカナデは、自分の全身がヴォルフガングの魔力によって「物理的に」発光していることに気づき、絶叫することになる。
一方、隣国で「羊作戦」の失敗を知ったセシルは、扇子を噛み締めていた。
「……まさか、私の可愛い羊たちを靴下にしようとするなんて。あの男、やはり普通ではありませんね。……こうなれば、次は『王族の特権』を直接行使するしかありません」
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