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18話
「……エルヴィン、行かないでくれ。まだ頭の芯がぼんやりするんだ。……ほら、お前が離れると、鼓動が速くなって魔力回路が不整脈を起こしそうだ」
魔力風邪から完全に回復したはずのゼノス様は、今、執務室の巨大な椅子に深く腰掛け、僕をその膝の間にがっしりと拘束していた。
僕が立ち上がろうとするたびに、服の裾をキュッと掴んで、潤んだ瞳(演技派すぎる)で見上げてくるのだ。
「ゼノス様、もう熱は下がっています。カインさんも『陛下は魔力が溢れすぎて、城の結界が強化されるほどお元気です』って呆れてましたよ。早くお仕事に戻ってください!」
「嫌だ。看病されていた時の、お前のあの優しさが忘れられん。……あのお粥、美味かったな。お前が『あーん』してくれた瞬間、俺は魔王を辞めてお前の飼い犬になってもいいと本気で思った」
「そんなこと思わないでください。……というか、今この体勢、カインさんがいつ入ってくるか……」
僕がヒヤヒヤしながら周囲を伺っていると、案の定、扉が音もなく開いた。
そこには、分厚い書類の束を持ったカインさんが、もはや驚くことさえ忘れたような「悟りの境地」の顔で立っていた。
「……陛下。エルヴィン様を抱きしめたままサインをするのは、効率が三割ほど低下しております。そろそろそちらの『特級癒やし装置』を解放していただけませんか?」
「断る。こいつがいなければ、俺の集中力は皆無になる。……エルヴィン、ほら、ペンを持つのを支えてくれ。手が震えて書けないんだ」
「嘘だ! 昨日、暴走した魔物相手に素手で岩を砕いてたって聞きましたよ!」
僕は叫びながらも、ゼノス様の「お願いだ、エルヴィン」という甘い囁きに抗えず、結局彼の膝の上で重なるようにしてペンを握らされる。
背中から伝わるゼノス様の心音は、不整脈どころか、僕を欲して激しく、力強く刻まれている。
カインさんは眼鏡をクイと上げると、一枚の書類を突きつけた。
「……では、その状態で結構ですので、こちらの『国境付近の魔力供給施設の増設案』にサインを。……あ、エルヴィン様。陛下が甘えすぎて困るようでしたら、いつでも仰ってください。魔王城の地下牢(一番豪華なやつ)に陛下を一時的に隔離する準備はできております」
「カイン、貴様……あとで減給だ」
「結構です。陛下がエルヴィン様にデレデレしている間の精神的苦痛手当で相殺されます」
カインさんが部屋を出ていくと、ゼノス様はすぐに僕の首筋に顔を埋めた。
大きな手が、僕の腰をじわじわと、だが逃がさない強さで愛撫し始める。
「……ゼノス様!? サイン終わったじゃないですか。離してください!」
「離さん。病気の間、お前にまともに触れられなかったのは、俺にとって一年分の日照りに等しい苦痛だったのだ。……利子をつけて返してもらうと言っただろう?」
ゼノス様の声が、甘えん坊のものから、一瞬で「捕食者」の低い響きへと変わった。
彼の手が僕の寝衣の合わせ目に指をかけ、容赦なく肌を露わにする。
「ん、ぁ……っ、ゼノス、様……ここは、執務室、ですよ……」
「防音だと言っただろう。……それに、お前の魔力。風邪を引いたせいで少し溜まっているな。……俺が、今すぐ一滴残らず吸い出してやる」
ゼノス様の唇が、僕の鎖骨にある「印」をなぞり、深く、痛いほどに吸い上げた。
供給体としての本能が、彼の荒ぶる魔力に応えようとして、体温が急上昇する。
病気とは違う、熱い、甘い熱が僕の思考を焼き切っていく。
「……エルヴィン、俺に抱かれながら、お前も俺を欲していると言え。……その口で、俺の魔力が欲しいと、もっと奥まで注げと命じてみろ」
ゼノス様は僕の耳たぶを甘噛みしながら、酷く色っぽい声で命じた。
最強の魔王が、僕という人間に執着し、僕の言葉一つで歓喜し、絶望する。
その歪んだ構図に、僕は恐怖よりも先に、どうしようもない優越感と愛情を感じてしまう。
「……ゼノス様……っ。……ほしい、です。……あなたの、魔力が……全部……っ」
僕が震える声でそう言うと、ゼノス様の瞳に狂おしいほどの情熱が灯った。
「――よく言った。……ならば、望み通りにしてやる。お前が俺の名前以外、何も叫べなくなるまでな」
執務机の上の書類が、ゼノス様の放った魔力でバラバラと床に舞い落ちる。
僕たちはその上で、重なり合うようにして倒れ込んだ。
病み上がりの「甘えん坊」はどこへやら。
そこには、愛する伴侶を味わい尽くそうとする、どこまでも強欲で、どこまでも一途な魔王の姿があった。
結局、その日の公務はすべて翌日に持ち越され、カインさんの胃にさらなる穴が開くことになったのは、確定事項だった。
魔力風邪から完全に回復したはずのゼノス様は、今、執務室の巨大な椅子に深く腰掛け、僕をその膝の間にがっしりと拘束していた。
僕が立ち上がろうとするたびに、服の裾をキュッと掴んで、潤んだ瞳(演技派すぎる)で見上げてくるのだ。
「ゼノス様、もう熱は下がっています。カインさんも『陛下は魔力が溢れすぎて、城の結界が強化されるほどお元気です』って呆れてましたよ。早くお仕事に戻ってください!」
「嫌だ。看病されていた時の、お前のあの優しさが忘れられん。……あのお粥、美味かったな。お前が『あーん』してくれた瞬間、俺は魔王を辞めてお前の飼い犬になってもいいと本気で思った」
「そんなこと思わないでください。……というか、今この体勢、カインさんがいつ入ってくるか……」
僕がヒヤヒヤしながら周囲を伺っていると、案の定、扉が音もなく開いた。
そこには、分厚い書類の束を持ったカインさんが、もはや驚くことさえ忘れたような「悟りの境地」の顔で立っていた。
「……陛下。エルヴィン様を抱きしめたままサインをするのは、効率が三割ほど低下しております。そろそろそちらの『特級癒やし装置』を解放していただけませんか?」
「断る。こいつがいなければ、俺の集中力は皆無になる。……エルヴィン、ほら、ペンを持つのを支えてくれ。手が震えて書けないんだ」
「嘘だ! 昨日、暴走した魔物相手に素手で岩を砕いてたって聞きましたよ!」
僕は叫びながらも、ゼノス様の「お願いだ、エルヴィン」という甘い囁きに抗えず、結局彼の膝の上で重なるようにしてペンを握らされる。
背中から伝わるゼノス様の心音は、不整脈どころか、僕を欲して激しく、力強く刻まれている。
カインさんは眼鏡をクイと上げると、一枚の書類を突きつけた。
「……では、その状態で結構ですので、こちらの『国境付近の魔力供給施設の増設案』にサインを。……あ、エルヴィン様。陛下が甘えすぎて困るようでしたら、いつでも仰ってください。魔王城の地下牢(一番豪華なやつ)に陛下を一時的に隔離する準備はできております」
「カイン、貴様……あとで減給だ」
「結構です。陛下がエルヴィン様にデレデレしている間の精神的苦痛手当で相殺されます」
カインさんが部屋を出ていくと、ゼノス様はすぐに僕の首筋に顔を埋めた。
大きな手が、僕の腰をじわじわと、だが逃がさない強さで愛撫し始める。
「……ゼノス様!? サイン終わったじゃないですか。離してください!」
「離さん。病気の間、お前にまともに触れられなかったのは、俺にとって一年分の日照りに等しい苦痛だったのだ。……利子をつけて返してもらうと言っただろう?」
ゼノス様の声が、甘えん坊のものから、一瞬で「捕食者」の低い響きへと変わった。
彼の手が僕の寝衣の合わせ目に指をかけ、容赦なく肌を露わにする。
「ん、ぁ……っ、ゼノス、様……ここは、執務室、ですよ……」
「防音だと言っただろう。……それに、お前の魔力。風邪を引いたせいで少し溜まっているな。……俺が、今すぐ一滴残らず吸い出してやる」
ゼノス様の唇が、僕の鎖骨にある「印」をなぞり、深く、痛いほどに吸い上げた。
供給体としての本能が、彼の荒ぶる魔力に応えようとして、体温が急上昇する。
病気とは違う、熱い、甘い熱が僕の思考を焼き切っていく。
「……エルヴィン、俺に抱かれながら、お前も俺を欲していると言え。……その口で、俺の魔力が欲しいと、もっと奥まで注げと命じてみろ」
ゼノス様は僕の耳たぶを甘噛みしながら、酷く色っぽい声で命じた。
最強の魔王が、僕という人間に執着し、僕の言葉一つで歓喜し、絶望する。
その歪んだ構図に、僕は恐怖よりも先に、どうしようもない優越感と愛情を感じてしまう。
「……ゼノス様……っ。……ほしい、です。……あなたの、魔力が……全部……っ」
僕が震える声でそう言うと、ゼノス様の瞳に狂おしいほどの情熱が灯った。
「――よく言った。……ならば、望み通りにしてやる。お前が俺の名前以外、何も叫べなくなるまでな」
執務机の上の書類が、ゼノス様の放った魔力でバラバラと床に舞い落ちる。
僕たちはその上で、重なり合うようにして倒れ込んだ。
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そこには、愛する伴侶を味わい尽くそうとする、どこまでも強欲で、どこまでも一途な魔王の姿があった。
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