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後日談14
進化した聖獣たちの輝きは、ついに王都の最高権威――皇帝陛下を動かした。
駐屯地を覆う虹色の光を「吉兆」と捉えた皇帝は、自ら視察に赴くと宣言。その一行の中に、かつてジークヴァルトの婚約者候補として名を連ねていた公爵令嬢、ビアンカが含まれていたのは、誰にとっても想定外の不運だった。
「あら、ここがその『聖域』? ずいぶんと草臥れた駐屯地ですこと」
豪華な馬車から降り立ったビアンカは、扇子で鼻先を覆いながら周囲を見渡した。
「ジークヴァルト様、このような辺境で何ヶ月も……。さあ、早く王都へ戻りましょう。わたくしとの婚姻の話も、陛下はまだお忘れではありませんわよ」
ジークヴァルトは、皇帝への礼を終えるなり、氷のような冷徹な視線をビアンカに向けた。
「……婚約の話など、一度も承諾した覚えはない。それに、私の帰る場所は、このリヒトの隣以外に存在しない」
ジークヴァルトがリヒトの肩を抱き寄せ、これ以上ないほど甘く、独占的な眼差しを向ける。ビアンカはその光景に顔を真っ赤にして憤慨した。
「なんですって!? そこの、どこの馬の骨ともしれない少年が理由ですの? 信じられませんわ!」
ビアンカがリヒトに向かって指を指そうとしたその時。
背後から、かつてないほどの圧倒的な「圧」が放たれた。
「がうぅ……」
白銀の翼を広げ、神聖な輝きを纏った『天駆ける銀狼』フェンリルが、リヒトを守るように立ちはだかったのだ。以前よりも鋭くなったその眼光は、リヒトを侮辱する者を一瞬で塵にするほどの迫力がある。
「わ、わわっ! 何ですの、この大きな獣は!」
「コンも おこったぞ! リヒトに いじわるするやつは、コンが おしりペンペンしてあげる!」
三本の尻尾に蒼い狐火を灯したコンが、ビアンカの周囲を高速で回り始める。さらに、エメラルドの羽根を持つピピが上空で旋回し、風の結界を張ってビアンカを一歩も動けなくしてしまった。
「あ、あの、みんな、落ち着いて! 陛下がいらっしゃるんだから、失礼だよ」
リヒトが慌てて聖獣たちを宥めると、彼らは一瞬で「借りてきた猫」のように大人しくなり、リヒトの足元に体を擦り寄せた。
その様子を一部始終見ていた皇帝陛下が、豪快に笑い声を上げた。
「はっはっは! 実に見事だ。かつて荒ぶっていた魔獣たちが、これほどまでに一人の少年に心酔し、慈愛に満ちた進化を遂げるとは。ジークヴァルト、貴公がこの地を離れたくない理由がよく分かった」
「陛下、温かいお言葉、痛み入ります」
ジークヴァルトは一礼したが、その目は依然としてリヒトを捕らえて離さない。
「……リヒトはこの地の『心臓』です。彼がいなければ、私はただの壊れた剣に過ぎません」
「お、おじ様……陛下! 騙されてはいけませんわ! この少年は何か不気味な術を……」
なおも叫ぶビアンカだったが、新入りの月影猫がいつの間にか彼女の肩に飛び乗り、その豪華なドレスのレースをそっと(しかし確実に)噛み切ったことで、彼女の悲鳴はさらに高まった。
「ビアンカ、もうよせ。醜態を晒すな」
皇帝が厳しく嗜めると、ビアンカは悔しそうに涙を浮かべて馬車へ逃げ戻っていった。
騒動が落ち着き、リヒトはホッと胸を撫で下ろした。
「……ジークヴァルト様、ビアンカ様は大丈夫でしょうか。少し言い過ぎたんじゃ……」
「気にするな。あのような騒音は、お前の笑い声一つで消し飛ぶ程度のことだ」
ジークヴァルトは、進化したフェンリルの背にリヒトを乗せ、自らもその横に寄り添った。
「陛下。せっかくの来訪だ。リヒトが丹精込めて育てた『光る花』の茶を楽しんでいただきたい。……ただし、リヒトへの不敬は、皇帝陛下といえど許しませんので」
不敵に微笑む騎士団長と、聖獣たちに守られた愛らしい少年。
皇帝は、二人の間に流れる「誰も入れないほど深い絆」を目の当たりにし、王都の政争など足元にも及ばない、この辺境の聖域を生涯守り抜くことを、心に誓うのだった。
駐屯地を覆う虹色の光を「吉兆」と捉えた皇帝は、自ら視察に赴くと宣言。その一行の中に、かつてジークヴァルトの婚約者候補として名を連ねていた公爵令嬢、ビアンカが含まれていたのは、誰にとっても想定外の不運だった。
「あら、ここがその『聖域』? ずいぶんと草臥れた駐屯地ですこと」
豪華な馬車から降り立ったビアンカは、扇子で鼻先を覆いながら周囲を見渡した。
「ジークヴァルト様、このような辺境で何ヶ月も……。さあ、早く王都へ戻りましょう。わたくしとの婚姻の話も、陛下はまだお忘れではありませんわよ」
ジークヴァルトは、皇帝への礼を終えるなり、氷のような冷徹な視線をビアンカに向けた。
「……婚約の話など、一度も承諾した覚えはない。それに、私の帰る場所は、このリヒトの隣以外に存在しない」
ジークヴァルトがリヒトの肩を抱き寄せ、これ以上ないほど甘く、独占的な眼差しを向ける。ビアンカはその光景に顔を真っ赤にして憤慨した。
「なんですって!? そこの、どこの馬の骨ともしれない少年が理由ですの? 信じられませんわ!」
ビアンカがリヒトに向かって指を指そうとしたその時。
背後から、かつてないほどの圧倒的な「圧」が放たれた。
「がうぅ……」
白銀の翼を広げ、神聖な輝きを纏った『天駆ける銀狼』フェンリルが、リヒトを守るように立ちはだかったのだ。以前よりも鋭くなったその眼光は、リヒトを侮辱する者を一瞬で塵にするほどの迫力がある。
「わ、わわっ! 何ですの、この大きな獣は!」
「コンも おこったぞ! リヒトに いじわるするやつは、コンが おしりペンペンしてあげる!」
三本の尻尾に蒼い狐火を灯したコンが、ビアンカの周囲を高速で回り始める。さらに、エメラルドの羽根を持つピピが上空で旋回し、風の結界を張ってビアンカを一歩も動けなくしてしまった。
「あ、あの、みんな、落ち着いて! 陛下がいらっしゃるんだから、失礼だよ」
リヒトが慌てて聖獣たちを宥めると、彼らは一瞬で「借りてきた猫」のように大人しくなり、リヒトの足元に体を擦り寄せた。
その様子を一部始終見ていた皇帝陛下が、豪快に笑い声を上げた。
「はっはっは! 実に見事だ。かつて荒ぶっていた魔獣たちが、これほどまでに一人の少年に心酔し、慈愛に満ちた進化を遂げるとは。ジークヴァルト、貴公がこの地を離れたくない理由がよく分かった」
「陛下、温かいお言葉、痛み入ります」
ジークヴァルトは一礼したが、その目は依然としてリヒトを捕らえて離さない。
「……リヒトはこの地の『心臓』です。彼がいなければ、私はただの壊れた剣に過ぎません」
「お、おじ様……陛下! 騙されてはいけませんわ! この少年は何か不気味な術を……」
なおも叫ぶビアンカだったが、新入りの月影猫がいつの間にか彼女の肩に飛び乗り、その豪華なドレスのレースをそっと(しかし確実に)噛み切ったことで、彼女の悲鳴はさらに高まった。
「ビアンカ、もうよせ。醜態を晒すな」
皇帝が厳しく嗜めると、ビアンカは悔しそうに涙を浮かべて馬車へ逃げ戻っていった。
騒動が落ち着き、リヒトはホッと胸を撫で下ろした。
「……ジークヴァルト様、ビアンカ様は大丈夫でしょうか。少し言い過ぎたんじゃ……」
「気にするな。あのような騒音は、お前の笑い声一つで消し飛ぶ程度のことだ」
ジークヴァルトは、進化したフェンリルの背にリヒトを乗せ、自らもその横に寄り添った。
「陛下。せっかくの来訪だ。リヒトが丹精込めて育てた『光る花』の茶を楽しんでいただきたい。……ただし、リヒトへの不敬は、皇帝陛下といえど許しませんので」
不敵に微笑む騎士団長と、聖獣たちに守られた愛らしい少年。
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