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20話
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――あれから、数年の月日が流れた。
王都から遠く離れた、四季折々の花が咲き乱れる美しい伝説の谷。そこには、かつて「黒鉄の騎士団長」として恐れられた男と、その「奇跡の妃」が暮らす屋敷がある。
「カナデ、あまり遠くへ行くな。その辺りの草むらには、貴様を誘惑しようとする不届きな蝶がいるかもしれん」
「団長、蝶にまで嫉妬しないでください。ここは僕たちが作った『聖獣保護区』なんですから、みんな自由にしていい場所なんですよ」
カナデは苦笑しながら、足元に群がる銀雪狐の子供たちを撫でた。
ヴォルフガングは結局、宣言通り騎士団長の座をゼクスに(強引に)譲り渡し、カナデと共にこの地へ隠居したのだ。
だが、「隠居」とは名ばかり。
ヴォルフガングがカナデのために建てたこの屋敷は、外観こそ平穏だが、その実体は「対神霊級・鉄壁防衛魔法」が幾重にも張り巡らされた、世界で最も安全で、最も脱出不可能な愛の檻だった。
「ふん。貴様が無防備すぎるのだ。……ほら、こちらへ来い。魔力が不足しているのではないか? 私が直接、補給してやろう」
「さっき朝ごはんの時にしたばかりじゃないですか! もう、相変わらず愛が重いんだから……」
カナデは文句を言いながらも、自然とヴォルフガングの腕の中に収まった。
かつて「無能」と蔑まれ、行き場を失っていた孤独な少年は、今や世界最強の男の全霊をかけた執着によって、この上ない安らぎの中にいた。
その時、谷の入り口から賑やかな声が響いた。
「カナデさーん! 定期検診と、隣国の新しい動物図鑑を持ってきましたよ!」
現れたのは、時折遊びに来るようになったセシルと、相変わらず苦労が絶えない様子のゼクス、そして女医のミナたちだった。
「おや、ヴォルフガング閣下。今日もカナデにべったりですね。少しは私に貸してくれてもいいでしょう?」
セシルが軽口を叩くが、ヴォルフガングの琥珀色の瞳が冷たく光る。
「……セシル。貴様をこの谷の入り口で氷漬けにしていなかったのは、カナデが『客人を凍らせるな』と言ったからだ。一歩でもカナデに触れてみろ。隣国の王位継承順位を、今日中に私一人の手で書き換えてやる」
「ひぇっ、相変わらず怖い! カナデさん、よくこんな重い人と一緒にいられますね!」
セシルの言葉に、カナデはふと、隣で自分を抱きしめるヴォルフガングの顔を見上げた。
そこには、かつての冷酷な騎士団長の面影はなく、ただ一人の愛する者を守り抜くことに全霊を捧げる、不器用な男の熱い眼差しがあった。
「……そうですね。確かに、この人の愛は重いです。……地平線の果てまで追いかけてくるし、神様すら追い返しちゃうし、僕の魔力を自分だけでいっぱいにしないと気が済まない、困った人です」
カナデはヴォルフガングの頬にそっと手を触れ、幸せそうに微笑んだ。
「でも。……空っぽだった僕の『器』を、こんなに熱い愛で満たしてくれたのは、この人だけですから」
その言葉を聞いた瞬間、ヴォルフガングは耐えきれないというようにカナデを強く、骨が鳴るほどに抱きしめた。
「……カナデ。貴様がそう言うなら、私は一生をかけて、貴様の器を溢れさせ続けてやろう。来世も、その先も、貴様が『もういい』と言っても、私は決して離さんぞ」
「……はいはい。覚悟はできてますよ、団長様」
青空の下、たくさんのもふもふたちに見守られながら、二人は深い接吻を交わした。
かつて「無能」と呼ばれた少年が手に入れたのは、静かなスローライフではなかったかもしれない。
けれど、それはどんな平穏よりも熱く、どんな魔法よりも確かな、宇宙で一番「重くて温かい」幸福の形。
溺愛の鎖に繋がれた二人の物語は、この美しい谷で、永遠に、甘やかに続いていくのだった。
(完)
王都から遠く離れた、四季折々の花が咲き乱れる美しい伝説の谷。そこには、かつて「黒鉄の騎士団長」として恐れられた男と、その「奇跡の妃」が暮らす屋敷がある。
「カナデ、あまり遠くへ行くな。その辺りの草むらには、貴様を誘惑しようとする不届きな蝶がいるかもしれん」
「団長、蝶にまで嫉妬しないでください。ここは僕たちが作った『聖獣保護区』なんですから、みんな自由にしていい場所なんですよ」
カナデは苦笑しながら、足元に群がる銀雪狐の子供たちを撫でた。
ヴォルフガングは結局、宣言通り騎士団長の座をゼクスに(強引に)譲り渡し、カナデと共にこの地へ隠居したのだ。
だが、「隠居」とは名ばかり。
ヴォルフガングがカナデのために建てたこの屋敷は、外観こそ平穏だが、その実体は「対神霊級・鉄壁防衛魔法」が幾重にも張り巡らされた、世界で最も安全で、最も脱出不可能な愛の檻だった。
「ふん。貴様が無防備すぎるのだ。……ほら、こちらへ来い。魔力が不足しているのではないか? 私が直接、補給してやろう」
「さっき朝ごはんの時にしたばかりじゃないですか! もう、相変わらず愛が重いんだから……」
カナデは文句を言いながらも、自然とヴォルフガングの腕の中に収まった。
かつて「無能」と蔑まれ、行き場を失っていた孤独な少年は、今や世界最強の男の全霊をかけた執着によって、この上ない安らぎの中にいた。
その時、谷の入り口から賑やかな声が響いた。
「カナデさーん! 定期検診と、隣国の新しい動物図鑑を持ってきましたよ!」
現れたのは、時折遊びに来るようになったセシルと、相変わらず苦労が絶えない様子のゼクス、そして女医のミナたちだった。
「おや、ヴォルフガング閣下。今日もカナデにべったりですね。少しは私に貸してくれてもいいでしょう?」
セシルが軽口を叩くが、ヴォルフガングの琥珀色の瞳が冷たく光る。
「……セシル。貴様をこの谷の入り口で氷漬けにしていなかったのは、カナデが『客人を凍らせるな』と言ったからだ。一歩でもカナデに触れてみろ。隣国の王位継承順位を、今日中に私一人の手で書き換えてやる」
「ひぇっ、相変わらず怖い! カナデさん、よくこんな重い人と一緒にいられますね!」
セシルの言葉に、カナデはふと、隣で自分を抱きしめるヴォルフガングの顔を見上げた。
そこには、かつての冷酷な騎士団長の面影はなく、ただ一人の愛する者を守り抜くことに全霊を捧げる、不器用な男の熱い眼差しがあった。
「……そうですね。確かに、この人の愛は重いです。……地平線の果てまで追いかけてくるし、神様すら追い返しちゃうし、僕の魔力を自分だけでいっぱいにしないと気が済まない、困った人です」
カナデはヴォルフガングの頬にそっと手を触れ、幸せそうに微笑んだ。
「でも。……空っぽだった僕の『器』を、こんなに熱い愛で満たしてくれたのは、この人だけですから」
その言葉を聞いた瞬間、ヴォルフガングは耐えきれないというようにカナデを強く、骨が鳴るほどに抱きしめた。
「……カナデ。貴様がそう言うなら、私は一生をかけて、貴様の器を溢れさせ続けてやろう。来世も、その先も、貴様が『もういい』と言っても、私は決して離さんぞ」
「……はいはい。覚悟はできてますよ、団長様」
青空の下、たくさんのもふもふたちに見守られながら、二人は深い接吻を交わした。
かつて「無能」と呼ばれた少年が手に入れたのは、静かなスローライフではなかったかもしれない。
けれど、それはどんな平穏よりも熱く、どんな魔法よりも確かな、宇宙で一番「重くて温かい」幸福の形。
溺愛の鎖に繋がれた二人の物語は、この美しい谷で、永遠に、甘やかに続いていくのだった。
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