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11話
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「今日は、クッキーを焼こうと思います。ヴァルさん、手伝ってくれますか?」
昨日の騒動を忘れるように、僕は平和な提案をした。
離宮の倉庫で見つけた古い製粉機が直ったので、上質な小麦粉が手に入ったのだ。それに、ヴァルさんの魔力で冷やしておいたバターもある。
「クッキー……? あの、サクサクとした菓子のことか」
「はい。ヴァルさん、甘いものは嫌いですか?」
「……いや。君が作るものなら、興味がある」
ヴァルさんはそう言って、器用にエプロン(僕が無理やり着せた、少しサイズの小さいもの)を身につけた。最強の皇帝が、フリル付きのエプロン姿でキッチンに立っている。前世の僕が見たら、間違いなく「シュールすぎる」と爆笑していただろう。
「まずは、バターと砂糖を混ぜます。ヴァルさん、お願いします」
「ああ、任せろ」
ヴァルさんはボウルを受け取ると、恐ろしいほどの速度で混ぜ始めた。
前世の電動ミキサーも真っ青の攪拌能力だ。彼が動くたびに、逞しい腕の筋肉が躍動し、甘いバターの香りがキッチンいっぱいに広がっていく。
「あ、そこまでです! 混ぜすぎると硬くなっちゃいますから」
「む……。加減が難しいな」
ヴァルさんは少しだけ悔しそうに眉を寄せた。その表情が、戦場を支配する男とは思えないほど幼く見えて、僕は思わず笑ってしまう。
「次は、僕が型抜きをしますね。ヴァルさんもやってみますか?」
「型抜き……?」
僕は生地を薄く伸ばし、花の形の型を押し当てた。
ヴァルさんも僕の真似をして、大きな手で慎重に型を握る。
「……できた」
彼が型を抜いたのは、少し歪な、けれど丁寧に作られた星の形だった。
二人で並んで、天板にずらりとクッキーを並べていく。
不意に、ヴァルさんの指先が僕の手に触れた。
「あ……」
「すまない。……君の手は、温かいな」
ヴァルさんは手を引こうとせず、そのまま僕の指先をそっとなぞった。
彼の指は少し冷たくて、けれど触れられた場所から熱が伝わってくるような錯覚に陥る。
「……バ、バターのせいでベタベタですよ」
「構わない」
彼は静かにそう言い、僕の目を見つめた。
オーブンの中でクッキーが焼き上がる甘い香りが、二人の間の沈黙を優しく包み込んでいく。
少しずつ、けれど確実に、僕たちの距離は「同居人」という境界線を越えようとしていた。
昨日の騒動を忘れるように、僕は平和な提案をした。
離宮の倉庫で見つけた古い製粉機が直ったので、上質な小麦粉が手に入ったのだ。それに、ヴァルさんの魔力で冷やしておいたバターもある。
「クッキー……? あの、サクサクとした菓子のことか」
「はい。ヴァルさん、甘いものは嫌いですか?」
「……いや。君が作るものなら、興味がある」
ヴァルさんはそう言って、器用にエプロン(僕が無理やり着せた、少しサイズの小さいもの)を身につけた。最強の皇帝が、フリル付きのエプロン姿でキッチンに立っている。前世の僕が見たら、間違いなく「シュールすぎる」と爆笑していただろう。
「まずは、バターと砂糖を混ぜます。ヴァルさん、お願いします」
「ああ、任せろ」
ヴァルさんはボウルを受け取ると、恐ろしいほどの速度で混ぜ始めた。
前世の電動ミキサーも真っ青の攪拌能力だ。彼が動くたびに、逞しい腕の筋肉が躍動し、甘いバターの香りがキッチンいっぱいに広がっていく。
「あ、そこまでです! 混ぜすぎると硬くなっちゃいますから」
「む……。加減が難しいな」
ヴァルさんは少しだけ悔しそうに眉を寄せた。その表情が、戦場を支配する男とは思えないほど幼く見えて、僕は思わず笑ってしまう。
「次は、僕が型抜きをしますね。ヴァルさんもやってみますか?」
「型抜き……?」
僕は生地を薄く伸ばし、花の形の型を押し当てた。
ヴァルさんも僕の真似をして、大きな手で慎重に型を握る。
「……できた」
彼が型を抜いたのは、少し歪な、けれど丁寧に作られた星の形だった。
二人で並んで、天板にずらりとクッキーを並べていく。
不意に、ヴァルさんの指先が僕の手に触れた。
「あ……」
「すまない。……君の手は、温かいな」
ヴァルさんは手を引こうとせず、そのまま僕の指先をそっとなぞった。
彼の指は少し冷たくて、けれど触れられた場所から熱が伝わってくるような錯覚に陥る。
「……バ、バターのせいでベタベタですよ」
「構わない」
彼は静かにそう言い、僕の目を見つめた。
オーブンの中でクッキーが焼き上がる甘い香りが、二人の間の沈黙を優しく包み込んでいく。
少しずつ、けれど確実に、僕たちの距離は「同居人」という境界線を越えようとしていた。
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