砂漠の夜に刻む誓い 〜考古学者は若き族長に愛でられる〜

たら昆布

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1話

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 視界のすべてが、残酷なほどに眩い黄金色に染まっていた。

 「……はぁ、はぁっ……。どこまで、歩けば……」

 瀬戸遥希は、焼け付くような熱気の中で何度目かの吐息を漏らした。

 数時間前、調査隊の車とはぐれたのは、ひとえに自分の不注意だ。砂漠の地層に気を取られ、ほんの少し目を離した隙に、道なき道の先へと足を踏み入れてしまった。

 考古学者としての知的好奇心が、生存本能を上回ってしまった報いだろうか。

 「喉が、熱い……」

 水筒はすでに空だ。眼鏡の奥で、視界がぐにゃりと歪む。

 砂丘の頂に手をかけ、最後の一歩を踏み出した時、膝の力がふっと抜けた。

 熱い砂に顔を埋める覚悟をした、その時だった。

 「――異邦の迷い子か。こんなところで、何を死に急いでいる」

 頭上から降ってきたのは、砂漠の静寂を切り裂くような、深く、朗々とした低い声だった。

 遥希は重い瞼を無理やり押し上げた。

 逆光の中に立っていたのは、一人の男だ。

 風にたなびく白銀の民族衣装。その下に隠しきれない、鍛え上げられた強靭な肉体の輪郭。

 そして何より、遥希の魂を射抜いたのは、太陽の光を凝縮したような「金色」の瞳だった。

 「あ……」

 声にならない声を漏らした瞬間、遥希の身体は宙に浮いた。

 男が、無造作に、けれど確かな力強さで遥希を抱き上げたのだ。

 「……っ、放して……ください……」

 「大人しくしていろ。これ以上喋れば、喉の水分がすべて尽きるぞ」

 男の胸板から伝わってくるのは、砂漠の熱風よりももっと濃密で、生き物の力強さを感じさせる「熱」だった。

 触れられた場所から、痺れるような感覚が広がる。男の指が、遥希の細い腰をしっかりと掴んでいるのがわかった。

 (熱い、……すごく、熱い……)

 遥希は朦朧とする意識の中で、その男の顔を見上げた。

 彫刻のように整った鼻梁。縁取られた長い睫毛。そして、自分を捕らえて離さない、傲慢なまでの独占欲を孕んだ瞳。

 「……お前、いい匂いがするな。死にかけているというのに、砂の匂いに混じって、甘い香りがする」

 男の顔が近づき、その唇が遥希の耳元を掠めた。

 熱い吐息が耳孔に吹き込まれ、遥希の背中にゾクリとした戦慄が走る。

 「な、にを……」

 「俺はザイド。この地の、そしてこれからはお前の『主』となる男の名だ」

 ザイドと名乗った男は、遥希の眼鏡を指先で少しずらすと、その潤んだ瞳をじっと覗き込んだ。

 まるで、価値ある出土品を見定めているような、冷徹でいて情熱的な視線。

 遥希は抗おうとしたが、男の腕の力はあまりに強く、逃げ場などどこにもなかった。

 「運命とは奇妙なものだ。千年前の伝承は、真実だったというわけか」

 ザイドが何事か独り言をつぶやいたが、遥希の意識はそこで限界を迎えた。

 最後に感じたのは、男の分厚い手のひらが、自分の頬を愛おしげに撫でる感触。

 そして、獲物を仕留めた猛禽のような、満足げな微笑みだった。

 砂漠の風が吹き抜け、遥希の意識は深い闇の中へと沈んでいった。

 次に目を覚ました時、そこが自分の知る世界ではないことを、遥希はまだ知る由もなかった。
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