役立たずと捨てられた魔力供給者は隣国の覇王に拾われて離してもらえません ~最強の騎士たちにも囲まれていつの間にか世界を救っていた件~

たら昆布

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26話

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 祭りの賑わいを背に、四人を乗せた特別仕様の馬車は、静まり返った帝都の石畳をゆっくりと進み始めた。
 車輪が立てる規則正しいリズムが、心地よい子守唄のように車内に響く。

 窓の外では、まだ遠くで上がる打ち上げ花火の音が、小さな鼓動のように「ドーン、ドーン」と低く震えていた。
 トアはその小さな音を聞きながら、柔らかい革のシートに深く背を預けた。
 
 今日一日の出来事が、走馬灯のように頭の中を駆け巡る。
 初めて食べた『星のわたあめ』の甘さ。
 広場を埋め尽くした灯籠のオレンジ色の光。
 そして、自分から手渡した『絆の石』を受け取ってくれた時の、三人の優しい表情。
 
「……ふふ」
 
 思い出してつい零れた笑みを、隣に座るグレンディルは見逃さなかった。
 彼はトアの肩に、サフィエルが贈ったすみれ色のストールを掛け直してやる。
 
「トア、何がそんなに可笑しい? 疲れすぎて、ついに頭に精霊でも湧いたか」
 
 冗談めかした口調だが、その瞳にはトアの体調を気遣う色が濃く滲んでいる。
 トアは首を振って、グレンディルの太い腕にそっと寄り添った。
 
「いいえ……。とっても幸せだなって思ったら、自然に笑っちゃいました。……陛下、今日は本当に、ありがとうございました」
 
「礼など必要ないと言っただろう。……だが、そうだな。お前がそうやって満足そうにしているのが、私にとっては一番の報酬だ」
 
 グレンディルは、トアの黄金色の髪に指を通し、愛おしげにその感触を確かめる。
 向かい合わせの席では、イザークが剣を膝に置き、窓の外の夜の闇をじっと見守っていた。
 彼の耳元には、トアが贈った紺色のチャームが、月の光を反射して静かに揺れている。
 
「トア殿、眠ければそのままお休みください。城に着くまではまだ時間がありますし、着いた後もお運びいたしますから」
 
 イザークの言葉は、騎士としての義務感を超えた、一人の男としての慈愛に満ちていた。
 その隣で、サフィエルは手にした魔導書を閉じ、優しく眼鏡を外した。
 
「本当に、君はよく頑張ったね。初めてのお祭りで、あれだけの人混みを歩いたんだ。……さあ、僕の膝を貸してあげようか?」
 
「サフィエル、貴様。どさくさに紛れて場所を代わるな」
 
「おやおや、陛下。独り占めは良くありませんよ。トアは今、みんなの『宝物』なんですから」
 
 三人のいつものやり取りが、今のトアにはこの上なく心地よかった。
 かつてセフィリア王国で、暗い部屋の隅、冷たい床の上で震えていた自分に、今のこの光景を見せてあげたいと思う。
 
 ここは、暖かい。
 服も、空気も、そして何より、自分に触れる人たちの手が、溶けるほどに暖かい。
 
 トアの瞼が、重力に抗えずにゆっくりと閉じていく。
 肩の上では、キリもすっかり夢の中のようで、小さな鼻提灯を作りながら丸まっていた。
 
 トアの体が、馬車の揺れに合わせてグレンディルの胸元へともたれかかる。
 グレンディルは、その華奢な体を壊さないように慎重に抱き寄せ、自分の大きなマントをその上から掛けた。
 
「……おやすみ、トア。明日目が覚めても、私はお前の側にいる」
 
 低い、深い、波のような声。
 その声に守られながら、トアは深い眠りの中へと落ちていった。
 夢の中で見る景色も、きっと今夜と同じように、無数の星が降るような輝きに満ちているに違いない。
 
 馬車は夜の静寂を切り裂くことなく、優しく、どこまでも優しく、彼らの「家」である城へと進み続けた。
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