役立たずと捨てられた魔力供給者は隣国の覇王に拾われて離してもらえません ~最強の騎士たちにも囲まれていつの間にか世界を救っていた件~

たら昆布

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9話

 ルベリス帝国の帝都は、今日も活気に満ちていた。
 その賑わいの中に、周囲から少し浮いている――というより、圧倒的なオーラを放つ一団がいた。

「いいか、トア。私の側を離れるなよ。帝都は治安がいいとはいえ、不届き者がお前のような無垢な者を狙わないとも限らん」
「陛下、あまりトア殿を密着させすぎては、彼が歩きにくいでしょう。トア殿、私の腕に掴まってください。人混みで逸れないように」

 普段は冷徹な皇帝グレンディルと、厳格な騎士団長イザークが、揃って平民のふり(と言いつつ隠しきれない高貴さ)をした格好で、トアを左右から挟むように歩いている。
 トアの肩には、大人しく丸まったキリが、珍しそうにキョロキョロと周囲を見渡していた。

「わぁ……すごい。陛下、イザーク様、見てください! お魚も、果物も、キラキラしてます!」

 トアは、セフィリア王国では見たこともないような活気ある市場に、目を輝かせていた。
 露店に並ぶ瑞々しいリンゴや、香ばしい匂いを漂わせる焼き立てのパン。
 トアにとっては、見るものすべてが宝箱の中身のように眩しい。

「トア殿、あちらに珍しい刺繍のハンカチがあるようだ。行ってみようか」
「あ、本当だ! 綺麗……」

 トアが小さな露店の前で足を止めると、店主の老婆が柔和な笑みを浮かべた。
「おやおや、可愛らしいお兄さんだねえ。そのハンカチは幸運を呼ぶと言われてるんだよ」
「幸運……。あの、おいくらですか?」

 トアが懐の小さな財布(グレンディルから『使い切れないほど』入れられて渡されたもの)を取り出そうとすると、左右から同時に声が上がった。

「店主、この露店ごと買い取ろう」
「いいや陛下、まずはこの列にある全種類をトア殿に献上すべきです」

「ちょ、ちょっと待ってください! 一枚でいいんです、一枚で!」

 トアが慌てて二人を止めると、店主の老婆は「おやおや、愛されてるねえ」と愉快そうに笑った。
 トアは顔を真っ赤にしながら、一番優しい色合いのハンカチを一枚だけ購入した。
 自分のお金で、自分の好きなものを買う。そんな当たり前のことが、トアにとっては涙が出るほど嬉しい経験だった。

 しばらく歩くと、ふわりと甘い蜜の香りが漂ってきた。
「トア、疲れていないか? あそこのテラスで休憩にしよう。あそこの蜂蜜パイは、サフィエルも勧めていた逸品だ」

 グレンディルが指差した先には、花に囲まれた小さなカフェがあった。
 席に着き、運ばれてきたあつあつの蜂蜜パイを一口食べると、トアの頬が幸せそうに緩む。

「……ふふ、甘くて美味しいです。あ、キリも食べる?」
 キリに小さく分けたパイを差し出すトア。その様子を、グレンディルとイザークは、まるで聖画でも眺めるような慈愛に満ちた目で見守っていた。

「……トア。外の世界は、お前が思っていたほど、恐ろしい場所ではないだろう?」
 グレンディルが、トアの指先についた蜜を指でそっと拭いながら尋ねた。

「はい……。セフィリアにいた時は、外に出るのが怖かったんです。でも、今は……陛下やイザーク様が一緒にいてくれるから、とっても楽しいです」

 トアの真っ直ぐな言葉に、最強の二人は一瞬、と言葉を失った。
 
「……ああ。これからも、お前が見たい景色はすべて、私たちが隣で見せてやろう」
「ええ。どこへ行くにも、私たちが全力でお守りします」

 市場を吹き抜ける風は心地よく、トアの心に溜まっていた過去の澱(おり)を、また一つ、優しく運び去っていった。
 
 過保護すぎる二人の騎士(と皇帝)に守られながら、トアの初めてのお出かけは、ただただ甘く、穏やかに過ぎていくのだった。
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