15 / 20
15話
「――今日から、この騎士団に滞在することになりました。よろしくね、私のカナデ」
騎士団本部の広間。優雅に一礼したのは、隣国の王子としての正体を明かしたセシルだ。
彼は「平和の象徴」として、隣国の希少なもふもふ聖獣たちを引き連れ、正式な親善大使として乗り込んできたのだ。王命とあらば、流石のヴォルフガングも剣を抜くわけにはいかない……はずだった。
「誰が『私の』だ。そのふざけた口を今すぐ縫い合わせてやろうか」
ヴォルフガングの背後には、物理的な吹雪が吹き荒れている。
だが、セシルは余裕の笑みを崩さず、カナデの前に跪いてその手を取った。
「カナデ、見てごらんなさい。この子たちは我が国の誇る『銀雪狐』です。あなたのその清らかな魔力で、彼らを癒やしてくれませんか?」
「わあ……っ、銀雪狐! 幻の聖獣じゃないですか!」
カナデの瞳が、今日一番の輝きを放つ。ふわふわの尾が九本もある狐たちが、カナデの足元に群がり、クゥクゥと喉を鳴らして甘え始めた。
「よしよし、可愛いね……。ええと、ご飯は何を食べてるのかな?」
「カナデ、離れろと言っている。その狐どもは、皮を剥いで私のマントの裏地にしてくれる」
「団長! 職務放棄して猟師にならないでください!」
カナデが狐を抱き上げようとした瞬間、ヴォルフガングの独占欲が限界値を突破した。
このままでは、カナデの興味が「隣国の王子」と「新しいもふもふ」に持っていかれてしまう。
最強の騎士団長が出した結論は、驚くほど短絡的で、かつ強硬なものだった。
「……ゼクス。今すぐ全軍を広場に集結させろ。聖堂の司祭も呼べ」
「えっ、団長? 急にどうしたんですか」
「今この場で、カナデと私の『番(つがい)の儀』を執り行う」
広間にいた全員の動きが止まった。カナデは抱えていた狐を落としそうになり、セシルは持っていた扇子を床に落とした。
「……は、はいぃ!? つがいの儀って、それ、一生離れられない魔法契約の……結婚式じゃないですか!」
「そうだ。貴様を私の『妃』として公式に登録すれば、隣国の王子だろうと手出しはできん。……嫌とは言わせんぞ」
「言わせてくださいよ! 僕、まだ心の準備もスローライフの計画も終わってないんです!」
ヴォルフガングはカナデの抗議を完全に無視し、彼を軽々と抱き上げると、そのまま広場へと続く大階段を駆け上がった。
「離せーーー! 団長のバカーーー!!」
「バカでいい。貴様を失うくらいなら、私は暴君にでも変態にでもなってやる」
「もうなってますよ!!」
広場には、状況が飲み込めないまま整列させられた千人の騎士たち。
ヴォルフガングはカナデを抱いたまま、その中心で宣言した。
「聞け! このカナデ・イシュタルは、本日をもって我が魂の伴侶となった! 彼に触れる者は、私に対する宣戦布告と見なす!」
沸き起こる騎士たちの(半ば混乱した)歓声。
セシルは真っ青になりながら、「卑怯ですよ、ヴォルフガング閣下! そんなの無効だ!」と叫んでいるが、ヴォルフガングは勝ち誇った顔でカナデの首筋に深く、深く牙を立てるようにして『誓いの刻印』を刻み込んだ。
「……あ、あったかい……」
カナデの器が、ヴォルフガングのあまりに重く、巨大な「一生分の愛」を飲み込んでいく。
「これで、もう逃げられんぞ、カナデ。死が二人を分かつまで……いや、死んだ後も、貴様の魂は私のものだ」
「重すぎる……。でも、なんでだろう。……少しだけ、嬉しいって思っちゃう自分が一番悔しい……」
カナデが真っ赤な顔で俯くと、ヴォルフガングは満足げに彼を抱きしめ直した。
こうして、カナデの「平穏な雑用係」としての人生は終わり、帝国最強の男に「永遠に囚われる妃」としての新生活が、なし崩し的に幕を開けたのである。
一方、その光景を遠くから見ていた王族や魔導師団の残党は、あまりの「愛の重さ」に戦意を喪失し、「……あの二人には関わらないでおこう」と密かに誓い合うのだった。
(完……? いいえ、ここからが本当の『重すぎる溺愛生活』の始まりです!)
騎士団本部の広間。優雅に一礼したのは、隣国の王子としての正体を明かしたセシルだ。
彼は「平和の象徴」として、隣国の希少なもふもふ聖獣たちを引き連れ、正式な親善大使として乗り込んできたのだ。王命とあらば、流石のヴォルフガングも剣を抜くわけにはいかない……はずだった。
「誰が『私の』だ。そのふざけた口を今すぐ縫い合わせてやろうか」
ヴォルフガングの背後には、物理的な吹雪が吹き荒れている。
だが、セシルは余裕の笑みを崩さず、カナデの前に跪いてその手を取った。
「カナデ、見てごらんなさい。この子たちは我が国の誇る『銀雪狐』です。あなたのその清らかな魔力で、彼らを癒やしてくれませんか?」
「わあ……っ、銀雪狐! 幻の聖獣じゃないですか!」
カナデの瞳が、今日一番の輝きを放つ。ふわふわの尾が九本もある狐たちが、カナデの足元に群がり、クゥクゥと喉を鳴らして甘え始めた。
「よしよし、可愛いね……。ええと、ご飯は何を食べてるのかな?」
「カナデ、離れろと言っている。その狐どもは、皮を剥いで私のマントの裏地にしてくれる」
「団長! 職務放棄して猟師にならないでください!」
カナデが狐を抱き上げようとした瞬間、ヴォルフガングの独占欲が限界値を突破した。
このままでは、カナデの興味が「隣国の王子」と「新しいもふもふ」に持っていかれてしまう。
最強の騎士団長が出した結論は、驚くほど短絡的で、かつ強硬なものだった。
「……ゼクス。今すぐ全軍を広場に集結させろ。聖堂の司祭も呼べ」
「えっ、団長? 急にどうしたんですか」
「今この場で、カナデと私の『番(つがい)の儀』を執り行う」
広間にいた全員の動きが止まった。カナデは抱えていた狐を落としそうになり、セシルは持っていた扇子を床に落とした。
「……は、はいぃ!? つがいの儀って、それ、一生離れられない魔法契約の……結婚式じゃないですか!」
「そうだ。貴様を私の『妃』として公式に登録すれば、隣国の王子だろうと手出しはできん。……嫌とは言わせんぞ」
「言わせてくださいよ! 僕、まだ心の準備もスローライフの計画も終わってないんです!」
ヴォルフガングはカナデの抗議を完全に無視し、彼を軽々と抱き上げると、そのまま広場へと続く大階段を駆け上がった。
「離せーーー! 団長のバカーーー!!」
「バカでいい。貴様を失うくらいなら、私は暴君にでも変態にでもなってやる」
「もうなってますよ!!」
広場には、状況が飲み込めないまま整列させられた千人の騎士たち。
ヴォルフガングはカナデを抱いたまま、その中心で宣言した。
「聞け! このカナデ・イシュタルは、本日をもって我が魂の伴侶となった! 彼に触れる者は、私に対する宣戦布告と見なす!」
沸き起こる騎士たちの(半ば混乱した)歓声。
セシルは真っ青になりながら、「卑怯ですよ、ヴォルフガング閣下! そんなの無効だ!」と叫んでいるが、ヴォルフガングは勝ち誇った顔でカナデの首筋に深く、深く牙を立てるようにして『誓いの刻印』を刻み込んだ。
「……あ、あったかい……」
カナデの器が、ヴォルフガングのあまりに重く、巨大な「一生分の愛」を飲み込んでいく。
「これで、もう逃げられんぞ、カナデ。死が二人を分かつまで……いや、死んだ後も、貴様の魂は私のものだ」
「重すぎる……。でも、なんでだろう。……少しだけ、嬉しいって思っちゃう自分が一番悔しい……」
カナデが真っ赤な顔で俯くと、ヴォルフガングは満足げに彼を抱きしめ直した。
こうして、カナデの「平穏な雑用係」としての人生は終わり、帝国最強の男に「永遠に囚われる妃」としての新生活が、なし崩し的に幕を開けたのである。
一方、その光景を遠くから見ていた王族や魔導師団の残党は、あまりの「愛の重さ」に戦意を喪失し、「……あの二人には関わらないでおこう」と密かに誓い合うのだった。
(完……? いいえ、ここからが本当の『重すぎる溺愛生活』の始まりです!)
あなたにおすすめの小説
異世界転移された傾国顔が、アラ還宰相の幼妻になって溺愛されるまでの話
ふき
BL
異世界に転移したカナトは、成り行きでアラ還の宰相ヴァルターと結婚することになる。
戸惑いながら迎えた初夜。衝動のキス、触れあう体温――そして翌朝から距離が遠ざかった。
「じゃあ、なんでキスなんてしたんだよ」
これは、若さを理由に逃げようとするアラ還宰相を、青年が逃がさない話。
ヴァルター×カナト
※サブCPで一部、近親関係を想起させる描写があります。
転生したらスパダリに囲われていました……え、違う?
米山のら
BL
王子悠里。苗字のせいで“王子さま”と呼ばれ、距離を置かれてきた、ぼっち新社会人。
ストーカーに追われ、車に轢かれ――気づけば豪奢なベッドで目を覚ましていた。
隣にいたのは、氷の騎士団長であり第二王子でもある、美しきスパダリ。
「愛してるよ、私のユリタン」
そう言って差し出されたのは、彼色の婚約指輪。
“最難関ルート”と恐れられる、甘さと狂気の狭間に立つ騎士団長。
成功すれば溺愛一直線、けれど一歩誤れば廃人コース。
怖いほどの執着と、甘すぎる愛の狭間で――悠里の新しい人生は、いったいどこへ向かうのか?
……え、違う?
「今夜は、ずっと繋がっていたい」というから頷いた結果。
猫宮乾
BL
異世界転移(転生)したワタルが現地の魔術師ユーグと恋人になって、致しているお話です。9割性描写です。※自サイトからの転載です。サイトにこの二人が付き合うまでが置いてありますが、こちら単独でご覧頂けます。
双子のスパダリ旦那が今日も甘い
ユーリ
BL
「いつになったらお前は学校を辞めるんだ?」「いつになったら俺らの仕事の邪魔をする仕事をするんだ?」ーー高校二年生の柚月は幼馴染の双子と一緒に暮らしているが、毎日のように甘やかされるも意味のわからないことを言ってきて…「仕事の邪魔をする仕事って何!?」ーー双子のスパダリ旦那は今日も甘いのです。
【完結】神童と呼ばれた後輩に懐かれた。それはいいんだけど、ちょっと懐きすぎじゃない!?
チョロケロ
BL
魔法省で働くロレンスの元に、新入社員がやってきた。その名はキーランと言う。十八歳で子供の頃は神童と呼ばれていた少年だ。
だが、幼い頃から周りにちやほやされていたらしく、もの凄く生意気な少年だった。
そんな少年の教育係になってしまったロレンス。
嫌々指導していたのだが、あることをきっかけにもの凄く懐かれてしまった。ロレンスの家で一緒に夕飯を食べるくらい仲良くなり、キーランのことを少し可愛いと思うようになっていた。そんなある日に、二人の間にある出来事が起こったのだった。
※ムーンライトノベルズ様でも投稿しています。
※よろしくお願いします。
学園一のスパダリが義兄兼恋人になりました
すいかちゃん
BL
母親の再婚により、名門リーディア家の一員となったユウト。憧れの先輩・セージュが義兄となり喜ぶ。だが、セージュの態度は冷たくて「兄弟になりたくなかった」とまで言われてしまう。おまけに、そんなセージュの部屋で暮らす事になり…。
第二話「兄と呼べない理由」
セージュがなぜユウトに冷たい態度をとるのかがここで明かされます。
第三話「恋人として」は、9月1日(月)の更新となります。
躊躇いながらもセージュの恋人になったユウト。触れられたりキスされるとドキドキしてしまい…。
そして、セージュはユウトに恋をした日を回想します。
第四話「誘惑」
セージュと親しいセシリアという少女の存在がユウトの心をざわつかせます。
愛される自信が持てないユウトを、セージュは洗面所で…。
第五話「月夜の口づけ」
セレストア祭の夜。ユウトはある人物からセージュとの恋を反対され…という話です。