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8話
魔塔の重厚な門を叩き、無礼な叫び声を上げているのは、王国の第二騎士団を引き連れたルカだった。
結界の向こう側で、彼は喉を枯らして叫んでいる。
「エリオット! 出てこい! 王命だぞ、貴様のような無能をもう一度騎士団に置いてやると言っているんだ!」
傍らには、苛立ちを隠せないイザベラ王女の姿もある。
彼らは気づいていない。自分たちが踏み込もうとしている場所が、大陸で最も触れてはならない「死神」の庭であることを。
ヴィクトールが指先をわずかに動かすと、塔の門が静かに開いた。
冷気と共に姿を現したヴィクトールと、その斜め後ろに付き従うエリオットを見て、ルカは嘲笑を浮かべた。
「はっ、ようやく出てきたか。エリオット、その首輪は何だ? そんな変態的な魔導師の玩具に成り下がって、騎士の誇りはどこへ行った!」
ルカの言葉に、エリオットの肩が微かに震える。
だが、それは恐怖によるものではなかった。
「誇り……ですか」
エリオットが一歩、前へ出た。
首元の銀の首輪が、ヴィクトールの魔力に反応して鮮やかに紅く脈動する。
「僕が呪いを受け、魔力を失って倒れた時、あなた方は何と言いましたか? 『無能』『人形』……そう言って、僕を雨の中に放り出したのは、あなた方だ」
「それは……国のために仕方のないことだったわ!」
イザベラが気高く言い放つ。だが、エリオットは静かに首を振った。
「今の僕には、守るべき国も、忠誠を誓う王女もいません。僕が命を預ける主は、僕のすべてを拾ってくださったヴィクトール様、ただ一人です」
「貴様……本気で言っているのか!?」
ルカが剣を抜き放ち、エリオットへ向かって突進した。
かつての親友による、容赦のない一撃。
だが、エリオットは目を逸らさなかった。
「消えろ」
ヴィクトールの短い呟きと共に、空間が歪んだ。
ルカの体は、見えない巨大な衝撃波に弾き飛ばされ、広場を転がって石壁に激突した。
「ぐはっ……が、あ……っ!」
「ルカ! ……な、なんてことを! 聖なる騎士団に手を出すなんて、王国を敵に回すつもりなの!?」
イザベラの悲鳴に近い叫びに、ヴィクトールは低く、酷く冷酷に笑った。
彼はエリオットの腰を抱き寄せ、見せつけるようにその髪に口づけを落とす。
「王国? ……そんな砂上の楼閣、私がその気になれば一夜で塵に帰せる。この男を傷つけ、捨て、その上で利用しようなどと……その厚顔無恥さ、死をもって償わせてもいいのだぞ?」
ヴィクトールの瞳が深紅に燃え上がり、周囲の空気がパチパチと弾ける。
本格的な広域殲滅魔法の予兆。
その絶望的なまでの魔力の圧に、イザベラは腰を抜かし、騎士たちは武器を捨てて震え上がった。
「待ってください、ヴィクトール様」
エリオットがそっと、ヴィクトールの腕に触れた。
「もう、いいんです。彼らは僕にとって、もう何の意味もない存在ですから。殺す価値さえ……ありません」
ヴィクトールはエリオットの瞳をじっと見つめ、やがてふっと殺気を霧散させた。
「お前がそう言うのなら、今は見逃してやろう。……だが、次はない。この男の髪一本にでも触れてみろ。その時は、お前たちの血でこの塔を塗り替えてやる」
「ひ、ひぃぃ……っ!」
命からがら逃げ出していくイザベラたちの背中を、エリオットは冷めた目で見送った。
かつてあんなにも執着していた居場所が、今はひどく滑稽に見える。
「……これで良かったのか、エリオット」
ヴィクトールが、独占欲を隠そうともしない強さでエリオットを抱きしめた。
「はい。僕は、あなたのものだと……自分の言葉で伝えたかったんです」
エリオットは、ヴィクトールの胸に深く顔を埋めた。
捨てられた騎士は、今、最強の魔導師の隣で、誰よりも甘く、不自由で幸せな居場所を手に入れたのだ。
結界の向こう側で、彼は喉を枯らして叫んでいる。
「エリオット! 出てこい! 王命だぞ、貴様のような無能をもう一度騎士団に置いてやると言っているんだ!」
傍らには、苛立ちを隠せないイザベラ王女の姿もある。
彼らは気づいていない。自分たちが踏み込もうとしている場所が、大陸で最も触れてはならない「死神」の庭であることを。
ヴィクトールが指先をわずかに動かすと、塔の門が静かに開いた。
冷気と共に姿を現したヴィクトールと、その斜め後ろに付き従うエリオットを見て、ルカは嘲笑を浮かべた。
「はっ、ようやく出てきたか。エリオット、その首輪は何だ? そんな変態的な魔導師の玩具に成り下がって、騎士の誇りはどこへ行った!」
ルカの言葉に、エリオットの肩が微かに震える。
だが、それは恐怖によるものではなかった。
「誇り……ですか」
エリオットが一歩、前へ出た。
首元の銀の首輪が、ヴィクトールの魔力に反応して鮮やかに紅く脈動する。
「僕が呪いを受け、魔力を失って倒れた時、あなた方は何と言いましたか? 『無能』『人形』……そう言って、僕を雨の中に放り出したのは、あなた方だ」
「それは……国のために仕方のないことだったわ!」
イザベラが気高く言い放つ。だが、エリオットは静かに首を振った。
「今の僕には、守るべき国も、忠誠を誓う王女もいません。僕が命を預ける主は、僕のすべてを拾ってくださったヴィクトール様、ただ一人です」
「貴様……本気で言っているのか!?」
ルカが剣を抜き放ち、エリオットへ向かって突進した。
かつての親友による、容赦のない一撃。
だが、エリオットは目を逸らさなかった。
「消えろ」
ヴィクトールの短い呟きと共に、空間が歪んだ。
ルカの体は、見えない巨大な衝撃波に弾き飛ばされ、広場を転がって石壁に激突した。
「ぐはっ……が、あ……っ!」
「ルカ! ……な、なんてことを! 聖なる騎士団に手を出すなんて、王国を敵に回すつもりなの!?」
イザベラの悲鳴に近い叫びに、ヴィクトールは低く、酷く冷酷に笑った。
彼はエリオットの腰を抱き寄せ、見せつけるようにその髪に口づけを落とす。
「王国? ……そんな砂上の楼閣、私がその気になれば一夜で塵に帰せる。この男を傷つけ、捨て、その上で利用しようなどと……その厚顔無恥さ、死をもって償わせてもいいのだぞ?」
ヴィクトールの瞳が深紅に燃え上がり、周囲の空気がパチパチと弾ける。
本格的な広域殲滅魔法の予兆。
その絶望的なまでの魔力の圧に、イザベラは腰を抜かし、騎士たちは武器を捨てて震え上がった。
「待ってください、ヴィクトール様」
エリオットがそっと、ヴィクトールの腕に触れた。
「もう、いいんです。彼らは僕にとって、もう何の意味もない存在ですから。殺す価値さえ……ありません」
ヴィクトールはエリオットの瞳をじっと見つめ、やがてふっと殺気を霧散させた。
「お前がそう言うのなら、今は見逃してやろう。……だが、次はない。この男の髪一本にでも触れてみろ。その時は、お前たちの血でこの塔を塗り替えてやる」
「ひ、ひぃぃ……っ!」
命からがら逃げ出していくイザベラたちの背中を、エリオットは冷めた目で見送った。
かつてあんなにも執着していた居場所が、今はひどく滑稽に見える。
「……これで良かったのか、エリオット」
ヴィクトールが、独占欲を隠そうともしない強さでエリオットを抱きしめた。
「はい。僕は、あなたのものだと……自分の言葉で伝えたかったんです」
エリオットは、ヴィクトールの胸に深く顔を埋めた。
捨てられた騎士は、今、最強の魔導師の隣で、誰よりも甘く、不自由で幸せな居場所を手に入れたのだ。
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