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11話
魔塔に、かつてない不穏な静寂が訪れていた。
王国の強硬派が放ったのは、古の禁忌――「魔力喰らいの鎖」と呼ばれる呪具だった。
彼らはエリオットを奪還するためではなく、エリオットという「餌」を使って、大陸最強の魔導師であるヴィクトールを無力化することを狙ったのだ。
「……くっ、この、汚らわしい細工が……!」
ヴィクトールが膝をつき、激しく喘ぐ。
塔の結界を潜り抜けた呪いの霧が、彼の膨大な魔力を内側から食い荒らしていた。
最強ゆえに、その魔力密度が仇となり、呪いの回りが異常なほどに速い。
「ヴィクトール様!」
エリオットが駆け寄り、主の身体を支える。
いつも冷徹な余裕を崩さなかったヴィクトールの顔が、苦痛に歪んでいる。
「離れろ……エリオット……! この呪いは、魔力を媒介に伝染する。お前の……再構築されたばかりの回路では耐えられん……」
「嫌です! あなたが僕を捨てなかったように、僕もあなたを一人にはしません!」
エリオットは叫ぶと、ヴィクトールの背中を抱きしめた。
その瞬間、首元の銀の首輪が、警告を告げるように真紅に激しく明滅する。
(僕の中に、彼の魔力がある。……なら、僕が彼の盾になれるはずだ!)
エリオットは目を閉じ、自身の内側へ意識を向けた。
ヴィクトールに注ぎ込まれ、自分の血肉となった「共鳴魔力」。
それは今、主の危機を感じ取り、エリオットの意志に応えて猛烈に回転を始めた。
「あ……ああぁぁぁぁっ!!」
エリオットの体から、眩いばかりの銀色の光が溢れ出した。
かつての「聖騎士」としての清廉な光に、ヴィクトールの「漆黒の魔力」が混ざり合い、それは禍々しくも神々しい、新たな輝きへと変貌していく。
銀光は触手のようにヴィクトールの体に絡みつき、彼を蝕んでいた黒い呪霧を、力ずくで引き剥がし、自らの中へと取り込んでいく。
「エリオット、やめろ! そんなことをすれば、お前の魂が壊れるぞ!」
「いいえ……壊れません。僕は……あなたの番(つがい)ですから!」
エリオットは歯を食いしばり、呪いの毒をすべて自分の体へと流し込んだ。
激痛が全身を切り刻むが、ヴィクトールの呼吸が楽になっていくのを感じると、それだけで胸の奥が温かくなった。
やがて、銀色の光が爆発するように広がり、塔に侵入していた呪いの気配を完全に霧散させた。
「はぁ、はぁ……っ……」
力を使い果たしたエリオットが、ゆっくりと崩れ落ちる。
それを間一髪で抱き止めたのは、魔力を取り戻したヴィクトールだった。
「……莫迦な奴だ。本当に、お前という奴は……」
ヴィクトールの声は震えていた。
彼は、自分を守るためにボロボロになったエリオットを、壊れ物を扱うように抱きしめる。
「……お役に、立てましたか……?」
「……ああ。お前は私の、最高の騎士だ」
ヴィクトールはエリオットの額に深く口づけを落とした。
その紅い瞳には、もはや執着だけではない、魂の底からの敬愛と激情が宿っていた。
だが、塔の外には、呪いが成功したと信じ込んだ王国の騎士団が、包囲網を狭めてきていた。
主を守り抜いたエリオットと、愛する者を傷つけられた怒りに震える最強の魔導師。
二人の真の反撃が、今、始まろうとしていた。
王国の強硬派が放ったのは、古の禁忌――「魔力喰らいの鎖」と呼ばれる呪具だった。
彼らはエリオットを奪還するためではなく、エリオットという「餌」を使って、大陸最強の魔導師であるヴィクトールを無力化することを狙ったのだ。
「……くっ、この、汚らわしい細工が……!」
ヴィクトールが膝をつき、激しく喘ぐ。
塔の結界を潜り抜けた呪いの霧が、彼の膨大な魔力を内側から食い荒らしていた。
最強ゆえに、その魔力密度が仇となり、呪いの回りが異常なほどに速い。
「ヴィクトール様!」
エリオットが駆け寄り、主の身体を支える。
いつも冷徹な余裕を崩さなかったヴィクトールの顔が、苦痛に歪んでいる。
「離れろ……エリオット……! この呪いは、魔力を媒介に伝染する。お前の……再構築されたばかりの回路では耐えられん……」
「嫌です! あなたが僕を捨てなかったように、僕もあなたを一人にはしません!」
エリオットは叫ぶと、ヴィクトールの背中を抱きしめた。
その瞬間、首元の銀の首輪が、警告を告げるように真紅に激しく明滅する。
(僕の中に、彼の魔力がある。……なら、僕が彼の盾になれるはずだ!)
エリオットは目を閉じ、自身の内側へ意識を向けた。
ヴィクトールに注ぎ込まれ、自分の血肉となった「共鳴魔力」。
それは今、主の危機を感じ取り、エリオットの意志に応えて猛烈に回転を始めた。
「あ……ああぁぁぁぁっ!!」
エリオットの体から、眩いばかりの銀色の光が溢れ出した。
かつての「聖騎士」としての清廉な光に、ヴィクトールの「漆黒の魔力」が混ざり合い、それは禍々しくも神々しい、新たな輝きへと変貌していく。
銀光は触手のようにヴィクトールの体に絡みつき、彼を蝕んでいた黒い呪霧を、力ずくで引き剥がし、自らの中へと取り込んでいく。
「エリオット、やめろ! そんなことをすれば、お前の魂が壊れるぞ!」
「いいえ……壊れません。僕は……あなたの番(つがい)ですから!」
エリオットは歯を食いしばり、呪いの毒をすべて自分の体へと流し込んだ。
激痛が全身を切り刻むが、ヴィクトールの呼吸が楽になっていくのを感じると、それだけで胸の奥が温かくなった。
やがて、銀色の光が爆発するように広がり、塔に侵入していた呪いの気配を完全に霧散させた。
「はぁ、はぁ……っ……」
力を使い果たしたエリオットが、ゆっくりと崩れ落ちる。
それを間一髪で抱き止めたのは、魔力を取り戻したヴィクトールだった。
「……莫迦な奴だ。本当に、お前という奴は……」
ヴィクトールの声は震えていた。
彼は、自分を守るためにボロボロになったエリオットを、壊れ物を扱うように抱きしめる。
「……お役に、立てましたか……?」
「……ああ。お前は私の、最高の騎士だ」
ヴィクトールはエリオットの額に深く口づけを落とした。
その紅い瞳には、もはや執着だけではない、魂の底からの敬愛と激情が宿っていた。
だが、塔の外には、呪いが成功したと信じ込んだ王国の騎士団が、包囲網を狭めてきていた。
主を守り抜いたエリオットと、愛する者を傷つけられた怒りに震える最強の魔導師。
二人の真の反撃が、今、始まろうとしていた。
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