魔力を失い追放された聖騎士ですが、大陸最強の魔導師に拾われて極上に甘く「再教育」されています

たら昆布

文字の大きさ
12 / 20

12話

魔塔の麓には、王国の魔導騎士団が勝ち誇ったような顔で集結していた。
禁忌の呪具「魔力喰らい」が発動した今、最強の魔導師もただの男に成り下がっているはず――。
彼らはその慢心のまま、塔の門を突き破ろうとしていた。


「エリオットを連れ戻せ! 奴の新たな『共鳴魔力』は、我が国の貴重な資源となる!」


先頭に立つルカが、欲望に歪んだ顔で叫ぶ。
だが、その言葉が響き渡った瞬間、塔の周囲の空気が「停止」した。


物理的な音さえも消え去った静寂の中、塔の最上階から、一条の漆黒の雷鳴が降り注ぐ。


「……我が小鳥の羽を毟ろうとした罪、万死に値する」


地鳴りのような低い声と共に、門がゆっくりと開く。
そこには、昏い魔力を全身から立ち昇らせたヴィクトールが、ぐったりとしたエリオットを左腕で抱きかかえたまま立っていた。


ヴィクトールの紅い瞳は、もはや人間のそれではない。
愛する者を呪いの毒に晒された怒りが、彼の理性を「魔王」へと変貌させていた。


「な、なぜだ……呪いは確実に命中したはず……ひっ!?」


ルカが言葉を失った。
ヴィクトールが指先をわずかに弾くと、ルカの足元の空間が爆発し、重力場が捻じ曲げられたのだ。


「あ、が……あぁぁぁっ!!」


ルカや騎士団員たちは、目に見えない巨大な力で地面に叩きつけられ、指一本動かすことも許されない。
骨が軋む音が周囲に響き渡る。


「エリオットを資源だと? ……お前たちのような汚物と同じ空気を吸わせたことさえ、私は後悔している」


ヴィクトールは一歩、また一歩と、地を這う騎士たちへ近づく。
彼が歩くたびに、周囲の草木は枯れ果て、石畳は粉々に砕け散った。


「ヴィクトール……様……もう、いい……です……」


腕の中で、エリオットが微かに目を開け、主の服の裾を掴んだ。
呪いの残滓で青ざめた顔を、ヴィクトールは痛ましげに見つめ、その額に深い接吻を落とす。


「……安心しろ。お前を傷つけた連中の悲鳴で、今夜の子守唄を奏でてやろう」


「ひ、ひぃぃっ! 助けてくれ! 悪かった、エリオット、助けて……!」


命乞いをするルカに対し、エリオットの瞳に慈悲はなかった。
かつて親友だと思っていた男は、最後まで自分を「モノ」としてしか見ていなかった。


「さようなら、ルカ。……あなたの声は、もう届きません」


エリオットが静かに告げると、ヴィクトールの指先から漆黒の炎が放たれた。
それは対象の命を奪うのではなく、彼らが誇りとしていた「魔力」と「地位」を永久に焼き尽くす、残酷な剥奪の炎。


絶叫が響き渡り、王国最強と謳われた騎士団は、一瞬にしてただの無力な群衆へと成り下がった。
彼らに残されたのは、二度と癒えぬ恐怖と、すべてを失った絶望だけだ。


「これでお前の過去は、完全に灰になった」


ヴィクトールは、エリオットをさらに強く抱きしめた。
背後に広がる惨状など目にも留めず、彼はただ、自分の腕の中で震える愛しい存在だけを見つめている。


「戻ろう、エリオット。お前の傷を癒すのは、私の役目だ。……一生をかけて、お前を甘やかしてやろう」


ヴィクトールは塔の中へと翻り、門は再び固く閉ざされた。
王国という光の世界を完全に決別し、二人は永遠に解けない愛の呪いへと、深く沈んでいくのだった。
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約破棄された僕はギルドのドSリーダー様に溺愛されています

八神紫音
BL
 魔道士はひ弱そうだからいらない。  そういう理由で国の姫から婚約破棄されて追放された僕は、隣国のギルドの町へとたどり着く。  そこでドSなギルドリーダー様に拾われて、  ギルドのみんなに可愛いとちやほやされることに……。

幼馴染が結婚すると聞いて祝いに行ったら、なぜか俺が抱かれていた。

夏八木アオ
BL
金髪碧眼の優男魔法使いx気が強くてお人好しな元騎士の幼馴染の二人です。

冷血宰相の秘密は、ただひとりの少年だけが知っている

春夜夢
BL
「――誰にも言うな。これは、お前だけが知っていればいい」 王国最年少で宰相に就任した男、ゼフィルス=ル=レイグラン。 冷血無慈悲、感情を持たない政の化け物として恐れられる彼は、 なぜか、貧民街の少年リクを城へと引き取る。 誰に対しても一切の温情を見せないその男が、 唯一リクにだけは、優しく微笑む―― その裏に隠された、王政を揺るがす“とある秘密”とは。 孤児の少年が踏み入れたのは、 権謀術数渦巻く宰相の世界と、 その胸に秘められた「決して触れてはならない過去」。 これは、孤独なふたりが出会い、 やがて世界を変えていく、 静かで、甘くて、痛いほど愛しい恋の物語。

お宝は二人の食卓に。~万能鑑定士と風来坊の騎士が綴る世界一周のんびり冒険譚~』

たら昆布
BL
無口な最強騎士×のんびり鑑定士

「大人扱いしていい?」〜純情当主、執務室で策士な従兄の『相性確認』にハメられる〜

中山(ほ)
BL
「ルイン、少し口開けてみて」 仕事終わりの静かな執務室。 差し入れの食事と、ポーションの瓶。 信頼していた従兄のトロンに誘われるまま、 ルインは「大人の相性確認」を始めることになる。