聖獣のお気に召し!〜追放された最弱治癒師はもふもふの聖域で冷徹騎士団長に全力で甘やかされる〜

たら昆布

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後日談15

 皇帝陛下が駐屯地に滞在して三日目の朝。聖域の魔力密度は、リヒトの聖力と進化した花々の影響で、かつてないほど高まっていた。
 そんな中、いつも通りリヒトのベッドへ一番乗りに飛び込もうとした「三本尻尾の狐」コンの体に、異変が起きた。

「……う、ううん。なんだか、からだが あつい……」
 リヒトの部屋に眩い蒼い光が満ち、その光が収まったとき、そこには幼い少年の姿ではなく、リヒトの背を追い越すほどの長身を持った、一人の美しい「青年」が立っていた。

「……あれ? リヒト、なんで ちいさくなっちゃったの?」
 青年になったコンが、不思議そうにリヒトを見下ろす。その瞳は以前よりも神秘的な色を湛え、声は鈴を転がすような、けれど艶のあるテノールへと変わっていた。

「コ、コン……!? えっ、えええええっ!?」
 リヒトの叫び声を聞きつけ、真っ先に部屋へ踏み込んできたのは、当然ながらジークヴァルトだった。
「リヒト! 何事だ、不審者か!?」
 ジークヴァルトは即座に腰の剣に手をかけたが、目の前に立つ青年の「気配」を察知した瞬間、その指が止まった。

「……コン、なのか? 貴様、その姿は……」
「あ、おじちゃん! みてみて、コン、こんなに おおきくなったよ! これなら、リヒトをおひめさま抱っこするのも おじちゃんより じょうずにできるよね!」

 青年になったコンは、無邪気な笑顔のまま(中身はあまり成長していないらしい)、驚いて固まっているリヒトの腰に腕を回し、軽々と抱き上げた。
「わわっ、コン!? 降ろして、恥ずかしいよ!」
「だめ! コン、ずっとこれ やってみたかったんだ。リヒト、あったかいね」

 ジークヴァルトの額に、青筋が浮かんだ。
 磁力騒動のときも、ピクニックのときも、彼は「子供だから」と自分を納得させてコンの甘えを許容してきた。だが、今のコンは、一見するとジークヴァルトにも劣らぬ「美青年」である。

「……小僧。いや、コン。今すぐリヒトから離れろ。その姿で彼に触れるのは、公序良俗に反する」
「おじちゃんだって いつもしてるじゃないか! コンはリヒトがだいすきなんだ。おじちゃんよりも、ながく いっしょに ねんねするんだもん!」

 二人の間に、火花……どころか、落雷が落ちそうなほどの魔力の火花が散る。
 そこへ、朝食の案内をしにきたハンスと皇帝陛下が顔を出した。
「おや、これは……。聖獣の擬人化、しかもこれほどの高位の姿とは。リヒト君、君の力は底が知れないな」
 皇帝が感心したように頷く横で、ハンスは「あちゃー」と額を押さえた。
「団長、落ち着いて。相手は中身五歳児ですよ」
「黙れハンス。外見がこれでは、リヒトの操に関わる」

 その日の視察は、地獄の様相を呈した。
 リヒトが歩けば、右側からジークヴァルトがその肩を抱き、左側から青年の姿のコンがその腕に絡みつく。
「リヒト、お花摘みにいこうよ。コンが きれいなとこ、連れてってあげる」
「待て。リヒトはこれから私の仕事の手伝いがある。コン、貴様はフェンリルと訓練でもしていろ」
「やだ! コン、リヒトといっしょに ブラッシングしあいっこするんだ!」

 リヒトは、左右からの強すぎる「愛の引力」に、今にも千切れそうな心地だった。
「二人とも、喧嘩しないで……! あ、コン、そんなに顔を近づけないで。ジークヴァルト様も、そんなに強く握られたら痛いです……」

 夕暮れ時。中庭の「光る花」の下で、ようやく一息ついたリヒトの元に、少しだけ拗ねた様子のジークヴァルトがやってきた。
 コンは、遊び疲れて(あるいは魔力を使いすぎて)、元の小さな狐の姿に戻ってリヒトの膝で丸くなっている。

「……リヒト。あの姿のコンに、少しは……心を動かされたのか」
 ジークヴァルトの問いは、驚くほど自信なさげだった。最強の騎士団長といえど、リヒトの心が自分以外に向く可能性には、いつまでも臆病なままなのだ。

 リヒトはくすくすと笑い、ジークヴァルトの手をとって、自分の頬に当てた。
「ジークヴァルト様。コンはとっても綺麗でしたけど、僕を本当に守ってくれる『騎士様』は、世界に一人だけですよ」

「…………」
 ジークヴァルトは一瞬、息を呑むと、愛おしさが決壊したようにリヒトを抱きしめた。
「当然だ。……コンがどれほど美しくなろうと、お前を一番愛しているのは私だ。その事実だけは、神に誓って譲らん」

 膝の上の狐が「むにゃ……コンがいちばんだよ……」と寝言を言う中、二人は月明かりの下、ゆっくりと唇を重ねた。
 もふもふたちの進化は、ジークヴァルトにとっては最大の試練の連続のようだが、それが二人の絆をより確かなものへと変えていくのであった。
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