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15話
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病み上がりの陽太が仕事に復帰して数日。
病院の廊下を歩く陽太の表情は、どこか浮ついていた。
看病の夜、龍崎に名前を呼ばれた時の熱い感覚が、耳の奥に残って離れない。
(……陽太、なんて。あんな格好いい声で呼ばれるなんて聞いてない)
顔を赤らめながらナースステーションへ向かおうとしたその時、背後から声をかけられた。
「佐々木くん、ちょっといいかな」
振り返ると、そこにいたのは若手エリート医師の神崎だった。
端正なルックスと冷徹なまでの仕事ぶりで、院内では龍崎とはまた違う意味で「王子様」と恐れ敬われている男だ。
「神崎先生、お疲れ様です。どうしました?」
「いや、体調が戻ったようで安心した。……実は、話があるんだ。今日の仕事終わり、少し時間をもらえないだろうか」
神崎の真剣な眼差しに、陽太は首を傾げる。
「症例の相談……とかですか?」
「いや。個人的な話だ。……君のことが、以前から気になっていた」
陽太の頭の中が真っ白になった。
え、今のって告白? と思考が停止する。
だが、そのやり取りを、地獄の番人のような形相で見つめている影があることには気づいていなかった。
――同時刻。
病院の駐車場に停められた黒塗りの車内では、龍崎が双眼鏡を握り潰さんばかりの力で握りしめていた。
「……鮫島。あの白衣の男は誰だ」
「若頭、落ち着いてください。双眼鏡から火が出そうですよ。えーと、あれは外科の神崎先生ですね。家柄も良くて、独身で、看護師たちに大人気だとか」
「……殺す」
「ダメですって! ここは病院です!」
龍崎の視線の先では、神崎が陽太の肩に親しげに手を置いていた。
陽太は困惑しているようだが、拒絶して突き放してはいない。
龍崎の脳内で、何かが音を立てて切れた。
昨日まで、自分が陽太に触れただけで心臓を爆発させていたのが嘘のように、今はただ、あの細い肩から他人の手を剥ぎ取りたいという凶暴な衝動だけが支配していた。
龍崎は無言でドアを開け、車を降りた。
「ああっ、若頭! 無防備ですよ! 隠密行動はどこへ!」
鮫島の制止を無視し、龍崎は真っ直ぐに病院の玄関口へと突き進む。
黒いスーツを翻し、殺気を振り撒きながら歩くその姿は、周囲の人間をモーゼの十戒のように割れさせた。
「……佐々木」
地を這うような低い声が、陽太と神崎の間に割って入った。
「あ、龍崎さん!? なんでここに……」
陽太が驚いて神崎から一歩離れる。それだけで、龍崎の心はわずかに救われた。
だが、龍崎の矛先はまだ神崎に向けられたままだ。
龍崎は、自分よりも背の低い陽太を背中に隠すようにして立ち、神崎を射殺さんばかりの眼光で睨みつけた。
「貴様、その手を二度とこいつに触れるな。……こいつの『担当』は俺だ」
「……担当? あなたは先日退院された患者さんですよね。患者が看護師を私物化するのは感心しませんね」
神崎も、エリートらしい傲慢さで龍崎を冷たく見返す。
一触即発の空気。
「私物化ではない。……こいつは、俺の『命』だ。汚い手で触れることは許さん」
「龍崎さん! もう、変なこと言わないでください!」
陽太が慌てて龍崎の腕を掴み、強引に引っ張っていく。
龍崎は神崎を最後まで睨みつけながらも、陽太に引かれるまま大人しく連行されていった。
病院の外に出た瞬間、陽太は龍崎の手を放して怒鳴った。
「なんなんですか、今の! 神崎先生はただ話をしていただけなのに!」
「……奴は貴様を狙っていた。男がああいう目で他人の男を見るのは、一つしか理由がない」
「他人の男って……。僕は龍崎さんのものじゃありません!」
陽太のその一言が、龍崎の胸を深く抉った。
わかっている。そんなことはわかっている。
自分はただの元患者で、極道で、彼に何も約束できる立場ではない。
だが、嫉妬という名の猛毒は、理性を遥かに超えて龍崎の理性を支配していた。
「……なら、今すぐ俺のものになれ」
龍崎は陽太の細い手首を掴み、壁際に追い詰めた。
これまでの「優しい看病」はどこへやら、そこには獲物を追い詰めた狼のような、剥き出しの独占欲があった。
「龍崎、さん……痛いです……」
陽太の怯えたような声に、龍崎はハッとして力を緩めた。
しかし、掴んだ手だけは離せない。
「……行くな、陽太。あんな男のところへは、絶対に行かせん」
嫉妬に狂った極道の若頭。
はじめての恋は、穏やかな日常を壊し、激動の嵐へと突入していく。
病院の廊下を歩く陽太の表情は、どこか浮ついていた。
看病の夜、龍崎に名前を呼ばれた時の熱い感覚が、耳の奥に残って離れない。
(……陽太、なんて。あんな格好いい声で呼ばれるなんて聞いてない)
顔を赤らめながらナースステーションへ向かおうとしたその時、背後から声をかけられた。
「佐々木くん、ちょっといいかな」
振り返ると、そこにいたのは若手エリート医師の神崎だった。
端正なルックスと冷徹なまでの仕事ぶりで、院内では龍崎とはまた違う意味で「王子様」と恐れ敬われている男だ。
「神崎先生、お疲れ様です。どうしました?」
「いや、体調が戻ったようで安心した。……実は、話があるんだ。今日の仕事終わり、少し時間をもらえないだろうか」
神崎の真剣な眼差しに、陽太は首を傾げる。
「症例の相談……とかですか?」
「いや。個人的な話だ。……君のことが、以前から気になっていた」
陽太の頭の中が真っ白になった。
え、今のって告白? と思考が停止する。
だが、そのやり取りを、地獄の番人のような形相で見つめている影があることには気づいていなかった。
――同時刻。
病院の駐車場に停められた黒塗りの車内では、龍崎が双眼鏡を握り潰さんばかりの力で握りしめていた。
「……鮫島。あの白衣の男は誰だ」
「若頭、落ち着いてください。双眼鏡から火が出そうですよ。えーと、あれは外科の神崎先生ですね。家柄も良くて、独身で、看護師たちに大人気だとか」
「……殺す」
「ダメですって! ここは病院です!」
龍崎の視線の先では、神崎が陽太の肩に親しげに手を置いていた。
陽太は困惑しているようだが、拒絶して突き放してはいない。
龍崎の脳内で、何かが音を立てて切れた。
昨日まで、自分が陽太に触れただけで心臓を爆発させていたのが嘘のように、今はただ、あの細い肩から他人の手を剥ぎ取りたいという凶暴な衝動だけが支配していた。
龍崎は無言でドアを開け、車を降りた。
「ああっ、若頭! 無防備ですよ! 隠密行動はどこへ!」
鮫島の制止を無視し、龍崎は真っ直ぐに病院の玄関口へと突き進む。
黒いスーツを翻し、殺気を振り撒きながら歩くその姿は、周囲の人間をモーゼの十戒のように割れさせた。
「……佐々木」
地を這うような低い声が、陽太と神崎の間に割って入った。
「あ、龍崎さん!? なんでここに……」
陽太が驚いて神崎から一歩離れる。それだけで、龍崎の心はわずかに救われた。
だが、龍崎の矛先はまだ神崎に向けられたままだ。
龍崎は、自分よりも背の低い陽太を背中に隠すようにして立ち、神崎を射殺さんばかりの眼光で睨みつけた。
「貴様、その手を二度とこいつに触れるな。……こいつの『担当』は俺だ」
「……担当? あなたは先日退院された患者さんですよね。患者が看護師を私物化するのは感心しませんね」
神崎も、エリートらしい傲慢さで龍崎を冷たく見返す。
一触即発の空気。
「私物化ではない。……こいつは、俺の『命』だ。汚い手で触れることは許さん」
「龍崎さん! もう、変なこと言わないでください!」
陽太が慌てて龍崎の腕を掴み、強引に引っ張っていく。
龍崎は神崎を最後まで睨みつけながらも、陽太に引かれるまま大人しく連行されていった。
病院の外に出た瞬間、陽太は龍崎の手を放して怒鳴った。
「なんなんですか、今の! 神崎先生はただ話をしていただけなのに!」
「……奴は貴様を狙っていた。男がああいう目で他人の男を見るのは、一つしか理由がない」
「他人の男って……。僕は龍崎さんのものじゃありません!」
陽太のその一言が、龍崎の胸を深く抉った。
わかっている。そんなことはわかっている。
自分はただの元患者で、極道で、彼に何も約束できる立場ではない。
だが、嫉妬という名の猛毒は、理性を遥かに超えて龍崎の理性を支配していた。
「……なら、今すぐ俺のものになれ」
龍崎は陽太の細い手首を掴み、壁際に追い詰めた。
これまでの「優しい看病」はどこへやら、そこには獲物を追い詰めた狼のような、剥き出しの独占欲があった。
「龍崎、さん……痛いです……」
陽太の怯えたような声に、龍崎はハッとして力を緩めた。
しかし、掴んだ手だけは離せない。
「……行くな、陽太。あんな男のところへは、絶対に行かせん」
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