19 / 20
19話
災厄が去った魔塔は、かつてないほどの穏やかな光に満たされていた。
だが、その主であるヴィクトールの過保護ぶりは、穏やかさとは程遠い、異常なまでの熱を帯びていた。
「……ヴィクトール様、あのお花、少しだけお水を……」
「座っていろ、エリオット。私が行く」
「でも、あのお茶のお代わりを……」
「指一本動かすな。私が淹れる」
エリオットは、ふかふかのクッションに埋もれたまま、苦笑いするしかなかった。
大戦の後、ヴィクトールはエリオットを「世界の宝」か何かのように扱い、一歩歩くことさえ制限しようとしていた。
「ヴィクトール様、私はもう元気ですよ。この子も、あんなに元気に魔力を放っていますし」
エリオットが自身の少しふっくらとした腹部に手を添えると、ヴィクトールは即座に彼の足元に跪き、その膨らみに耳を寄せた。
大陸最強の魔導師が、一人の元騎士の前に跪くその姿は、あまりに献身的で、官能的ですらあった。
「……聞こえる。お前の鼓動と、この子の輝きが。エリオット、私は今、かつてないほどの恐怖と幸福を同時に味わっている」
ヴィクトールの大きな手が、エリオットの手の上に重なる。
その紅い瞳には、エリオットへの狂おしいほどの情愛が揺れていた。
「お前が私を守るために光を放った瞬間、心臓が止まるかと思った。お前を失うくらいなら、世界など滅びればいいと本気で思ったのだ」
「ヴィクトール様……」
「お前はもう、私の所有物などという言葉では足りない。……お前は私の魂であり、光だ。これからは、私の全生涯をかけて、お前を甘やかし、崇め、守り抜くと誓おう」
ヴィクトールはエリオットの手の甲に、誓いの口づけを何度も落とした。
その熱い唇が触れるたび、エリオットの心はとろけるように甘い多幸感に満たされていく。
かつては、誰かに必要とされるために、傷だらけになって戦うしかなかった。
だが今は、ただここにいて、愛する人の腕の中にいるだけで、すべてが許されている。
「……私も、あなたを愛しています。ヴィクトール様。あなたが私を拾ってくれたあの日、私の本当の人生が始まったんです」
エリオットは主の髪を愛おしげになで、自ら唇を重ねた。
首元の銀の首輪が、二人の愛に共鳴して、柔らかく、温かい光を放ち続ける。
魔塔の外では、エリオットを捨てた王国が、守護を失い衰退の一途を辿っていた。
だが、この温かな部屋にいる二人にとって、それはもう、遠い異国の出来事のようにどうでもいいことだった。
二人の間に流れるのは、永遠に続くかのような甘美な時間と、まもなく誕生する新しい命への希望だけだった。
だが、その主であるヴィクトールの過保護ぶりは、穏やかさとは程遠い、異常なまでの熱を帯びていた。
「……ヴィクトール様、あのお花、少しだけお水を……」
「座っていろ、エリオット。私が行く」
「でも、あのお茶のお代わりを……」
「指一本動かすな。私が淹れる」
エリオットは、ふかふかのクッションに埋もれたまま、苦笑いするしかなかった。
大戦の後、ヴィクトールはエリオットを「世界の宝」か何かのように扱い、一歩歩くことさえ制限しようとしていた。
「ヴィクトール様、私はもう元気ですよ。この子も、あんなに元気に魔力を放っていますし」
エリオットが自身の少しふっくらとした腹部に手を添えると、ヴィクトールは即座に彼の足元に跪き、その膨らみに耳を寄せた。
大陸最強の魔導師が、一人の元騎士の前に跪くその姿は、あまりに献身的で、官能的ですらあった。
「……聞こえる。お前の鼓動と、この子の輝きが。エリオット、私は今、かつてないほどの恐怖と幸福を同時に味わっている」
ヴィクトールの大きな手が、エリオットの手の上に重なる。
その紅い瞳には、エリオットへの狂おしいほどの情愛が揺れていた。
「お前が私を守るために光を放った瞬間、心臓が止まるかと思った。お前を失うくらいなら、世界など滅びればいいと本気で思ったのだ」
「ヴィクトール様……」
「お前はもう、私の所有物などという言葉では足りない。……お前は私の魂であり、光だ。これからは、私の全生涯をかけて、お前を甘やかし、崇め、守り抜くと誓おう」
ヴィクトールはエリオットの手の甲に、誓いの口づけを何度も落とした。
その熱い唇が触れるたび、エリオットの心はとろけるように甘い多幸感に満たされていく。
かつては、誰かに必要とされるために、傷だらけになって戦うしかなかった。
だが今は、ただここにいて、愛する人の腕の中にいるだけで、すべてが許されている。
「……私も、あなたを愛しています。ヴィクトール様。あなたが私を拾ってくれたあの日、私の本当の人生が始まったんです」
エリオットは主の髪を愛おしげになで、自ら唇を重ねた。
首元の銀の首輪が、二人の愛に共鳴して、柔らかく、温かい光を放ち続ける。
魔塔の外では、エリオットを捨てた王国が、守護を失い衰退の一途を辿っていた。
だが、この温かな部屋にいる二人にとって、それはもう、遠い異国の出来事のようにどうでもいいことだった。
二人の間に流れるのは、永遠に続くかのような甘美な時間と、まもなく誕生する新しい命への希望だけだった。
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約破棄された僕はギルドのドSリーダー様に溺愛されています
八神紫音
BL
魔道士はひ弱そうだからいらない。
そういう理由で国の姫から婚約破棄されて追放された僕は、隣国のギルドの町へとたどり着く。
そこでドSなギルドリーダー様に拾われて、
ギルドのみんなに可愛いとちやほやされることに……。
身代わりになって推しの思い出の中で永遠になりたいんです!
冨士原のもち
BL
桜舞う王立学院の入学式、ヤマトはカイユー王子を見てここが前世でやったゲームの世界だと気付く。ヤマトが一番好きなキャラであるカイユー王子は、ゲーム内では非業の死を遂げる。
「そうだ!カイユーを助けて死んだら、忘れられない恩人として永遠になれるんじゃないか?」
前世の死に際のせいで人間不信と恋愛不信を拗らせていたヤマトは、推しの心の中で永遠になるために身代わりになろうと決意した。しかし、カイユー王子はゲームの時の印象と違っていて……
演技チャラ男攻め×美人人間不信受け
※最終的にはハッピーエンドです
※何かしら地雷のある方にはお勧めしません
※ムーンライトノベルズにも投稿しています
姉の男友達に恋をした僕(番外編更新)
turarin
BL
侯爵家嫡男のポールは姉のユリアが大好き。身体が弱くて小さかったポールは、文武両道で、美しくて優しい一つ年上の姉に、ずっと憧れている。
徐々に体も丈夫になり、少しずつ自分に自信を持てるようになった頃、姉が同級生を家に連れて来た。公爵家の次男マークである。
彼も姉同様、何でも出来て、その上性格までいい、美しい男だ。
一目彼を見た時からポールは彼に惹かれた。初恋だった。
ただマークの傍にいたくて、勉強も頑張り、生徒会に入った。一緒にいる時間が増える。マークもまんざらでもない様子で、ポールを構い倒す。ポールは嬉しくてしかたない。
その様子を苛立たし気に見ているのがポールと同級の親友アンドルー。学力でも剣でも実力が拮抗する2人は一緒に行動することが多い。
そんなある日、転入して来た男爵令嬢にアンドルーがしつこくつきまとわれる。その姿がポールの心に激しい怒りを巻き起こす。自分の心に沸き上がる激しい気持に驚くポール。
時が経ち、マークは遂にユリアにプロポーズをする。ユリアの答えは?
ポールが気になって仕方ないアンドルー。実は、ユリアにもポールにも両方に気持が向いているマーク。初恋のマークと、いつも傍にいてくれるアンドルー。ポールが本当に幸せになるにはどちらを選ぶ?
読んでくださった方ありがとうございます😊
♥もすごく嬉しいです。
不定期ですが番外編更新していきます!